イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

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17話 整合騎士Ⅳ

 

 私は遥か昔に生まれた存在。長い目で見れば、かの大戦の直後とも言える頃に生まれた。生きた年数……と言えるかは怪しいところだけど、今も意思があることでそう言えるのなら、生きた年数は最高司祭よりもずっと長い。

 カイルの記憶を見ました。その中からいろんな知識を得る事ができました。今の私を表すなら、亡霊とか残留思念って言い方が相応しいのだと思います。だけれども、カイルは私をそういうふうには見ていない。カイルとの契約によって保つことができているだけの、とても危うい存在なのに。カイルは私のことを人として見てくれます。

 

 ──それがとても心地良いのです

 

 私に名前を与えてくれたあの人は、これから違う生き方をしたらいいと説いてくれました。右も左もわからない私に、力強く手を差し出してくれるのです。

 

 カイルの記憶を見たのだから。私も当然この世界の真実を知っています。私たちからすれば神とも言える人たち。その人たちによって作り出された仮の世界。カイルも少しだけ携わっていて、後に自らこの世界へと訪れた。

 

 カイルはとても不思議な人です。

 この世界がどう転がろうと、カイルたちに実害らしいものはない。失敗してもまた新たに作り出せばいい。彼らはあくまで観察をするだけでいい。カイルもそのつもりでこの世界に来ました。それなのに、私に手を差し伸べてくれて、イーディスを見捨てることをしませんでした。

 

 その理由も、少しだけわかります。カイルの過去から、それがカイルの性分なのだと推測できるのですから。

 

 だからこそ、そこがすごく不安になるんです。

 

「カイルの限界点ってどういうこと?」

 

 雰囲気でも出てたのか、イーディスの視線が鋭いものへと変わりました。限界点。それはどう頑張ってもいい方に捉えることができないもの。

 

 彼女は私のことを全然知らない。

 でも私はイーディスのことをよく知っている。カイルの記憶で見たものもあれば、あの拠点で見たものもあります。本来なら、ここにはおらず家族と過ごしていたであろう過去の人物。

 その在り方は私とは違う。本当の肉体を喪った私とは違い、彼女たち整合騎士の肉体は本人のもの。ただ、記憶を失い、新たな人格が生まれてはいます。体の成長も止まり、老いることもない。おそらく何かしらの処置はある程度の期間で受けているはず。

 

「あなたが知らないのも無理はありません。ええ、私だけが知り得る方法でしたし、意図しないことではありましたから。……私だけが知ってる? ふふっ、良い気分ですね」

 

「なにこの子腹立つ!」

 

 カイルの世界で言うドヤ顔というものをやってみた。うまくできたかは分からないですが、イーディスにはそれなりに効果があったようです。でもこれは私にとってそれほど楽しめるものでもないようです。

 調子狂うなぁと苦笑いしているイーディスもまた、寛容な人なのでしょうか。

 

「話を戻してもいいですか?」

 

「外したのはイリナだからね?」

 

「限界点とは言いましたけど」

「強引だなぁ……」

 

「言葉を変えるとカイルの許容量(限界点)となります」

 

「わかるような。わからないような」

 

 眉間にシワを寄せてむむっと唸っていますね。そういうのは異性の前で行ってください。私は特には気にしませんが。

 

「……カイルはおそらくあなたが思っている以上に弱い人です」

 

「へ?」

 

「大勢の期待をその身に背負える英雄の器ではありません。それどころか数人を背負えるような人でもない。あの人が抱えられるのは、3人もいないでしょうね」

 

「……そう、なんだ」

 

 強い人と弱い人。武力の話でも知力の話でもありません。その人の質。根底にある土台。人としての強さ。これはそういう話なのです。

 あの人は土台が脆いわけではありません。しっかりと地に足をつけて立っていると私は感じました。ですが、それでもカイルはその土台を少し超える程度には手を広げてしまう。すこし無理したら助けられるところまでは。そこまでは護ろうとする。

 馬鹿とは思いません。私には眩しく見えます。それと同時に、危なく見えるのです。

 

 ランさんを亡くした日。カイルは簡単に立ち直れないほどの哀しみに溺れました。それでも歩み出せたのは、忘れ形見たるユウキさんの存在なのでしょう。

 カイルは未だに半身を失ってるようなもの。その状態で私という不安定な存在と、主人たるイーディスを背負おうとしてしまう。そんな事を赦してしまったら──

 

やっぱり(・・・・)そうなんだ」

 

「え?」

 

 やっぱり?

 

「そんな気はしてたのよね。カイルって無理しちゃう人なんだなって今回わかったし、もしかしたら普段もって気にしてたから。あたしの直感も捨てたもんじゃないね」

 

 直感……そんなもので気づいていたというのですか。

 証拠なんてどこにもない。説得力の欠片もないもの。

 それなのに、彼女はそれで的を当てている。

 

 私には到底できないことで。想像もつかないことですね。

 

「確証は持ててなかったから。ありがとう」

 

「……いえ。お役に立てたのなら何よりです」

 

「ついでにカイルのこともっと教えてくれない? あなたは知ってるのでしょ?」

 

「それは駄目です。カイルのことを話したのは、最悪の展開をさけるためですから。これ以上は何も話しません。カイルに小言を言われてしまいます」

 

「…………もしかして、カイルのこと好きなの?」

 

「?」

 

 彼女はなんでそんな事を言ってくるのでしょうか。

 

「私にはそういった曖昧なことは解かりかねます」

 

「えぇ~。それだけカイルのこと考えてるのに?」

 

「カイルは私の光ですから。それよりもイーディスはどうなのですか?」

 

「あたし?」

 

 自分の顔を指差しながら目をぱちくりさせてる。彼女の瞳は赤いのに獰猛さを感じませんね。鮮やかな色だと思います。

 

「好きかって聞かれたら嫌いじゃないし好きだって答えるけど。でもそうねぇ──」

「あ、待ってください。カイルから呼びかけが来ました」

 

「……。????」

 

 そうでした。これは私とカイルにしかできないことでしたね。他の誰もができないこと。私とカイルだけの特別なもの。そう考えると心が弾みます。

 

[話は終わった?]

 

[話したいことは終わりました。何かあったのですか?]

 

[うん。ちょっと絡まれちゃってね。イーディスを呼んでほしいかな]

 

[わかりました]

 

 きょとんと小首を傾げているイーディスの手を黙って引く。後ろから動揺した声でなになにと聞かれますが、カイルの場所に行くことが最優先です。

 イーディスの部屋のドアを開ける。カイルは廊下に立っていて、その視線の先にはたしかに騎士がいました。紫の鎧を被って顔まで隠してる騎士が。私とイーディスが出てきたことに同時に気づいたようで、2つの視線がこちらに向けられました。私は騎士の方を無視し、カイルへと歩み寄ります。

 

「連れてきました」

 

「うん。ありがとうイリナ。それとパシリにしてごめんね」

 

「いえ。これくらい構いません。カイルのためならどんなことでもやり遂げます」

 

「あはは、無理と無茶はしないでほしいけどね」

 

 どの口がそれを言うのでしょうか。

 その言葉をグッと堪えた。

 

 私とカイルがそんなやり取りをしてる横で、イーディスは若干引き攣った顔で騎士と話していました。この人は誰なのでしょう。女性の方のようですが。

 

「イーディス。よくこのような輩を従えようだのと思ったな」

 

「成り行きでね。思ってた以上にできる奴だし、あたしがどうしようが他にそちらに迷惑かかってないのだからいいでしょ」

 

「閣下に不要な職務を負わせた口でよく言ったものだ」

 

「本人が引き受けてくれただけよ。疑うなら直接聞いてごらんなさい」

 

 明らかに棘のある言い方ですね。犬猿の仲とは思えませんが、お互いに思うところはあるようです。これが腹の触り合いでしょうか。

 

「腹の探り合いな。セクハラしてどうする」

 

「間違えただけです」

 

 カイルに指摘されたのでプイッと顔を横に逸しました。苦笑する音が聞こえてきて、我ながら子供じみたことをしたと思いますね。

 私とカイルをよそに、紫の騎士とイーディスの言い合いがヒートアップしていってます。本人を放ったらかしにして話が燃え上がることもあるんですね。代理戦争というものでしょうか。

 

「このような男を連れ回すなど、イーディスも落ちたものだな」

 

「はぁ!? 何よさっきから聞いてればカイルのことバカにして! 言っとくけどあたしのカイルは副騎士長の四旋剣より強いわよ!」

 

 断じてあなたのカイルではありませんよイーディス。言っても聞こえてないようですが。

 

「なに……? それは聞き捨てなりませんね。整合騎士たる我が弟子たちが、このような男に劣ると?」

 

「そう言ったのよ。カイルは整合騎士に劣らない実力があるんだから」

 

 勝手にカイルの評価が高くなっていますね。これには私の頭を撫でてくれているカイルもやれやれとため息をついています。これ、クセになりますね。

 

「なんなら今から証明してやるわよ。あなた達が逃げないと言うのならね!」

 

「その言葉。忘れるでないぞ」

 

 副騎士長殿がマントを翻しながらカツカツと音を立てて立ち去っていきました。これから朝食をいただきたいところなのですが、その時間はあるのでしょうか。

 

「カイル。遠慮なんていらないわ。やっちゃいなさい」

 

「勝手に話を変な方向に持って行かれたんだが?」

 

「やりなさい。いいわね? 必ず勝つのよ」

 

「はぁ。困った主人だ。イリナはどうする? 乗り気じゃないなら武器庫から適当に拝借してきて戦うし、こんなのに付き合う必要はないぞ」

「こんなのってなによ!」

 

 イーディスのジト目をさらりと流して、カイルは私に戦う必要はないと言ってくれる。完全に外野のせいで生まれた話で、私はカイルの武器になるから気にかけてくれてるようですね。その気遣いはとても心に沁みます。

 

「いえ。カイルが戦うのなら私も付き合います」

 

 それはとても心に沁みたことでしたが、私はそれを跳ね除けました。その言葉を聞き、カイルは一度驚いてから困ったように笑いました。

 でも、ちゃんと理由はあるのですよ。

 

「カイルが私以外を使うところなんて見たくないです」

 

「合ってるけど言い方が……」

 

「私だって、カイルがコケにされて黙ってはいられませんので」

 

「女性陣まじか……」

 

 覚えておいてください副騎士長さん。

 私だってやる時はやるんです。ぎゃふんさせますからね。

 

 

 





 ふぅ。これでやっと繋がった。次回戦闘です。模擬戦ですね。
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