イーディス(主人)と臨むアンダーワールド 作:粗茶Returnees
なんてことをしてくれたんだと思わなくもないが、この場を設けられたことをプラスに考えたい。俺は整合騎士の実力というものを実感していない。
整合騎士たちが強いのはわかっている。一般の人たちとは違って、人界を守る守護者であるべく日々鍛え、任務につき、時に実戦をこなしているのだから。遺跡に行ったときにはイーディスの実力を見ることができた。一騎当千と言われる整合騎士なだけはあるなとよくわかった。
だが、他の騎士たちがどうかはわからない。
当然の話だがその強さは個々人で異なるのが当たり前。最強は間違いなく騎士長だろう。強者である騎士たちを束ねるのに最強の騎士を据え置くのは合理的だ。実力主義者だろうとそうでなかろうと説得させられるのだから。
副騎士長というのが、廊下で待ってた俺に声をかけた騎士らしい。ナンバー2と考えていいだろう。その辺りの騎士たちが強いのはわかる。上位陣だし、イーディスもそこに入るだろう。シェータさんだって間違いなくそこに入る。
ならば上位陣ではない騎士たちがどれほどなのか知っておきたい。どれほどの差があるのか。平均値はどの程度なのか。それを知るのには今回がうってつけだし、自分がどの辺りなのかを知ることもできる。
[楽しみにされてます?]
[ん? うん。楽しみにしてるよ。手合わせできるのは良い機会だし、実戦でいろいろ試すよりはいいからね]
[いろいろですか]
[うん。まぁでも、今日は1個確認するぐらいでいいんだけどね]
試したいことはいろいろとある。イリナならそれに付き合ってくれるだろう。だけど、今回は模擬戦というよりも果たし合いに近い。代理戦争みたいなもんだけど、相手のモチベーション次第だな。臨機応変にやっていきたい。
「やれやれ。お前さんはまた妙なことをしてんな」
「騎士長。今回は俺じゃないっすよ」
「あん?」
「イーディスと副騎士長が原因です」
「……やれやれ。見届け人はやってやる。場合によっては間に割って入って止めるが、思う存分やり合えばいい」
「いいんですか?」
「中立の立場の人間は必要だろう」
話が早くて助かるというか。その男前っぷりは同じ男として憧れるな。実際に中立の人間に審判してもらいたかったし、危ないと判断したら強引に止められるほどの実力者もほしかった。騎士長が嗅ぎつけて来てくれたことに感謝だ。
「来たようね」
イーディスが睨みつける。イーディスの眉間に指を押し当ててぐりぐりと回す。その睨みをやめさせてから、俺もそちらへと視線を向けた。副騎士長こと紫甲冑の騎士。その人の後ろから4人の騎士たちが扉をくぐってくる。なるほど四旋剣。そういうことか。
「ファナティオ……。お前もこれくらいのことでムキになるなよ」
「閣下!? どうして閣下がここにおられるのですか!? まさか……」
「あたしじゃないわよ」
副騎士長の名前はファナティオだったのか。
で、騎士長がここにいるとは思っていなくて、イーディスが呼んだのではないかと睨んでるわけね。もちろんそんな事はしてなくて、俺もそんなことはしてない。イリナでもないだろうし。
「ファナティオ様。失礼ながら私がお呼びさせていただきました」
「ホーブレン?」
「中立の立場でおられる方をお招きしたほうがよろしいかと思いまして。勝手な行動をしたことをお詫びします」
「いや。そういうことであるなら構いません」
「それで? イーディス側はカイルの奴として、ファナティオ側はどうすんだ? 四旋剣は連携を前提とした鍛え方をしてるんだろ?」
「そういうことなら、4人纏めて来てほしいですね」
「なに?」
4人同時に来いと言った俺に視線が集まる。副騎士長からの視線が1番鋭いな。騎士長は好奇な視線で、イーディスは少し驚いてる。四旋剣は挑戦的な目だ。いいね。気負わず、集中できる精神状態だ。
「我らを愚弄してのことか?」
「まさか。敬意しかないですよ。だからこそ、こちらをなめずに最高の状態で戦ってほしい」
「ふん。いいんじゃねぇか? そうしてやれや」
「ですが閣下」
まだ渋ってるようなので、イリナに頼んで刀へと姿を変えてもらう。ブレスレットが光り、やがて1本の刀へと。ランと最後にやったあのゲーム。あの世界で愛用してた刀と同じだな。イリナも粋な計らいをしてくる。
刀を鞘から引き抜いて構える。こちらの戦闘準備は万全だ。意識は戦闘モードへと切り替え、細切れにするほどの鋭い視線を相手にぶつける。シェータさんに近いな。相手のどこが斬りやすいか考えちゃってるよ。
「ほう……ファナティオ。カイルは示したぞ」
「……分かりました。4人で戦いなさい。あの男、あの闘気。舐めてかかるなどの愚行は許されない」
「「ははっ!」」
[カイル……]
[なに?]
[少しだけ……こわいです]
[っと、ごめんごめん。イリナにも流れちゃってたか]
どうやら相手にぶつけていた気概が、イリナにも向けられてしまっていたようだ。武器は己の体の一部にしないといけないのに。どうやら今までの俺はそれができてなかったようだな。
意識を少しだけ変える。刀へと変化したイリナを自分の一部として。放つ気はそのまま向こう側へ。
[どう?]
[はい。もう大丈夫です]
[ならよかった]
こちらの調整が終わる頃。あちらも剣を抜いて構える。お互いに準備は整った。副騎士長もイーディスも距離を取っていて、あとは騎士長の合図で始まる。
「それじゃあお前ら。相手を死なせないことだけは注意しろ。その余裕がなくなったら止めてやる」
「すぐに止められないようには努力しますよ」
「ったく。……はじめ!」
合図と共に一斉に走り出してくる。走りながら陣形を変えていくのも、相手を惑わすための策の1つなんだろう。さすがにそれのひとつ覚えなんてことはないか。他のパターンも見てみたいけど、今日の目的を増やすのはよくないな。
[これがジェットストリームアタックですか]
[人の記憶で何学んでんの!? あとこれ4人だから違う!]
イリナはいったいどこまで俺の記憶を覗いたんだ。というか、たぶん俺の記憶をいつでもどれでも見れちゃうんだろうし、俺には防ぎようがないな。
[ファイル別にしてありますので、カイルの恥ずかしいことは見ないようにしてます]
[俺の記憶はパソコンか!?]
[例え話です]
[わかりやすいけども!]
思わぬ横槍が飛び出してきたけども、すぐに思考を切り替えて分析を始める。当たり前の話だが、距離が縮まれば向こうも陣形の変更が効かなくなる。後ろを走る人たちの動きを見極められないように、戦闘を走ってくる人が斬りかかってくるのも当たり前か。
「甘いよ」
「ぐっ!」
ひとり目がフェイントだとわかった瞬間に行動を始める。
斬りかかると見せかけての素通り。それならそこにこちらから仕掛ければいい。地面を本気で蹴り飛ばし、全体重を載せて横薙ぎにする。相手の進行を止めるのではなく追撃する形。相手は防ぐしかないタイミングだけど、体勢が崩れるから次の行動に遅れをきたす。
こちとらGGOのスペックがベースなんだ。アジリティ重視だからただの膂力では勝てないと見るべきなんだよ。
「甘いのは貴殿だ」
「どうかな……っ!」
2人目以降の追撃が迫ってくる。ついつい余裕ぶってしまうけど、単純に考えて1対4はしんどさがあるんだよ。
上段からの叩きつけ。防げば足が止まる。その間に左右から狙ってくるはず。少し遅れてるけど、1人目が背後から狙うはず。四方を潰しての攻撃。単純にして絶対の方程式。
もちろんそれはどこかを突破されなかったらの話。
「なっ!」
迷う必要なんてなかった。上段からの斬り落としをしてくる騎士の左側をスライディングして抜ける。振り落としたまま強引に追撃を狙ってくるのを警戒して刀で頭を守るようにする。
包囲が完成する前に抜けることに成功し。抜けきったら膝から下の全部を使い、反動をつけて跳ね上がる。
殺しきれてない勢いも利用する。刀を地面に突き刺し、それを基点としてその場に踏みとどまる。その際に足に力をため、これまた反動として弾かれるように前方へと飛び出した。
2人。その後ろに2人。
それが今の向こうの陣形。
連携を大前提とした戦い方。なるほどたしかにそれは強力だ。決して無理することなく、お互いにカバーし合うことで全員の危険度を減らしていく。その上で確実に相手を仕留める。
──それがどうした
知っている。武の完成形を。圧倒的劣勢すらものともしない個人という存在を。
『絶剣』と称されるユウキすら一度も勝てなかった少女。
ランのようにはなれない。生憎とそんな力量を持っていないし、その可能性すら秘めていない。それぐらい自覚してる。
だけど、自分の実力を把握している状態で。自分に合ったやり方でそれに寄せることは可能なんだ。
「こいつ、さらに速くっ……!」
陣形が縦に2、2なら、真ん中に突っ込むわけがない。必ず左右どちらかの外側を切り抜ける形となる。仕掛ける場合も、仕掛けられる場合も。それがセオリーというやつだ。
その思考のさらに上をいった力を見せつけるか、裏をかいて冒険を犯すか。2つに1つだ。
『相手の想定を超えるのが1番有効だよ。自分のことを知られてない前提だけどね』
そう言ったランは知られたところでその強さを見せつけていたけども。
ランは自分の当たり前を他人の当たり前とはしなかった。自分と他人は絶対に違うと考えてたから。だから説明とかすごい丁寧で分かりやすかった。
そうやって教えられたいくつかの教訓に何度助けられたことか──
「消え──」
速度をさらに上げ、そこから相手の視線を切る。野球の変化球と同じだ。目で追いにくい角度はある。必要な速さと。最適のタイミングを使えば。一瞬でも相手の視界から消えられる。
その隙に一刀でも浴びせたら十分な成果だ。
「させん!」
「おっ、と!」
もちろんそれはタイマンでの話。奥側にいた騎士からは対応されるのも仕方ない。陣形を崩してでも飛び出してきた騎士の剣が、俺の刀の道を阻む。その騎士のさらに後ろを通り過ぎ、回り込む形で狙ってきてる騎士。反対側から来る騎士の方が早いか。
予定通りじゃなくてもそれに対応する術を身に着けてる。実戦経験は知らないけど、相当鍛えていることに変わりはない。
包囲されれば負けは確定。俺は包囲されないように立ち回りながら1人ずつ落とすしかない。
それ故に距離を取る。
「──ディスチャージ!」
「は?」
俺の刀を止めた騎士の背後にいた騎士は、俺が退くのを読んでいたらしい。タイミングを合わせて神聖術を放ってくる。風の塊だろうか。迫ってくるだけでも吹き荒れている。
[ディスチャージ]
「うぉっ!」
これは避けられないかと思っていたら、足元で風が吹き荒れて横へと飛ばされた。俺はやっていないのだから、今のはイリナが機転を利かせてくれたんだろう。周りからしたら、俺がやったという風に映るんだろ。イーディスは気づくか。
[ありがとうイリナ。助かったよ]
[神聖術もいいのであれば、私だって黙っていませんよ]
[……イリナ?]
なにやらイリナの機嫌が悪くなってる。得物だけでの勝負だと思ってたからなんだろうか。俺も虚を突かれたけど、これはこれでいいと思うんだよね。なにせ整合騎士の戦い方を知るためなんだから。
「まぁでも、それならこちらにも考えはあるんでね」
刀から二丁拳銃へと変わってもらう。試したかったことその1は銃以外への変化及び、その際のぶつかり合いでイリナが傷つかないか。
その2は──
[どれだけのリソースを一発の弾に詰め込められるか]
[やってみましょう]
人界なのだからリソースには困らない。この部屋もまたそれなりにリソースが存在している。そのリソースを銃へと詰め込んでいく。
相手は銃を知らないからか、警戒してこちらの動きを注視している。ありがたい限りだ。
[イリナがしんどくない程度だから。嘘つかずに、無理しないで]
[カイルはやさしいですね]
リソースを込めていけば銃身が光る。込めれば込めるほど、その光の光度が高くなっていく。
[んっ……、ふっ、ぁ……かいる]
[わかった。次からはここ未満でやる]
しんどそうに息を漏らしながら告げてきたイリナに謝罪だ。イリナだって初めてなんだから、程度を把握できてるわけがなかったな。
「防げるかは知らんが、避けることをオススメする」
忠告はした。
剣を構え直してる。避けるつもりはないらしい。騎士としての意地か。
引き金を引く。
光弾が飛び出した。
そう思った瞬間には衝突していた。
「……ふぅー。間に合ったか。悪いがお前ら、ここまでだ」
「閣下……」
「あはは~……。やり過ぎちゃいましたね」
「まったくだぜ。このあといくつか聞かせてもらうからな」
「うぃーっす。あ、みなさんお疲れ様でした。手合わせできて楽しかったです」
「ぅ、うむ。そうか。我々も得るものがあったよ」
ぺこりとお辞儀をすると向こうからも礼が返ってくる。こういうのは大事だよなって思ってると、見守っていたイーディスが歩み寄って来る。少し早歩きだな。
「お疲れ様カイル」
「どうも。悪いなイーディス。勝つのは厳しかった」
「ふふっ、いいわよ。かっこいいカイルが見られたもの」
「……そりゃどうも。頑張ったかいがあったよ」
時たまこんなことを言うんだから、イーディスはやりにくいんだよな。
このあとは騎士長だけじゃなく副騎士長も交えて、イリナのことについていろいろと聞かれた。俺のこともイリナのことも、共々纏めて認めてもらえたのは嬉しかったな。
ところでシェータさん。「次は私」みたいな目で覗いてこないでください。あんたの剣相手だとおそらく死ぬんで。
遅くなりました。諸々あったり、体調崩れていたりとかそんなです。