イーディス(主人)と臨むアンダーワールド 作:粗茶Returnees
せっかくのこの日なので、頑張って更新しました。
この世界はあまりにも面白くない。
製作に関わっておきながらこう言うのもなんだけど、ここまで酷いとは思っていなかった。製作者の想定からズレるのはいい。個人的にはそれを望んでいた。だから、変な教会ができたり、堅苦しい騎士団ができてるのもいい。それはこの世界のオリジナリティだ。こういう変化は大変望ましいものだ。AIの可能性を見せてくれてる。
「けどこれはねぇわなぁ」
昨日の出来事を思い出してボヤく。
イーディスの右目に現れた真っ赤な目と文字列。寝る前の会話で露見した記憶の喪失。この教会の在り方からして、それを行ったのは最高司祭なんだろう。チビピエロは騎士長と並ぶ立場のようだし、指示はしても命令はできない。騎士長にすら命令できるのはただ一人で、あの人の良さからして騎士長がこの事にあまりいい顔はしないはず。騎士長すら記憶をイジられてると考えていい。
こんなものは仕様になかった。とはいえ、オリジナリティだし、はっきり言ってしまえばどうでもいいことだから特に行動を起こす気もない。だが戻ったら裏切り者を処分しないといけない。イーディスの目に現れた文字、数字がそのまま語呂になってる。何とも安直な野郎だ。
「んっぅぅーん……。ふわぁぁ~」
「おはようイーディス。よく寝られたか?」
「いつもと変わんないわよ。カイルは?」
「床がキンキンに冷えてて気持ちよかったかな。いやぁ冷蔵カイルくんが出来上がるところだったよ」
「ならずっとそこでいいんじゃない?」
「襲うぞテメェ」
皮肉になんていう返し方をしてくるんだこの小娘。寝ぼけてるようだし、頭が全然回ってないんだろうな。服の乱れに気づけ。
「服をそのまんまにしてるのは、やっぱ見せたがりか何か?」
「へ? …………っっ!! 見ないでよ変態!!」
「見せてきてるのはイーディスじゃん」
「システムコール!」
「おや室内で何をしようとしていらっしゃる?」
肩紐がズレてはだけてしまってる胸元を片手で抑え、反対の手は俺の方に突き出してくる。その指先には光が収束されていた。これは疑いようがない!
「E・T~」
指先を重ね合わせた。
「ディスチャージ!!」
暴風で壁に打ち付けられた。
「すぐに傷つけようとするのどうかと思うぞ」
「全部カイルが悪いんだからね?」
「そんな馬鹿な。それよか朝飯食べようぜ。食堂とかあんの?」
「一応あるよ。けど今は嫌かな」
「なんで?」
「元老長が食べてる時間だから」
「なら行こうか!」
「へ? ちょっ! 待ちなさい!!」
馬鹿め。鎖をちゃんと握っていないからこうなるのだ。元老長ってアレだろ? あのちんちくりんダルマのことだろ。服の膨らみは空気か綿なのか。そこまで興味ないがああいう身体でも人間って生きられるものなんだなって感心させられる。人の可能性の体現者だぜ。
イーディスを振り切れるかなって思ったけどそうでもなかった。逃げるより追いかける方が早くなるの法則。それでも俺の方が早いんだが、イーディスは食らいついてきた。
「お嬢さん食堂があるところまでよろしく!」
「かしこまりました」
「いやかしこまらないでよ昇降係!!」
名前で呼んでやれよって思いつつ、昇降盤に飛び乗る。すぐに動いてくれて、この子ノリがいいんだなぁって親近感が湧いた。でも下に向かうんだね。上がよかったなぁ。
「待ちなさぁい!!」
「やっぱり飛び降りてきた」
臆することなく飛び降りられるのは整合騎士だからか。いや、たぶん真っ当な騎士なら飛び降りてこないだろ。イーディスはバカだ。
「これってもっと早く降りられたりする?」
「可能です」
「なら2秒だけ早めてみて」
「かしこまりました」
昇降盤の速度が増す。追いつきそうだったのに引き離されたせいで、驚いたイーディスがバランスを崩した。昇降盤の速度が元に戻って、しかも目的の階に着く。落下してくるイーディスもキャッチ。
「おやおやイーディス様。カッコよく飛び降りといてそのザマですか?」
煽りは忘れない。
「…………ばか」
「張り合いがないな。それよかイーディス。寝間着のまま追いかけてくるのはどうかと思うぜ?」
「ぁ」
「ま、俺は気にしないけどなー!」
イーディスを抱えたまま食堂を目指す。細かい場所は知らんけど、適当に行けば着くだろ。イーディスを抱えてる理由は単純。下ろしたら鎖を握られて引きずられるから。その気になればイーディスの方が力強かったりするのだ。
「ここか!」
「どちら様でしょうか?」
「ここ厨房! というか早く下ろして!」
「3枚に?」
「カイルを3枚に下ろそうか?」
「怖い女だなぁ」
食堂と言っても学生食堂みたいな場所じゃないようだ。厨房と食卓はお互いに見えないようになってる。隣の部屋が食堂のようだが、今は元老長一人らしい。
「帰るよ」
「何言ってんだイーディス。何しにここに来たと思ってる」
「ご飯は後でいいでしょ。私も着替えたいし。ちょっと肌寒いのよ」
「これでも着てろ」
「ありがと……じゃなくて!」
上着を受け取ってからツッコミを入れてくる。イーディスってノリがいいよな。そういうところはわりと好き。
「イーディスはそこで待っとけばいい。待つ気はないから自分で作るさ」
「えっ、料理できるの?」
「少しだけな。味に期待するなよ?」
「いや微塵もしてないけど」
「タバスコ入れてやる」
「イジメじゃない!?」
イジメじゃないです。サプライズです。というかこの世界『タバスコ』って名前の調味料ないのな。反応してから首を傾げてるよ。根っからの芸人気質だな。
イーディスの相手もそこそこに、適当に食材を拝借して料理を始める。久しぶりにやるし、慣れてる人たちの横でするとぎこちないものだが、自分のペースでやれば問題ない。基本に忠実。アレンジなんて加えない。それは元老長に差し出すメニューに混ぜ込むだけ。
「なんかカイルが料理してるの見てると腹立つ」
「理不尽すぎじゃない? イーディスが料理下手なだけでしょ」
「へ、下手じゃないもん!」
「そうか。作らなくていいぞ」
「信じてないでしょ!? 証明してあげる! あたしだって料理の一つくらいできるんだから! カイルのご飯あたしが作ってあげる!」
そうやって息巻いて料理を始めるイーディスの姿を、他の料理人たちと一緒に哀れんだ目で見守るのだった。ちなみに貸した上着は着ていた。袖を捲くらないと萌え袖になるのは可愛い。俺、彼女いるけどな。
「んで? あれだけ張り切っといて何グロテスク料理作ってるの? 俺真っ青な料理初めて見たよ。え、これどうやって作ったの?」
皿に盛り付けられた料理について追及していくも、イーディスは全く目を合わせなかった。変に縮こまって、「味はたぶん大丈夫」とかゴニョゴニョ言ってる。たぶんってなんだ味見してないだろ。その小さな口に流し込んでやろうか。
「あのなぁイーディス」
「味はきっと大丈夫だから!」
「こっち見ろ」
声のトーンを落とすと、ビクッと肩を震わせてこっちに向いた。完全に怒られることに怯えてる子供だ。自分がやったことに自覚もあるんだろうな。親相手にも似た感じだったんだろ。その記憶がないのだとしても。
「料理は遊びじゃないんだ。食材も命があったんだ。俺達はそれを貰って生きるんだぞ? 食えないゲテモノにしたら無駄死にもいいところだ」
「はい……」
「できないことはするな。簡単なやつでよかったんだし、味も確認しながらやればいい。少しずつでいいんだ。剣を握ったことがないやつにオークの小隊潰してこいって言ってるようなもんだぞ」
「返す言葉もございません……」
「対抗心だろうとも、朝食を作ってくれたのは素直に嬉しいよ。手酷い失敗だとしてもな」
そう言うとイーディスの表情がぱっと明るくなる。そんな単純でいいのかと頭を抑え、気にかけることでもないなと割り切る。というか、調子に乗るなイーディス。何だその目は。さぁ食ってくれと言わんばかりの期待の目。食うわけねぇだろ。
指をパチンと鳴らして料理人にイーディス特製ゲテモノ料理を回収させる。すっごい残念そうな顔をしてるが、あれは食べられるものじゃない。
「俺は食わねぇが、代わりに食べてくれる奴はいるよ」
「とか言って、捨てさせる気でしょ」
「いやいや。食材は無駄にしないさ。ちょっと待ってろ」
厨房から隣の部屋へと移動する。そこにはイーディスの料理を目の前に顔を引き攣らせてる元老長がいる。あの顔の大きさだ。口も大きい。イーディスの唯一評価できる点は、量がそこまで多くなかったこと。あれならひと思いに流し込める。
「なんなのだこの巫山戯た料理は! 家畜ですら食わんわ!」
「あの野郎……!」
いやいやイーディスさん。こればっかりは元老長が正しいぞ。というか、厨房で待ってろって言ったのに。覗き見しちゃって……いいけどさ。
「ん? 誰だ貴様! 見たことなどないぞ! ……いやあるか? どうにも昨日の記憶が曖昧なのがいけませんねェ。それよりなぜ首輪をつけて鎖で繋がれているのですか」
「主人の趣味です」
イーディスに溺れさせられてたから記憶が飛んでるのか。
「元老長。実はこの料理、ある食べ方をすると隠された味を味わえるんですよ」
「そんなわけあるか!!」
「いやいや、いいですか? 人は見えるものに左右されがちです。それが先入観に繋がります。ですが、それによって評価されない料理があるのも然り。つまり、先入観を捨てれば美味を味わえるものがあるんですよ」
「目を閉じて食べろと?」
「ええ。ひと思いに一気に食べるといいですよ」
「なるほど。その考えも一理……あるわけないだろバァァカ!! 騙されんぞ馬の骨ぇぇ!!」
「いいから黙って食いやがれクソ達磨!!」
「ぐぉぉぉぉ!? む……たしか、にぃ!? 〒:・%☆■・<$!?」
顔を真っ青にして泡を吹きながら倒れる元老長。体をしばらくビクビク痙攣させて、がっくりと意識を落とした。
「やっぱこれ食いもんじゃねぇな」
「酷いよ!」
「酷いのはお前の料理だ! これもう兵器だろ!」
「違うもん! ヘイキって?」
「……はぁぁ。朝飯食べようぜ」
通じないことがあるのは面倒だな。教えて変に知識をつけさせるわけにもいかない。この世界はあくまでこの世界の中で成長すべきだ。来訪者である俺は問題児程度に収まるとしよう。
しつこく聞いてくるイーディスを適当に流し、俺が作った朝食を食べる。日本料理といきたかったのだが、それもやめといた。洋風だったし、和風の料理もあると確認できるまでは我慢だ。
「……美味しい」
「そう思うなら顔を顰めるなよ」
「だって悔しいじゃん。あたしより料理できるとか」
「イーディスのあれはもう料理じゃないからな?」
「うぐっ」
イーディスが食べ物を喉に詰まらせる。水を渡してやり、それで流し込むのを見ながら呆れる。天下の整合騎士様の一人がこれってのがな。一般人が知ったら失望しそう。イメージ崩壊するだろうな。
「整合騎士って普段何してんの? あの門があるのなら侵攻もないだろ?」
「ないけど、この前みたいに壁掘られたら攻められるし、それを防ぐために警備に当たってる。東は大門があって、残りの北、南、西は山脈があるけど洞窟があるんだよね。で、そこも塞ぎはするけど地道に掘られたりするし」
「4方向を警備か。数もいるんだろうし、交代制ってわけか」
「うん。基本的にはここで待機ってのが多いかな。カイルが行った通り交代制だし、交代制なんだけど、持ち場を決められてたりするからね。騎士長とか普段はここの守備だよ」
「なるほど」
騎士団は独立していない。トップは最高司祭。防衛の仕方も最高司祭が決めるとなると、その配置の仕方から性格が読み取れてくるというもの。一応人界の主だったルールは知っとくべきだな。部屋でイーディスに教えてもらうとしよう。図書館とかあればいいけど。
「ご飯も食べ終わったし、そろそろ戻ろっか」
「そう急ぐなよイーディス。そろそろ出来上がるから」
「出来上がるって何が?」
「お菓子」
ゼリーとかアイスとか食べたいところだが、冷凍庫もなければ冷蔵庫もないんだ。冷やして作るお菓子は作れない。なかなかに不便なもので、リアルの方の文明の利器には感謝だ。作ったやつ天才。二日は拝むね。
料理人に頼んで作っていたのはマフィン。これなら冷やす必要がないからな。軽めのお菓子としても優秀だ。神聖術とか知らんから、仕上げは任せてた。代わりにレシピを教えた。お菓子作りは好きなのです。簡単なものしか知らんけど。
「なにこれ」
「マフィン」
「ふーん? ……なんで作れるの」
「努力したらできるんじゃないですかね」
「あれ? カイルの分は?」
「あるわけないだろ。イーディスのために作ったんだから」
「えっ!?」
マフィンと俺を交互に見てくる。そんなに意外だったのか。心外だぞ小娘。見た目年齢的に歳近いけど。
「ま、今日はそういう日なんだよ。冷やすのに手間取るからチョコは諦めた」
「どういうこと? 別にお祝いするような日じゃなかったと思うんだけど」
「イーディスは知らなくてもいい。気まぐれだし。そうだな、従者からの貢物とでも思えばいい」
「……まぁいいか。ありかどうカイル」
早速マフィンを口に含んでる。どうやら味も問題なかったようで、イーディスは目を細めて喜んでいた。その笑顔が十分な報酬だな。
バレンタインだしバレンタイン回にしようかと思ったんです。冷やすものないからチョコ作れないなって。主人公神聖術覚えてませんし。