イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

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4話 神聖術習得(?)

 

 イーディスは一応東側の担当らしい。今は交代で休んでる期間だから中央にいるだけで、また次の期間が来たら東に行くんだとか。この世界の地図を見させてもらった時、わりとすっごい単純に思ったことがある。

 

──西側の警備って本当にいるのか?

 

 この一点だ。

 なにせダークテリトリー人の都は人界から見て東側にある。最短距離はあの大門で塞がれているものの、周りの崖に穴を掘ることは可能。そこを諦めたとしても、北と南に洞窟がある。距離的にその3方向からが多いだろう。わざわざ人界の西側まで回る必要なんてない。それなのに警備がついている。最高司祭が極度に臆病だから。

 

「臆病でいてプライドが高いとか。呆れるぐらいにトップに向いてる性格だな」

 

 長い時を生きている最高司祭は、たぶん最強の存在なのだろう。その実力の高さ、権力の高さ、それを自覚した上でのプライドは、治める地域を盤石なものとする。権威のある優秀な者は決まってそうなると歴史が証明している。その上で臆病ときた。あらゆる可能性を考慮し、鉄壁の防御を作る。

 最高司祭アドミニストレータは、微塵も侮れない存在だ。

 

「何してるのカイル?」

 

「今後のことを考えながら外を眺めてる。市民の生活を知るのも面白そうだしな」

 

「あたしたち整合騎士は民との接触を禁じられてる。だから諦めて」

 

「俺は整合騎士じゃない」

 

「あたしの従者でしょ? 勝手な行動はさせないから」

 

「そこで一つ相談だ」

 

 めちゃくちゃ嫌そうな顔をされる。これ以上面倒事を増やされたくないってハッキリ顔に書いてある。だがこれはお互いに利益のある話。

 

「鎖なくそうぜ。ずっと持つのもだるいだろ?」

 

「それもそうだけどさ。カイルが消えるじゃん」

 

「工夫したらいいと思うんだよな。神聖術って遠隔操作できねぇの?」

 

「いくら何でもそれは無理だよ。最高司祭でも無理だと思う」

 

「なら今超えるか」

 

「はい?」

 

「俺の持ちかける話はこうだ。鎖を消して、代わりにこの首輪に仕掛けを作る。神聖術をここに放てるようにすれば、ある程度離れてても問題ないだろ?」

 

 我ながら悪くない発想だと思う。西遊記みたいなことをすればいいんだよ。絞められるんじゃなくて、神聖術を打たれるって違いがあるだけ。首にダイレクトって怖いな。

 

「カイルの言いたいことは分かるし、たしかにそれは便利なんだけど……。実際問題実現できないよ。そもそもその仕掛けもどう作るのさ」

 

「そこはイーディスが頑張って」

 

「いやいや……」

 

 はぁ、とため息をつかれてもな。こっちだってつきたいわ。いつまでもコレがあるのは面倒なんだよな。首輪はまだしも鎖は邪魔。そこはイーディスも思ってることのはず。

 

「ひとまず、この鎖を小さくしてみてくれ」

 

「なんで?」

 

「ちょっとした確認だよ」

 

 こちらを訝しんだイーディスだけど、要望を受け入れてくれる。形状を変化させても手を離さなかったらいいわけだしな。

 イーディスが呪文を唱える。鎖が光に包まれてワイヤーの束へと形状を変えた。

 

「それで? 何を確認したかったの?」

 

「神聖術。やり方は分かった」

 

 ぽかんとしたイーディスが、次第に笑いを溢していく。どうやら俺の発言は常識から外れているらしい。立場が逆なら俺もそういう反応するだろうなという自覚はある。だが、ここがあの男の望んだ世界であるというのなら、意志を継いだ世界であるのなら、アインクラッドでキリトが見せたアレも仕様となっているはず。

 

「ちょっと手を借りるぞ」

 

「──へ?」

 

 笑い続けていたイーディスが反応を遅らせる。それを気にすることなく、ワイヤーを握ってるイーディスの右手を引き寄せた。細いその指を首輪に触れさせ、俺はイーディスの手を握ってない反対の手で首輪と指に触れる。

 ある程度この世界の型に合わせるも、途中から呪文を唱えるのはやめた。システムコールしか言ってない。それでも術は起動して、ワイヤーが姿を消す。

 

「何したの!?」

 

「ワイヤーをその指輪に変えた。あとは首輪に仕掛けを用意したくらいか。これでさっき言ったことができるはずぅっぅうぉ!!」

 

「あ、本当だ」

 

「何も言わずに試すか普通!?」

 

 いきなり首輪から上を燃やされたとあっちゃあたまったもんじゃない。すぐに止めてくれたし、治癒もしてくれてるけど、超絶心臓に悪い。傍から見たら絵面も酷いんだろうな。

 元が同じ素材なら、なんか見えないパスでもできるんじゃないかという実験でもあったわけだが、これは違うだろうな。そんな便利なものはできない。だがまぁ、なんか望むものは作れた。とりあえずこれで良しとしよう。

 

「ホント、カイルは何者なの? こんなの最高司祭でも作れないよ?」

 

「お前の従者だよ。それに同じものを作れって言われても無理だ。偶然の産物ってやつ」

 

「いやいや、偶然でもこんなの無理だから」

 

「固く考えるなよイーディス。可能性が僅かにでもあるなら、俺は諦めないって決めてるだけだ。人類はそうやって世界を動かしてきたからな」

 

 電気しかり鉄道しかり。飛行機やら宇宙ステーションもそうだ。当時はきっと誰も信じてなかった。それを実現させようと取り組み続けて、僅かな可能性を信じきった奴が実現させる。国を変えるって規模だと革命だな。

 とか言っても、この世界で生まれ育ってるイーディスにはピンと来ない話か。

 

「なんにせよ、心の有り様ってのは大事だろ?」

 

「そこは分かるけどさ。……はぁ、真面目に考えると面倒だなぁ」

 

「いかにも頭使えなさそうだもんな」

 

「ふんっ!!」

 

「いでぇぇぇ!!」

 

 首にダイレクトに神聖術が来るとか……もしかしなくても強力なものをイーディスに与えてしまった……。まぁ治癒もできるからいいんだけどさ。死なないとはいえ痛いものは痛い。

 

「北に行こうぜイーディス」

 

「なんの脈絡もなくいきなり何言ってんの? そっちは私の担当区域じゃないし、勝手に動けるわけないじゃん」

 

「バレなきゃ大丈夫」

 

「いやバレるから。騎士長が言ってたけど、人界全体を見張れるような仕掛けがあるらしいし」

 

「ほう?」

 

 まぁあるだろうな。違反者をすぐに捕まえに行けるようなシステムがあるのは当然だ。独裁国家なんだし。

 とはいえ、それはどうせ神聖術。細かな仕掛けなんぞ知らんが、単純に考えりゃ『目』があるってことだろ。ならその『目』を欺けばいいだけの話。

 

「その仕掛けについて細かいこと知ってるか?」

 

「細かいことって言われてもなぁ。禁忌目録を犯した人のことがすぐに分かるってだけだよ」

 

「それだな」

 

「何が?」

 

 禁忌目録を犯す。それが監視網に引っかかる条件だ。この世界を監視カメラで捉えてるのではなく、レーダーで捉えてるってわけだな。魚雷探知機みたいなものか。

 

「禁忌目録を犯さなかったらバレない。どうせ整合騎士が担当区域以外に赴くことはそれに載ってないだろ」

 

「それはそうだけど。今あたしはこのカセドラルにいる事が任務みたいなことだから。誰の指示もなく勝手に出て行っていいわけじゃないの」

 

「なら俺が連れ出したってことにしよう」

 

「は? ちょっ! 何して……!」

 

 煩いイーディスを腕に抱える。俗称お姫様だっこ。整合騎士って言うわりには、なんだかんだ乙女なところもあるらしい。恥ずかしそうに腕の中で暴れてる。

 

「ずっとここにいるのも面白くない。出掛けようぜ」

 

「カイルの都合なんて関係ないでしょ! 下ろして!」

 

「叫んでると舌噛むぞ~」

 

 イーディスの部屋から飛び出して廊下を一気に駆け抜ける。まだコツは掴めてないけど、この世界は身体能力以上の力を発揮することができるようだ。吹き抜けまで行き、エレーベーターが登ってくるのを待たずに飛び降りる。

 

「ーーっ!!」

 

 前も飛び降りたことあるし、イーディスも予想してたんだろうな。飛び降りる直前に首に手を回してしがみついてきた。

 

「イーディス様は飛び降りることがご趣味なのですか?」

 

「そんな趣味無い! カイルいい加減に下ろしなさい!」

 

「どわっ! っつ~!」

 

 エレベーターに着地して、飛竜の発着所がある階にまで案内してもらう。他の人に見られたせいか、イーディスが頬を赤くしながら神聖術をぶつけてきた。その威力と衝撃にふらつくも、なんとか耐えきった。

 

「何すんだよ」

 

「カイルが下ろさないからでしょ! 恥ずかしいのよこれ!」

 

「わかったよ。けど、北には行かせてくれ。それができたらイーディスの従者らしくするから」

 

「……なんでそんなに行きたがるのよ」

 

「市民の生活が気になるのと、そっちに面白そうなことがありそうだから」

 

「意味分かんないんだけど……。まぁいいや。ならやっぱりこのままにして、あたしの飛竜の背に乗ればいいよ。その方が都合がいいし」

 

「イーディスのそういうとこ好きだな~」

 

「っ……バカ!」

 

 顎にアッパーを叩き込まれる。照れ隠しにしては威力が強いんだけど……悲しいかな。これが整合騎士ってやつなんだろうか。筋力お化けめ。見た目に騙されるぜコンチクショウ。

 

「実はイーディスこの状態気に入ってるとか言う?」

 

「もう一発入れようか?」

 

「調子に乗りましたごめんなさい」

 

「着きました」

 

「ありがとう」

 

 イーディスを抱えてちゃっちゃと発着所に進んでいく。どの飛竜か俺にはさっぱり分からないんだが、主人であるイーディスはちゃんと分かる。どの飛竜か教えてくれて、その飛竜の背にイーディスと乗る。案外ノリがいいのか、それとも主人が背に乗ったら飛ぶという風に仕込まれているのか。なんにせよその飛竜は淡々と外に歩み出て飛び立ってくれた。

 飛竜のことなんて分からんから、手綱はもちろんイーディスに握ってもらう。俺はイーディスの後ろにいながら街を見下ろすだけだ。ここに運ばれてきた時とは少し視点が変わって新鮮。

 

「……風が冷たいわね」

 

「この高さならこんなもんだろ」

 

「いつもより肌寒い気がして…………ぁ」

 

「あー。イーディスお前今鎧着てないもんな」

 

「カイルのせいでしょ! 刀はあるけど!」

 

「気づかないイーディスもどうかと思うけど……」

 

 鎧の下がノースリーブってのもどうかと思うんだよ。これもファッションなのかな。その辺決めてるのは本人なんだろうか。そうだとしたらイーディスってわりと──

 

「変なこと考えてない?」

 

「そんなことはないぞ~」

 

 こういう時の女って鋭いんだったな。首輪もあることだし、余計な思考は控えておこう。それより、イーディスが風邪でもひいたら面倒だ。なんかいろいろ言われそうだし、他の奴らに追及されても面白くない。特にあのピエロは面倒そうだ。

 仕掛けとかそんなもんは偶然の産物。それにそれは今どうだっていい。今やるのは形状を変えるだけだ。イーディスが鎖をワイヤーに変えたように、俺が着てる服を毛布に変える。うまくできたかは微妙だが、風除け程度にはなるだろう。それを前にいるイーディスに掛けてやる。

 

「……なんでできるの?」

 

「イーディスが見せてくれたろ? 同じ要領でできた」

 

「いや普通はできないから」

 

「普通じゃない従者ができてよかったな」

 

「……で、なんであたし抱きつかれてるわけ?」

 

「こうしないと俺が落ちそうなのと、俺の服を毛布に変えてるから俺が寒い。こうしてると風除けになるってわけ」

 

 あとは、俺とイーディスで毛布を挟むことで、毛布が飛ばされないようにしてるっていう理由もある。毛布消えたら俺の服ないし、寒いだけだし。

 

「はぁ。変なとこ触ったら落とすから」

 

「それは殺人になるぞ」

 

「じゃあ首輪」

 

「なんもしないって」

 

 腰細いなぁとかそんな事思う程度で何もする気はないんだって。北に行きたいんだしな。

 

「北のどこまで行くの?」

 

「そうだな……北の端までかな」

 

 

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