イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

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6話 北での発見

 

 適当に作ったキャラではなく、ちょいとばかり真面目な感じで対面するのは初めてだ。イーディスの次に出会った整合騎士。一人目の整合騎士にして最強の騎士。一騎当千とされる騎士たちを束ねる猛者。騎士団長ことベルクーリ・シンセシス・ワン。

 鍛え上げられた肉体はその偉丈夫に恥じぬもの。いくつか見える切り傷は、これまでの戦歴を物語っている。普段は朗らかな雰囲気で放任主義の父親のような存在なのだが。今はその雰囲気が消えていて真面目な様子。

 その原因は俺なんだけども。

 

「正気とは思えんことを言うんだな」

 

「これでも真面目に考えての行動なんですけどね」

 

「好き好んで行くとこじゃねぇぞ。ダークテリトリーってのは」

 

「理由はさっき言ったとおりですよ。俺の主人たるイーディスは騎士長に指示を仰ぐと言った。だからこうして直接言いに来てるんです」

 

 仮の形式ではあるものの、イーディスに仕えてるってことにしてるから騎士長の部下でもある。上司に許可を貰いに来るのは当たり前のこと。一応って話だけどな。

 俺の考えてることなんてお見通しなんだろう。騎士長はガリガリと頭を掻きながら億劫そうにため息をついた。

 こんな事になってるのは、もちろん北に出かけたことが事の発端だ。

 

 

 

 

 

 アリスに見送られて森を進んでいくと、アリスが見えなくなったあたりで首輪から神聖術が放たれる。そんなやり方をしてくるとは思っておらず、不意打ちをくらって心臓がバックバクだ。

 

「ひでぇな……イーディス」

 

「あたしがいることには気づいてたでしょ」

 

 木の陰からひょこっと出てきたイーディスは、軽い調子で姿を現したわりに顔が不機嫌そうになってた。

 イーディスの言ったとおり、たしかに見られてることには気づいてた。整合騎士は民と接触するわけにはいかない。だから俺とアリスが話していたのを陰から見てて、タイミングを見計らって出てくるとは思ってた。不機嫌そうにしてるのはよく分からないけど。

 

「随分と楽しそうにしてたじゃない?」

 

「なに嫉妬でもしてたの?」

 

「ええそうよ! あんな可愛い子と2人で仲良く話してるなんて羨ましいったらありゃしない! 主人を差し置いてなんでそんなことができるのよ!」

 

「えぇ……」

 

 なに。もしかしてイーディスさんって百合属性なんですか。そういう人を目の当たりにするのは初めてで驚いた。

 

「立場の違いだな。俺は民と接触しても問題ない。お前ができない楽しみをたくさん俺は味わえるってわけだ」

 

「うわ腹立つわね!」

 

 軽くドヤってみたらどストレートな言葉とともに心底嫌そうな顔をされた。ガチでイーディスは可愛い女の子が好きらしい。あのショタっ子2人を女装させてみたらどういう反応するんだろうな。少しばかり興味はあるけど、実現しないことだから別にいいや。

 森を抜けたところに飛竜が待っていて、イーディスとともにその背に乗る。目指すは北の洞窟だ。

 

「イーディスは洞窟の中も知ってるんだよな?」

 

「知らないわよ。あたしたち整合騎士は飛竜で山脈を超えるもの」

 

「洞窟はダークテリトリーと行き来できる場所なんだろ? それでいいのかよ」

 

「いいのよ。洞窟にはそれぞれ守護獣がいるから」

 

「守護獣?」

 

「そう。人界を守るための存在。たいていは竜だと聞いているわ」

 

「へ~」

 

 そんなやつがいるなら警護っていらないんじゃねって思ったけど、ダークテリトリーにも飛竜がいるならやっぱり空の警戒は必要か。守護獣ってことは長生きなんだろうし、案外この飛竜たちの祖先なのかもしれないな。実際はどうか知らないけど、そういうのを考えるのも面白いな。

 

「霧舞あそこで降りて」

 

 イーディスの指示に従って飛竜が高度を下げていく。飛行機と似た感覚だな。違いは車輪で滑走路を滑りながら速度を落とすっていう行程がないことか。

 

「あたしたちは中に行ってくるから、ここで休憩して待ってて。お水も飲んでいいから」

 

 指示を終えたイーディスと洞窟の中へと入っていく。当たり前のことだが、洞窟の中はだんだんと光が届かなくなっていくから暗い。

 

「灯りってないの?」

 

「神聖術で出せるわよ」

 

「よろしく」

 

「はいはい」

 

 神聖術によって灯された光を頼りに奥へと進んでいく。飛竜の背に乗っていた時から見えていた巨大な山脈の洞窟。あれだけの高さがあるのだから、それだけの土台の広さがある。反対側まで抜けるのにはそれなりに時間を要するだろう。数時間くらいは。

 

「戻る時はその川を頼りにしたら間違えなさそうだな」

 

「ダークテリトリー側に川が流れてなかったらね」

 

「……それもそうか。じゃあ何か印でも残しながら歩くか」

 

「壁とかに?」

 

「それが妥当だろう」

 

「それはいい考えだと思うけど、何で印をつけるつもり? 手ぶらじゃない」

 

「イーディスの剣」

 

「怒るわよ」

 

 愛用してる剣をそんなふうに扱われるのは嫌らしい。気持ちは分からないでもないな。長く使ってるものに愛着が湧く気持ちは俺にもある。バーサークヒーラーさんもSAO時代から武器の愛着ぶりがそこそこ知られてた。

 そんなわけで、イーディスが反対するのなら剣で印を残すわけにもいかない。足元を見下ろして適当な石を見繕い、それで壁に印を残す。灯りがないと分からないけど、石で削った跡が残せてるのならひとまずよしとしよう。

 

「そいやその川の水って飲めるのかな?」

 

「飲めるんじゃない? 結構きれいな水だし。試しに飲んでみたら?」

 

「それじゃあお言葉に甘えて」

 

 奥へと進むのをやめて川へと近寄る。イーディスに光を持ってきてもらって、清流を覗き込んだ。魚はいないんだな。暗いし、洞窟の外の川ならいそうだ。

 川へと手を伸ばし、ふと斜め後ろに立っているイーディスへと振り返る。きょとんとした顔で小首を傾げてきた。

 

「どうしたの?」

 

「俺が手を伸ばしてる間に蹴落としたりしない?」

 

「お望みならやってあげる」

 

「結構です」

 

 今日一番の爽やかな笑顔でなんてことを言ってくるのだこの子は。

 

「冷た!? めっちゃくちゃ冷てえ!」

 

「ちょっと大げさじゃない?」

 

「そう言うなら。おら!」

 

「きゃっ!? 冷た!! 何するのよカイル! 濡れたじゃん!」

 

「な? 冷たいだろ?」

 

「だからってかけなくてもいいでしょうが!」

 

「ぐへっ」

 

 胸元を抑えたイーディスに蹴飛ばされて冷たい川に落とされる。川の勢いは早くないけど足がつかない。そして川ご自慢の冷たさもあり、慌てて岸へと上がった。少し流されたけどすぐ合流できる距離だ。

 

「なにするんだバカ! 寒さで死ぬかと思ったぞ!?」

 

「……うん、ごめん」

 

 わずか数秒の間に体温を下げられた。ガチガチ震えながら抗議すると、さすがに反省したらしくしおらしくなって謝られた。この辺は素直なんだな。いや、いつも素直だったわ。

 調子が狂わされるなぁと思っていると、イーディスが神聖術で服を乾かしてくれた。下がっていた体温も戻され、便利だなと思う反面なんだか釈然としない気持ちになる。向こうではこんな簡単にいかないし、そっちに慣れてるからなんだろうな。神聖術という便利なものに寂しさも感じるよ。

 

「ありがとうイーディス」

 

「あたしが落としちゃったし。これくらいは当然よ」

 

「元を辿れば俺が水をかけたからだけどな!」

 

「それもそうね!」

 

「ごめんなさい。ちなみに水は美味しかったです」

 

「そうなの?」

 

 しかめっ面を一瞬でけろっとやめ、イーディスがちらっと川の方に目を向ける。俺は持ってないけど、イーディスは水筒を持ってるわけだし、ここで水をくんでもいいと思う。

 

「この水を入れるにしても、今あるのを捨てるのは勿体無いのよね~」

 

「飲めば?」

 

「今は大丈夫だし、帰りに入れることにする」

 

 ちょっとした戯れもそこそこに。奥へと進むのを再開する。中はダンジョンのようになってるのかと思いきや、単純な一本道が続いている。冒険って感じが薄れるのが残念だ。これなら迷子にもならないけどな。

 奥に進んでいくと、段々と気温も下がってくる。先を歩いてるイーディスも露出してる肩を軽く擦りながら歩いてる。

 

「川の水があそこまで冷たい理由は分かるか?」

 

「いきなり何の話?」

 

「いいからいいから。黙って歩くのも面白くないだろ」

 

「そうだけど……。北の川だから?」

 

「どんな思考だよ……。温度ってのは必ずそれに理由が伴う。今は水の話だし、液体に焦点を絞るけど、例えばお湯なら水を温めることでそうなる」

 

「お風呂とかそうだね」

 

「うん。水は温めてくれるそれに温度が近づくんだ。その逆もあり得る」

 

「つまり、他のところよりも冷たいここの水は、この水を冷やすものがあるってことか」

 

「そう。水を冷やす存在はただ一つ」

 

「それがこの氷ってわけね」

 

 イーディスと進んだ先には、急に明るい空間が広がっていた。その空間は横にも縦にも広く、そしてそのどこもが氷で覆われている。ここに来るまでの途中でもちらほらと氷が見えていたし、イーディスも察してはいたんだろう。大した反応もしていない。

 少なくともこの空間については。

 

「あれ……どういうこと?」

 

 イーディスが見開いた目の視線の先には、大きな骨が転がっていた。あまりバラバラにはなっていない。ほぼ全身の骨がその場に残っていて、どういう経緯でそうなったのかも察しがつく。

 

「イーディスが言ってた守護獣の骨か。骨格的にここにいたのは竜だな」

 

「なんで……? 誰がいったいこんな事を! まさかダークテリトリーの誰か? でも、それなら侵入されてるはず……。どこかに潜んでるの……?」

 

「本当にそう思うか? 俺がもしダークテリトリー側で、ここにいた竜を倒したのなら、軍を用意してここから侵攻するけどな」

 

「じゃあいったい誰がこんなことをしたって言うのよ! こんなことをできる人なんて──」

 

「お前たち騎士以外にできるのか?」

 

「っ!? な、にを……」

 

 残酷なことかもしれないが、一番考えられる可能性としてはそれだけだ。ダークテリトリーの人間は整合騎士とまともに張り合えない。それならここにいた竜相手にも似たような結果になるはず。

 しかし現実として竜は死んでいる。生きてるはずの竜が骨だけ。殺されたとしか考えられない。

 

「騎士以外に守護獣を倒せる強さを持ったやつはいないはずだ」

 

「けど理由なんてないじゃない! 共に人界を守る存在なのよ!?」

 

「邪魔だったんだろ。最高司祭殿にとっては」

 

「ぇ……じゃまって……」

 

「自分の手足とできない強大な存在は脅威だ。いつ自分に牙を向くかもわからない。そんなやつを放置するわけにもいかない。そんなとこか」

 

「信じられないわよ……。そんなの憶測でしかない……」

 

「信じろなんて言わない。ただ覚えとけ。ここにある結果とこの世に絶対なんてものがないということを」

 

 唇を噛み締めるイーディスから目を逸らし、改めて周囲を見渡す。争ったにしてはその形跡があまり残っていない。時の経過はだいぶ経っているようだし、数十年は前に殺されてそうだ。骨に残ってる傷跡は切り傷ばかり。神聖術を使わずに剣だけで倒したのか。そんなことができるやつは限られてくる。

 少なくともイーディスではない。イーディスが持ってる剣とこの傷の大きさが合わない。覚えていない、なんてことではなさそうだ。倒した人はこの事を忘れてそうだけど。

 

「なんだこの剣」

 

 地面に突き刺さっている水色の剣。床や壁を庇っている氷と同じ色だな。装飾っぽいのがあるけど、これは薔薇だろうか。花にはそこまで詳しくないから自信はない。

 

「重っ!? 何だこの剣!?」

 

「それ、おそらく神器よ」

 

「神器?」

 

 剣を引っこ抜こうと格闘していると、横からイーディスが声をかけてきた。心中の整理はもういいのかな。単に今は考えないようにしてるだけかの2択。予想はしない。

 

「神器っていうのは優先度が高い武器のことよ。あたしたち整合騎士が扱う武器は全て神器。最高司祭から渡されるの」

 

「こいつは回収されてない神器ってわけか。竜を倒しておきながらこれは放置したんだな」

 

「それもそうね。どうするの? 欲しいならあたしが運ぶわよ。帰ったら扱えるようになるまで鍛えてあげてもいいし」

 

「急に優しいな。大丈夫か? 風邪か?」

 

「失礼ね! 自分の従者が何も持ってないのもどうかと思っただけよ!」

 

 気を使ったらこれなんだからとぶつくさ文句を言うイーディスに思わず苦笑する。面倒見がいい性格してるんだな。本当に面白いやつだよ。

 

「回収はいいよ」

 

「なんで?」

 

「青薔薇がある剣とか俺の個性に合わない」

 

「なに贅沢なこと言ってんのかしらこのバカは」

 

「こういうのがあるって確認取れたから十分なんだよ。帰ろうぜ。騎士長に話してみたいこともできたし」

 

「嫌な予感しかしないわね……」

 

 

 

 

 

 

「いや回収してこいよそこは」

 

「あれ? やっぱり回収すべきだったんですか?」

 

「神器ってのは数もそう多いものじゃねぇからな。新たな騎士が召喚された時に選択肢を広げてやれるだろ。決めるのは最高司祭殿だけどよ」

 

「なるほど~。でもま、これまで誰もが放置してたなら放置でもいいんじゃないですかね。まだ人界にあるだけマシですよ」

 

「あん?」

 

 騎士長が怪訝そうな表情をして、近くにいるイーディスはため息をついていた。大方自分の従者が自由奔放に動こうとしてるのが疲れるんだろう。俺も自覚はしてるよ。やめる気はない。

 

「北の洞窟に神器があった。西と南にもあるかもしれません。まぁそこは見てないから知らないですし、まだ優先度は低いです。ただ、人界にそういうものがあるのなら、人界の何倍も広大な土地であるダークテリトリーにないわけがない」

 

「その理論で行くとそうだな。で、敵に取られるくらいなら先に見つけ出して回収すると」

 

「なんで考えてること読むんですかねこの人は」

 

「お前さんが分かりやすいからだ。しかしそれは俺の一任でもどうだかな。元老長が口出ししてくるぞ」

 

「危険度の排除。最高司祭のため。その辺りを上手いこと言えばいいんじゃないっすかね」

 

「ハハハ! こいつ完全にオレに押し付ける気だな!」

 

「ごめん騎士長。あとで言っとくから……」

 

「折檻もほどほどにな」

 

「せっ……!? そ、そんなことしません! 1回もしてません!」

 

 あ、そういえば騎士長はまだ俺がイーディスの趣味でペットにされてるって認識なんだっけ。だからイーディスは俺が騎士長と話をするのを嫌そうにしてたのか。合点がいったわ。そして騎士長も人が悪い。イーディスを揶揄うって理由だけで誤解したままってことにしてるんだから。この人とならいい酒が飲めそうだ。

 

「まぁなんだ。神器があるとしてもダークテリトリーは広いぞ。場所を絞って探さねぇと時間の無駄だ。見当はつけてんのか?」

 

「遙か昔に大戦があったとイーディスから聞きました。聞けばシェータさんもその跡地から黒百合の花を持ち帰り、それを神器にしてもらったそうです。その時にダークテリトリーには遺跡があったのを確認したとも聞いてます。遺跡なら可能性は高いでしょう。……って、何を驚いてるんですか?」

 

 なんか騎士長が話の途中からぽかんとしてる。イーディスの方を見ると、やっぱりイーディスも何やら驚いてる様子。これぐらいの推論は誰でも立てられると思うんだけどな。

 

「いや……すまねぇ。場所を絞れてるならコッソリ行けって言えるし、まぁなんとかしてやるんだが……」

 

「カイル……あなたシェータと話したの?」

 

「話したけど? いつ斬られるか分からない謎の緊張感を味わったな~。え、もしかして他の女と喋るなとか言う?」

 

「言わないけど。そうじゃなくて」

 

「シェータの異名が"無音"でな。理由は単にあいつが全然と会話をしねぇからだ。シェータの声を聞いたことがあるやつも少数派なんだわ」

 

「えぇ……。話しかけたら話返してくれる人ですよあの人」

 

 コミュニケーションって組織で大事なことだと思うんだけどな。ここは最高司祭の独裁だし、無くても成立するのは分かってるけども。意思はあるんだし他人との関わりは持ったらいいじゃないですか。

 

「っと話がそれたな。ダークテリトリー行きは許可してやるが、5日以内に帰ってこい」

 

「だってよイーディス。よろしくな!」

 

「なんだイーディスお前も行くのか」

 

「カイルから目を離すわけにはいかないからね……。っていうか我儘はもう無しって話どこに行ったのよ!」

 

「苦労してるなお前さん……」

 

 




 コソコソ裏話。
 イーディスちゃん水筒にて間接キスして暴れました。
 
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