イーディス(主人)と臨むアンダーワールド   作:粗茶Returnees

7 / 29
 


7話 遺跡探索Ⅰ

 

 期限は決められた。正直に言うと、余裕がある期限だ。飛竜を使って移動するわけだし、往復で2日かけても探索に3日も使える。シェータさんから聞いたポイントは古戦場から多少離れてるらしいけど、遺跡自体が荒野にあるから分かりやすいとのこと。興味もなかったし、ぼんやりとした記憶でしかないらしいんだけど、その遺跡はわりと大きめだったとか。

 それでも丸3日も探索に使えるなら余裕だ。それに俺は探索が得意な方だ。嗅覚があるって言えばいいだろうか。直感で進んでると最短で最奥まで行ける確率が高い。さすがに絶対じゃないけど、間違えたとしてお宝発見ってなる。

 

「今回もよろしくなイーディス」

 

「もう一度確認するけど、これはカイルの神器を探しに行くため。今回しか機会はないだろうけど、成功しても失敗してもこれが最後。わがままもこれが最後だからね?」

 

「もちろんだ。大丈夫。見つかるから」

 

「なんで言い切れるのやら」

 

「失敗しても何も痛手にはならない。それなら成功の可能性だけ信じてるほうが気が楽だろ」

 

「気持ちはわかるけど。まぁいいわ。行きましょ」

 

 イーディスの飛竜。霧舞って言うらしいんだけど、今回もまたお世話になります。前回と同様にイーディスが手綱を握って、俺はイーディスに掴まる。前回との違いはイーディスが鎧を着てることと、食料やら水をしっかり用意してることだな。

 この前は間接キスをしたことでイーディスに殺されかけたし、今回はその教訓を活かして俺用の水筒も準備されてる。

 

「霧舞お願いね」

 

 イーディスの言葉にうなり声を返した霧舞は、助走をつけて空へと羽ばたいていく。感覚がつくづく飛行機みたいだし、それだけ飛竜の羽ばたく力が強いんだろう。

 

「今更だけどカイルは鎧着ないのね。武器庫にあるやつ勝手に拝借してもいいのに」

 

「鎧とか着ない派だからな~。防弾チョッキとかならまだしも、そんなカチカチなの趣味じゃねぇんだわ」

 

「ぼーだんちょっき? なにそれ」

 

「イーディスに分かるように言うならば、一定の硬さと衝撃吸収を兼ね備えてる上着ってとこかな」

 

「もしかしてあたし今バカにされてる? されてるわよね」

 

「してねぇよ。剣と神聖術で戦う奴らには縁もない装備だし、知らないのは当たり前」

 

「ふーん? で、なんでカイルはそんな事知ってるわけ? いい加減あなたのこと教えてくれないかしら?」

 

 背を預けるようにこちらへと倒れてくる。後ろにいる俺が受け止める形になるのは当たり前で、ルビィの瞳が見上げてくる。

 

「俺に興味でもあるのかな?」

 

「……そうね。気になることが多いもの」

 

 ……揶揄うつもりで聞いたのに思わぬカウンターが飛んできた。俺が言葉に詰まっていると、イーディスがくすりと微笑んだ。

 

「いつものお返しができたわね」

 

「これは一本取られたよ」

 

「でも聞きたいのは本当よ? 自分の従者のことは把握しときたい」

 

「まだ話す時じゃないと思うし、信じられない話だぞ」

 

「信じるよ。カイルのこと」

 

「っ……」

 

 なんてやりにくい主人なんだ。揶揄いなんて一切ない。心からの純粋な言葉だって雰囲気で分かるし、目も真剣そのものだ。

 わけがわからない。どうしてそうやって簡単に信じられるというのか。出会ってから半月もまだ経っていないのに。自分で言うのもなんだが、謎だらけの不審人物だぞ。俺ならそう簡単に信じられないね。

 まぁ、そういうのがイーディスの良さってやつなのかもしれないが。

 

「あたしに聞かれたら困ること? 誰だったらカイルは話すの?」

 

「誰が相手でも話せないかな……。少なくとも今は。話せる時がきたら必ずイーディスに最初に話すよ。それで勘弁してくれないか?」

 

「はぁ。わがままばっかり。それ、約束だからね? 破らないでよ」

 

「ありがとうイーディス」

 

 イーディスが生真面目な人じゃなくて助かった。これくらいなら許してあげるって範囲が他よりは広いんだろう。そういうのに甘えるのはポリシーに反するけど、話すことではないのも事実。

 俺がどこから来たのか。何者なのか。それを教えたらイーディスは世界の仕組みを知ることになる。

 どれだけ必死に戦おうと、向こうの人間が軽く操作するだけでここの全てが泡となって消えるということを。比喩ですらなく、完全な無になる。文字通りアンダーワールドが消える。生けるすべての命が他人の手に握られている。そんな事を知ったら、イーディスはどうなるんだろうな。

 

「えいっ!」

 

「むゅっ。にゃにすんだ」

 

「カイルが柄にもなく暗い顔になってたから。らしくないわよ」

 

「それは悪かったな。……人界を抜ける前に一度水場のあるところに行こう。そこで霧舞に休憩してもらって、それから遺跡まで一気に飛んでもらおう」

 

「うん。そのつもり」

 

「ならよかった。……ちょっと寝るかな」

 

「へ? わっ、ちょっと! ……もう……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 飛竜の背で寝るなんて、ちょっとした拍子に落ちたっておかしくないっていうのに。なんでカイルはそんなことしちゃうかな。

 背中に感じる重み。左手で手綱を握りながら、右手は後ろに回してカイルが落ちないように抑えてる。カイルは寝るって決めたらすぐに寝られちゃうみたいで、耳元からカイルの寝息が聞こえてくる。ちょっとくすぐったいし、変に恥ずかしい。カイルが起きたら何かお返ししてもらおうかな。

 

「ほんと、変なやつよね」

 

 霧舞に話しかけてるのか。それとも独り言なのか。自分でもいまいち分からない声量で呟いた。

 カイルに素性を話してって言ったとき、困り顔しながらへにゃって笑ってた。別に先でもいいって許してあげたら安心してたけど、その後に暗い顔をしてた。それはたぶん話す内容とかを考えてのこと。

 つまり、カイルにとって話したくないこと。もしくは、カイルがあたしに話すことが、何かよくないことに繋がるということ。正直カイルのことはまだ全然分からない。掴みどころがないように意図的に立ち回ってる。それ自体が糸口になったりするのかしら。

 

「休憩時間は霧舞に任せるね」

 

 人界とダークテリトリーの境界。その近くにある湖で休憩してる。あたしがよく担当する東側の区域内にある湖で、知ってたからこそここを休憩場所にしようって決めてた。

 霧舞が返事をしてくれて、湖の水をごくごくと飲み始める。必要ならエサも食べさせようと思ってたんだけど、今はまだいいみたい。

 

 休憩中にカイルも起きると思ってたのに。なんか睡眠が長いわね。仮眠程度だと思ってたのに、これ完全に寝てるんじゃないかしら。

 

「起きてほしいんだけどなー」

 

 草原ですやすや寝てるカイルの頬をぷにぷにつつきながら話しかけてみる。されるがままになって、反応が返ってこないのは面白くない。続けざまにつつきながらじっと観察してみる。

 あたしの髪色に似てるけど、あたしよりは色素が薄い髪。そこそこ整ってる顔は、寝ている間だとちょっと可愛い……かな。起きてる時の印象が邪魔ね。目蓋を閉じてるから今は見えないけど、黒曜に近い紫の暗い瞳。でもきらきらしてるように見えるのは、カイルの性格のせいかしらね。

 

「もうー、起きないと……」

 

 ちょっとイタズラ心が働いた。覗き込むようにカイルへと顔を近づけていって、鼻先が触れ合うくらい近くなる。開けば変なことばっかり言う唇は今何も語らない。その唇を塞いじゃおうか。

 

「ってなしなし! これむしろあたしが罰受けてるみたいじゃない!」

 

「なんだしないのか」

 

「ひゃああ!? い、いい、い、いつから!? いつから起きてたの!?」

 

「お前が頬をつつくから起きたんだけど。人の顔をまじまじ見つめてきたり。寝込みを襲おうとしたり」

 

「してないわよ! 最後のはしてない!!」

 

「いやあれはどう考えても──」

 

「うるさいわね!」

 

「がはっ! こいつめ……」

 

 神聖術で黙らせてカイルに背を向ける。あたしが騒いでたから、霧舞がこっちに視線を向けてる。休憩もそろそろ良さそうだし、このまま遺跡へと向かうことにしよう。霧舞もこっちに近づいてくれてる。

 

 あぁ……ほんっとなんであんな事しちゃってたのよあたし。それもこれも四旋剣の子たちの女子会に巻き込まれたせいね。間違いないわ。じゃなかったらこんな事しないもの。そういうわけなんだから、さっさとこの熱くなった顔も冷めてくれないかしらね! 心臓もうるさいのよ静かになりなさい! 

 

「カリカリするなって。気楽に行こうぜ」

 

「誰のせいだと思ってるのよ!」

 

「いや自滅でしょ」

 

「カイルが寝なかったらよかったのよ!」

 

「あばばばばば! くっ……これで黙らせるなよ!?」

 

 いやだってこれすごい便利だし。気軽にできちゃうんだから仕方ないと思うのよね。何よりもカイルが余計なことを言わなかったらいいと思う。あたし結構カイルのわがまま許してるわけだし。

 

 

 道中でそんな出来事もあったけど、意識を切り替えて今は目の前のものとこれからに向けないとね。

 リソースの乏しい広大な大地が広がる世界。ダークテリトリー。空は青空が浮かぶことなんてなくて、血のような赤い空と夜が交互に訪れるだけ。

 今いる場所は、遙か昔にあったという大戦の跡地からそこそこ離れた場所。地面が抉れまくってる場所は、かつての大戦のことをそのまま物語っている。正直に言うと、昔の戦いのほうが今よりもえげつないと思うのよね。

 

「遺跡、か」

 

「? カイルが来たがってた場所でしょ?」

 

「あーいや。そうじゃなくてな。遺跡ってさ、昔あったものが形だけ残ってるわけじゃん? そこから当時のことを知ったりもできるし、結構好きなんだよ」

 

「そんなの考えたこともなかった。何かわかることあるの?」

 

 辺りをぐるっと一周見渡す。遺跡としてはたぶんでかい方だと思う。今いる場所は広間っぽいところで、正面には一番でかい建物。広間を四角で囲うようにいろいろ建ってるけど、建物としては目の前のこれと後方にある建物くらい。左右は石柱がずっと続いてるだけ。

 

「これだけの広さなら、それだけ栄えてたことを意味する。左右の石柱も、その上を見たら石が乗ってるものもあるし、ここと向こうをつなぐ屋根付きの廊下なんだろ。この広間も石畳だ。真ん中に噴水もあるし、なかなかに綺羅びやかな場所だったはずだ」

 

「へ~。ここはなんのための広間だったの?」

 

「見ただけじゃなんとも。手がかりはこの建物か、反対の向こう側だろうな。向こうの建物の方が小さいし、おそらくこっち側が重要な建物のはずだ。権力者ってのはデカイのを建てたがる。権威の大きさになるからな」

 

「さらっと皮肉が入ってるわね」

 

「権力者とか嫌いだからな。さてと、それよか湧き水がないか探そう。探索するにしても水は必要だ。食料は備えがあるけど、水は水筒の分だけじゃ足りなくなる可能性が高い」

 

「先に言っとくけど。手分けとかしないわよ」

 

「効率悪いのに!? もしかして怖いのかイーディス」

 

「そうね。カイルを一人にさせるのが怖いわね」

 

 信用ないんだなってボヤいてるけど、なんで信用があると思ってるのかしらね。

 

 




 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。