次の日
俺は修也、勝、龍牙、小倉とゲレンデにいた。
「どうだ! 俺の方が速いだろ!」
「はっ! 舐めてんじゃねぇ!」
「負けるかぁぁ!」
「....そういえば、中野さん相手いたの?」
修也、勝、龍牙が滑るスピードを競争している時、不意に小倉がそう聞いてきた。
「今のところいないらしい」
「へぇ、良かったね。このまま行けば、私の案が使えるね」
「あぁ。....ありがとな小倉」
「良いよ良いよ。龍牙の時、すごく助けてもらったから。それのお返しだよ」
小倉は笑顔でそう言ってきた。
「それにしても驚いたよ。今まで女子の告白全部断ってきた胡蝶君に好きな人ができるなんて。
どうしてそんなに好きになったの?」
「そうだな....可愛いし、優しいし、料理は上手いし、気遣いもできるし、家族思いだし、
それに....」
「それに?」
「....真剣に、俺のことを怒ってくれるとこだな」
「....へぇ」
小倉は少し驚いた表情でそう言った。
「何だか、憑き物が取れたような表情だね」
「そうか?」
「うん。....上手く行ったらいいね」
「あぁ....」
そう話していると、急に携帯が鳴った。
「悪い」
俺は小倉に一言謝って電話を出た。
「もしもし」
『はぁ、はぁ....一海、今何処にいる?』
「上杉か。俺は今上級者コースの所にいるぞ。てかお前、動いて大丈夫なのかよ」
上杉は昨日、キャンプファイヤーの道具を置いている小屋に一花と閉じ込められて、
スプリンクラーを大量に浴びて今日の朝、顔色が悪そうだった。
『あぁ....それよりも、そこに五月はいるか?』
「五月?」
俺は周囲を見渡したが、五月の姿はなかった。
「俺の周りには見当たらないが....五月がどうかしたのか?」
『実は、五月が遭難したかもしれないんだ』
「遭難って....」
『俺や一花達も探してるんだが、何処にもいないんだよ』
「....とにかく話しはわかった。俺の方でも探してみる」
『すまん....頼んだぞ』
そう言って電話は切れた。
「電話、何だったの?」
携帯をポケットに直すと小倉がそう聞いてきた。
「何か、五月が遭難したらしい」
「五月って、中野さんの妹さん?」
「どの中野だよ....」
「えっと....三玖さん」
「そうだ。とりあえず俺はこの近くにいないか探して来るから、龍牙達に伝えて
おいてくれないか?」
「わかったよ。それと、龍牙が戻ってきたら私達も探してみるよ」
「そうか....ありがとな」
俺はそう言ってゲレンデを滑り始めた。
〜〜〜〜
「ここにはいないか....」
三回ほど滑り辺りを見渡したが、五月の姿は何処にもなかった。
「ここじゃないとすると、他のコースかロッジの中だな....」
すると、急に携帯が鳴った。電話をかけてきたのは勝だった。
『あ、カシラ! 今俺達、中級者コースにいるんだが中野さんは見当たらなかったぜ』
「そうか」
『それと、小倉さんも初級者コースを見てくれたらしいんだがいなかったって
さっき連絡が来た』
「わかった」
俺がそう言うと電話は切れた。
「(となると、探してないのはロッジの中だけか)」
そう思い、俺はロッジの方に向かって走り出した。
〜〜〜〜
「ここにもいないのか....」
俺はロッジの中を見回ったが、五月の姿は何処にもなかった。
「胡蝶君!」
すると、前から二乃が走ってきた。
「二乃....五月は見つかったか?」
「....まだ見つかってないわ。居そうな所は全部探したんだけど....」
「そうか....上杉の方は」
「わからないわ」
「なら、一度何処かで集まるぞ。情報を共有しておいた方がいい」
そう言って、俺は上杉達に連絡した。そして十分後、上杉達四人はロッジに集まった。
「五月は?」
「はぁ....はぁ....俺達が探した所にはいなかった」
「コッチも隅から隅まで探したんですけど見つかりませんでした....」
上杉と四葉は気落ちしたようにそう言った。
「そうなってくると、後探していないのは....」
俺は机にスキー場のマップを広げた。すると、四葉がある場所を指差した。
「そういえば、ここはまだ調べてません」
「ここって....」
「確か、立ち入り禁止の場所じゃ....」
四葉が指を差した場所は整備をされていない危険な場所だった。
「流石にそこにいたらどうしようもないな....レスキューの部隊の人に頼みに行くか」
「そうね。それが一番だわ」
「じゃあ私は先生に言ってきます!」
「ちょ、ちょっと待って!」
すると、突然一花が俺達を止めた。
「もう少しみんなで探してみようよ」
「何でよ。胡蝶君が言った通り、最悪レスキューが必要になるかもしれないのよ」
「えっと....五月ちゃんもあまり大事にしたくないんじゃないかなぁと思って」
一花は、どこか歯切れが悪そうにそう言った。
「....大事って、呆れた。五月の命がかかってんのよ! 気楽にしていられないわ!」
二乃は一花の胸ぐらを掴んでそう言った。
「....ごめんね」
一花は申し訳なさそうに二乃に謝った。
「....もういいわ。私が先生を呼んで....」
「待ってくれ二乃」
二乃が歩き出そうとした時、今度は上杉が二乃を止めた。
「....何よ」
「俺に心当たりがある。だから少しだけ待っていてくれ」
「上杉....」
「頼む」
上杉は真剣な表情で俺達に頭を下げた。
「....わかったわ」
「二乃....」
「ただし十分だけよ。十分を超えたらすぐに先生に言いに行くわ」
「それだけあれば十分だ。悪いが一花、付いてきてくれ」
上杉はそう言うと、一花を連れて何処かに歩いて行った。
〜〜〜〜
「はぁ....」
「(後味が悪いな....)」
あの後、上杉は五月を発見した。だが、無茶をして五月を探したため風邪が悪化し、五月を
見つけた瞬間に倒れたらしい。その後、俺は五月から電話をもらって上杉をロッジまで運んだ。
そして、上杉は現在部屋の中で眠りについていた。そして、俺はキャンプファイヤーの炎を
眺めていた。
「(こんな中で誘うのは、アイツに少し気が引けるな....)」
あの時、無理にでも上杉を止めていればアイツは倒れる事は無かったかもしれない。
そう考えると、どうにも俺は二乃を誘おうとする事が出来なかった。
すると....
「....胡蝶君?」
突然後ろから二乃の声が聞こえてきた。
「二乃....」
「こんな所で何してるの? 誰かをダンスに誘うんじゃ....」
「あぁ....上杉の事があったからやめた」
「....良かったの、それで?」
二乃は俺の隣に座り、不思議そうに聞いてきた。
「親友がぶっ倒れてんのに俺一人で楽しむのは流石に気が引ける」
「....そっか」
そう話しているうちに、キャンプファイヤーはフィナーレを迎えようとしていた。
「....そろそろロッジの方に戻りましょうか」
「....そうだな」
そう言って二乃は階段を下りようとした瞬間、足を踏み外した。
「っ、二乃!」
俺は咄嗟に腕を伸ばして二乃の腕を手を掴んだ。
「あ、ありがとう....」
「....気にするな。それよりも、足とか捻ってないか?」
「え、えぇ。大丈夫よ」
「そうか....なら良かった」
そう話していた時に、ちょうど花火が打ち上がった。
「....綺麗ね」
「....あぁ、そうだな」
その時、俺と二乃の手は固く握られていた。
〜〜〜〜
「つぅわけで、悪いな。せっかく一緒に色々考えてくれたのに....」
『良いよ良いよ。気にしないで』
キャンプファイヤーが終わり、俺は駐車場から小倉に電話していた。
『また何かあったら遠慮なく言って。私も精一杯協力するから』
「あぁ。ありがとな小倉」
俺は一言礼を言って電話を切った。そして、俺はロッジの方に戻ろうとした時、ふと
とある車が目に止まった。その車は何処にでもありそうな白い軽自動車だった。
そして次の瞬間、あの時の記憶がフラッシュバックした。
「っ....!」
俺は急な頭痛で地面に膝をついた。そして、次に俺が見たのは父さんと母さんに
抱きしめられている子供の頃の俺の姿だった。そして、すぐ近くには白色の軽自動車がいた。
その車のボディの下の部分には赤い液体が付いており、車は逃げるように走っていった。
俺は車に手を伸ばしたが、車の姿は消え、俺は元の駐車場にいた。
「今のは....俺の記憶なのか....?」
俺は車に向かって伸ばした手を見てそう呟いた。