そして明けましておめでとうございます。
……結局、寝床まで付いてきたキュウビだったが、どうやら疲れたのか神器を捕食している自分の隣でぐっすりと眠ってしまった。
雪が積もり、人であれば思わず身震いするような寒さと、風が吹く最中、エリアから離れた寺の中で静かに、そして小さく規則正しく上下しながら眠るキュウビは、幾ら自分が隣で神器をバリバリ、メキメキと音を立てて捕食しようとも起きる気配を一向に見せない。
呑気な奴だと呆れつつも口を変形させ、ショートブレード型の神器を口に放り込み、内側に作り出した牙で噛み砕く。
やがて原型がなくなった神器を取り込んだのを確認し、次の神器へと手を伸ばしながらこれからの事について考えを巡らせる。
(恐らくだけど、リンドウさんからクレイドルと極東支部には連絡が入った筈……問題はその内容だよな)
自分の発見は確定として、キュウビの追跡情報はどこまでを、どう解釈して話すのだろうか。
キュウビがこちらと敵対する様子を見せていなかった所は直接は目撃されていないとは言えど、ドローンのような簡易的な移動する監視カメラのようなものがあっても可笑しくない。
そうなると、自分とキュウビがコミュニケーションを取っているような光景もみられた可能性はあるし、更にはその後の逃走の様子も見られているかもしれない。
端から見ればレトロオラクル細胞を持ったキュウビとハンニバル神速種が共に行動を始めたと思われかねない状態だった訳だ。
端的に状況を説明したとしても自分が狙われる確率が上がるのは間違いない。
この寝床に入る所を見られたかもしれないし、なんなら今現在、こうやって神器を捕食しているところを見ているかもしれない。
まず寝床は別の箇所に移すのは確定事項。
移動するのはリスクが高いが、このまま此処へ居た場合の危険度の方が高い。
それにほぼ欠損無しの状態の神器を10本近く捕食できたのは大きな収穫だ……最早、アラガミを食うよりも神器を捕食している回数の方が多い気がするが、総合的に見ればどちらの方の量が多いのだろうか。
まぁそれは別にどうでもいい。
愚者の空母にするか?……いや、戻らないと思わせて嘆きの平原、もしくは贖罪の街あたりか。
一先ずはその三つを候補にした上でだ。
先程は戻ってから捕食すればいいと思ってたが、それをしてしまうと色々と危険だと気づいてしまった。
まず、自分はハンニバル神速種でリンドウさんと因縁がある存在だと思われる。
その状態で全属性を扱えて、他のアラガミの感応能力やらを扱えるというのはマークされていても可笑しくない、というかされている筈。
そんな自分がレトロオラクル細胞を取り込んだらどうなるか……うん、間違いなく殺害&研究対象だよなぁ。
そうなると確実にリンドウさん達に追い回されるわけだ、クレイドル側としても、レトロオラクル細胞がこちらの体内にあることが分かれば、極東支部に合流して合同で捜索活動を始めかねない。
となると、コイツを置いて今すぐ離れる方が良いか……。
一応、辺りを見渡して見るが、先程言ったドローンのようなものは確認は出来ない。
そも視界が雪と寺や周辺の朽ちた木材とかで結構遮られているのもあるが、それでもアラガミの視力的には掌サイズであればどうにか捉えられる筈。
見当たらないということは、そういった類いのものは無いのだろうか?それとも既に大まかな場所を絞れた為に察せられないようにと引かせたか。
どちらにせよ、コイツが起きていない内に行動をしなければならないが……そもそもなんでコイツは自分の後を着けてきた?
作品内でキュウビについてはレトロオラクル細胞を持っている特殊なアラガミという点だけしか言及されていない筈。
自分がプレイしていないGOD EATER3で新たな設定が追加されていた場合は分からないが、現時点ではそんな設定はなかった。
……確かキュウビのレトロオラクル細胞は混ざり気がない純粋なオラクル細胞。
それに対して自分のオラクル細胞は神器やら感応種やら色んなものが混ざりあっている(筈の)モノだから食指が沸かず、敵対する気もなかった……とかだろうか。
作中でも自動で迎撃できるシェルターみたいなのが出来たりするかもしれないと言われていたし、そんな細胞なら他のアラガミよりも知能は高かったりする……のか?
…………いや、幾ら考えても分からん。
そも、今まで出会ったアラガミが1体を除いて全てこちらに敵対的だったから、想定外過ぎて困惑している。
なんとなく隣で眠るキュウビへ視線を向けると、変わらずスヤスヤと眠りこけている。
……うんまぁ、ほっといても良いんだが、戦闘力はあのリンドウさん、ソーマさん、アリサ、2主人公4人を相手に善戦するくらいだし、いざと言う時の非常食兼、盾と囮になる。
最悪感応能力で操っても良いし、効かなかったら効かなかったで周りのアラガミをけしかけつつ倒せば良い。
邪魔だと判断すればその時には食えば良い。
そんな考えと言い訳を思い浮かべながらも、厄介事の塊であるコイツを遠ざけることはせず、近くへ置いておこうとする思考になっているのは自分の心が弱いからであろうか。
いくら強くなろうとも、いくら化け物だとしても側に誰かが居たことの安心感を覚えていたからだろうか。
思い出すのは己の回りでやかましく騒ぎたてていた賑やか白いアイツ。強さでも、意志疎通が出来る出来ないしても全く異なる存在を重ね合わせているのは端から見れば随分と女々しいのだろう。
……なんにせよ、戦力的な意味合いでも、食料や自身の糧としても優秀なこのアラガミを側に置いておくことは悪いことではない。そう都合の良い部分だけを切り取って不安を振り払った自分はスヤスヤと眠る隣のアラガミが起きるまで周囲の警戒を強めていたのであった。
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──特異種とキュウビが遭遇、両個体は敵対することなく供に逃走した。
レトロオラクル細胞を持つアラガミ、キュウビの捜索及び討伐作戦に従事していた独立支援部隊『クレイドル』からその一報がペイラー榊の耳へ届けられたのは、リンドウが特異種と遭遇してから小一時間後の話であった。
「そうか……キュウビと特異種が……」
そう言葉を溢すのはペイラー榊。
通話相手にも分かるほどに苦しげな声をしている彼に申し訳なさそうに話すのはクレイドルの一員である雨宮リンドウ。
「ああ、途中まではどうにか追跡は出来てたんだが、相手の方が一枚上手みたいだったみたいでな……すまん、見逃しちまった」
「いや、気にすることはないよ。それよりも……」
思わぬ情報に痛くなった頭を気にしつつも、より難度が高くなったであろうクレイドルの現目標に対しての心配の言葉を投げ掛けるが、それはリンドウによって遮られる。
「大丈夫……とは言えないが、安心してくれ。うちには優秀なメンバーが揃ってるからな、なんとかして見せるさ」
「……分かったよ、また何かあれば教えてくれ」
「了解」とリンドウの一言で通話を終えた榊は、そのまま力なく背もたれにもたれ掛かる。
状況は悪化する一方。
現場からは以前観測された特異種特有の感応波は感じられなかった為に特異種がキュウビを己の支配下に置いたと言うわけではないのは明確。
かといって両者が敵対しているというわけではないのもリンドウの報告からして確実であろう。
ならば何故?大型が小型を従えているという事例は存在していたが、大型同士が敵対することなく、示し会わせたかのように同じ方向へ逃走したというのは前代未聞。
ノヴァのオラクル細胞が何らかの効果を及ぼしたのかとも考えられるが、それならば第二のノヴァが出現した際に同様の光景が観測できているはず。
しかしそれが無かったということは……純粋なオラクル細胞であるレトロオラクル細胞特有の現象なのだろうか……。
そしてもう一つ。
特異種が神機を保有していたということだ。
遺された神機の回収数の大幅な減少に加え、以前から神機兵の神機を捕食していた際に想定されていた事ではあったが、それでも実際に特異種が神機を回収している姿を目撃したことについては衝撃が強かった。
これによって特異種がその目的が不明ではあるが神機を捕食しているということが確定してしまった。
リンドウと対峙した際に2対1という有利な状態であったにも関わらず、戦おうとしなかったのは特異種が未だに神機使いを驚異と見なしているからなのか。それとも確実に因縁の相手を屠るために万端を期そうとしているのか。
特異種に関して分からない事だらけであり、辛うじて判明している事実はどれも悪いことばかり。
マルドゥークとの戦いが終わって一息つけると思った矢先に今回の一件。やはりまだまだ気は抜けないな、とペイラー・榊は椅子に預けていた背を伸ばし、デスクへと向き直るのであった。
後日談的なのをネタバレ覚悟で先に書いてしまっても
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構わんよ
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やめろぉぉぉぉぉぉぉ!
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ネタバレしない程度にお願い
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そんなことより更新頻度を高めるんだっ!