ガトー一派との戦いに向けて開始された戦闘訓練。それに於いてのチーム分けは、俺の好きな人・日向ヒナタにとっては精神的に辛いものだった。なぜならヒナタに対して良い感情を持っていない彼女の従兄、分家の日向ネジが先輩として彼女の指導をするからだ。
俺はというと、サスケ・サクラちゃんや他の先輩方と共にカカシ先生についてフォーメーションの特訓中だ。そうしている間にも、紅先生とマイト・ガイ先生が教えているヒナタたちの班からは柔拳がぶつかり合う音が響いてきた。剛拳とは違う柔拳同士がぶつかり合う特有の音は、ヒナタとネジ先輩のそれは何となく鋭さが違う。
そう。ヒナタはどちらかというと戦闘向けではないタイプなんだ。俺のいるグループは休憩に入ったため、オレ・サスケ・サクラちゃんの3人はヒナタたちがいる場所へと走った。
「あなたは指揮官に向いていない。受験を棄権しろ!」「中忍選抜試験の受験者に貴方は相応しくない」という言葉が飛ぶたびに、ヒナタはビクビクと震えて足が縺れそうになっている。幾度となく鋭い攻撃が叩き込まれるが、ヒナタは浅い呼吸をしながらそれを何とか受け流している。それにはネジ先輩も驚いているようで、あの不敵な表情をヒナタにも向けた。実際、里じゅう国じゅうの血継限界の持ち主がこの学校には集約されている。そういう制度なのだろうけれども、勤勉なヒナタは高い成績で合格しているのもまた事実。アカデミー生になる面接の時点で本当に向いていない場合は落とされていたようだし、ヒナタも選ばれた一人なのだ。
それなのに!
「オイ、ネジ先輩!それ以上はやめろってばよ!!」
先輩にいきなり歯向かったオレに、さすがのサスケも驚いた顔をした。サクラちゃんは少し慌てている。でもネジ先輩の言い方に内心ムカついていた2・3年生の先輩もいたようで、紅先生とマイト・ガイ先生が他の人の指導中だったにも関わらず駆けつけてきて二人を止めた。
ネジ先輩とオレはそれぞれ先生方からきっちりと叱られ、学校に帰ってから行う予定で罰則を課された。ヒナタは医療忍者養成コースにいる先輩から手当てを受け、その様子を彼女はじっと見つめていた。
★★★
2日経って、予定通りオレたちと再不斬&白は波の国を牛耳るガトー一派を倒した。学生チームは結構怪我が多かったけど、医療忍者養成コースの先輩方にとってはまたとない技術を実践するチャンスだったようで頑張っていた。ガトー一派に雇われていた抜け忍の中にも、再不斬たちと同様に木ノ葉へ行く事を望むものが少なからず存在した。木ノ葉から派遣されてきたそういった手続き専門の部隊に彼らは連れられ、里外にある専門の『里外分遣隊基地』へと俺たちよりも一足先に旅立っていった。
木ノ葉隠れは戦力を増強するため、国と里に奉仕し忠誠を誓うと決めた一定基準以上の抜け忍またはフリー出身者で構成される『外人部隊』を持っている。その『外人部隊』は家族を連れてきている者も多くおり、ほとんどが妻子あるいは年老いた両親を守るために志願してくる。傭兵としてガトーのような者のもとで働く者たちにも家族がいるのだ。『外人部隊』にはもう一つの側面もあって、それが他国の忍者を想定して戦闘訓練の相手となる『アグレッサー部隊』である。なお、優秀な者はアカデミーの教官になるらしい。
「なぁ白。お前らはこれからどうするんだ?」
少女と見まごう美しさを持つ少年、白(ハク)は里へと向かう荷造りの作業の手を止めて俺の方を向いた。
「木ノ葉のリクルーターの方が言うには、僕は年齢的にもまだ14歳なのでアカデミーに編入すると思われます。そのためには集中講義を受けて出来る限り追いついてかららしく、里についたら暫くは皆さんと会えないと思いますね。僕が学生になるなんて・・・、最初はそう思いました。でも、貴方たちを見ていると純粋に楽しみに思えるんです」
「何か、変わったな」
「そうですか?うちは君」
「あぁ」
オレとサスケはすっかり白と仲良くなったので、こうして会話したり作業の手伝いを出来るようになった。里に新しい仲間が増えることは純粋にうれしいことだ。ちなみに、タズナ氏の孫であるイナリは木ノ葉隠れで教育を受ける事が決定した。カカシ先生が体力づくりを見ていたところ、チャクラに関する才能を見出したからだ。イナリもまた、ここ波の国では受けられない教育を受けることを楽しみにしている。ツナミさんは年配の父を支えるため、平和になっていく市場や市街で仕事をするため、波の国に残る。つまり、イナリ一人で木ノ葉隠れに来るのだ。イナリは木ノ葉丸と年齢が近いから、二人が出会えばきっと良い友達になれるだろうと思う。
里に向かって出立するための出立式では、カカシ先生から里で7月1日から実施される『中忍選抜試験』の話を聞いた。うちの里の昇任制度は他の里とは少し異なっていて、合格するための基準は『とにかく本戦に残ること』。中忍選抜試験についてもイナリは興味津々だけど。イナリは大工や土木関係に携わる忍者について聞きたがっていた。それは里に帰ってから、休日になったらイナリと色々話して説明しようと思っている。
★★★
6月2週目日曜日
イナリは8歳だから、小学校の3年生に編入する事になっている。そのためにイナリは9月に備え、里に来てすぐに同級生に追いつくための学習を始めた。白もまた、国立アカデミーに編入するための集中講義と集中訓練に入る。これからそれぞれが忙しく、自分の道を歩き始める。
6月の第二金曜日に里に戻ってきた俺たちはそのまま7月1日まで通常通りの休みで、疲れを癒すべくそれぞれが学校で過ごす、または実家に帰って夏休みに入る。上忍師の先生が修行と任務の予定を組んでくれる事になっている。オレは結構ひまな寮生なので、留学生として私立学校に編入予定のイナリとまだ正式に忍者学生の籍を与えられていない白からこちらの学生会館になるカフェに出向いてきてくれた。
「ナルト君、1日ぶりですね」
「ナルト兄ちゃん!」
里から支給された黒いTシャツとカーキのカーゴパンツ姿をした白は髪を切り、外見の印象をがらりと変えた。白は元々霧隠れの追い忍だったが、里を抜けて抜け忍となった。波の国でガトーに再不斬と共に雇われて仕事をしていたが、対外的には木ノ葉隠れの忍者によって二人まとめて倒されたということになっている。だから、『別人』として生きるしか無いのだ。木ノ葉隠れの里所属の忍者になったとしても、おそらく『仮面がユニフォーム』の部署に配属される事になるだろう。それでも良いという宣誓を白はこの里と国に行った。
「忍者にも大工っているんだね!」
「ああ、いるぞ!」
イナリが言っているのは、土木関係のスキルを持つ特別上忍の事だ。
「土木の特技がある忍者は大抵、何かが原因で建築物が壊れた村や任務先へ優先的に派遣されるんだってばよ。建築の技術や知識の勉強の他には、戦場で野戦築城やら即席橋の作成・爆破が専門。まぁ、イメージ的には起爆札と爆発物のプロフェッショナルってとこか」
「建物を、爆破する!?」
「そうです。土木要員は建築物の弱点を見抜き、爆破して拠点を潰すという工作活動も担っています。裏を返せば強い建物が作れるようになるのですよ」
「白の言う通りだってばよ」
「かっこいい!!」
タズナさんの後を継いで普通の大工になると言っていたはずのイナリは先日、筋トレといった体を動かすことに目覚めた。当初タズナさんは少し悲しそうだったが、溌溂とした笑顔でランニングやスクワットをこなす孫息子を見て里に託すと決めた。イナリは9月から、全寮制である私立平和学園に編入する予定だ。学費に関しては、学園の家庭の収入により値段が変化する奨学金で全て賄われるので大丈夫。里外出身者のための学生寮に入り、忍者になるための生活が始まる。6月半ばからは集中講義と訓練キャンプがあって、とても忙しくなるだろう。
☆★☆
そして、俺にはどうしても心配な事がある。それはヒナタのことだ。ヒナタは日向先輩と険悪で、波の国での作戦中にも先輩から「忍者に向いていない」「指揮官の器ではない」「貴女は足手まといだ」といった言葉を浴びせかけられていた。そのせいで精神的にボロボロで、男であるオレよりも同性であるサクラちゃんやいの、テンテン先輩の方がケアが向いているから彼女たちにヒナタをお願いしている。
俺は学生会館の廊下でヒナタを見つけたが、あえて彼女をそっとしておく事に決めた。