夏はどこまでも続いていく。 青く広がる空の下で。
夏季休暇
1週目 1~5日目 『五代目火影のお迎え任務』
短冊城が崩れ落ち、大蛇丸の罪状に里抜けのほか『重要文化財破壊』が追加された。ここで綱手のばっちゃんが自来也師匠と俺たちスリーマンセルを短冊街に来るよう指定した理由が、ようやく分かった。綱手のばっちゃんはいつも、上忍で医療忍者のシズネさんと一緒にいる。でも、今日はシズネさんが4~5歳くらいの小さな男の子を連れていた。その子の顔はどう見ても、うちは一族の顔立ちだった。シズネさんが言うには、その子はうちはが滅びてしまう前に一族の青年が外で隠れて作っていた恋人が生んでいた子だという。サスケはその子を見た途端、駆け寄って抱きしめた。うちはの血を引く子供はその子だけに留まらず、他に15人はいるという。
サスケはそれを聞いて、「さすが愛の一族だ!」と叫んでから喜びの涙を流し始めた。
子供たち全員の父親がうちはの者だから、男系の末裔といえる。サスケと同様に。
サスケはさっそく「サスケお兄ちゃんだぞ」とか言ってる。サスケってこんなヤツだったけ?
首を捻る俺とは対照的に、サクラちゃんはサスケの変貌を普通に受け入れていた。しかも「そうよね!サスケ君も愛の一族の出身だもの。愛溢れちゃうわよね!!」と大喜び。将来、二人が結ばれても俺は全然驚かない。
だって、道中での仲良し加減は完全に付き合ってるみたいだったし。最近ではサスケと仲が良いサクラちゃんに対し、やっかみを言う女子もだいぶ減ってきた。それは二人がセットとして認識されているという事だと思うってばよ。
ちなみに、俺とヒナタも今ではセット扱いだ。
ちゃっちゃと任務を終え、大蛇丸の誘いにわざと乗ったフリをしていた綱手のばっちゃん改め五代目火影、そして16人の子供たちを連れて里に帰還する事にした。子供たちは聞き分けが良くて、俺たちの指示にちゃんと従ってくれる。うちはの血を引く子供たちが短冊街のお姉さん達との間に生まれた理由の一つに、俺が勝手に思うには里と一族の間にあるギスギスに堪えられなかったというのもあると思う。閉塞感を打ち破ってくれたのが多分、お仕事かもしれないけど、愛で包み込んでくれたお姉さん達なんじゃないか。もしも教育制度の改革がなかったら、外に出て恋をするうちはの男は出なかったと思う。サクラちゃんが好きなサスケを見てつくづく思う。
「ねぇねぇ、見てみて!誰か倒れてるよ!!」
まだ姓を持たない”うちは”の血を引く男の子、フウガ君が俺の手を引いて倒れている人のところへ行こうとする。綱手のばっちゃんとシズネさんが大慌てで、倒れている人のところへと駆け寄っていった。
倒れている人に対し、なんか見るからにサメ度の高い長身でがっちりした男性が必死に倒れている人を揺さぶっていた。男性はまるで再不斬が背負っていたような大きな刀を背負い、黒いマントを着ている。アレってまさか、まさかまさかの・・・、ビンゴブックに載ってる指名手配犯じゃねぇか!!
大柄な男は干柿鬼鮫と名乗った。そして、倒れている男は”うちはイタチ”。
「・・・イタチさんじゃん」
「に、兄さんッ!」
口からあふれた血が地面に染み込み、悲惨な姿になったイタチさんは見るからに痛々しい。
戦場で傷ついた訳じゃないだろうなコレ。病気か?それにしてもイタチさんってこんな細身だっけ?
覚えている姿は確かに忍者らしく細身だったけど、今の消耗具合は尋常じゃない。
「サクラ、手伝いな!」
「ハイ、師匠!」
サクラちゃんはばっちゃんとシズネさんの指示に従い、救急措置の手伝いを始めた。
俺たちはただ立ち尽くすしかなくて、子供たちの声がとても遠く聞こえた。
「自来也!」
「綱手、どうすればいい?背負っても大丈夫か!?」
「頼むよ。早く里に運んでやらないとマズい状況だ。裁くにも死んだら困る」
付き人を務めるシズネさんは、いつも里と連絡を取れるようにしている。
シズネさんは伝令の鳥を呼ぶと、里への手紙を鳥の足首に括りつけた。
「速達で頼みますよ!」と言いつけると、鳥は空へと舞いあがっていった。
「シズネお姉さん!」「あのお兄さん大丈夫なの?」「死んじゃわない?」
「大丈夫よ。綱手お姉さんがいるんですから!」
ばっちゃんとシズネさん、そして自来也師匠はオレたちを忍軍の所有する宿泊施設に留めて部屋に結界を張った。何事も厳重にいつも備えておくべし。それが、第三次忍界大戦から里で決められたモットーの一つ。それに、シズネさんは俺たちに言った。「君たちは中忍として普通にやっていけるくらい強いですから、安心して結界の内側で子供たちを守って下さいね」と。トントンも置いていってくれたから、何かを追跡しないといけない事になっても安心だ。ここは里が所有する宿泊施設だから、他の任務中の上忍やベテラン中忍が既に誰かしら滞在している。その人たちも俺たちを守ってくれるし、任務が終わった人が10人集まったら里に帰る任務に当たってくれる予定だ。
「私たちは最大スピードで里に帰還する。コイツを連れてな。お前たちは子供たちを無事、里に送り届けるんだよ」
「「「了解!!!」」」
敬礼をし、綱手のばっちゃん改め五代目に応える。
里の最高司令官直々の任務なのだ。いつもより力が入る。
サスケのイタチさんに会いたいという願いと一族復興の願いが同時に叶うかの瀬戸際なのだ。
今は動揺を押し殺し、目の前にある任務を片付けないといけない。
☆★☆
「兄さん、兄さんっ、待って、俺を・・・、俺を置いていかないで!!」
心電図が止まったイタチさんに縋り付き、泣き叫ぶサスケの姿を俺とサクラちゃん、それからアザミ、ミサキはが見ていた。サスケが顔を上げるとその瞳が病室の鏡に映った。写輪眼で紅く染まっているが、よく見たら別のものになっていた。赤と黒の混じったソレは花弁のような形をしていて、コレが噂に聞く『万華鏡写輪眼』なのかと俺は震えた。愛する者を失うような恐怖を味わった時、親友を殺した時など開眼条件の噂は安定しないが、『前者』でも合っていたんだ。よかった。イタチさんはサスケに、最期だからと何か理由をつけて万華鏡写輪眼を披露した。もちろん幻術はかけずに。ただ発動しただけ。
それも作戦のうちなんだってばよ。けど、見ていると悲しくなる。
ちらりと見ると、サスケを落ち着けるためにハグするサクラちゃんの代わりにミサキが両手にチャクラを纏わせている。『作戦通り』、ミサキはアザミとアイコンタクトをすると茫然自失状態のサスケにソレを容赦なく食らわせた。サスケは予定通り気絶し、ばっちゃんたち特命医療チームが大急ぎで部屋に入ってきてAEDで蘇生されたイタチさんとサスケは二人揃って同じ手術室まで運ばれていった。
「ナルト君たち、ありがとうございます。ここに食券があるので好きなものでも食べてね」
そうシズネさんが言って渡してくれた食券を手に、すっかり腹ペコだった俺たちは下の階で食事を摂ることにした。
この里は3割の忍者と7割の民間人で構成されており、二つの異文化に暮らす住民の仲がとても良好だと俺は思う。民間人には民間人が守るルールがあって、そのルールは機密を守りつつ平和に静かに暮らすためのもの。忍者の世界について民間人学校でもしっかり教育されるから、里内で何か事件が起こっても人々は落ち着いて対処してくれる。里の平和を守る手段として、病院のような施設にある大食堂(レストラン)では忍者ゾーンと民間ゾーンが区切られている。厨房を取り仕切るのは民間人だ。民間人でも毒物の知識が深い、危険物取扱の資格を持つ調理師だけ。忍軍の所属だから、いわゆる軍属ってヤツ。里内外にある専門学校や食堂からスカウトされてきて働いているらしい。
でも、ここは忍軍関係者だけの病院だから全てが忍者ゾーンとして指定されている。
「三嶋さんのおばあちゃんって、ここで働いてるの?」
「うん。一応忍一族の出身で忍者の世界について知ってるし、有資格者だから。忍軍所属の調理師。管理栄養士でもあるよ」
「そうなんだ!」
サクラちゃんとアザミがメニュー表を見ながら話している間じゅう、俺とミサキはどんな話をしようか困っていた。ミサキは良いヤツだけど、どうも興味のある事柄などが被らなくて話題に悩む。
「あ、あのさ、ミサキ」
「ん?」
「サボテンって、育てた事あるか?」
インテリアとして置いてある小さなサボテンを指さし、俺は思い切って話題を振った。
まずは趣味の話をして、次にミサキが好きなことを聞いてみよう。
「あるよ。僕の部屋に三つくらい小さいのがある。そういえばうずまき君、ガーデニングが好きって最初の時に言ってたよね。僕もガーデニングが趣味なんだ」
俺たちはやっぱり友達の体が心配だから、心が落ち着くように他愛のない話を沢山食堂でした。サスケは大丈夫かな、とか。綱手様の医療忍術の凄さとか、カカシ先生のマスクの下はどうなってんだろうな?とか。あと、アマツの事が気になっている。
それにしても・・・、アザミとミサキは見事にアマツの事を気にしてない。
そりゃあ、なぁ。あんなに二人を邪険に扱っていたんだから仕方ないのかな。
「そういえばさー、アザミ。どうしてうちはって体に負担なく移植手術できるんだろうな?」
「医療忍者じゃないから分からないけど。HLA型がみんなほぼ一緒なんじゃない?または特殊な薬があるとか。免疫抑制剤って使うのかな?知らないだけで機密扱いの薬があると私は予想するよ」
「そっかぁ」
「僕も概ね同意見」
「私も。もしちゃんと研究されているとしたら結果が知りたいわね。師匠に聞いてみようかしら。でもカカシ先生、別に免疫反応で苦しんでないわよね・・・」
さっき移植片対宿主病の話を医療忍者同士がしているのを聞いて、ちょっと気になっていたのだ。
そんな話をしていた医療忍者二人組が俺たちのところへ来て、ばっちゃんからの伝言をくれた。
『明日の午後から面会が可能だよ』、と。
俺たちは二人組にありがとうと伝えるとそれぞれ家、または寮へ帰るための帰路へとついた。
孤児のオレと、遠隔地出身で寮生のミサキは同じ外部の学生用短期滞在寮に住んでいる。長期休みの間だけ、そこで暮らすことになっているからだ。玄関から入ってチェックシートに印を入れ、寮母さんに今日は軽食だけにしておくと伝えた。ミサキもそれは同じだ。食堂で沢山食べてしまったから仕方ない。
それから、イタチさんはオレたちが発見する前に木ノ葉に一度来てカカシ先生・アスマ先生・紅先生、そしてガイ先生が交戦していた事実をさっき来たエビス先生から聞いた。カカシ先生は入院中だそうだ。またお見舞いにいかないと!俺は今日やる分の課題を確認すると机に向かい、何とか同じ寮に住むミサキの兄ちゃんである先輩の力を借りてやり終えた。
オレは疲れた体を休ませようと、眠るつもりでベッドに入った。部屋の外からはもう秋の虫が鳴く声が聞こえるようになってきていた。来月から新学期、じゃなくて、アカデミーだから前期試験が待ってる。試験では1年生の実力を見極められ、学年も性別も関係ない習熟度別クラスに振り分けられる。3年生と同じクラスかもしれないし、大多数の同級生と同じクラスかもしれない。サスケはきっと上のクラスに行くだろう。サクラちゃんも優秀だから、きっとそうなんだろうと思う。俺はというと、自来也師匠に沢山修行を見てもらう予定が入ってる。サスケはカカシ先生に、サクラちゃんはばっちゃんに。
眠気が増してきたから、九喇嘛に(おやすみ)と言って瞳を閉じた。
でも微妙に寝付けないから、考えを巡らせることにした。九喇嘛は(子守歌でも歌ってやろうか)とか言ってくるけど、今回は断った。小さな時はよく歌ってくれたし、世界のことを色々教えてくれた。学校が始まってからはズルしているみたいだからと理由をつけ、それを中断してもらったけど。
また教わろうかな。学校では習わない範囲の事、語られなかった歴史の事を。
里内には民間病院のほか、忍軍が持ついくつかの病院がある。イタチさんが運び込まれたのが、木ノ葉忍軍中央病院という一番高度な病院かつ、緊急性が高い患者が運び込まれる場所。もちろん入院設備がある、火影直轄施設の一つ。メンタルケアもここで行っている。次に、同じく入院施設がある病院が1つ。どちらも官民共用で現役忍者だけではなく忍者の家族と引退者が利用でき、普通に生活の中でいう『病院』がコレである。次に、里内に東西南北と存在している総合日帰りクリニック。入院が必要ない忍者・軍属・引退者の患者を受け入れている。そちらで手に負えなかった場合、上二つの病院へすぐに紹介状が書かれて治療を受けることができる。それから民間人専門病院だけで私立・公立合わせて4つ。私立の民間人病院は特に妊婦さんから人気で、くのいちで妊娠中の人も差額を払ってそちらに行きたがるそうだ。有名シェフがご飯を作ってくれるんだってさ。月刊フリーペーパーに書いてあったってばよ。
「そういえば・・・」
アザミって、どうして万華鏡写輪眼について知っていたんだろうか。小学校での情報収集や情報分析の成績が物凄く良かった。でも、ああいう情報って機密レベルが高いから。無理やり情報収集をするタイプではないし。でもでも、アザミが言うには三嶋一族はHUMINT(人間を介した諜報)に長けた家系。
俺はフウレン先生の行動や言動も思い返してみた。フウレン先生もまた、あまり関係がないはずの家系の血継限界と秘伝技ついて妙に詳しかったような。日向一族だけではなく、奈良一族や山中一族とも仲が良かった。
だから、大昔の噂についても詳しかったんだろうな。
「うへぇ・・・、ぜんぜん眠った気がしないってばよ」
(本当によく眠っておったぞ)
九喇嘛がまた笑っている。
自来也師匠との修行は来週からだから、今週末は九喇嘛が俺に修行をつけてくれる予定だ。
今日は金曜日。今日の午後にはやっと手術を終え、安定しているだろうサスケに会える。
★★★
『うちはイタチの戸隠メモリアル』
うちはイタチの人生は奇妙なことに、2.5個ある。一つはサスケと戦って死ぬまで、次に薬師カブトに穢土転生されて得た仮初の命。サスケと再会して穢土転生を解くため一緒に戦った。それですべてが終わるとイタチは思っていたが、それは大間違いだった。どこかに行くとしても地獄は免れない。
そう覚悟していたのに、うちはイタチは長野県長野市戸隠に普通の少年として生まれ変わっていた。
うちはイタチ、ではなく内田至智(うちだ イタチ)。微妙に本名と被っているが違う、”現代社会”で違和感のない”普通”の名前。忍者・蕎麦・山岳修験道で有名な戸隠の地に、忍者の末裔である内田イタチとして生まれ変わったのだ。生まれ年は1987年。5つ下、1992年に生まれたのはまさにサスケだった。5つ下の可愛い弟の名は、内田佐助(うちだ サスケ)。父は山岳ガイドで元警官の内田富岳(フガク)、母は父のまたいとこで同郷の元婦警・美琴(ミコト)。親戚に警官の紫彗(シスイ)、結婚できる位の血縁関係で泉(イズミ)もいてすぐ付き合い始めたし、煎餅屋を営む親戚夫妻も近くに住んでいた。
戸隠はまるで、イタチが遠い過去に亡くした懐かしいうちはの集落だった。
戸隠は平和で空気が綺麗で蕎麦が美味い、水も透明で透き通った素晴らしい場所だ。
でも一つ、納得がいかない事があった。
どうして『うちはマダラ』ではなく、大戦中に色々とやらかし戦犯とされ、なんやかんやあって処刑を免れたが結局誰かに殺された『内田斑良(うちだ マダラ)大佐』が実の曾祖父なんだろうか。その遺志を継いだまたイトコで行方不明になっていた内田帯刀(うちだ オビト)が突然登場して、色々やらかしてくれたが彼の幼馴染がどうにかしてくれた。
イタチは幼少期から生まれ変わった世界の「忍者」に興味を持ち、両親には「忍者博士になる」と言ってきた。そのために長野市で最高の偏差値を誇る公立高校に進み首席卒業後、それから両親に金銭面の苦労をあまりかけさせたくないと思い県内にある国立大学に進学した。
様々な分野の本を読んでいたイタチだったが、もちろんマンガもそれなりに読んでいた。仲でもイタチを惹きつけずにはいられなかったのが、『NARUTO』。イタチが生きた人生が、忍界が、架空のものとして岡山出身の漫画家によって描かれていた。それを読み、イタチはサスケの苦悩と暴走の全貌を知った。そして、インターネット上ではうちは一族が「あいつら頭おかしい」「うちは病」「病んでる」と言われている事も知った。自分の人生を客観的にみると、自分の行動の正しさや落ち度、里の闇、一族の闇が恥ずかしいほどイタチの背中に圧し掛かってきた。考えすぎて夏休みに3日間寝込んだ。
それから、弟のサスケは何故か中学生になった途端にグレて工業高校に行ったがすぐに中退。その後、突然更生して17歳で定時制高校に入り直し、卒業。卒業後は「俺は公務員になる!」と言いはじめ、公務員専門学校を経て長野県警の警察官になった。イタチは泣いて喜んだ。「お兄ちゃん嬉しい!」、と。
そう。イタチは長野県に一般人として生まれ変わり、感覚まで一般人に近くなっていたのだ!
今度こそ愛する彼女イズミと結ばれたいと願い大学3年生で学生結婚。翌年には第一子に恵まれた。その後は泣く泣く単身赴任状態で三重の国立大学の大学院に進み、忍者について研究をし博士号を取った。長野に戻ってからは更に3人をもうけ、二男二女の親となった。弟であるサスケの方も、幼馴染の春野という少女が医学部に入ってすぐ学生結婚して若くして親になった。彼女はサスケがグレても諦めず、ずっと寄り添っていた人だった。仲良し三人組のもう一人、渦巻巡査長もまた、今世では白眼の代わりにロシア系クォーター故に銀色と見まごう灰色の瞳を持つお嬢様と結婚。シスイも結婚、グレていたオビトもリンという幼馴染と結婚。誰もが愛の夢を現実のものとし、命を繋いでいく。『前の世界』ではありえなかった人生だ。
時が過ぎれば誰かが生まれ、誰かが去っていくのは当たり前のこと。
イタチは両親を見送り、子供たちが巣立ち、孫が生まれ。やがて現代の医療を以てしても治癒が未だに難しい病を患った。もう長くはないと何となく悟っていた。『前の世界』で死がしのびよってくる感覚を思い出したからだった。今や遠い忍具を握る感覚、戦場の空気や返り血、饐えた匂い。すべてが遠かった。
しかし妙な確信があった。次の人生はあの忍界であると。
思いがけず生まれ変わったイタチだったが、『前の世界』では巡り合えなかった人間とも絆を築いた。まずは小中高校の友人、教師、保護者たち。次に大学や大学院での教授や同期たち。もちろん全ての出会いと別れが後味が良いものではなく、中には若くして失われてしまった者もいたし喧嘩別れした者もいた。
まず、喧嘩別れをした者。土産物を作る職人の親戚、扇城家の養子である星野天津(ほしの アマツ)。弟のサスケと意見がどうしても合わなくて喧嘩したまま愛知県の奥三河に引っ越していった。そんなアマツだが、二人の親友がいた。一人は名古屋の国立大学医学部を出て医者になった稗田三幸(ひえだ ミサキ)と、社会人になってからも大学院に行って忍者博士になるという夢を温めていた滝川薊子(たきかわ けいこ)。ミサキは通り魔に遭って失血死、薊子は誰もが羨むイケメンとの結婚を前にしてそれを逆恨みした同僚から滅多刺しにされ32歳で短い命を閉じた。薊子の祖父は元教師の博識な人物で、イタチもよく忍者についての議論をするため毎年奥三河に行ったものだった。奥三河の二人はアマツ繋がりの友人だったが、よく変わった美術館や博物館、資料館を訪ねた。中でも薊子は恵那にある宝石の博物館が好きだった。
他にも悲しい別れをした人間は何人かいた。突然の災害、感染症の流行、自殺、事故の巻き添え、そして治療法が確立されていない病。戦争をしなくても、戦う必要がなくても、人は死ぬ。
志半ばで命を落とす悲しさや切なさを、戦争じゃない中でイタチは見ることとなった。『前の世界』で不幸な目に遭ったものは生き残り、そうじゃない者はどんどん死んでいった。
妻と添い遂げる幸せな人生の終わりに、イタチは願った。
志半ばで、平和なのに殺された若い命をせめて一緒に連れて行って欲しいと。
平和な世界に生まれたのに、彼らは戦っていたのだ。生まれつきの障害による偏見やら、いじめと。
彼らはいつも『自分には力がない』と嘆いていた。だからどうか、彼らに力を与えて欲しい。
悲しい程、彼らには平和な世界に似つかわしくないほど戦う覚悟が出来ていたのだ。
そして、二人はイタチが語った『前の世界』についての理解があった。
ひらたく言えばNARUTOの大ファンたち。
(何かが変わるかもしれない)
不思議な確信が現実に変わるよう願いながら、イタチは瞼を閉じた。
☆★☆
確信した通り、イタチは忍界に舞い戻ってきた。一族を救い、里を守り切り、サスケを悲しませないために。しかし、イタチは失念していた。根の全貌や物語の結末が分かっていたとしても、一人で状況をひっくり返せるような立場じゃないことを。そうして『1回目』『原作』の展開を変えようと足掻いたが、イタチは長野の少年Aの精神を保ったままうちは一族を『皆殺しに”された”』。”まだ”13歳だった。
菅沼実氏あらため、三嶋フウレン特別上忍。彼はイタチにこっそりと協力をしたが、変わらないことは変わらなかった。イタチが戻ってきた忍界はかつてと大きく違っていて、歴史上語られてこなかったうちはの血を引く傘下氏族である扇城が存在していた。教育制度も様変わりし、イタチは「天才」と持て囃されながらも割と普通のルートを辿って忍者になった。今は廃止された、10歳で忍者になる『ギフテッドコース』を卒業したのだ。11歳で小学校に通いながら中忍となり、そこからすぐ暗部として引き抜かれた。暗部になったと思えば、ようやく里内でも少しは立場が上がってきたので、『記憶』がある両親や親せきたちと共に行動した。
状況を変えようと奔走した結果、親友のシスイが死なずに済んだ。けど、弟のサスケはそれを知らない。イタチが一族郎党皆殺しにしたと思っている。
あの事件について『1度目の忍界(原作)』と決定的に違うのは愛するイズミとその母を扇城のCEOに圧力をかけて『扇城イズミ』に名前を変えさせ、うちはではなくさせたところ。サスケに対しても、写輪眼を開眼して云々は言っていない。ただ「達者で生きろよ」と伝えただけだ。長野県長野市戸隠に住む忍者の末裔、内田ファミリーとしての記憶を保持した兄弟の両親は当然ながら、食卓を囲んでアニメ『NARUTO』を見ていたので原作の記憶もある。だから『永遠の万華鏡写輪眼』の秘密を知っているワケで、ただじゃ死ねないと思って記憶を持つシスイと二人三脚でクーデター阻止のため努力を重ねてきた。幸いな事にイタチは志村ダンゾウの部下ではなく、純粋に火影直轄の暗部隊員になれた。サイもその兄も助けた。
何故なら、イタチがいるはずのポジションに収まる一人の男が存在したからだ。男の名は星宮カガセ。アマツより5つ上、イタチと同い年で同じ学び舎で学んだ『天才』であり、うちはを皆殺しにした男だ。ついでに写輪眼を開眼していた扇城一族の忍者も数名がカガセに殺されている。おそらくシスイの代わりとして。扇城一族は『志村一族』の血が入っているためか、志村ダンゾウが目をつけていた。よりダンゾウの体と適合するだろうという理由だろう。
その後、全ての責任を何故かイタチに押し付けられる形で表面上イタチは里を抜けた。もちろん、イタチは一族を殺していない。それどころか里と和解するための話し合いのため、シスイと共に奔走していた。
イタチとサスケの両親、うちはフガクとミコトは長野県民時代の記憶を有する転生者だった。一族には他にうちは兄弟が前世の長野県民時代に仲良かった人々を思わせる転生者がいたため、一族の姿勢は『原作』よりはずっとずっとソフトな印象でいられたんじゃないかとイタチは思っている。だからこそ、うちはフガクとうちはミコトはあの悲劇を繰り返したくないと言ってイタチに『いざという時のため』として死後の写輪眼摘出を頼んできた。
イタチが一族の殺害現場に駆け付けた時、星宮カガセは両親の眼球を摘出しようとしていた。それを止めようとするために戦っていた時、あろう事かサスケが帰宅してきた。そして愛おしい弟が見た風景こそが、カガセが退却していった後の血だまりに武器を手に茫然と立つイタチの姿だった。サスケは絶叫し、一瞬瞼を閉じて再び開いた瞳は深紅だった。イタチは苦し紛れに自分が誰かに殺されるという幻術を見せてから、保存液を詰めたボトルに両親の万華鏡写輪眼を入れたものを小脇に抱えて瞬身で火影邸へと向かった。三代目火影はイタチの真意を理解していた。『今回』のイタチは根とは関係なく、完全に火影直属の暗部隊員なのだ。でも『前回』と違って根に関しての深刻さをちゃんと理解していたので、作戦の都合で根がどう動くかを見極めるため数日里に滞在してから『長期諜報任務』の扱いで里外に出た。
つまり、里抜けした事にはなっていない。正式な木ノ葉隠れ忍軍暗部所属のままだ。本当ならば『暁を探れ』という司令が出るところだが、そんな事は起こらなかった。むしろ『自来也と共に情報収集をしろ』という命令が下りた。という訳で、イタチはシスイと共に里を出て自来也と共に、たまに外へ出ている綱手姫と一緒に諜報活動に当たる事になった。しかし、里内ではダンゾウ派である根の工作活動によって里から一切発表が出てないというのに『うちはイタチが一族郎党を皆殺しにした』という事になっていた。解せぬ、と。イタチはそう思うしか出来なかった。
悲しいのに、苦しいのに。前は抑え込めたのに。シリアスな状況でうちはラップが頭を過ぎり、心は壊れる寸前だった。里外と国外で諜報任務に当たるイタチとシスイ、そして自来也は『原作』の記憶がある。途中で仲間に加わった干柿鬼鮫という男もまた、イタチとシスイと同様のルートを辿って忍界に舞い戻ってきた。
実は長野県民時代、同じ大学で同じゼミにいた先輩ゼミ生が『干柿鮫助(ホシガキ コウスケ)先輩』こと干柿鬼鮫だった。その繋がりでイタチは鬼鮫と和気藹々。アマツの兄であるカガセが『暁』の一員になっていて、イタチはシスイと共に別の犯罪組織『極光(きょっこう)』に属している事にされてしまったのでもう堪らない。里からはサスケの精神状態についての話を逐一聞かされ、イタチはそれはそれで不安定な精神状態になった。
里帰還時に遭遇したカガセと交戦時に万華鏡写輪眼の月読のせいでフラフラになりながら鬼鮫と一緒に離脱し、何とかセーフハウスまで逃れようと必死になっていた時。里の人々はイタチが本当に犯罪者だと思い込んでいたため、そんな事態になったのだ。はたけカカシにも里からの命令が出ていたため、つい本気でやり合ってしまった。木ノ葉から離脱すると、万華鏡写輪眼の反動で長らく患っていた重度の胃潰瘍によって夥しい量の喀血が起こった。セーフハウスへの道中での出来事である。
イタチは遂に倒れた。シスイと別行動中で心細かったのもある。
鬼鮫が長野でゼミの先輩だった時のように、倒れたイタチを道端で助け起こそうとした。そこで、イタチを助けたのが五代目火影の就任が決定した綱手姫とその付き人であるシズネ上忍。そしてサスケの将来の妻となる、春野サクラだった。サスケの妻、つまりはかわいい姪っ子サラダの母。イタチは未来の走馬灯を見た。
そして気づけば里の忍軍中央病院のシークレットエリアにある集中治療室に寝かされ、意識が戻ってからは三嶋フウレン特別上忍といくつか話した。ここに両親の万華鏡写輪眼があるという事、これを利用してサスケの視力低下を押さえて助けてやって欲しいということ。最後に、「どうにかサスケに俺を殺したと認識させて万華鏡写輪眼を開眼させて欲しい」ということ。まずチャクラに依存しないAEDを応用した機器を利用し、サスケの前で急変したような様子を見せる。その時点で一度心臓が止まり、誰かに「少し遅かったかもしれない」と言わせる。サスケは「自分が殺してしまったようなもの」と思い、万華鏡写輪眼を開眼するかもしれない。そう三嶋特別上忍に伝えれば、数秒黙ってから「わかった」と言った。
それはアンガーマネジメント完璧、メンタルケア完璧状態のサスケ相手じゃないと通じない作戦だった。イタチは里のメンタルケア部門に心から感謝した。
AEDで蘇生され、全身麻酔をかけられる瞬間。
イタチは感じていた。
長野県民にして長野市民の内田少年と、うちはイタチの精神が統合していく瞬間を。
(さよなら戸隠、長野市、長野県。俺は今度こそ本当の意味でサスケを救い、里を守る)
(誰ももう傷つけやしない!)
そして聞いた。
「柱間細胞準備ヨシ!」
(あっ)
意識が闇に沈んでいった。