12月1日 1次試験(筆記) A会場外
遂にやってきた、中忍選抜試験。
オレたちはカカシ先生による放課後の特訓を受け、準備万端。
凍てつく12月の空気に包まれながら、『オレ』は幻術による妨害を突破して中忍選抜試験の筆記試験会場へと足を踏み入れた。本年度第1回目の試験がメチャクチャになった都合で、第2回目のオレたちにとってはホームである木ノ葉隠れの里で実施される。木ノ葉隠れで行われる試験の内容は大体いつも同じような感じだから、先輩方の情報をスパイしてきたのでスキはない。実は音隠れのスパイだった薬師カブトという医療忍者の先輩がいたけど、その先輩が1学期、親切にも試験内容を教えてくれていたのだ。他の先輩の話を聞いても、同じような試験内容らしかった。その共通点というのが、『カンニングアリの筆記試験』である!!
今回の試験は規模がバカかって程にデカい。木ノ葉隠れによる単独開催という事になっているためだ。もちろん他の里からの出場者も受け付けている。砂隠れが来年度のうち1度は開催する予定だ。前回の中忍選抜試験に伴って他国や他里とまた小競り合いが起こる可能性が増してきたということで、五代目火影からの通達で出場者が増やされる事となった。だから砂隠れも沢山受験者を送り込んできた。これまでとは違い、『可能性』を重視した選抜基準で選ばれてきた人たちだ。
受験者には試験前日、スリーマンセルの全員にそれぞれ違う会場が指定される。何らかの目的のために3人を引き離すのだが、オレが指定されたのは『A会場』とされた里中心部にある大講堂を擁した文化会館。そこにたどり着くまでに罠が幾つも潜んでいて、幸い対トラップ訓練を重ねてきたオレは普通に攻略。ヒナタもシカマルも、アザミも、ハヅチも、フツーに乗り越えていった。もちろんトラップに気づかない、あるいはすぐに抜け出せないヤツもいるワケで。ざっと見て500人くらいいた受験者は、会場にたどり着いた時には450人(試験官数え)になっていた。そこで出身の里ごとに整列するよう指示を受けて、腕章に『B』『C』と書かれた連絡係の試験官が突破者の情報を書いた紙か何かを交換しては去っていった。
「これから試験官が肩を叩いた者はチームメイトが会場までたどり着けなかった者だ。申し訳ないが、会場から立ち去って欲しい。あまりにも受験者が多いから仕方がない」
幸いなことに、オレもヒナタも大丈夫だった。見た限りでは知った顔は全員が残っていて安心した。
前に並んでいたヒナタは少し振り向くと、オレの目を見てはにかんだ。かわいい・・・!もっと見たいぜヒナタの笑顔!とか頭の中で言っている場合じゃねぇ、残念ながら。今日もオレの婚約者は世界一ステキだって再確認出来たのは良かったけど、またこうやって笑い合うには試験を突破しないといけない!!
「突破しようね、ナルト君」
「ああ。お互いベストを尽くすってばよ」
そっと手を繋いで握り合うと、トゲトゲしい白い瞳に射抜かれるような錯覚があった。これはネジ先輩に違いないが、こんな場所にいるワケがねぇってばよ。さー、スルーして席へ!と思ったら。
「・・・うずまきナルト。2次試験が終わったら体育館裏に来い。分かったならさっさと進め」
ギリギリと肩に手を食い込ませてくる2年次の中忍、日向ネジ先輩が『試験官補助』と書いた腕章を付けて白眼全開でオレを睨んでいた。しかしヒナタの方へは優しい視線を向け、「やれるだけの事をやるのですよ、ヒナタ様」と穏やかな声で呼びかけた。ヒナタは「はい」と小さく頷くと、緊張が解けたのかオレの手を握り直して、また名残惜しく繋いだのを解いた。
「よっし、気を取り直して頑張るってばよ!!」
何でもないような顔をして、オレは指定された長机の一番左端の席へとついた。番号は縁起が良い『77』番。ヒナタは右隣で『78』番。オレは目が良いから遠くまで見えるんだけど、少し離れた場所でアザミは吐きそうな顔をしていた。アレは眠れなかった顔に違いない。いつもテストの度にああなってるから緊張に弱いんだよな。
試験官が説明を始めた。森乃イビキ特別上忍じゃない、部下の一人だろうなと思う。首に包帯を巻いた甘い声の女性は猿女カナ特別上忍と名乗った。美しい人なんだけど、あの人も拷問を受けたんだろうか?森乃特別上忍は直轄アカデミーにたまに来ては大戦中の話をして下さる。一見怖そうだけど、本当は暖かい人だ。
その人が出てきた途端、アザミが姿勢を正した。
「はじめ!」
スタートの合図がなされた瞬間、大教室内には450人分のカリカリと鉛筆を走らせる音が響いた。
☆★☆
オレの前にあるのは、とんでもなく難しい問題。解けるどうか分からないような難易度で、頭が真っ白になった。しかし、どうも違和感を感じる。その違和感が始まったのは、たしか女性試験官が喋り始めてからだ。そういえば、あの試験官は名前を何て言ったんだっけか。猿女!
猿女といえば、稗田ミサキの家の本家だ。猿女・稗田一族は同じ一族だけど、分家というか庶家。声を操って幻術をかける一族。ならば、幻術をオレはかけられている事になる。でもうっすらと遠目で見たアザミは平然と解答をしている。問題は理数系ばかりだから、数字と図形に弱い、弱すぎるアザミには解けるワケがない。つまり、本当に幻術だってコト。アザミの幻術耐性はやたらめったら高いんだぜ。
(そういえば試験官の猿女特別上忍、この会場で『リラックスして頑張ってね』『カンニングがバレたら即退場よ』と言ってたってばよ。よっし!幻術返し!!)
幻術返しをすると、目の前の問題用紙には『好きな試験官の似顔絵を描きなさい』とある。
何だコレ!?びっくりしたってばよ。オレはあの女性試験官、猿女特別上忍の顔を描き始めた。隣では幻術が苦手なヒナタが素直に解こうとしていたので、オレはドキっとしだ。他にも消しゴムをわざと落とすヤツが、タイミングを見計らったように何人も出てきた。オレは音が鳴らないようにポケットを漁ると、チャクラで文字が出たり消えたりする小さな紙を取り出した。
(”これは幻術だ。好きな試験監督の似顔絵を描け!ナルト”。コレでよし。コレを予備の消しゴムに上手く隠して、・・・と。うずまきマークを消しゴムに書けばオレからの伝言だてすぐに分かる。完成!あとは・・・)
オレは同じデザインの消しゴムを二つ持っていたので、ポケットからそれも出してメモを仕掛けた。メモ用紙の仕様なんて同じ里出身者ならみんな知ってる。それだけポピュラーな、忍者学生が使うようなあり触れた文房具だってばよ。
わざと、でも自然な感じで消しゴムを落としてヒナタの注意をこちらに向けさせた。優しいヒナタは試験中だというのに、オレを助けようと消しゴムに手を伸ばしてくれた。それを普通に受け取るフリをして、消しゴムをすり替えた。
「おっと、ごめんヒナタ。寝不足みてぇだ」
「大丈夫?ナルト君。消しゴム落ちたよ」
「ありがと、ヒナタ。ごめんな、邪魔して・・・」
普通ならばちょっと長いやり取りだけど、さっきまでラブラブカップルとやじられる感じだったオレたちなら違和感ゼロ。試験官の女性が頬を染めていて、うつむいてしまった。ウブな人なのかな猿女特別上忍は。
ヒナタは「はっ」とした表情をしてから、机の下で手を動かした。幻術が解けたようだ。
速く書き終えたオレは席に貼ってある番号の上に小さく書いてある文字を見つけ、読んだ。そこには『受験生諸君。君たちには幻術をかけてある。この場の雰囲気に呑まれていない、幻術に耐性がある、あるいは文章を読む習慣がある者は好きな試験官の似顔絵を描きなさい。以上』とあった。無言でオレは姿勢を正して試験終了を待っていると、席番号の文字または幻術に気づかずカンニングをして失敗し、退場を命じらせる受験生が相次いだ。おそらく、この筆記試験の目的は注意深さと冷静さ、諜報技術を見極めることだってばよ。ドキドキしながら待っていると試験が終了し、ミサキがするのと同じ「鼻歌」という方法で幻術が解かれた。既に解けているヤツにとっては何の変化も無いけれど。
「試験終了です、みなさん。試験官の似顔絵を描いた方は試験通過です。ただし・・・、他の会場で受験中のチームメイトの方々も同様に合格していないと次の試験には行けません!!」
まずは試験内容を見抜けず冷静になれなかった受験者が退場した。これで400人(試験官数え)になった。
試験会場にたどり着いてから来た『B』『C』と書いた腕章の人たちが来て照合し、400人から300人に。これで、300チームが残ったことになる。
「残ったみなさん、おめでとうございます!次の試験説明へどうぞ!!」
猿女特別上忍は『A会場』と書かれた三角の旗を持ち、ツアーコンダクターのように振って「付いてきて下さいね」と言った。顔をまじまじと見てみると、たぶん親戚なだけあってミサキとちょっと似てる。苗字は違うけど割と血が近い人なのかもしれない。ミサキはまだ声変わりしていないから声も似ているし。
☆★☆
オレたちはやっとチームメイトと合流すると、抱きしめ合って再会と試験通過を喜び合った。サスケもサクラちゃんも幻術に気づき、正しい回答をしたようだ。サクラちゃんは頭が物凄く良いから、もしアレが本当の問題だったとしても普通に解いていたかもしれないが。
1次試験突破者が900人、300チーム。これを更に振り分けるため、2次試験が行われる。引き続き猿女特別上忍は相変わらずツアーコンダクダーのようで、今は他里出身者に対して木ノ葉隠れのおいしい食べ物について説明している。ミサキとはやっぱり親戚同士みたいで、アザミより背が高いのにアザミの背中に隠れようとしていた。その姿を見てキバが爆笑していた。赤丸も鳴き声が震えている。
「さて、無事に1次試験を突破したみなさん。里外にある2次試験の会場『霧ヶ原大湿原』に向け、これから午後1300にスタートして頂きます」
スリーマンセルにつき1枚ずつ、ネジ先輩たち試験官補助の学生たちにより地図が手渡された。他の会場にはロック・リー先輩のほかテンテン先輩と諏訪先輩や守矢先輩もいたようで、4人も試験官補助をしていた。運営側で赤十字の腕章を付けている八坂先輩もいる。地図のほか、応急手当パックとサバイバルキット(どちらも扇城屋の軍需産業部門のマーク入り)が1人1つずつ手渡された。大切な若い戦力(いのち)を無駄に消費させたくないという、五代目火影の考え方がハッキリと分かる贈り物だった。
試験官たちによる説明が終わると、お昼の鐘が鳴った。受験生たちはそれぞれスリーマンセルを組んだまま色々な方向へと歩き出し、オレら第7班も昼食を摂ろうという話になった。他の同級生はどうするんだろうと思っていると、アザミたち第77班がやけにハイテンションな事に気づいた。
「あの3人、やけに余裕そうね」
「第77班(あいつら)は山岳地帯と湿原が大得意だからな」
「『山の三嶋氏族』、『湖の諏訪氏族』、『響の猿女氏族』って言うんだぜ?」
「どんな感じで第77班が戦うのかまだ分からないけど、試験に参加するのと同時に何だか楽しみよ」
山岳地帯であるイナ渓谷を抜け、諏訪氏族が本拠を構える天龍湖の近くにある霧ヶ原大湿原へと至る道。忍者の脚なら1300からだと深夜までかかる。慣れていなければもっとかかるだろう。あまり昼食を食べ過ぎると吐くかもしれないと思って、オレたちは任務服のポケットからいつも使っている忍者用の食券を取り出して門の近くにある屋台へと向かった。あとは圧縮保存できる防寒用のウインドブレーカーを買い、もっと大きなポーチに付け替えてそれを入れた。そして、同じ店にいた第77班からのアドバイスで購入したのはサバイバルナイフと追加の濾過フィルター。そうこうしているうちに、あと15分位でスタートだ。
「よっしゃ、行くってばよ!」
「待ってナルト!」
「ったく、元気だな!!」