兄さん、結婚するってよ
昔のように、いや、昔以上に美しい神社の境内を新郎新婦が進んでいく。
南賀ノ神社は里からの謝罪の意味を込めて綺麗に改装され、『うちは』以外の里人もまた積極的に参拝に訪れる場所となった。神職はまだうちはから出せないため、里創設時から友好的というか、好意的である諏訪がどうにか工面してくれた。地下にあった石碑は理由が分からないが、本日の主役こと兄さんが処分してしまった。
かつては里と衝突があったが、父フガクと母ミコトの代ではかなり態度を軟化させていた『うちは』。もはや皆殺しにする必要など無いような状況だったというのに、滅ぼされてしまった瞳術使いの古き一族。だが、いつまでも滅ぼされたままではいられない。この6月の今日これから、兄イタチとイズミが結婚式を挙げる。
参列者は殆どが見知った顔ばかり。新郎の実弟である俺はもちろん、親戚にして親友であるシスイ。大人は五代目火影とその副官・シズネ上忍、ナルトの師匠でもある自来也氏、オレの師匠はたけカカシ、ヤマト、そしてうみのイルカ。若者からだとオレのチームメイトであるサクラとナルト、紅班、アスマ班、ガイ班、サイ。
うずまき香燐、水月、重吾、干柿鬼鮫、我愛羅の代理出席として砂隠れの長女テマリ。
それから鹿島ライカ・香取フツミ・静織ハヅチと元上司の霧島ユタカ、諏訪アザミ・諏訪オカヤ・稗田ミサキとアザミの祖父である三嶋フウレン氏。そして諏訪・鹿島・香取・静織の当主またはその代理人。
あとは名門旧家の当主たちが勢ぞろいだ。それもそうだろう。
この結婚式こそが和解へと一歩進む時なのだから。殆どの氏族がうちはとの和解に対して協力的。
喜ばしい事に!
そして、扇城屋のCEOと職人集団のトップで兼業忍者の特別上忍。
彼らはこの結婚が決まったあたりから、何となく『様子がおかしい』。
オレは星宮家での任務依頼、意図的にあの家には寄り付かない事にしていた。
何故かというと、扇城一族の矛盾した行動に加えてアザミやミサキたち初等部時代に親友だった子らの証言を聞いたからだ。アザミ・ミサキ・オカヤの3人は初等部時代、アマツとはよく遊ぶ幼馴染だった。それ故に彼らはアマツの事を知っていた。オレには絶対見せなかった顔も表情も、吐かなかった弱音も。あの礼儀正しい、常に向上心に溢れた、誰よりも優秀なアイツは。一体どこに行ってしまったんだと、正直とても寂しいし悲しい。
アザミたち仲良し3人組から聞くには、アマツは扇城屋CEO一家から疎外されていたという。あの日のあの事件以来、色々あったがオレとアマツは兄弟とまではいかなくても上手くやれていたと思っていた。
が、実際は違ったようだった。それもまたショックで、裏話を聞いた日には食事が喉を通らなかった。
オレに対してはCEO一家はとても優しかった。職人集団を束ねる人物もまた、アマツに対しては冷淡な態度だったという。いつも「扇城の皆さん、みんな優しくしてくれて嬉しいよ」と話していた。
あのCEO一家の優しい顔は嘘だったのかと思うと、信じられない程に心が凍り付いていくように思えた。
そういえば、あの事件の時に殺された星宮家の『姉』は『うちは』に嫁ぐ予定だった。
一度血を薄めるためだけに娘を嫁がせ、そのまま扇城が乗っ取った星宮の家。その血はほぼ扇城で占められていた。オレは兄さんが言っていた『敵は身内にいる』という言葉を反芻しながら、扇城の家系図を出来る限り洗った。結果、星宮を踏み台として扇城と合流し、次の世代には『うちは』の影響を完全に排除して『扇城』が『うちは』のポジションとして里の有力な立ち位置に『成り代わろう』としているのではないかという説を見出した。だから、彼らはうちは一族を滅ぼそうとしたのではないか?
『星宮』という家を利用してスケープゴートとし、里と協調しようとしていたうちはを滅ぼす事によって。
ますます意味が分からない、理解できない。
「どうしたんだってばよ、サスケ。早く披露宴会場行こうぜ?」
気付いた時には兄さんとイズミさんの神前式は終わっていた。唖然とした。
「オレはちゃんと出来ていたか?」
「出来てたってばよ。何で?ちゃんと拍手とか礼もしてたぜ。でも、途中からボーってしてたな」
「なら良いんだ、ありがとう」
オレがさっさと歩きだすと、ナルトが「待てよ!」と追いかけてきた。
先頭をゆく『兄夫婦』は幸せそうで、胸が温かくなってくる。
「あっ、サスケ君たち!こっちよ!!」
桜色の振袖に、カラフルで豪華な帯を締めたサクラがオレたちを呼びつつ手を振った。彼女の隣にいる日向ヒナタは藤色の地味だが最高級の生地を使っていると分かるようなもの。山中いのは様々な種類の花が舞うような水色。ガイ班の先輩テンテンは、サクラのそれよりも何段階も鮮やかなピンク色。
うずまき香燐は後見人である老夫婦が選んだのか、かなり地味ではあるが落ち着いていて大人びた深緑。
砂隠れから参列したテマリは深い紫色で、年長者で落ち着いた彼女にはよく似合っている。
鹿島ライカは金色がちりばめられた豪奢な朱色、諏訪アザミは天龍湖名産の正絹で織られた濃紺の振袖。
このように、大体の十代女子は振り袖姿で参列した。出身家系や性格がよく表れていると思った。
★★★
野郎共の礼服など、見ても面白くないと。誰かが口にしていたが。
戦国時代から里が出来て数十年の間だけ使われた『うちは』の伝統装束に『お色直し』で着替えた兄は、あまりにも格好良かった。忍同士の結婚という特性上、あまり写真を撮影出来ないルールだがオレは網膜に焼き付けた。中忍選抜試験の時、オレもそれを着て戦った。何故だか血が滾るような、不思議な感覚がした。
余興など存在しない、静かな披露宴で良かった。
微風(そよかぜ)と野風(のかぜ)をはじめとした扇城一族の女性たちが、オレとシスイにやたらとアプローチをかけてくる以外は。少し愉快な事に、それに辟易していたシスイは「シスイさんナンパしに来ましたー!」などと言う香燐の手を取った。兄さんは笑っていた。オレも思わず笑った。
香燐は「マジで!?」と言っていた。面白くなりそうな予感がした。
それを見て扇城関係者がつまらなさそうな顔をしていたのを、オレは見落とさなかった。
形式ばった披露宴が終われば、後は本当に親しい者だけが招かれる二次会が待っている。
扇城屋のCEOと職人筆頭は大人たちばかりが集まる二次会に行き、オレたちは主に新郎新婦を含めた若者だけの二次会へと。扇城の奴らは三嶋フウレン特別上忍が上手く言いくるめ、大人ばかりの二次会行きだ。
隠れ家的コンセプトの店が多い諏訪軍団地区にある食堂を貸し切り、節度ある大騒ぎが始まった。
若者用の二次会に集まったのは幸いな事に知的な奴らばかりだったので、大騒ぎが行われていたのはほんの30分弱に過ぎなかった。誰かが知的な話題を出すと、それに乗ってくる者もいる。オカヤのように好奇心旺盛な者は、兄さんに『うちはの歴史』の話をせがんだ。幼少期から何度も聞いた、うちはと千手の戦いの歴史。勝者・千手の手によって編纂された歴史書とそれを元にした教科書からは知り得ない、敗者・うちはの視点から綴られた歴史を知りたがる者が多かった事に兄さんは驚いていた。
二次会から急遽参加してきた、星宮スバルとセイラの兄妹も歴史好きなようで興味深く聞いていた。
星宮兄妹はよくオレたちに協力してくれている。アマツについて知るために、アマツを連れ戻す、または倒すヒントを得るために。セイラは言った。「嫌な予感がするのです」、と。
そして彼女はオレに一冊のノートを渡してきた。「どうか守り切って下さいな」と言いながら。
二次会は楽しいままに終了した。途中で諏訪vs鹿島の乱闘が勃発しかけたが、楽しかった。
古来からの宿敵ながらも何とか休戦条約を結び、上手くやっている宿命の一族たち。
彼らの関係性を観察し、学んでいけばオレたちは里と上手くやっていけるのではないかと思った。
兄夫婦、シスイと共に家路につく。
今晩はやけにカラスが鳴いている。
まるで、あの日のように。
オレは思わず肩を竦めると、懐に入れたノートを抱きしめる様に腕を組んだ。
★★★
昨晩、星宮邸に何者かが侵入、何かを物色した形跡あり。裏庭で紙を燃やした形跡発見。
死者三名。星宮スバルとその妻ミチル(旧姓:守矢)、星宮スバルの実妹にして同居するセイラ。
死因は出血性ショックとみられる。なお傷は刃物によるものと断定。
星宮夫妻とセイラは昨日晩、うちは夫妻の結婚式二次会に参加。10時ごろ帰宅。
朝、親族が彼らと連絡がつかない事で訪問した事から事件が発覚。
★★★
比較的親しい知り合いという事で葬儀に参加した第7班だったが、オレはどうしても扇城屋CEO一家の態度や表情に違和感を感じざるを得なかった。言葉では説明し難い、妙な気持ち悪さを感じた。オレから見た扇城屋のCEOは常に大人の余裕を崩そうとしなかったが今は違っている。どこか苛ついていて、その息子である忍軍所属のハヅキも落ち着かない様子だった。オレを見て不安そうな表情をする。
そして、兄さんの結婚が決まった時から気がかりな事があった。扇城一族は突然、外部の友好関係がある家に養子に出していた忍者になった子供たちを呼び戻して扇城姓を名乗らせる動きが活発になっている。
(やはり、やはりだ・・・!)
あいつらは、何かを企んでいる!
何かをやらかそうとしている!!