4月に任務を依頼してきた女性とその兄、配偶者の人が何者かによって惨殺された。まさか昨日まで元気に笑っていた人たちが突然いなくなるなんて怖いし、本当に悲しい。驚いたのは当たり前で、それはそうとして実感が湧かない。イタチさんとイズミさんの結婚式二次会の時、星宮兄妹と奥さんはふらりと現れた。
梅雨の雨が墓地に降る。まるで水中にいるかのように錯覚する湿気が全身に纏わりつき、黒い礼服をべとつかせる。爽やかなが一切ない、驚くほどに不快な雨だってばよ。扇城屋のCEOと職人集団トップ、そしてオレと同い年である写輪眼持ちのCEOの息子・ハヅキが3人で何か話している。それをそっと観察するような眼差しを向けている三嶋フウレン先生と、その息子ウリュウさん。諏訪・鹿島・香取の若き次期当主たちが揃い踏みし、黒い傘を突き合わせるようにして小声で会話している。
(・・・よく分かんねぇ。けど、何だか不穏だってコトはオレにも分かるってばよ)
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7月前半のスクーリング週がやってきた。5月後半から6月前半のそれからだから、妥当な間隔だろう。いくら見知った同期生たちでも、先月みたいに結婚式の出席とかのイベントが無ければ少し見ない間に変わったヤツがちらほらいる。髪を切ったり、彼女や彼氏が出来たり。幸いな事に誰一人欠けることなく集まれる事がとても嬉しい。人間関係もまた、流動的なもんだと思い知らされる。先月まで仲良しだったのに、今月はどことなくよそよそしかったり。それを仕事に持ち込まないのがプロって教育されたから、任務には何の支障もないけど。
「ナルト、サクラ、改めて香燐について紹介する。将来共通の親戚・・・、いや、家族になるからな」
改まった顔をしたサスケの隣にいるのは、これまた真顔をしたオレの親戚うずまき香燐。今は亡きオレの母ちゃんみたいな赤い髪をした、快活なメガネ女子だ。昨年草隠れのやつらから酷すぎる扱いを受けていたのを助け、今では木ノ葉隠れの仲間。彼女も中忍で、木ノ葉の額当てが良く似合う。
「ウチさ、シスイさんと結婚を前提に付き合い始めたんだ。成人したらすぐ結婚する。改めてよろしく」
ぺこりと頭を下げた香燐の頬は真っ赤だった。
イタチさんの結婚式の時、「やっば!うちは一族ってみんなイケメンだし、ダメ元でナンパしてくるわ」とか言って、半ばノリ、当たって砕けろの覚悟で扇城の女子に囲まれるシスイさんをナンパしに行った香燐。扇城の女子たちに群がられて困りながらも、シスイさんは突然香燐の手を取って親族の席があるあたりまで連れて行ったのだ。
テンテン先輩が「あら、ロマンチック!」と言うような、こなれた仕草で。
彼氏持ちの女子達も赤面するほどにかっこいい一連の動きだったんだぜ!
「え、あれから進展してたのか!?」
「あれからウチと食事して、任務でご一緒して・・・、ノリじゃなくてもっと好きになった」
香燐はいよいよ茹蛸みたいになった。頭の上から蒸気が出てきそうなくらい真っ赤だ。
「おめでとう香燐さん。未来のうちはの嫁同士としても、これからもよろしくね!」
「こちらこそサクラさん。あ、ウチのことは香燐でいいよ」
「じゃあ香燐!」
「サクラ!」
女子二人がハグし合っている。もうすぐ始業のベルが鳴るんだけど、同じクラスの扇城一族女子たちが香燐を物凄い顔で見ているから気を付けて欲しい。ま、香燐くらいの腕っぷしがあれば安全だろうけど。
大好きな親友たちと親戚になるって、新鮮な気持ちだ。今からワクワクする。
そういえばイタチさんの結婚式でアザミが言ってた。香燐の手を取るシスイさんを見ながら、夢見るように。うちはと千手は色々あって最後まで分かり合えなかったけど、もし二つの家が愛で結ばれたら何かが変わるんじゃないか、って。うずまきは千手と遠縁だから、その範疇に入れても良いんだろうか。
ちなみに、年上で枯れた感じの紳士が好きアザミの春はまだ遠そうだ。だって忍者は大概ギラギラしてる。
だってさ、オレたちまだ14歳なのにアザミが好きなのは『枯れた紳士』。
ちょっと良いなって思ってた人が本当は実の父ちゃんだったなんて、一種の悪夢だってばよ!!!
今日は午後から社会科見学がある。民間人学校と同じように、忍世界以外の事も幅広く知って欲しいというフウレン先生の願いが込められた授業の一つだ。その前に午前中は4コマ、提出したレポート分についての授業を受ける。それからいつもより早く昼食を食べきり、みんなで出発!行先は扇城屋の製作所。
今年の3月、一般人向けの体験講座が開設されたとか。新聞に写真付きで掲載されてたっけ。
1限目は国語。今は『砂隠れと風の国』の文化や慣習に関するトピックスを扱い、漢字や文法について勉強している。
2限目は数学。数学とはいっても、データや表から読み取って分析する事に重点を置いている。
3限目は理科。自然科学が中心のカリキュラムで、性質変化や形態変化に役立つ内容重視。
4限目が社会。軍事史を中心とした、地理学と国際関係を絡めた内容。
午前中最後の鐘が鳴ると民間から採用された教官が帰る前に級長が起立、礼、の号令を掛けた。
「ふぅ・・・、終わったってばよ」
夏特有の熱気が籠った教室の戸は2限目と3限目の間で解き放たれ、薄いカーキ色の遮光カーテンが強い風ではためいている。空を見れば青い青い空が広がり、積乱雲が微妙な陰影を伴って驚くほど立体的に湧き立っている。夏、夏だ。今年もまた夏がきた。
「サクラはどうする。オレはこちらのBセットだ」
「私はAセットかな」
「デザートやろうか」
「ありがとね、いつも」
サスケとサクラちゃんは二人並んで歩いていく。何かこう、しっくりくる二人って感じ。
扇城の女子軍団もこれでは絶対文句が言えないだろう。
「ナルト君は今日どちらの定食にするの?」
「俺はぁ、勿論ラーメンセットだってばよ!」
「そうだと思ったよ。私もそうしようかな。たまには大盛でガッツリ、なんて」
ヒナタの言う”ガッツリ”は、普通の女の子の基準とは大きくかけ離れているんだよなぁ。
オレはヒナタがいくら大食いでも気にしないけど、他のヤツがかなり驚いてしまう。それでヒナタが嫌な事を言われたりするのが嫌で前年、オレは何度もそういうヤツらに釘を刺してきた。でもヒナタは敏感だからすぐそれに気づいて、一緒に出かけると食べる量を控えめにしててかわいそうだったんだ。
でも、またこうやって食堂でガッツリだなんて言ってくれるようになって嬉しい。
当初の日程通りオレたち2年生60人は昼食をさっさと食べ終わり、校庭に整列して点呼ののち扇城屋の工房へと歩き出した。サスケにとっては最近全く寄り付いていない場所。星宮家での任務以来、サスケは明らかに意図して扇城一族と関わらないようにしている。サスケはあれからずっと扇城一族を疑っている。
ある者は一心不乱に、またある者は表情を変えずに静かに、それぞれに割り当てられた作業机に向かって最高級品の団扇と扇を製作している。前CEOによる分かりやすい説明に耳を傾けながら、社会科見学の列はじりじりと見学者用のレーンを進んでいった。壁には『うちわで開こう、環境に優しい未来』『打倒マダラ』と書いた横断幕がかかっている。マダラって聞いて思い出すのは、うちはマダラっていう最強のうちは。
「質問だってばよ!」
オレは挙手し、前CEOに質問した。
「あの”打倒マダラ”って、どんな意味ですか?」
一瞬、ほんの刹那。前CEOの両眼が揺らいだような気がした。
オレの隣にいるサスケが微かに息を潜めたのを感じる。
「ああ、あれはね。『マ 真面目を馬鹿にすること』『ダ ダラダラすること』『ラ 楽ばかり求める事』の略だよ。たまたまあの人と同じ響きになっちゃってねぇ」
「へぇ。ありがとう、扇城さん!」
「何でも聞いてね、企業秘密以外は答えよう」
微かな声の揺らぎがあった。チラっと耳が良いミサキを見ると、そちらも難しい顔をしていた。
オレは今朝まで知らなかったが、諏訪・香取・鹿島という『御三家』のほか稗田や三嶋、霧島といった家々は里に移住してきたあたりからずっと扇城一族を注視していたという。全然知らなかった。歴史上そういった氏族は扇城の動きを見てきた。個人と集団を分けて考えつつも、単体では敵じゃない者がまとまると敵になる場合があるといつかオカヤが話していた。扇城も御三家たちからするとそういう扱いなんだとオレは思う。
「これからクラスごと交互に休憩とうちわ製作体験をする。まずA組は体験講座へ行こう」
ヤマト隊長の引率で、新しく作られたという『体験棟へと歩いていく。昔、サスケを訪ねて来た事がある大邸宅が垣根の向こうに見えた。その大邸宅は古くて、『うちは』の家紋が沢山あって。扇城の家紋はどんなだったか思い出せなかったけど、滅多に来ない本家だからとはしゃぐ扇城ツインズの背中を見たら思い出した。『うちは』に対抗するように複雑で線が多い、『団扇』ではなく『扇』が3つで構成されたそれ。上に1つ、下に2つ。扇の模様は『下弦の月』。まるで使い分けをするように、扇城本家の内装は二つの家紋がそこらじゅうで踊っていた。
あじさいが咲いた綺麗な庭には丸い砂利が敷き詰められ、平らで大きい飛び石を使って体験棟へのルートを作っていた。昔来た時、ここまで綺麗じゃなかった。もっと簡素な感じだった気がする。
A組一行は説明を受け、和紙を選んでそれぞれ体験を始めた。オレが選んだのは夕焼けみたいなオレンジ色。暑苦しくない、夏らしいオレンジを選んだってばよ。オレンジは好きだけど、この季節だと色味によっては暑苦しく見えてしまう。どうせなら癒されるオレンジが良い。ヒナタは薄紫、サクラちゃんは薄ピンク、サスケは藍染を思わせる深くて渋い色を選んだ。
糊を竹で作られた枠に塗り、和紙を張り付ける。よれないように気を付けながら丁寧に。
それから千切ったもっと薄い和紙やキラキラした飾りを使い、好きなように装飾する。
(そういえば、扇城家の奥には開かずの間があったんだよなァ。うっかり入っちまって、大慌てで出てきた事があったってばよ。後でサスケに言おうとしたら突然扇城の誰かに幻術かけられて何があったか忘れちまって・・・。何かすっげぇキモいもん見たような気がすんだよな。幻術かけられた割には九喇嘛何も言わねぇし。何だったかなぁ、う~、モヤモヤするってばよ!)
モヤモヤしながらも作業をしている最中、九喇嘛が何度も『あんなに気持ち悪い部屋など思い出したくない』といった趣旨の事を言って思考を邪魔してきた。やっぱお前バッチリ見てんじゃん!と言うと、九喇嘛は引っ込んでいってしまった。何でだ!
全員の体験が終わると、綺麗な『扇城』の銘が入った紙袋を貰ってそれに完成品を入れた。
う~ん、大満足の仕上がり。すっげー高く売れそう!売らないけど。
休憩のために貸切られている場所、それは新しく出来た観光食堂と土産物屋が一緒になった建物だ。今頃B組が体験講座の準備をしているだろう。そこには花輪がいくつも建っていて、出資者の名前が書いてある。
『志村○○』『志村○○』、と、志村姓ばかりが並んでいる。一般人として生きる志村の人だろうか。
同じ姓の有名人がいる。志村ダンゾウという人がいて、タカ派っていう立場。以前、サイ先輩が聞いてもいないのに教えてくれた。詳しすぎだろって思った。二代目火影様をとても尊敬しているらしい。
「どうしたの、大丈夫?」
心配そうにオレを見て話しかけてきてくれた人がいた。
額当てを巻いた、30代半ばくらいの男性。顔立ちからして扇城の人だろうか。
頭がズキズキする。吐き気が襲ってきたと同時に蘇ってきた記憶。
出されなかった手紙が積み重なって、山を作って。かなり昔の写真が大事そうに写真立てに飾られて。
『ダンゾウ様好きです、愛してる』『好きだ』『答えてくれなくてもいい』
部屋の主はCEO、今は忍者を引退しているけど大企業を率いる道を選んだアマツとサスケを養った人。
狂気を感じるほどの愛の囁きが文字となって部屋を埋め尽くしていた。
オレは別に同性同士で恋に落ちる事に偏見がないつもりだ。けれど、けれど!
もしもアレが異性同士の片思いでも、アレはない。
あの淀んだ部屋の空気は思い出したくない。どことなく饐えたような、嫌な感じがした。
九喇嘛が喋りたがらないのも分かる気がした。アレは明らかに見てはいけないものだったのだから。
(アレは、アレは無いってばよ―――!!)
というより片思い?片思いだよな。
あの人既婚者だし、同期にハズキという子供がいるし。
オレは頭に手を置いたまま、ひとまず「大丈夫っス」と答えた。
これから人間関係がもっと動いていくと思います(大体が片思い)
ダンゾウは転生者じゃないけど、知らない間に転生者一族を利用しています