8月6日
目覚まし時計のタイマーがセットされた通りに作動し、正午を告げた。
オレ・ナルト・サクラ・カカシ、1A担任のヤマトとその部下である2Aのサイの合同修行は終わった。
「お疲れサマンサ~」
カカシがどっかで読んだ事がある労いの言葉をオレたちにかけ、本日の合同修行は終わりを告げた。
パックンを抱き上げたカカシの隣では、A組担任であるヤマト上忍が勢いよく噴き出した。
「もう、カカシ先生ったら。無理して若者の流行りに乗らなくても良いんですよ!!」
「良いじゃないの、サクラ。オッサンには痛かった?」
サクラが何を考えたか、カカシに無理しないよう言うが当人の口元は微笑んでいる。
出来るだけイメージを壊したくないから彼女には言わない。コイツ、いつもこんな感じで修行つけてくるぞ、と。毎週のようにネタバレをオレに口止めするため、修行の度に昼食を食べさせてくれる位には、ある週刊誌に連載されている現在休載中の『呪術を廻って戦う少年漫画』が単行本化されるのを楽しみに待っている。イチャイチャパラダイスの次の次くらいに展開を楽しみに待っているのではないか?
「まぁまぁ、先輩。というよりサマンサって一体何なんでしょうかね?」
「俺も知らないな。お前ら知ってるか?」
「「「「知りませーん!」」」」
オレたちとサイ先輩に話を振られても、本当に困る。サマンサとは一体何を表しているのか、それとも語感が良いから語尾に付けられているだけなのか。果たして、サマンサとは。いつか分かる日が来るのか?
「なぁなぁカカシせんせ、聞きたい事があるんだってばよ!」
「待ちなさいナルト、私が先よ!」
こぞってカカシに質問をぶつけに行くナルトとサクラを横目に、水筒を片手に木の下の影を求める。
腰を下ろし、息を落ち着けると隣にサイが座ってきた。サイは担任・ヤマト上忍を上忍師としている1学年
上の中忍であり、巻物に書いた絵が出てくるという変わった忍術を使う。オレと見た目が少し似ているというのは女子達の情報で、実際はどうだか。ちなみにコイツはナルトとは割と仲が良い。
「サスケ君」
「何だ?・・・、いや、何ですかサイ先輩」
「呼んだだけですよ。あと、”山中”サイです」
(何だコイツ・・・)
この『山中サイと勝手に名乗る不審者』こと、2年A組のサイ先輩。山中いのとはバカップルで知られ、よく彼女の父親から追い回されている命知らず。青白い。将来は山中いのと結婚すると宣言している、クール系の外見に似合わず意外と熱い男、なのだが。今年から始まったフォーマンセル修行で接する機会が増え、会話する度にこの先輩に対する理解が遠のいていく。それに何故か、オレに積極的に関わろうとしてくる。初等部時代から知り合い同士の筈なのだが、未だによく分からない。
サイという1つ上の中忍は、彼と同学年でもトップクラスの実力者でもある。そのため日向ネジと共に、9
月から11月までの3ヵ月間を上忍になるための訓練部隊に入る事が決定している。つまりは12月から上忍。これまでは現役中忍または高等部のみの制度だったが、今年度後期から中等部の優秀者にも門戸を開いた。上忍訓練部隊は1度につき12週間、3ヵ月間。それが1年に3度あり、約12人が選ばれる。卒業した先輩・諏訪タツミらは、卒業してすぐこの課程に入って上忍になった。オレもナルトも、どうにか選ばれたいと思っている。サクラは医療忍者なので別枠の課程が存在するらしい。
6人で昼食を摂ってから、帰ってきた寮の自室へと上がりカーテンを閉め切る。巻物から扇城の日記を取り出し、広げた。昨日の続きを読む。挟んでおいた栞の部分を開きいた。壁に背を預けて胡坐をかけば、これで準備が完了する。巻物形式ではない、本の形をしたそれの表紙には扇城の家紋がある。
今日読む分は、里に移住してきてすぐの扇城シュンが書いた分とこれまでの分。
『木ノ葉隠れの里と、この里は名付けられた。マダラ様と千手柱間が築いた、違う一族同士が同じものを信じるという新しい暮らし。これからは皆で一緒にと言うが、彼らは独善的な部分がある。うちは一族は気づいていないかもしれないが、これから千手が全て主導で里の運営を進めていくような気がしてならない。理想主義はいつか破綻する。これまで商売をやる家に生まれ育ってきた以上、製品の企画をする機会が多かった。だから分かる。いつかボロが出る。商売をやっていると、嫌でも現実的になる。人は裏切る』
『マダラ様が里を抜けた。うちはの者たちに一緒に里を抜けないかと言ってきたと、仲良くしている者が教えてくれた。というよりも、この里に於いてうちはに対する扱いというか見方が偏っている。確かに、うちはの者が千手からしたら不気味に見えるのも仕方が無い。血縁だから分かる。客観的に見ても、うちはは人づきあいが得意ではない。言葉が足りない。そんな言葉が足らない者と、理想主義的な者。友情は成り立つかもしれないが、それ以上はどうだろう。いつか誤解が生まれる』
『マダラ様が大きな狐を連れて里を襲撃してきた。そして、火影様と戦って亡くなられた。色々あったが、マダラ様。あなたは弟のイズナ様を愛し、平和を願う優しい方なのだと認識してきた。分かり合おうと努力した。貴方って、結構自己犠牲的でしたよね。知っていましたよ。これからこの里では更にうちは脅威論が力を増すでしょう。僕も、誰も争わない平和で幸せな世の中を望んでいました。もしも、うちは一族が悪い扱いを受ける様になったとしても。僕たちは、扇城はそれを補っていきたい。手始めに武装を解除するつもりでいます。尊敬していましたよ、マダラ様。我らが”血族”の誇り高き頭領』
このあとすぐ、扇城一族の者たちは武器を取るのをやめた。そして忍者として働く者は友好関係にある星宮(ほしのみや)一族に嫁入りまたは婿入し、そちらの姓を名乗って忍者の仕事を続けた。また、星宮一族の一部は志村一族から嫁取りをした。居住地の立地の関係だろう。ここで星宮は分裂し、忍者を出す忍の家と一般人中心の2つに袂を別った。ここから扇城との婚姻による同盟関係が強固になっていき、幻術向きの強力なチャクラを持つ星宮兄弟が生まれてきた。
どうして星宮と婚姻関係を結んだのか。それは友好関係もあるが、何よりも『鹿島と香取』という強力な忍一族たちによって常に監視を受けているからだ。里からの信頼が厚い彼らから監視を受けていたのは星宮だけではない。諏訪もだ。諏訪は諏訪で、うちはと積極的に仲良くしようとしていた。監視されている者たち同士、純粋に友情を築きたかったのだという事は判明している。この奇妙な関係が功を奏し、扇城一族は里と何とか悪くない関係を構築した。
途中で忍界大戦が3度もあった関係で、喧嘩別れしたがうちはに対する愛情が深い扇城はイヤイヤながらも写輪眼を有する優秀な忍を輩出してきた。星宮との婚姻関係から、絶命した瞬間に写輪眼を封じる呪印を刻みながら戦った扇城。その呪印の伝統も第3次の頃には薄まっていったようだ。
次に、第二次忍界大戦時代の経営者。当時はCEOなどとは呼ばれていなかった。名前を扇城イリヤ。
前CEO、扇城マサキの年齢が離れた兄だ。親が再婚しているとしか思えない年齢差だった。
そもそもCEOとは何の略なのだろうか。里を助けるため、一度は触れるのをやめた武器の製造を開始した。
ここから直接的な親子関係じゃなくとも、一族内の優れた者たちから当主(経営者)を選ぶようになった。
だが、同時に日記としての体(てい)をなさなくなっていった。字体が違うだけで、誰が書いたものなのか分からない。自分で名乗っているもの以外は。しかし、現CEOと前CEOのものだけは筆跡で判別できる。それに現代的な字なので、正直あまり勉学が得意ではないオレにも容易に読めた。
『私は扇城イリヤ。元は忍だったが、若くして企業を継ぐため一度は前線から遠のかざるを得ない状況に追い込まれたが、今はまたこうして戦場に立っている。勝手なものだ、株主たちは。先ほどまで経営者として持ち上げていたというのに、写輪眼があると明かせば株主総会の結果またこうして戦場に呼び戻される事になろうとは。皆誤解しているが、民間人だからといって全員が平和を望んでいる訳ではない。好戦的な文民だって存在しているのだ。次男のマサキと、三嶋の次男フウレン、御三家自慢の息子たちが同じ前線にいる。三嶋の長男坊であるマツミが戦死し、フウレンは焦燥し切っている。相変わらず、うちははマダラの余韻からか里から危険視されている。信頼を得ているカガミ君のような者は稀にいるが、彼は特別。うちはに対して思うところは色々あるが、うちはもまた、犠牲者なのだ』
『この戦争はどうして起こったのか?ずばり、国家間の格差が深刻化したからだ。領土戦争でもある。公平に利権を拡大するための、エゴのぶつかり合いである。誰もが自分の国や里が一番なのは分かり切っている。突き詰めてしまえば同じ目的を持って戦っているのだから、分かり合える糸口があるだろうと私は信じたい。戦った先に一体何があるのか私は分からない。戦争が終わっても、おそらく20年ほどしか平和が続かないというのは常識だ。我々は何のために戦い続けているのか?』
『良い事を思いついた。全ての国や里という概念を無くし、皆で全てを共有すれば良い!財産を世界中の者たちで共有所有すれば”自分のもの”という感情の意味すら消える。貧富の差がなくなり、財産を独占する者がいなくなれば、これと同じ原因の戦争は起こらなくなるだろう。必要なものを必要以上に受け取り、無駄にするのは良くない。無駄は良くない。軍事費などその極端な例だ』
第三次忍界大戦時のCEOは戦場に立っていた、扇城マサキ。前CEOである。オレは彼に良くしてもらった記憶が多い。ハズキに対しても優しく、よく修行をつけてやっていた。火遁の他に風遁使いで、三代目火影とは同期である。数少ない、オレの中では全く疑いを持っていない扇城の人間だ。
『僕は扇城マサキ。あまり書くような事は無いが、何とかひねりだしていこうと思っている。話す事なんて、どうして僕を中継ぎにしたのかという父への愚痴くらいかな。父は今、不治の病と長く闘っている。吐血が酷くて失明している。ちなみの僕の他にも同世代の優秀な子がいたんだけど、彼らは経営者というよりも現場で陣頭指揮を執るタイプ。忍者として指揮経験がある、僕が選ばれてしまった。嫌だな』
『一族にトオルという子がいるのだけど、この子がまたリーダーシップに優れている。病床の父がもし亡くなったとしたらこの子を次期CEOに据えたい。だがまだ若すぎる。僕はしょせん中継ぎ。ピンチヒッターだ。せいぜい企業を安定させ、求心力を高めていかないといけないな。本当のCEOのために。また株主に怒られてしまった。私のように自尊心や自信を奪われないように、適切に褒めて伸ばしていきたい。良い子だ』
『アズサちゃんが、妹であるアオイちゃんを紹介してくれた。なんでも、小さな時から僕が好きだったんだと。かなり年齢が離れているのに、アオイさんは”マサキおじさまが良い”なんて言ってくれた。批判の声もあるけど、親友たちは応援してくれた。アズサちゃんは小さな時から辛い恋を現在進行形でしていて、妹にはちゃんとした恋をして幸せになって欲しいんだと。トオルはアズサちゃんを毛嫌いして怖がっているけど、トオルだって道ならぬ恋をしてる。うちの血筋は何というか、ままならない。色々とね。ここからが複雑なんだけど、トオルの奥さんになる人はアズサちゃんの真ん中の妹。これからややこしいなぁ』
『オビト君が亡くなってしまった。まだ十代前半で未来があったというのに。トオルはオビト君を亡くなったもう一人の甥、カケルに重ねていた。同い年だったからね。カケルもまた戦地で若い命を散らした』
『里に、うちはマダラが操っていたとされる九尾が襲来してきた。僕は会議中だったが、それをすぐ切り上げて星宮の者たちを中心に部隊を編成して警務隊の援護へと向かった。フガク君たちの奮闘で、犠牲者が減ったと信じてる。それでも、あの規模の攻撃を受けたら犠牲者が出ても仕方がないと思う。リスクとの戦いだ。経営も、忍者としての仕事も』
『アオイちゃんが亡くなった。僕たちの子、ハズキくんを守るために負った傷の後遺症で。クラッシュ症候群といって、血中カリウムがどうとか、それで心臓を止めたとか。空元気でもいいから、体を動かさないと』
『何故か、うちはの者が九尾を操ったと思い込まれかけている。僕たち扇城の部隊は三代目のヒルゼン君に潔白を証言した。いくら仲が悪くたって、助けたい。こうやって扇城はうちはを助けてきたんだから!』
『ぶっちゃけ、僕は株主たちから全然信頼されていない。そりゃぁそうだ。会社に居づらくて、もっぱら復興任務か工場の現場指揮ばかりしている僕は全然良い経営者じゃないだろう。息が詰まるし!内勤の忍者であり、優れた情報収集能力を生かして装備の調達をしているトオルをまだ若いけど次期経営者に据えるという動きが高まっている。トオルは優秀だから、躊躇うと思っていた。だが良い上司がいるみたいで、予備役という立場のまま家のために動く許可を貰ったそうだ』
『CEOを解任された、僕は自由だ。この年になって独身で子供がいない僕は身軽だ。これからフウレン君と一緒に復興がんばるぞ!やっとトオルがCEOになる。嬉しいな』
『トオルとハナエちゃんの間に生まれた、ハズキ君。まだ若い夫婦なのに、一族内の戦災孤児を引き取って育てるんだって。本当にえらい。キョウスケ君とアキラ君の兄弟みたいな。あと、アズサちゃんの子供二人を出来たら僕が引き取りたい。そう提案したら、激しい反対を受けて星宮兄弟は星宮神社の里子になった』
ここで、前CEOの日記分は終わり。オレがさっそく違和感を感じたのは『ハズキ』が生まれたというのに、最後には『独身で子供がいない』と言っている部分。キョウスケとアキラの兄弟が養子だとは知っていたが、まさか。背筋にうすら寒いものを感じ、想像を巡らせた。よく漫画や小説にある、ショックのあまり記憶を失っている状態にあるのではないかとオレは思った。それが事実なら悲しい。
そしてようやく、現CEOの部分へと到達した。
『私は扇城トオル。内勤の上忍として、情報収集と装備調達を担っている”室長”を歴任していた。この度、実家である扇城屋を相続した。私はかねてより装備品が時折部隊によって不均等だと思っていた。最新型が行き渡っていない場合があるのだ。装備調達室での経験を活かし、これからCEOとして里の経済を復興させる道を行こうと思う。先々代経営者である、扇城イリヤの思想に共感する部分が多いのでより勉強していく必要がある。今はみな等しく苦しい状況にある。これを打破するには平等さが大事なのではないかと考える。扇城イリヤが言っていたように”同志”を探さねばならない。いずれは世界で共感されるため、各国に同志を募る必要がある』
外面だけでも温厚そうな現CEOの姿と重ならない文章だった。刺々しく感じられた。
これでも、三嶋フウレンによる機密情報の検閲がなされているのだ。それなら何故三嶋特別上忍はハズキと前CEOの情報をオレに知らせたのか。意図が読めない。部屋の向かい側にあるナルトのスペースで、ナルトは最近では珍しく絵筆をとって絵を描いている。時計を見れば、深夜1時近く。
「ナルト、寝るぞ。あと5時間しかない!」
「へ?うっわ、今すぐ寝るってばよサスケ!!」
☆★☆
オレは目覚まし時計を叩いて止め、任務のために身支度を始めた。
部屋のカーテンを全て開ける。空気を入れ替えるため、戸も全開にする。
夏の朝特有の澄んだ冷たい風が心地好い。
「オイ、早く起きろウスラトンカチ!」
「目を閉じたらもう朝かよ!!」
ラーメン柄のブランケットを引っぺがすと、隣のベッドの主は突然入ってきた太陽の光に青い瞳を瞬かせた。余裕綽々で夜更かししているから、こんな事になるんだ。オレも人の事は言えないが。
今日は朝から第7班が久々に揃って任務へ行く。おそらくBランク任務を担当するだろう。
オレたち第7班はそれぞれの師から厳しい修行をつけられ、新しい戦い方のヒントを日々模索している。それがどれだけ役に立つか。是非試してみたいものだ。
食堂に降りると、そこは寮生とその班員でごった返していた。
実家暮らしの者たちでも、親や保護者が朝から忙しいなどといった理由でここに来る場合がある。あとは丁度良い待ち合わせ場所代わりとして。今日はサクラと食堂で待ち合わせをしているのだが、どこに座っているのか。オレとナルトは食堂を見渡し、サクラを探した。人ごみの中で目立つ、艶のあるピンク色の髪。
そこを目掛けて人込みを縫って、転ばないように進んでいく。
そして、オレたちの姿を捉えたサクラは口を開いた。
「二人ともおはよう!」
「おはよう、サクラ」
今日も綺麗だなと、続けてしまいそうになったが今は飲み込んでおく。
「おはようってばよ、サクラちゃん!」
サクラは3人分の席を取るため、既に彼女の分の朝食を机の天板に置いていた。
どうせカカシは少し遅れてくるから、少しゆっくり食べても大丈夫だろう。