木ノ葉教育戦国時代   作:宝石マニア

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サスケ君視点です

サスケ君の思考がぐるぐるしてます。サイ君のキャラが崩壊。

極光の意味=オーロラ。Northern Borealis


8 Bランク護衛任務!~不穏なる付き人

 扇城家の家族仲は、皮肉な事にアマツがいなくなってから格段に改善しているようにオレからは見えた。

それでもCEO夫妻とキョウスケ・アキラ兄弟の間には、埋まりそうで埋まらない溝が横たわっているように見えるが。『あの日』の二日後、病院のベッドで目覚めたオレとアマツは互いに焦燥し切っていた。俺の兄イタチか、アマツの兄カガセか。どちらがやったのか分からないが、捜査の関係で兄さんが犯人ではないかという方向になっていった。オレはどうしても兄さんがやったとは思えなかった。それに実際、カガセがオレの両親とアマツの養父母・義姉が息もなく倒れる部屋の中央に立っているのを見ている。兄さんは返り血を浴びたカガセと対峙していた。兄さんも返り血を浴びていたが、カガセも負傷していた。どちらがやったとも取れる状況だった。だが兄さんが立っていたのは、オレとアマツを守りながら戦える位置。切れ切れな記憶の中で、両親の遺体の他に鮮明に思い出せる確かなものだ。熱心に話を聞いてくれた警務隊の生き残りで当時非常に珍しかった他一族の隊員がいたが、彼は簡単な筈の里外任務の最中に突然死んだ。稗田の者だった。

 

 扇城家に引き取られたオレとアマツは当初、それぞれの兄イタチとカガセのどちらに憎しみを向けたら良いのか分からなかった。食が細くなっていたオレとアマツの面倒を傍で見てくれたのが扇城ハルキ中忍とその従弟であるタイキ中忍だった。オレについたのは一見不愛想な当時18歳のタイキ中忍、そしてアマツについたのが当時30歳のハルキ中忍。タイキ中忍は表情が薄く本当に愛想がないと思われがちだが、実際のところは根気強い性格で対等に接してくれた。だが本当に愛想が無いので、ちゃんと仲良く出来ているのかを扇城夫妻に心配された時もあった。彼が扇城夫妻と彼らの子供たち、そして養子であるキョウスケ中忍とアキラの兄弟との懸け橋になってくれた。後は職人集団を束ねる、前CEOの扇城マサキ特別上忍だ。彼は三嶋フウレン特別上忍の大親友であり、忍界大戦時には雷の国から里に繋がる山岳地帯で山岳連隊を率いて戦った英雄の一人である。オレにサバイバルに役立つ知識をキャンプで教えてくれた、頼りになる人物だ。

 

 一方、アマツは人当たりが良く優しい喋り方をするハルキ中忍にべったりだった。オレとタイキが対等な関係という感じとは対照的に、あの二人はかなり距離が近かった。元々はオレが首席でアイツが次席だったが、その頃からアマツが首席になった。「カガセを殺してやる」と息巻く猪突猛進なアマツに対し、何もハルキは言葉をかけずとにかく優しい目線と言葉で見守っていた。それに対し、教育に対して関心が強い扇城マサキ特別上忍はハルキとよく議論を戦わせていた。その話し合いがある度に家族はぎくしゃくしていった。言った、言わない、聞いていない、という言葉が家族内で鋭く飛び交った。正直、居心地が悪かった。だからオレは目の前の居心地の悪さに嫌気が差し、訳アリや諏訪祝(ほおり)家出身者のような遠隔地出身者が入る官舎に入った。幼少期からの親友であるナルトは自分から当時存命だった三代目火影に申し出て、官舎生活を選んでいた。官舎に入った理由は違うが、親友と同室になれてオレは本当に嬉しかった。

 

 

 

 ある程度大人になってから分かってくる事がある。その最たる例が、オレにとってはアマツを巡る扇城一族内の人間関係だ。幼かったオレには一切『人間関係を整理する』という考えが一切浮かばず、荒れるアマツと幼馴染のような関係にある諏訪オカヤたち第77班の面々にこっそり相談するしかなかった。目の前にあるぐちゃぐちゃした感情をその場その場で処理し、すっきりした気分になるだけで精一杯だった。故に、広く周囲を見渡す事がオレは出来なかった。今になってから、オレは扇城家の人々の気持ちを踏みにじってしまったのではないかと考えるようになっている。

 

             

 

 8月9日に天龍湖の湖畔にある高級リゾート旅館にやってきてからというもの、オレたちは毎日のように暗殺者たちを撃退していった。扇城夫妻とアキラ、そして3姉妹の護衛はめぐるましく過ぎていく。その最中で、まるで社会勉強だと言わんばかりにオレたちは天龍湖をぐるりと囲む集落―――というより立派な街だ、のそこらじゅうを連れ回された。天龍大社の上社・下社での体験は特に興味深かった。どちらにも観光客が沢山いるのだが湖の北東部にある下社は、南西部にある上社よりも周囲が栄えた雰囲気だった。しかし上社の静けさも良いとオレは思った。山が御神体とされており、道祖神や賽の神との関連性を指摘する研究者も存在している。サクラは天龍大社には夫婦の神を祀っていると知り、これからの武運祈願も兼ねて御守りを購入していた。そして何故か安産の御守り。聞いてみると彼女は笑顔で「近しい人にね、赤ちゃんが出来たのよ」と言った。

 そして、鹿島/香取と諏訪氏族の因縁を神社にある資料館で詳しく知った。いかにして諏訪氏族が天龍湖を目指し、土着氏族の守矢と戦って勝利し、この美しい湖畔に有力者として君臨するに至ったか。戦国時代が終わる間際の戦いで遂に諏訪が勝利したものの、有耶無耶にされ続けたまま今に至るがどうやって折り合いをつけて暮らしているのか。うちはもまた、千手との因縁を背負う一族だ。負けた側でありながら、力を失う事なく繁栄している諏訪氏族について知ればこれからうちはを再興し、発展させていくヒントが得られるのではないかと思った。

 

                     ☆★☆

 

 8月14日の今朝、ナルトとサクラは天龍湖の湖畔に佇む全寮制私立一貫校である『藤森学園』に出立していった。アキラと3姉妹が、9月からこちらに転校する事になっている。ナルトとアキラが非常に仲が良いが、ナルトにも秘密だったので悲しがっている。だがナルトは何故か「こっちの方が色々な意味で良いってばよ。教育的な意味で、絶対にこっちが良いってばよ」と頻りに口にしていた。理由は不明だが、ナルトはアキラたちが現CEOと離れた方が良いのではないと考えているようだ。そして、CEOの付き人である扇城ハルキとタイキという二人の中忍に対しても警戒している。聞いてみればオレたちが初等部生だった時代、オレが住んでいた扇城邸に遊びに来た時にハルキの方と「まだ話せない」が色々あったという。

 

「サスケ君。良ければ久々にお話ししたいのですが」

 

休憩室のソファに寝転がるオレに声をかけてきたのは、扇城ハルキだった。正直「ゲッ」と思った、一方頼りになる(とオレが勝手に思っている)扇城タイキは中庭で素振りをしているが、まだ止める様子はない。タイキは中忍だが、持っているスキルのバランスが良いと評価されている。写輪眼は無い筈だが、写輪眼を持つオレの戦闘訓練に付き合っていたので瞳術への対処スキルが他の奴らより高いと思う。

 

「・・・オレで良ければ」

 

「それは良かった」

 

ハルキ中忍は人好きのする笑顔を浮かべ、オレの向かい側のソファに腰を下ろした。

 

オレはこの、ニコニコとした表情を基本崩さないコイツが苦手だ。何を考えているのか、あまりにもよく分からない。そういえば第77班は下忍になってからというもの、コイツをまるでアレルギーか何かのように嫌っていたな。アマツとの不協和音が聞こえ始めてから、あいつらはオレなどよりもずっとアマツに向き合う努力をしていた。今思えば、オレはあいつらに甘えていたのかもしれない。言葉が通じないと思って諦めていたオレと、いくら「努力が足りない」「甘えるな」「結果を出せ」と一方的に言われてもユタカ班にボコボコにされても、屈せずに扇城家の人間にまで働きかけようとした第77班(あいつら)。第77班は扇城ハルキと話し合った結果、完全に瞳から輝きが消えた状態で帰ってきた。

恐ろしいほど冷たい声で「もう知らん。あいつどうにでもなれ」と言い出す程に目が死んでいた。以来、仲が良いハズキとの関係で扇城の家を訪ねてもハズキいわく「殺気マシマシ」でハルキを毛嫌いしていた。

 

「サスケ君?」

 

訝しんだような声が掛けられたので、オレは額に手を当てたまま返事する。

何かを、何かをオレは忘れているし見落としている。そんな気がした。

だから状況の変化は極力避けねばならぬと思った。

 

「いや・・・、少し疲れただけだ」

 

 

 

 オレはハルキとしばらく、旅館の番頭である藤森姓の男性(婿養子らしい)が持ってきた裂きイカを食べながら雑談していた。その内容は何の変哲もない雑談でしかないが、ハルキはオレの同期達の話を聞きたがった。だが、オレは信頼できない人にそういう事をベラベラ話さない方が良いと兄さんから強く言われているので最低限しか教えないよう心掛けた。例えば家族のギスギスが理由で家を出たハズキについて、ハルキは話を聞きたがったので普通に「ハズキは元気だ」と伝えた。それにハルキは淡々と「そうですか」と応えるのみ。あっちはオレの真意を理解してるのか、望んだ返答が得られない故の態度なのか。

 話の流れで初等部時代の話になり、ハルキは静かにアマツの話をし始めた。オレはあえてこちらから聞かず、とりあえず相槌を打っていた。ハルキが話すのは扇城家に来る前の、赤ん坊だった頃に引き取られた星宮(ほしのみや)家での寂しさ。優秀な兄カガセに対するコンプレックス、『あの日』のあとのハルキにしか話さなかった心情、そして扇城家での家族とのすれ違い。復讐心との折り合いの付け方にアマツが悩んでいたと知り、オレは驚いた。オレはあくまでも扇城に対して疑念を持つ調査チームの端くれというスタンスなので全てを鵜呑みにしはしないが。予想はしていたが、アマツは『家族』を信頼出来なかった。

 三嶋フウレン特別上忍の秘書である中忍のくのいちに家庭での不協和音について相談したが、取り合って貰えなかった事。それがアマツにとって「木ノ葉隠れに自分の居場所が無い」と思わせるきっかけの一つになったのではないかと、ハルキは悲し気に言った。それが、アマツが同世代では突出した能力を身に付けて里に「自分の存在を認めさせる」と決意させた理由になったんではないかとも。

 

「君はカガセ君に復讐したいと思いますか?」

 

オレは無意識に肩をビクりと反応させていた。天龍湖の湖岸に波が打ち寄せる音がやけに大きく聞こえるような気がする。『あの日』に関する話をされると、未だに一瞬だが焦燥感が精神へと打ち寄せてくるのだ。

 

「質問の仕方を変えます。君は何故、君自身がアマツ君よりも弱いと思いますか?」

 

最早温厚さの欠片もない殺気染みた視線がオレを射抜いた。正直少しゾクゾクしている。

誰だよ、コイツを『温厚で人好きのする万年中忍』だって表現したヤツは!

 

「オレは・・・、カガセに復讐したいと思う。両親と一族を殺したカガセが憎くて堪らない。憎いには難いが、アマツが持つ復讐心とは違うと思っている。オレはカガセが憎いが、適切な裁きを里に下して欲しいと望んでいる。オレ以外にもカガセを憎む者は沢山存在しているから、そいつらの考えも織り込んだ証言によって法で裁かれるべきだ。オレの独断で復讐し、オレが先陣切って殺すのはオレが思う復讐じゃない!!」

 

つい、声を荒げてしまった。この階にいる人間に申し訳ないと思いつつ立ち上がって周囲を見渡すと、冷蔵庫のまかない漬けマグロをこっそり摘まもうとしている番頭と目が合った。番頭は幸い忍者の世界について知らない者なので、軽く会釈してから席に座ってオレはハルキと向き合った。

 

「そう・・・、ですか。分かった。君に足りない者は一体何なのか」

 

オレは今度は視線を伏せず、ハルキの言葉を待った。

 

「憎しみです」

 

アマツと同じ事を言うんだなと、オレは率直にそう思った。口には出さないが。いなくなる前の4ヵ月間のアマツは、いつもオレにそう言っていたからだ。憎しみが足りないと、オレに対して忌々し気に幾度となくそう言っていた。分かり切った事を言われ、オレは拍子抜けした。

 

「ごめんね、気が滅入る話に付き合わせてしまった」

 

「いや、別に良いが・・・」

 

                     ☆★☆

8月15日 18:00

 

 ちょっとした買い出しから帰ってきたら、愛しの恋人が楽しそうに浴衣を見せてきた。この1時間の間に何があったのか知らないが、予想はついている。天龍湖の南部にある小島から上げられる花火と、大規模な縁日が木ノ葉隠れの住民にとっても一大観光行事として有名になっている。そう、花火大会である。街のそこらじゅうにポスターが張られ、こういった行事に疎いオレでも祭りの気分にさせられてしまった。

 

「ねぇねぇ、サスケ君。17日に何があるか知ってる?」

 

「花火大会だろう?嫌と言うほどポスターを見てるからな。一緒に・・・、行きたいのか?」

 

「・・・もちろん」

 

「オレもお前を誘いたかった。お前がいなかったら気が乗らないが、お前が行くから行きたい」

 

扇城夫妻とアキラと一緒にサイとナルトが浴衣選びに興じていると思っていたら、背後から近づていくる気配が一つ。サイだ。恋人の山中いのと花火大会に参加できず、無表情のクセに実はいじけている事間違いなしの自称『山中サイ』。まだ結婚していないというのに山中姓を名乗る不審者である。

ヤツはオレの背後を取り、「ねぇ」と一言。ナルトは呑気に浴衣を選んでいる。オレとしては男は浴衣よりも甚平が適切だと思っている。何故かというと、手裏剣ホルスターを付けられるからだ。だが浴衣ならば羽織によってポーチ類が隠せるだろう。だが浴衣姿の自分たちに変化するという手もありそうだ。

 

「サスケ、サクラ。イチャイチャしていないで護衛計画の練り直しだよ」

 

「すまない」

 

「ごめんなさい、サイ。私たち任務中なのに」

 

「分かればいいよ。さっさと新しく計画を練ろう!」

 

山中いのと花火を見られない事でいじけているのを、サクラも感じ取っているようだった。はしゃぐナルトを一旦黙らせるために小突く力の入れ方が、普段よりもずっと強い。ナルトはサイが見せる笑顔とのギャップに驚き、「いのがいねぇからって・・・」との言葉に殺気すら放つ始末。しかしサイはナルトも彼女であるヒナタと一緒に花火が見られない事実に気付いたようで、「ナルト、キミだけはボクの仲間だよ」と言って一方的に肩を組み始めた。普段は絶対見せない姿に、オレは状況が許すなら噴き出してしまっただろう。

隣から「あの明るさはやけくそね。いのも大変だわ」と呟くようなサクラの声が聞こえた。

 


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