ここから服装がチャラスケェになります
8月21日 早朝
目覚まし時計で目を覚まし、顔を洗って髪を梳かし、身支度を整える。黒いVネックに濃紺をした立ち襟の半袖シャツを重ね、うちはの家紋を象ったペンダントを垂らす。扇城トオルCEOに貰ったペンダントとブレスレットは一見すればどちらも普通の装飾品だが、忍具を口寄せする術式を刻める仕様になっている。扇城屋が創業当時から大切にしているのは、扇と団扇の製造だけではない。忍具と忍装束の開発、生産、販売、整備が扇城屋が扇城屋になった当時からの伝統的な仕事だ。今でこそ不動産部門と食料品部門が存在していて喫茶店(カフェ)を経営しているが、それらは当初、職人たちの憩いの場を提供するために始まったあくまでも会社内部の需要にこたえるためのもの。扇城マサキ前CEOにとっては、職人たちが日々楽しく働いてくれる理由が出来る―――それだけで十分だった。扇城トオルCEOとしても似たようなもので、その対象を仲良くしている工場周辺他社にも広げた位だ。現在は火の国のそこらじゅうに展開しているが、ここまでは現CEOと前CEOの考えに沿っている。しかし、ここからが会社のこれからに関わってくる問題だ。国外に広めたい派閥と、そうではない派閥。前者は同時に、後者はあくまでも木ノ葉隠れと火の国のために堅実な経営を続けていきたいと考えている。
旅館『ふじもり館』の厨房が腕によりをかけた朝食を食べてから、土産物が揃ってるのかを確認した。兄夫婦の分、9月に学校で会うクラスメイトと隣クラスの分。そして教師と講師の分。恐ろしい事に、オレとナルトは夏休みの宿題を怠っていたいたためサクラに早く終わらせなさいと叱られた。怖かったが、これはオレたちが悪い。サクラとサイが「教えようか?」と言ってくれる事が本当にありがたい。しかし天龍湖周辺での修行だけは欠かさなかった。天龍湖の地域は自然が豊かだ。『八峰岳(はちみねだけ)』なる8つの山からなる連峰が北東部から南にかけて上から並び、その山麓には中忍選抜試験で行った霧ヶ原大湿原が広がっている。観光地でありながら、諏訪軍団にとっては修業の地。どうせならばとそこで修行する許可をこの地域の祭祀のトップである諏訪タツミの父親から得ると、オフの度にそこで修行をした。珍しい植物の違法採取や密猟を見つけたら捕縛し、麓へと連れてくる事を約束して。結果、5人ほどの違法採取をする一般人を捕らえた。ナルトは礼として珍しい山野草の鉢植えを貰っていた。オレには高原で栽培された高級トマト。それは期限があるため、旅館の厨房に依頼して夕食の食卓に並んだ。やはり天才と言われる若き農家が育てたトマト。それはもう素晴らしい味だった。
2週間近く毎日の休憩を過ごした縁側に出ると、そこには扇城ハルキとタイキの二人が既に里へと戻る準備を整えて待っていた。二人はいつもと変わらない。にこにこと人当たりの良いハルキと、基本的に寡黙でストイックなタイキ。この任務中、指導力に優れたハルキからのアドバイスは非常に的確かつ有益だったが。それでもオレとナルトには合わなかった。CEOからも指導を受けたが、彼のやり方は彼のやり方で合わない。だが同期の第77班には合っているのだから本当に人それぞれだ。上忍師に限定されず、合った指導法の特別上忍と上忍に容易にアクセス出来るのが現行制度の利点だ。だから余計に違和感があるんだろう。
縁側に座って待っていると、CEO夫妻が出立の準備を終えて出てきた。これから2週間ぶりに木ノ葉に帰還する。ナルトは火影直轄忍者学校初等部の教師である、うみのイルカ中忍に土産物を渡す事を楽しみにしている。サイはヤマト上忍と美術部の後輩たちへ、サクラは両親と医療忍者養成課程の友人たちへ。オレは当然兄夫婦、そしてハズキ、キョウスケのために土産を買った。もちろんカカシへの土産も忘れてはいない。旅館の中にある土産物屋は非常に充実していた。林檎で作った菓子のほか酒類、ペナント、根付、名産品である黒曜石と翡翠の標本や装飾品など。一般の観光客たちで朝から賑わい、楽し気な雰囲気で満ちていた。
「さて、と。2週間ぶりに木ノ葉に帰りますか!!」
行きとは違い、帰りは拍子抜けするほどに扇城トオルを狙う者が一人も現れなかった。不自然さすら感じた程に。あっさりとオレたちは木ノ葉隠れへと辿り着き、その通用門を潜った。そこに待っていたのは兄さんとシスイ、ナルトの父方・波風家の親族、サクラの両親、ヤマト上忍だった。会いたかった者たちに出迎えられ労いの言葉を貰ってすぐ、報告書を携えて任務報告をするため五代目火影の許へ。五代目火影から盛大に褒められ、喜びを噛み締めていると、部屋の外で待っていた兄さんが「知らせたい事がある」と言った。
そうしてオレは寮から幾つかの荷物を持って、実家を訪ねてくる予定のナルトとサクラ、サイと共に兄さんに連れられて歩き出した。サクラは何かを知っているようだが、教えてくれない。足取りも軽い。手には天龍大社で購入した安産守が入った袋と、試食の結果、一番爽やかな味がするらしい口当たりの良い菓子。まさかと思いながらも歩き続けているとサイもまた何かを悟っているような表情で、目許に笑みを浮かべていたのが見えた。ナルトも似たような調子なので、その”何か”に気付いていなかったのはオレだけのようだ。だが理解できたような気がする。来年にはうちは一族がまた少しだけ賑やかになるだろうと。
「ただいま、イズミ義姉さん」
玄関先でまずは無事に帰ったと報告すると、イズミ義姉さんはオレたちの同期で兄さんの教え子でもある諏訪アザミ中忍と一緒に出てきた。教え子唯一のくのいちであるから、女性特有の事象に関しては頼りになるんだろう。中身がやたらと大人びているからな、この同期は。事実夕日紅や卯月夕顔といったかなり年上の女友達ばかりいる。
「おかえりなさい、サスケ。あれ?おしゃれになったんじゃない?」
「・・・そうですか?」
「似合ってるよ」
新調した任務服を褒められ、オレは思わず笑顔になった。紡績で企業を大きくしていった藤森財閥の、天龍紡績というグループ会社は木ノ葉隠れに支給品の一部を納入している。そちらの役員と偶然話す機会があった時に、彼がプレゼントとしてくれたのだ。花火大会の翌朝、旅館に届いていて非常に驚いた。
「イタチ先輩。僕たちに伝えたい事とは一体何ですか?」
「実はイズミが・・・、俺の妻が妊娠した。来年には家族が増える。うちは復興第1号になるんだ」
わっと沸き起こる喜びの声に、兄夫婦は揃って照れくさそうに「ありがとう」と言った。いざはっきりと知らされてみると、嬉しくて言葉が出てこない。
兄夫婦二人の家になっているこの実家で暮らして勝手に家政婦のような事をしている干柿鬼鮫の声も台所から聞こえてきた。あの鮫男、気づけば実家に普通に暮らしていた。かなり健康管理を気にしており、信頼に足る人物だ。
サクラは医療忍者だけあって既に気付いてたらしい。イズミ義姉さんは修行を見て貰おうと家に来ていた兄さんの教え子である諏訪アザミを付き添いにして病院に行き、病院にいたシズネ上忍から正式に第一子『妊娠』を告げられた。その前にはサクラは義姉さんの無意識の仕草が病院にやってくる妊婦と同じだと感じ、「もしかしたら」と思っていたという。サクラが天龍大社上社で安産守を買っていたのと、彼女の言葉に納得した。サイは今から山中いのと将来結婚するため、本で勉強を重ねているので察していたという。ナルトに関しては完全なる直感。オレはただ義姉さんが体調が悪くて心配だった。
★★★
いくら休みを貰ったとはいえ、修行を緩めるつもりはない。ナルトは自来也師と修業を兼ねて里の外へ3日間い予定で行き、サクラは五代目火影と姉弟子シズネ上忍と共に医療忍術の修業をしている。昨日はしっかりと休んだ。オレはというと、カカシに見られながらの同期との模擬戦だ。普段戦わない相手と戦う事によって、自分の弱点を探し出すという目撃である。その相手は諏訪オカヤ。最近急成長を見せている若手中忍の一人にしてオレの同期、隣のクラスの注目株である凄いやつ。
微かに秋の気配が混じってきた晩夏に似つかわしくない凍てつく空気が演習場内を支配しようとしている。オレは鳥肌が立つのを感じながら手裏剣を構え、冷気の支配者へとそれを投擲した。しかし手裏剣は空気中に現れた霧が瞬時に凍り付くことで防がれ、正直驚いた。安定したチャクラの供給からなる過冷却。
そこにいたのは落ち着きのない新人中忍ではなく、快活ながら落ち着いた一人前の氷遁遣いだったのだから。カカシが背後から「なかなかやるね」と、微かに期待の入り混じった感嘆を零した。
演習場内の池を水源とし、吹き抜ける夏の風を味方に付け、諏訪オカヤが行使する氷遁による氷柱が地面から突き出してきた。あの冬、鹿島ライカに敗北した時とは比べ物にならない精度と速度を以て、オカヤはオレと演習場で相対している。その表情は最早ライカを恐れていないだろうと思わせられた。
「やるじゃねーか、オカヤ!」
「マジで!?俺褒められてる!?ヤッター!!!」
素直に口に出した途端、オカヤがはしゃぎだした。困惑しながらもオレは再び手裏剣を投げた。今度はそれに火遁を纏わせてやろうと思う。その瞬間、カカシが僅かに表情を変えたような気がした。困惑の方向へ。何故ならばオカヤはこれ以上に無いほど嬉しそうな顔をしていたからだ。
(コイツ、褒められ慣れてなさすぎだろ!・・・だが、それが隙を生む。喰らえ、火遁・鳳仙花爪紅!)
兄さんから教わった火遁・鳳仙花の発展技を放つ。オカヤは氷の防壁を張るが、強度の甘さから簡単にそれは破られた。カカシが「ハハハ」と小さく笑っている。続いて「そこまで!」と声が掛けられ、オレとオカヤの模擬戦は終わった。勝者はオレ。オカヤは少し残念そうだが、かなりの健闘だったとカカシは評価した。与えられた時間は同じだがオカヤは持っている術を無制限で、対してオレには使用術の制限という縛りが課せられていた。オレとナルトを1月からの上忍候補生に推薦するのをカカシは考えていてくれているため、こういった『状況に適応する』修行へと段階が移り変わったのだ。
「さてさて、今日の反省会をしようか。諏訪オカヤ中忍、協力ありがとうね」
「そんなそんな、いつでも協力するッスよ。こちらこそサスケ君と縛りはありますが戦わせて頂けて嬉しかったです。俺もサスケ君が本気でやり合える位強くなれると良いんスけどね・・・」
「でも結構良かったと思うよ。ホラ、メモしておいたから修行に役立ててね」
カカシは模擬戦を見ながら書いていたメモをオカヤに渡したあと、幾つかアドバイスをした。オカヤは普段イタチ兄さんとヨリヤ上忍、そして諏訪の頭領から修行をつけられている。中忍選抜試験を終えて以来、オカヤの成長は著しい。どんどん諏訪流氷遁忍術を習得し、氷遁遣いとして忍軍から認識されている。
「ありがとうござます!大事にします!!」
「大げさだなぁ。でもそんなに喜んでもらえると教え甲斐があるな。ねぇ、オカヤ中忍。また誘うかもしれないけど、良い?」
「良いんですか?やったー!楽しみにしてます!!」
オカヤはこれから予定があると言っていたので、何度も何度もこちらを振り返りながら礼をしては「ありがとうございました!」と言った。カカシは良い笑顔で手を振り返し、「転ぶなよ~」と言っている。親切で困っている人間を放っておけない、心優しい諏訪オカヤ中忍。お人好しでお節介で元気一杯な、遅刻癖は無いのが幸いな熱血氷遁遣い。カカシは何かとこの同期を気にかけている。優秀な鹿島ライカのライバルを自称できるほど精神的に強くなったオカヤが彼女と張り合う姿を見て、カカシはふと遠い場所を見るような瞳をするのだ。オレはその理由を知っている。忍界大戦で戦死したうちはの英雄、オビト中忍とカカシが同じ班だったからだ。写真で見せて貰った見た目も共通点もオビト中忍とオカヤにはあまり無いが、どこか重なる部分があるんだろうと思った。僅かな共通点は『血継限界を血に宿す』、『名前の響き』位だろう。
「・・・あんた本当にオカヤには優しいよな」
「ちょっとね。・・・あんなイイ子を泣かせるのは妙に気が引ける。それもそうだがサスケ。あの漫画の最新刊買ってきてくれた?主人公君元気かな~」
「ほら。またいたぶられていたぞ」
投げ渡してやると、カカシは嬉し気に目を細めた。親切でお人好しな、苦難と立ち向かう人物とキャラクターがカカシは案外好きらしい。カカシが気に掛けるキャラクターと人間の基準を考えた稗田ミサキが提唱した『オビトさんポイント』が高ければ高いほど好きになる、という説もあながち間違っていないような気がしている。三次元も二次元も問わず、そのポイントは適用されているんだろう。
「ありがとう。アァ~、また地獄だよ!!」
ぱらぱらとページを捲ったのち、単行本はカカシのポーチへと丁寧に仕舞われた。カカシは今日の良い点と悪い点をズバズバと指摘し、かなり辛辣に注意していった。非常にキツいがためになる、一度兄さん繋がりで第77班と合同修行をした時には戦闘に自信が無い稗田ミサキが半泣きになる程のキツさ。しかし的確。
「サスケ。次は諏訪アザミか扇城ハズキを呼ぼう。まだちゃんと戦った事無いデショ?」
「確かに無い。一緒に任務をこなした事はあったが・・・」
「じゃ、決まりで」
そう言うと、カカシはドロンと瞬身で消えた。最近カカシは忙しい。里一番の手練れという評判は嘘じゃない。胡散臭いのは見た目だけだ。兄さんは今日は任務だ。オカヤもミサキもこれから修行の予定。サクラもナルトも師匠たちに修行をつけて貰っている。チームメイト2人の師匠は伝説の三忍の二人。最後の一人である大蛇丸がもし里で暮らす健全な人間だったら、オレは弟子入りしていたかもしれないと思った事がこれまであった。しかしアマツ里抜けの際に捕縛された『音の四人衆』『君麻呂』というやつらに情報部隊が尋問した結果、使っている術などが割と気持ち悪い感じだったのでオレは考えを改めた。しかし、三代目火影と戦った時に使っていたという刀剣は欲しいと思った。どうにか真剣に鹵獲できないものか?
土産物を扇城一族のハズキとキョウスケに渡せば、二人は笑顔で受け取ってくれた。オレはこの2週間、二人が何をしていたのかを尋ねた。二人は共に任務をし、兄さんとシスイに修行をつけてもらい、イズミ義姉さんを助けていたという。アキラと三姉妹が無事に天龍湖の湖畔にある私立藤森学園に行ったと伝えると、笑顔で「良かった」と顔を見合わせて口々に言った。二人はあの三姉妹にとって素晴らしい兄だ。直接血が繋がっておらずとも、誰から見ても信頼し合う仲の良い兄妹である。アキラとも選んだ道は違うが兄弟として良い関係を築いている。だからこそ、それを思うとアマツとこの兄弟たちの関係の緊迫具合があまりにも不自然だ。「言った」「言ってない」の争いばかりで、元来おとなしくて正直者であるハズキとキョウスケ、そしてアキラにとっては辛かっただろう。民間人として生きる道を選んだアキラには猶更だ。しかしアキラには忍に嘘が必要な事を理解するだけの覚悟とオレより何倍もずっと優れた頭脳がある。大人たちと対等に話せる未来の経営者としての知識を学んでいる。それが救いだろうか。