「なんか親族の女子が実家に住み着いているんだが・・・」
8月29日
今年に入った辺りから猪鹿蝶をはじめ、日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノといった名門旧家出身者と上手く予定が合わせられなくなってきてはいた。彼らには彼ら固有の術や伝統があるからで、オレたち位の年頃になると分別がついてくるなどいった理由でそういったものをより深く学ばされるようになる。うちはの生き残りであるオレはというと、兄さんの方針で義姉さんと三人でうちはの歴史を新たに編纂するという作業を勉強を兼ねて行っている。巻物にあるうちはの術を分かり易く纏め、これからの子供たちがもう少し学びやすくするよう術の検証を兼ねた修行を課せられている。勿論、うちはの庶家・扇城のハズキとキョウスケも一緒だ。この修行法はかなりの成果を挙げており、特にハズキの成長が著しい。
そういった出身一族の誇りに関係する修行や教育を本格的に施されるようになった者たちの中には勿論、これまで「オレたち結構ヒマな方だから!」と強調していた諏訪オカヤと稗田ミサキも含まれる。サクラもサクラで医療忍者養成課程の学生かつ、五代目火影の愛弟子。たまにカカシが招集する集合訓練か学校、たまに一緒になる任務、重なった非番の日位しか一緒に修行する時間が無い。多いように見えて、取れる時間は僅かだ。
「おはよう、サスケ君。朝ごはんとお弁当が出来ているわよ」
「「一杯食べてよね!!」」
ピンク色のエプロン姿で台所から出てきた長身の女性は、シスイが好きだった扇城屋グループ企業社長の娘である、医療忍者の扇城カオリ中忍だ。彼女の隣には同じく背が高い別の扇城の双子の少女がおり、握り飯を沢山作って盆の上に載せていた。オレより背が高い双子は扇城野風(のかぜ)と微風(そよかぜ)中忍。火遁と風遁を遣う双子。オレより背が高い扇城の女性3人に囲まれ、微妙に複雑な気分になりながらもカオリから弁当を受け取る。オレに弁当を渡したカオリは時計を見ると、大急ぎで「ごめんね!」と言いながら玄関から出ていった。双子も「「やっべ、うちらも行くね!」」と同じように出ていった。初等部時代から『扇城ツインズ』と呼ばれていたこの双子、医療忍者候補生だ。どうやらこの二人、昔はオレの事が好きだったらしい。今は170センチと現在165センチのオレよりも長身で、オレの身長を追い越した瞬間からその気持ちが冷めたという。今は二次元の男にしか興味が無いのだとか。
誤解されたくないのだが、彼女たちはオレや兄さんに頼まれて家事をやっているのではない。自分から「やりたい」と言って、楽しそうに朝食を作ったり選択をしたりしている。
「活気があって昔みたいね・・・」
妊娠中とはいえ、くのいちである事に変わりがないというイズミ義姉さんが寝室から出てきた。義姉さんは無理をしない程度に体を動かすのが日課だ。太腿に手裏剣ホルスターを付けている。今はパートタイムで内勤の業務を行っている。警務隊事務の仕事だ。軽く手を振って見送っていると、ふと背中に生暖かい温度を感じた。
「・・・兄さん」
気配もなく立っていた兄さんに振り向くと、兄さんは「まだまだだな」と言って口許に笑みを浮かべた。
こうして兄さんは時折、オレが何秒で気付くかどうかを試してくる。ちなみに兄さんはオレと同じ時期に星宮カガセを探す任務に行っていたらしいが、何の成果も得られなかったと話してくれた。
朝食を口に運んでいて暫くすると、表側の通りが段々と騒がしくなってきた。うちはの居住区がこれ程に賑わっていたのは6年前のあの日の直前にまで遡らなければあり得ない。あとは去年、建物を任務として整理した時くらいか。外から響いてくるのは主に扇城の血を引く忍者やその家族、そして職人たちの声だ。扇城一族の理念をずっと忘れていない者たちである。その中に混じるのは、今やCEOという大仰な名前を捨て去り一人の木ノ葉の忍に戻った【忍軍装備庁・調達部長】扇城トオル”上忍”と、同じく【忍軍装備庁装備研究本部 技術顧問】としての再出発を迎える扇城マサキ特別上忍だ。五代目火影との会議での退任要求と、グループ企業社長、そして腹心だと思っていた会社役員たちによる"仕組まれた"退任追い込み劇。いかにして二人は集った血族たちと共にうちは居住地区の廃墟にやってきたのか。
オレたちが里に帰還したのが8月22日。ナルトが自来也師との修行キャンプから帰ってきたのが25日。26日に、それは起こった。五代目火影が扇城トオルとマサキの二人に対し、扇城屋本社【軍需部門】を里が買収したいという申し出をした。それを二人は快諾したのだが、役員たちに話を通していたハズが役員たちは「話が違う。買収してもらうなら扇と団扇生産部門を潰せ」と腹心の部下だと思っていた役員たちは言い出した。次に「出来ないなら最高経営責任者と会長職を退け」と付け加えた。すると二人はまたしても快諾し、扇と団扇生産部門だけを独立し分離させ、『要らないならば持っていく』宣言をした。二人は五代目火影が息をのむ前で普通の忍者に戻り、そして新しい役職に任命された。重要なポジションだ。
その他に、オレたち扇城家で養育されていた子供たちのことだ。里抜けという大罪を犯したアマツを出しただけではなく、安心できる筈の家に背中を向けて家を出たハズキとキョウスケの兄弟、そして『一族滅亡で不安定な中でまたしても家庭不和という不安を与えられて家を出た可哀そうな少年』ことオレ。役員たちはオレの動向をいつも見ていたらしい。オレの不安がる様子はリアルだった(そりゃそうだ)。扇城ハルキは元からCEOらを解任したい陣営のようで、何も知らない、あえて扇城の背景を知らされていなかったオレが家族旅行の護衛でどんな精神的な動きを見せるか観察していたようだ。一方で、星宮邸の地下にあった日記帳。アレはまったくのデタラメな物品で、三嶋フウレン特別上忍は今回の解任劇を起こすためイタチ兄さんに黙っているよう言ったそうだ。ちなみにナルトとサクラ、サイにはネタバラシ済み。全く見当違いの疑いを持ってオレは星宮兄妹の葬儀で扇城の二人を睨み、疑いを持っていた。諏訪アザミは何度も何度も謝罪してくれたが、『アマツがマサキさんから冷淡な態度を取られていた』という偽情報を自然に吹き込んだ。友に大して嘘は絶対に言わない、里にどこまでも忠実な忠犬たる”山犬”三嶋で育ったくのいち。プライベートでは絶対に嘘をつかないとオレは信じていたのだが、まさか。やられた、と思った。その一方では忍界大戦中で大活躍した工作員の血の片鱗を感じざるを得なかった。迫真の演技だった。
五代目火影による買収交渉の場で、扇城ハルキは【装備調達部長】になった扇城トオルを早速失脚させたいのか、家庭不和を招く父親なのだから沢山の部下を抱える部門のリーダーには相応しくないと言い出した。しかし会場警護任務に就いていたハズキとキョウスケは五代目火影から問われしっかりとした口調で養父の潔白を証言した。次々と扇城姓の者たちを失脚させたいのか、今まで見た事がないような見苦しい言い分を重ね、やがて彼は五代目火影によって「一度黙れ」と言われてやっと黙った。五代目火影は彼の「扇城はうちはの血筋、悪に憑かれた一族なんです」との言葉に反応し、静かに激怒していた。オレもハラワタが煮えくり返りそうな怒りを一瞬感じたが、両親の顔を思い出してぐっと抑えた。「言い過ぎよ」とハルキをなだめる星宮イリナ。星宮姓の専務が会長職を昨年定年退職した星宮姓の者に据え、自分が社長になると言った。社名変更と、扇城トオルとマサキを支持する者たちは出てけ、という言葉。それを会議後に聞いた扇城屋グループに務める社長職をを含む扇城姓の者の殆どと、血縁でも何でもないが二人を慕う職人たちは言葉通りに「出ていく」事を選んだ。結果、住んでいた家を売り払ってしまった。扇城屋グループ改め【星宮グループ】の不動産部門の息が掛った物件がほとんどだったからだ。そんな彼らを『うちは一族当主』である兄さんが受け入れて、中には親と意見の違いから勘当状態になった若者世代を居候させる運びとなった。その代表が不動産部門社長の娘・扇城カオリと、産業医夫婦の娘である双子の野風と微風。
多くの扇城の者たちが退任となった二人を追いかけた今、残っている者たちは『星宮(ほしのみや)』一族とその姻族や血族など関係者ばかりだ。改めてちゃんとした家系図を三嶋フウレン特別上忍から見せて貰うと、役員たちは星宮一族ばかり。扇城伝いにうちはの血を取り込んでおり、『星宮の血は残っていない』という言葉は嘘っぱち。むしろ血継限界が発現しやすそうな”本家”から血を良いとこ取りし、戦闘要員となる忍を家が分断されているように見せかけて輩出していた。その上で志村一族と血を交えた家と複雑な養子関係を結び、写輪眼持ちかつ志村の血を引く星宮姓の者を生み出してきた。星宮の敵対氏族といえば、鹿島。鹿島といえば、里の中枢にも優秀な人材を輩出する親・千手の家系。彼らは星宮を『まつろわぬ悪の星』と呼び、諏訪軍団とまとめて警戒対象にし続けている。星宮は昔は千手と敵対していたうちはの庶家、扇城の一部と血を混ぜた。志村もきなくさい一族。星宮が血を混ぜた扇城の一派は、千手に反発するうちはの者たちに同調していた者たち。似た目的がある者たちを婚姻によって取り込んだのか?
扇城タイキは完全なる本家の人間だが、ハルキは父親が星宮一族の人間。母方の姓を名乗り、何かの目的を持って生きてきた、かもしれない。写輪眼を未登録で隠しているのだ。絶対に何かある、かもしれない。ちなみに扇城ハズキはマサキ氏の息子ではなく、実際には孫息子だった。母親について聞くと思い切り濁されてしまった。扇城ハナエ夫人は本家の3姉妹だ。長女のハナエ夫人、次女のアズサ上忍、そして三女のアオイ上忍。三女はてっきり民間人だと思っていたが実際には優秀な忍だった。万華鏡写輪眼を開眼した頭領姫『魔眼のアズサ』、そして一卵性双生児の妹『邪視のアオイ』。『クレイジーサイコ姫』と称される言動や行動は実はアオイ上忍だったという疑惑が三嶋フウレン特別上忍から示唆されている。『確定じゃないけど』と前置きをされた上で。
何故かというと、二人の幼い頃を良く知る三嶋フウレン特別上忍の昔の記憶からだ。無邪気な二人はよく入れ替わっていたのだが、下忍になった時から名前とホクロ位置が対応しなくなってしまった。それまでのアズサ姫は戦闘狂のケがあったが正義感が強い少女で、アオイ姫はサイコパスな言動から不安がられる少女だった。それぞれ前者が右目、後者が左目に泣き黒子があった。下忍になったアズサ姫の泣き黒子は左、アオイ姫は右。すっかり逆だったのだが、それを訝しんだ三嶋特別上忍はアズサ姫に問い詰めた。すると写輪眼で強力な幻術を掛けられ、暫く泣いたり笑ったりできなくなってトラウマになったらしい。つまりアズサがアオイで、アオイがアズサ。もしも本当ならば、とんでもない事だ。幼馴染のトオル上忍は幼少期からアオイ姫から猟奇的なイジメを受けていた。下忍になった途端、優しかったはずの幼馴染・アズサ姫からいじめられる事になったという戸惑いは想像できない。アズサ姫はもう一人の幼馴染、星宮ユウセイ上忍にストーカーするようになった。時期を同じくしてアオイ上忍はマサキ上忍の息子である、戦死したマサト中忍の対しても同じ行動を。その頃には一卵性双生児にも関わらず身長差ができて、アズサ上忍は170センチ近くの長身、アオイ上忍はマサキ上忍によれば155センチと小柄な状態で体が完成した。”アズサ上忍”は以前病院で聞いたようなクレイジーサイコな方法で好きな人を追いかけ、”アオイ上忍”は健気な通い妻になった。ちなみにアオイ上忍もまた万華鏡写輪眼を戦場で開眼している。目の前で愛する父を助けられなかったショックだろうとされている。強さでいえば互角な、【万華鏡写輪眼の姫】たち。父さんとも共闘した二人である。こうなると、星宮兄妹の『二つの扇城と星宮』の話に齟齬が出てくる。
本当に怪しいのは扇城などではなく、扇城を利用しているのかもしれない星宮ではないか?
星宮兄妹も怪しく思えてくる。オレは今度、星宮兄妹について探ってみようと決めた。あの日記帳は誰かに、例えばオレに意図的に見せるために書かれたように思えた。うちはは扇城に対し悪い扱いなどしていなかった、その事実が正直嬉しかった。親族をストレスの捌け口にするような一族じゃなくて良かった。愛の一族として知られるうちはに対し、うちはの人間であるオレ自ら疑いを持って欲しい人間がいたらしい。
★★★
「うちはサスケ、うずまきナルト。今日は修行に混ぜてくれないだろうか?」
オレとナルトがいつも千鳥と螺旋丸をぶつけ合っているという噂を聞きつけた日向ネジが、日向ヒナタを伴ってうちはの居住区に訪れた。今日の修業場は、うちはの領域内にある森。ナルトの恋人であるヒナタはスケジュールを知っているので彼女に聞いたのだろう。彼女は申し訳が無さそうな顔をしていた。
「ごめんね・・・、突然来ちゃって」
「全然良いってばよ、ヒナタ。オレたちとしても強力な術をぶつけ合う機会が出来て嬉しいんだ。出来たらサスケにもバッチリ柔拳喰らわせてやって欲しくて。な?」
「ッ、そうだな」
勝手に話をつけようとしているので、オレは驚いた。
かなりの頻度でヒナタの柔拳を喰らっているナルトは、チャクラの流れを乱された状態に慣れている。一方オレにそんな機会など無く、いい機会だと思った。最近カカシから『術の使用制限あり』『写輪眼使用禁止』といった状況下でも戦えるよう縛りのある修行を付けられている。チャクラを意図的に乱された状況という、そんな変わった状況も良い。オレは日向ネジと日向ヒナタの申し出を受けた。
―――だたし、『写輪眼を封印されたと仮定された状況』という縛りを付けた上で。
乱れ飛ぶ八卦空掌、抉れる地面、焼け焦げた木々、普段より乱れたチャクラの流れ。経絡系が悲鳴を上げているが、近くで日向ネジと交戦するナルトは平然とした顔で冷静に対処して普段と変わらない様子だ。余裕そうな日向ネジとは裏腹に、かなり余裕が無さそうな日向ヒナタの柔拳がオレに向けられている。血管が浮き出た目許は普段の可憐なイメージとは真逆で鬼気迫っている。
「よそ見をするな、うちはサスケ!」
ナルトと戦っているはずの日向ネジの鋭い声がオレに向けられた。ほんの一瞬、気を抜いてしまったと思考した瞬間には日向ヒナタがオレを八卦の領域へと入れてあの技の準備動作に入っていた。
「いきます!」
(八卦六十四掌か?日向ヒナタ、いつの間に・・・!)
昨年の日向ネジと同等の速度で全身に打ち込まれる64度にも及ぶ高速の打撃。オレはそれを喰らい、彼女にたいして油断した事を心から後悔した。日向ネジがヒナタの肩を抱き「頑張りましたね」と言っている。ナルトはブッ倒れたオレの顔を覗き込んでニヤリと笑った。
「オレのカノジョ、すっげー強いだろ!」
「・・・本当だな」
ここ最近思うのは、写輪眼の無いオレは普通に弱いのではないのかという疑惑だ。決して日向ヒナタが弱い訳ではなく、瞳術にオレは頼りっ切りなんじゃないかと気づかされた。オレはまだまだだ。慢心がある。
湧き上がる積乱雲はどこかへ消えて、秋らしい雲が流れる高い空を見上げた。もうすぐ9月だ。