ニーサンから見た第77班は、弟子というよりも大学のゼミ生のような感覚です。
最低限戦えるようになる基礎を作っただけで、それ以上はしていないです。しかし諜報に関する知識は後々役に立つはずなので勿体ぶらず教え込んである。
音隠れ=昨年手に入れた星宮アマツがメンヘラすぎて手に負えないため、安定剤代わりとしてユタカ班の3人を連れ去った。そうするしかなかった。アマツはあまりにも才能と容姿に恵まれていたのだ。大蛇丸的にも手放すのが惜しい程に。
現在のアマツ君=177センチまで伸びた。UCの闇堕ちリディみたいな表情。
メンタルがメチャクチャ状態。顔は相変わらずのイケメン君。
「ライカとフツミ、それからハヅチが欲しい。話はそれからだ!」
鹿島と星宮―――この2氏族の直接的な確執は里の創設期時代にまで遡る。当時の鹿島の頭領は名をトキワ、弟のヒタチがその補佐だった。戦国時代に生じた犠牲の多さから鹿島は星宮を強く憎んではいたが、当時の頭領トキワは当時の諏訪頭領であるイザヤと友情を築いていたため、『仲良くなれる』と信じていた。諏訪もまた鹿島に対して大きな損害を与えてきた敵だった。諏訪イザヤは当時の星宮の頭領、セイガと仲が良かった。諏訪は戦国時代が終わる頃に天龍湖の戦場で鹿島を打ち破り、勝利。しかし里入植後に不平等な停戦協定を結ばされそうになったため反発し、その結果、イザヤは同じく不平等な条件を突き付けられている星宮と共に里上層部にそれを訴えた。里は3氏族の諍いに真面目に取り組んだ結果、鹿島に里の仲間として星宮と諏訪と接するように伝えた。しかし、諏訪イザヤと星宮セイガは死んだ。
『この命を平等な協定へと捧げる』と書き残して自殺した。
精神的支柱である前頭領を亡くした代わりに、諏訪は平等な条件での”休戦”条約を手にした。その後、鹿島と諏訪はトキワとイザヤが望んだような仲の良い雰囲気ではなくビジネスライクな”同じ里で暮らす同僚”といった関係で落ち着いた。どちらかといえば我慢している側は諏訪の方だ。イザヤは隠居して生涯独身だったと伝えられているが、結婚する以前に若くして命を落としたので当然そうなる。
諏訪と並行して星宮にも、鹿島トキワは諏訪と同様に仲良くなれると信じて交渉を持ちかけていた。相変わらず停戦協定の条件は不平等だったが、それはトキワが考案したものではない。弟にして補佐役のヒタチが考えたものだ。トキワは弟のヒタチに全幅の信頼を寄せていた。苦手分野を丁度良くカバーしていたからだろう。イタチはそういった記録資料から、トキワは弟が決めた条件にしっかり目を通せていなかったのではないかと考えた。どの一族や氏族にも、記録大好きな人間は必ず存在しているものだ。星宮セイガは鹿島との直接的な話し合いは持たなかったが同陣営に属した若き頭領同士、親友だった諏訪イザヤの言葉は聞き入れた。転生者が興した氏族同士、合う合わないはある。体育会系と文化系の溝を思わせる深いクレバスが彼らの間には広がっていた。鹿島と香取は体育会系、諏訪軍団は文化系と例えるのが最適な気質の違いがあるからだ。交渉力が高かった三嶋氏族が仲裁に入って、諏訪イザヤを主導に行われた話し合い。収集がつかなくなった結果、諏訪と星宮は里に直接訴えかける事にした。その結果が諏訪イザヤと星宮セイガの自殺なのだが、諏訪は鹿島に対してビジネスライクな態度に徹し、星宮は鹿島に対して何も言わない代わりに不満を露骨に募らせる、という対応の差へと繋がった。同じ様な頃にマダラが里を抜け、九尾と共に襲撃を仕掛けてきた。
以後鹿島は何かにつけて星宮に突っかかり、時には実際に手を下し、『里のために不穏分子を監視する』という名目で様々な工作を行ってきた。ここで重要になるのは、『鹿島の者で暗部隊員は一人もいない』『警務隊への入隊者もいない』という点である。イタチが生きた最初に忍界において、うちは一族はイタチが入隊するまで暗部隊員が出ていなかった。だが今回のうちは一族は里からそれなりに信頼されており、暗部隊員をイタチ以前でも普通に出してきていた。どういう事かというと、鹿島は彼ら自身が思っているよりも里から信頼されておらず、実際にはたびたび危険視されている。鹿島とその氏族連合には由来が不明の『正規部隊こそが誉れ』という根強い風潮が存在している。理由は一つ、暗部にスカウトされる者が一人たりとも出ていないからだ。その事実が危険視を物語っているのではないか?
鹿島トキワとヒタチの兄弟はもういない。鹿島トキワはかなり昔、彼が50代半ばほどで戦死している。暫定的な頭領である鹿島ライウ上忍の祖父に当たるのが、鹿島ヒタチである。鹿島ライウ上忍たち兄弟と鹿島ライカ中忍の父は、名前を鹿島ダンゾウ上忍という。『ダンゾウ』といえば志村のダンゾウを想像するが、名前だけなりよくある部類に入る。鹿島ダンゾウ上忍は任務中に怪我をして療養中。そのため父である鹿島ヒタチの死後に頭領に就任する予定だったが、現在は鹿島ライウ上忍が暫定的な頭領の座についている。イタチは鹿島ライウとは仲良くしているが、鹿島ダンゾウには挨拶する前に療養に入ってしまったため彼には正式な挨拶を出来ていない。鹿島ダンゾウには謎が多い。三嶋フウレン特別上忍の同期で、若い頃は仲裁役だった彼は『ダブルダンゾウ』に挟まれて苦労してきたようだった。分かっている事は、二人のダンゾウは気質が似ているという点。どちらも野心的だ。違うのは鹿島の方が『決定権を持つ者を守る』『火影ファースト』という点。火影の地位にある者に対してはどこまでも忠実で、自己犠牲を厭わない。仮に志村の方と戦いになったとして、五代目を守るために命を躊躇わずに投げ出しただろう。里を守るためなら火影や根、所属する忍者を犠牲にする志村の方とは方向性が違う。里を守るため、まずは自分から犠牲になろうとする。ノブレスオブリージュの精神を家訓とし、自分よりも弱い者を守るため尽力している。
その反面、危険な部分もある。仮に火影や上層部か見てすぐわかるような間違った決定をしたとしても、絶対に逆らわずに従おうとするのだ。そのため疑心暗鬼になり易い傾向があり、精神と身体のバランスを崩しやすい。一度壊れるまでは誰よりも強いのだが、一度綻びやヒビが生じるとどこまでも堕ちていってしまう。そうなったら戻ってこられる人間は非常に少ない。寛容で豪快な善人だと知られた鹿島トキワでさえ、晩年は親友だった諏訪イザヤを精神的に追い詰めた自責の念で苦しんだようで、若者を生かすために起爆札で自爆して戦死している。愛する者の命を自分の命で埋め合わせをしようとする者が多いのだ。
正義感と忠誠心が暴走し、一度疑い始めたら改めるのが難しい。まだ何もしていない者たちに対し執拗にボロを出す瞬間を探し、本当の憎しみを鹿島に対して持つようになるまで追い詰めてしまう。疑心暗鬼により、火の無いところに火種を作り出す。実体の無い憎しみの摩擦で煙が立ち、現実へと変えてしまった。その憎しみの対象こそが、星宮一族。鹿島がかねてより危険視していたうちは一族は排他的な部分があったため無理だったようだが、そしてその分家である扇城一族の中でもマダラに同調していた者たちと星宮一族の一部に仲間意識を持たせ縁組させ、里と鹿島に対する不信感を持つ集団を作り上げてしまった。
そういった集団こそが扇城屋に勤務し、里への経済的貢献の大きさから強い発言権を持つ扇城屋を乗っ取った一団だ。元は忍者だったがあらぬ疑いをかけられて忍者でいる事にメリットを感じなくなり、民間で生きていく事を決めた者たちだ。それには星宮アマツとカガセを育てた育ての両親も含まれる。亡くなった星宮スバルとセイラの両親もまた、民間で唯一と言って良いほど鹿島の圧力が無い扇城屋で活躍する事によって里への貢献を目指した者たちである。扇城屋の里への貢献と貢献は無視できない程だ。星宮一族は扇城屋の経営も何もかも支えるほど優秀で、扇城屋とは段々と経営方針に違いが出てきた。結果が発言権を手に入れて待遇改善を図るという目的を持った、扇城屋に対する経営者交代クーデターである。
★★★
ハッキリと口で『差別を止めて欲しい』と言った星宮一族に対し、鹿島がどう動くのか?イタチはそのヒントを得るため、食事をしながら耳に全神経を集中していた。鹿島の者が『ダンゾウ様』という言葉を口にするたびに反応しそうになるが抑え、イタチは気配を殺して耳を澄ました。『ダンゾウ様』という名を口にするのは、主に彼の持つ私設部隊たる側近たちだ。扇城ハルキは扇城屋の経営が星宮に切り替わって以来、そこでもポジションを捨てて鹿島の側についた。かねてより決定していた鹿島ライカの母方叔母との結婚を機に姓を鹿島にし、素知らぬ顔でここの敷地を闊歩している。サスケはまだ扇城改め”鹿島ハルキ”にここでは遭遇していない。
サスケはハルキを苦手としてはいるが、扇城タイキの死をきっかけとして『アマツを支えてきた人』という見方を同時にするようになっている。決して悪い傾向ではない。物事や人物を一つの側面からしか見ないと、正確な全体図が掴めなくなる。偏った全体図しか見えなくなると前世の長野県時代、イタチは大学のゼミ生たちにそういう風に教えた。何のためにハルキはアマツに対して親身になり、星宮カガセへの復讐心を激しく駆り立てたのか。同い年の同期だった人間として、サスケはアマツたちの真実を知りたがっている。
扇城屋の邸宅にあったハルキの部屋は不気味だった。『ダンゾウ様』に憧れるあまり、愛の言葉がそこらじゅうに張り付けてあった。イタチは教え子のアザミを伴ってそこに突入した事があったが、うら若き普通の乙女には刺激が強すぎる部屋だった。「腐ってなくて耐性が無かったらショック死してました」とは彼女の言葉である。前世も今世もドぎついBとLの世界に全身埋まっている彼女でなければ任務どころではなかっただろう。ちなみにイタチは前世の大学教授時代、そういう類の女性のゼミ生とよく接していたため耐性がある。扇城トオル上忍が話していた『アマツ君がいう”ダンゾウ様”』の正体について探っていた時でもあったので、ハルキの部屋は大いにその謎を解くヒントとなった。「自分の変態性を隠すため元CEOの名札を剥がさずにおいて性癖を押し付けるなんてサイテーです」と屋敷を去ってからアザミは輝きを失った瞳で淡々と言った。それにはイタチも同感だった。残念ながら、星宮の者たちの中には扇城トオル上忍をド変態だと思い込んでいる者達がいる。それもまた経営陣交代劇の幾つかある遠因の一つである。
三嶋フウレン特別上忍の協力により、星宮アマツが師事していたという『ダンゾウ様』の正体が志村ではなく鹿島だと判明しただけでもかなりの進展だ。しかし何故、鹿島ダンゾウは『志村』と名乗ったのか。本物の志村ダンゾウの顔が一般にはあまり知られていないのを良い事に、何故同期の姓を使ったのか。志村と鹿島の繋がりは薄い。強いて言えば、鹿島の手によって星宮と志村の一部が婚姻し、更には扇城と混ざった。鹿島視点での脅威を一まとめにしてしまう際の配合の一つが志村というだけのようにも見える。
サスケがハルキを違った側面から見るようになったのは悪い傾向ではないが、ハルキの部屋について詳しく知ってしまった時が一番怖い。サスケにとってこれまでハルキに抱いていた認識がひっくり返る可能性があるのだ。それも知り合いの性癖という、最悪の部類に入る分野に踏み込むという形で。幸いにも扇城トオル上忍を変態とは認識していないようだが、ハルキのアマツに向けていた意味深な視線の意味を曲解して今度こそグレかねない。グレるのはいつ、どこからやってくるか分からない。前世の長野県時代もそうだった。その時は確か、前世の中学生男子だった佐助(サスケ)が敬愛するカカシと同じ姿をしたエリート捜査官が、うちはオビトと同じ姿の環境テロリストを追う事に夢中で全く構ってくれない事を理由にグレた。成人してから聞いた話であったが、青少年の心のうちを聞く貴重な機会だった。青少年の心の中では一見関係が無いように見える事柄が連鎖して化学反応を起こし、俗に言うグレた状態になる事があるらしい。
★★★
飲食店を出た兄弟の前にふらりと現れたのは、やつれきった顔をした”鹿島”ハルキだった。警戒心を剥き出しにしているサスケを視線で制しつつ、イタチは少し低い場所にあるハルキと目線を合せた。扇城ハルキは中忍の階級にあり、いつ上忍になっても不思議ではないほどの技量を持っている。平凡そうな印象を見る者に与えるが、実際には扇城トオルが疑いつつも護衛を兼ねた側近にする程の実力者だ。
「・・・扇城ハルキ」
「今は鹿島です」
その言葉にサスケが怪訝な顔をした。
「どうされましたか、鹿島ハルキ中忍」
「うちはイタチ上忍、あなたを呼びに参りました」
ハルキの冷淡な口調にサスケはより警戒を強めた。イタチがハルキの姿を観察してみると、その姿は最後に目撃した時よりも不健康に見えた。頬はこけ、眼の下には隈があり、体が心なしか薄い。
「火影様より呼び出しです。貴方の教え子の諏訪アザミ中忍と、シスイ上忍の部下である扇城ハズキ中忍が任務の帰路にて抜け忍の星宮カガセと遭遇したそうです。それでは」
淡々と告げると、ハルキは瞬身で消えた。隣を見ればサスケが唇を強く噛み締め、両手を握りしめていた。イタチにとっても星宮カガセは愛する両親を、人によっては前々世と前世での時間を共有した者達を殺した仇。その言葉を聞いた瞬間、憎しみがはっきりと形になって心中に湧き上がる程には憎んでいる。だがそれを上回るのは、何故星宮カガセが無関係に近いうちは一族の者を殺すに至ったのかという純粋な興味だ。
「サスケ、唇が傷付いてしまう」
唇を噛み締めるのを止めさせると、サスケは双眸を揺るがせてイタチを軽く見上げた。
黒い瞳には微かに涙の膜が張り、『あの日』をフラッシュバックしたのだろうと想像させた。家に帰ったらさっそく精神的なケアについて考える必要がある。フラッシュバックは擬似的に精神があの時、あの場所、あの瞬間に飛んでしまう。つまりは辛い記憶の追体験だ。
「・・・オレも行っていいか?話を聞く許可が得られなければちゃんとじっとしているから」
「それならいい。行こう」
二人、鹿島の地区を離れて五代目火影のもとへと急ぐため屋根の上を駆ける。星宮カガセの情報が気になるのと同時に、イタチもよく見知った弟の同期2人がどうしているのかも気になっている。二人はごくごく平均的な中忍としての能力は持ち合わせているが、万が一格上の相手にでも遭遇したら生きて帰って来られるか分からないというレベルに留まっている。相手が星宮カガセともなれば、戦闘になったら一たまりもない。あの2人は同期の中では中の中から上、といったところなのだ。
五代目火影の執務室に入れば、2人の中忍は元気そのものでイタチは安堵した。昨日からファイブマンセルのチームを組んで音隠れがある田の国との国境地帯の村で山賊討伐任務を割り振られていたのだが、2人だけがたまたま通りかかった任務帰りのヤマト上忍に救助され、どうにか無事に帰還したという。サスケは部屋の外にある休憩所だ。カガセの情報を聞くに至り、イタチを通じてワンクッション置くべきだとPTSDの発作を考慮した五代目火影が考えたのだ。
「アザミ中忍、ハズキ中忍、次はイタチに報告してやれ」
五代目火影に促され、青白い顔をした2人はそれぞれ「ハイ」と短く答えた。五代目火影とシズネ上忍もまた、イタチやシスイと同様にNARUTOという漫画が存在している前世を経験してきている。アザミとハズキとの接点は大学生時代の短期留学時のホームステイ先が、前世で米軍医官だった二人のハワイにある実家だったのだ。その近所に住むシズネ上忍の前世の実家にステイしていたのがハズキだ。そのため、2人にとってはイタチの目の前いる火影とその側近は安心できる相手でもある。ヤマト上忍は二人が在籍していた大学に自衛隊入隊の勧誘をしにやってきた、施設科の幹部。前世を含めれば全員が比較的親しい仲といえる。
「私と扇城中忍は鹿島ライカ・香取フツミ・静織ハヅチ3中忍と共に、田の国との国境近くの森林にてここ数カ月間村を荒らしている山賊の討伐任務を行っていました。時間の経過と討伐数を考慮すれば任務はとても順調だったと思います。途中で不審な気配がしたところ感知を行った結果、田の国方面から接近してくる者が約5名。隊長であるライカ中忍にそれを報告しましたが無視されてしまい、私と扇城中忍の二人で警戒を行っていました。敵の接近を警告したところやっと気付いてくれたので、フォーメーションを組んで守りに徹する事にしました。遂に会敵すると、相手は音隠れの忍でした。うち1人は薬師カブト」
「探知と同時進行していたのか。・・・成長したな」
イタチが率直に思った事を口にすれば、諏訪アザミは肩を竦めて驚いた顔をした。生前の日本のみならず国際社会でも、前々世と今世の世界においても、双方の教育現場で問題になっている発達障害。生前苦しんでいる姿を見て来たからこそ、それを最大限に生かしてイタチは諏訪アザミを訓練してきた。その一つが感覚過敏を生かした上で拡大させた『感知』である。少し前までは片方の作業にしか集中出来ていなかった。それを考えると、これは相当な進歩なのではないか?
「次は僕からですね。薬師カブトのターゲットは明らかにライカ中忍たちユタカ班3人と、僕の写輪眼でした。あちらにはアマツ君がいますから、スペアとして欲しかったのでしょうか?それはそうとして・・・、ライカ中忍たちは幻術で気絶させられて誘拐されてしまい、残った僕は両眼を狙われてアザミ中忍と一緒に防戦一方で・・・、もうダメだって時に星宮カガセともう一人霧隠れ出身らしき人と一緒に助けに入ってきました。僕もアザミ中忍も全身千本だらけでとんでもない状態になっていたのですが・・・、気付いたら週末の谷の近くの河原に寝かされて手当てをされていました。僕の方が重傷だったんですが、まだ貧血はありますけど綺麗に直して頂けました。アザミ中忍も顔の傷を跡なく治してもらっています。その後はアザミ中忍の方が元気だったので、星宮カガセと話していました。あ、別に交換条件とか、そういう事は一切なく善意だそうです」
「・・・善意?」
「はい。本人の口から聞きました」
諏訪アザミはポーチの中から手紙を取り出し、五代目火影へと渡した。その手紙には星宮一族の家紋である金星を意味する星が描いてある。それが意味するところはおそらく、『暁』としてではなく星宮一族の一員としてのカガセからの手紙。カガセが里にいた頃、イタチはそういった意味合いで個人的な手紙を受け取った経験があった。弟であるアマツもまた、家紋が入った手紙を個人的な要件で多用していたと聞く。五代目火影は手紙を開くと無言になり、アザミを招き寄せた。ハズキは貧血を起こしてうずくまり、シズネ上忍に介抱されている。アザミも実際には貧血状態なのだろうが、どうにか姿勢を保っている。
「【鹿島文書】とは何だ?」
「うちは一族を星宮カガセに滅ぼさせるよう里が命令を下した根拠となった、鹿島が作成した書面だそうです。彼は私とハズキ中忍に対し、『無償で治療する条件として火影様に伝えて欲しい』と言いました。あ・・・、実際にはこれが交換条件だと思います。造血丸を頂いたのですが、少し足りないようですね・・・。ごめんなさい、火影様。姿勢を崩してもよろしいですか?」
「分かっているからな、無理するんじゃないよ!諏訪アザミと扇城ハズキの両名は安心してしっかりと休め。今から3日間の休暇を与える。しっかり休め!!命令だぞ」
「はい、火影様・・・」
ふらふらとへたり込む少女にイタチは肩を貸してやった。頑丈で健康で骨太で恵まれた体格の持ち主だが、木ノ葉のくのいちの中でも小柄な部類。改めて20センチ以上の身長差を実感すると、その身体を背負う。彼女の父親ヤシマ上忍は背が高い方ではなく、思い出してみると諏訪軍団の者達は男性でも170あるかないかである。諏訪タツミ上忍と守矢凪上忍がたまたま上背があるだけなのだろう。
「すみません、イタチさん。私の方がだいぶ軽傷でしたが、理由あって血が足らず・・・」
「気にしなくていい。さあ、帰る前にそこの休憩場で休もう」
少女の剥き出しの大腿部には包帯が巻かれ、そこから僅かに血が滲んでいた。とりあえず深い傷だけは治療して貰ったという通り、直ぐに治る浅いものは消毒以外手を付けられていないらしい。サスケがイタチに頼まれて購入してきた鉄分が配合されたジュースを飲ませていると、青白かった顔色が普段の健康的な色白な肌色へと戻ってきた。カガセの件をイタチの口から聞いたサスケは当初茫然としていたが、噛み締めるように言った。『カガセにはあの事件を起こす残忍さと優しさが同時にあるんだな』、と。あの事件が起こる前のカガセは優しい少年で、ライカの取り巻きにいじめられていたアザミを庇うような正義感があった。怪我をした5つ下の少女に嫌な顔を一つみせず手当てし、家まで送ってやるほどには優しかった。彼女を連れて歩くカガセの眼差しは優しく、途中で鹿島の者に嫌味を言われてもアザミを優先して守っていた。
「諏訪とハズキが無事で良かったが・・・、3人ともいなくなったのか」
「残念ながら。本当に、不甲斐ない。私がもっと強ければ・・・」
濃紺のスコートの裾が乱れるのもお構いなしに、ソファの上に正座したアザミはうちは兄弟に向けて深々と頭を下げた。『勝ちたい』という気持ち自体が希薄だった少女の瞳には明らかな闘志が見て取れた。前世では学習性無力感に苛まれ、自分に自信が無かった。彼女の心は年齢が片手の指だけで足りるような時期に筆舌し難い同級生や教師たちによる仕打ちによってよってバラバラに打ち砕かれて、戦おう、立ち向かおうとする気持ちと涙を奪ってしまっていた。今世もまた同じで、精神年齢の高さに助けられてはいたが、『今度こそマシになりたい』という一心で修行をしてきた。
「諏訪さん、君は・・・」
「・・・カガセさんと再会してから私、物凄く視界が綺麗なんです。視力の話ではなくて、色彩がとても鮮やかで、鮮明で、色褪せていなくて、ちゃんと現実感があって、もうフワフワしていません。イタチさんとサスケ君のように本当に大変な体験をされた人からすれば腹立たしいかもしれませんが、生まれて初めて『生きてる』感じがしたんです」
ふわふわ、現実感のなさ、色褪せた世界。これらは彼女が生前から訴えていた発達障害の二次障害に他ならない。それも解離性障害のうち、離人症と呼ばれるタイプの。自分で自分を操縦しているような感覚で、常に膜の内側から世界を観察しているような気分だという。おそらくだが、彼女は任務で命をかける事によって彼女自身と世界の繋がりを実感したのではないか?
「・・・オレにもその感覚は理解できる。オレにも現実感が失われた、自分が生きているのか死んでいるのか分からない時期があった。だが、それが突然途切れた瞬間にまた世界とオレという存在が戻ってきた。カウンセラーと精神科医によれば離人症というらしい。だから安心して相談したら大丈夫だと、思う」
「大丈夫。とっくの昔に相談済みだし、綱手様がいなかったら忍者の道を家族に選ばせて貰えなかった」
「それはまた・・・、長かったな」
イタチの胸には熱いものが込み上げてきていた。弟のサスケが同じ経験を抱えていた同期を気遣う姿は、後光が差す程に尊いものだった。軽々しく『頑張れ』と口にするのではない部分もまた、サスケが歩んできた過酷な道をイタチに想像させた。
これからの事を考えると過酷な日々が待っているのは確実だが、それでも、この前世から知っている少女は歩いていける。失っても、奪われても、また這い上がるための気力が彼女にはある。それだけは確かだ。
★★★
真夜中から降りだした土砂降りの中を青年は疾走する。頭の低い位置で結んだ艶やかな黒髪を靡かせ、宵闇をゆく。実体の無い憎しみを絶ち斬るために、疑心暗鬼に踊らされる者達を解き放つために。そして何よりも『見せしめ』のためだけに殺された同胞たちの無念を晴らし、同じ目に遭う存在を無くすため。
これ以上奪わせないため、奪わねばならない時がある。