木ノ葉教育戦国時代   作:宝石マニア

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弟さん視点です 

15歳編プロローグ


To the Beyond
0 春


3月31日 8:25

 

 春だ。よく修行スペースとして利用されている忍軍研修施設のグラウンドにある桜の木は満開に咲き誇り、うららかな春空を彩っている。今日は登校日ではない。来期の新人中忍向けのオリエンテーションの補助をしに、サクラとナルトに誘われて来たのだ。実際の登校日は明日。学年が上がり1日のみとなっている。一般人ならば”中三”で、卒業までは義務教育である。そうは言っても、高校卒業レベルの学力を証明する試験を自主的に受験する者が多い。持っていて損はないからだ。もし両親が生きていたら、特に母さんならば受験するのを勧めてきたような気がする。その姿は簡単に想像がつく。

 兄夫婦の間には先月半ば、予定よりも早く男児が生まれた。兄さんは育児休暇を取った。里有数の忍である兄さんが育休を取った事で里内に良い影響がありそうだと五代目が言っていた。

 

 玄関までの道を歩いていると、ナルトとサクラがオレの姿を見て駆け寄ってきた。オレは今年から実家で暮らしている。最近では意識して予定を合わせなければ、登校日以外で顔を合わせる機会が減ってきている。皆、それぞれに忙しい。サクラは多忙な医療忍者候補生であるため猶更。明日からは完全に違うカリキュラムで動く予定になっているからだ。

 

「おはようってばよ、サスケ!」

 

「サスケ君、おはよう!」

 

だからこうして、顔を合わせる度にちょっとした喜びがある。

 

「ああ、おはよう。誘ってくれて嬉しかった」

 

「なら良かったわ。特にナルトは修行と任務ばっかりで全然遊びにも誘ってくれないんだもの。最近寂しいのよ。そうだ。ヒナタとはちゃんと会ってる?どれ位の頻度でデートしてるの!?」

 

「サクラちゃーん!?」

 

オレをそっちのけにサクラはナルトを突っついている。昨年までは普通に遊びに行く機会もあった。

確かに、ナルトは最近ヒナタとあまり一緒に出掛けていないようだ。ヒナタがサクラといのと話しているのを見た。だがそこまで心配しなくても大丈夫そうだ。ヒナタはナルトが時間を見つけようとしている事を理解しているからだ。次のデートでもっとナルト君と一杯話したいな、と、ヒナタは頬を紅く染めながら話していた。

 

「さてと。そろそろ行きましょ。さっさと準備を終わらせて美味しい物を食べに行くのよ!!」

 

「おー!!」

 

「・・・おー」

 

 花弁が舞い散る中を乗り気なサクラとナルトが歩いていく。オレもそれについていく。

明日から新年度が始まる。新年度の秋だか冬、カカシはオレを上忍に推薦すると言っていた。場合によってはもっと早くに。カカシやシスイさんたちの時代と違い、極端に早すぎる上忍への昇進には否定的だ。15歳がここ数年間の最年少とされる。近しい知り合いだと日向ネジとサイの二人だ。だから年明け後あたりから上忍なる、なれない、なりたいといった話題が同期たちの間で交わされるようになった。

 

 昨年の冬には砂隠れで行われた中忍試験の手伝いに行った。暁やら尾獣絡みの事件が起こり、犠牲者が出た。犠牲者というのが人柱力の少女と、我愛羅たち三姉弟の父親である風影だ。風影の死は完全なる別件。音隠れが関係しているのは確定。ナルトは世話になった人と貴重な人柱力仲間を失い、見ていられないほど落ち込んでいた。代わりに我愛羅が新しい風影へと就任した。この一連の騒動の中でオレたち第7班は高く評価され、カカシが推薦する間でもなく五代目から話が出る可能性があるとも言われるようになった。今年はどういう風に進んでいくのかまだ分からない年だ。

 

 

 

「シズネさん、お手伝いに来ました!!」

 

 サクラが講堂の戸を開けて叫ぶと、シズネ上忍の声で「助かります!」と聞こえてきた。シズネ上忍の他に聞こえてきたのはヤマト上忍の声だ。ヤマト上忍には幾つか名前がある。それを知ったのはごく最近の事だ。カカシの真似をしてその名で呼ぶと「止めなさい」と言われるが。

 

「おっ、来てくれたね。ありがとう!」

 

オレたちの姿を視界に入れた作業中のヤマト上忍は立ち上がり、柔らかな表情を向けてきた。

ヤマト上忍の足元には『皆さん昇進おめでとうございます!』と書かれた達筆な横断幕がある。明らかに昨年度の使い回しだ。それはそうとして。今日のナルトは調子に乗っている。

 

「ヤマト隊長、シズネさん。オレたちが来たからには直ぐに終わるぜ。何でも任せろってばよ」

 

「本当かい?何でも任せろって言ったよね」

 

「ああ。言ったってばよ」

 

 ヤマト上忍は笑顔になった。その笑顔が今は不穏に見えるのは気のせいではない。オレたちは普段カカシを上官としているが、ヤマト上忍が代わりに来る時も1/3程の頻度である。稀にだが上忍となったサイが二人の代役の時もある。笑顔の意味を遅れて理解したナルトは「撤回!」というが無理そうだ。前回の任務後、おだてられてラーメンを奢らされた逆襲だろう。

 

「さては・・・、ラーメンの逆襲ね」

 

「いい加減に大抵はこうなるって学習しろ」

 

 こうして5人でのオリエンテーション準備は始まった。ヤマト上忍が作成した『やることリスト』は長い。思わず無言になる長さだ。ヤマト上忍はカカシと違い、もっとハッキリと厳しく言ってくる。最初は正直言って怖い人だと思っていた。だが、1年間で怖いだけではないと知った。来期からカカシがA組の担任になると言っていた。副担任としてはなんとシスイさんが大抜擢だ。これからうちはの人間を少しずつ里の要職に就けていくという試みが動き始めた。シスイさんは強さは勿論だが、未来の火影候補の一人に名前が上がるほどの人望を兼ね備えている。だからこの抜擢は妥当だとオレは思う。

 

                        

 

 

11:38

 

「ありがとう、みんな。思ったよりも早く作業を終了する事が出来た。先輩も手伝いありがとうございます」

 

「良いよいいよ。俺も丁度暇してたしね」

 

 そう良いながらも余裕のヤマト上忍と、ナルトが大部分の作業を影分身でやってしまったためあまり疲れていないオレとサクラと、ヘトヘトのナルト。そして途中から別件で訪ねてきたカカシ。ヤマト上忍もそうだが、今日は上忍達が集まる会議があるそうだ。その”ついで”として、手伝いに来たと言った。時間が中途半端に空いており、ここまで来る事にしたという。

 

「カカシ先生が来てくれて助かったわ」

 

「同意だな。午後まで掛かるのを覚悟してた」

 

「本当にありがとうってばよ、カカシ先生」

 

 オレたちはカカシとヤマト上忍と幾つか言葉を交わしてから、鍵を取りに行っているシズネ上忍を待った。彼女が戻ってくるまでの間、カカシたちと話していた。その内容は主に兄夫婦の間に生まれた甥っ子についてだ。カカシとしては兄さんは後輩なのでさぞかし感慨深いだろう。昨年の六月の結婚式の時も感動していたのを覚えている。なお、カカシの浮いた話は全く聞こえてこない。

 

「そんなに甥っ子が気になるなら、あんたも早く妻帯すればいいのに」

 

「そうですよ、カカシ先生。せっかくモテるんですし。理想の人が探せばいるかもしれませんよ?」

 

「同感!」

 

「お前たちもそういう事言うんだね、リア充め」

 

 カカシはよく縁談を持ってこられて困ると言っていた。あまりにも身近なため意識した事はないが、カカシは相当な『優良物件』だ。本人も女性たちからの熱視線に気付いていない事はないだろう。その一方、カカシの隣で呑気にも見える笑顔で「ほんと先輩モテモテですよねぇ」などと言っているヤマト上忍だが彼には隠れファンがいる。地味に見えるが、真面目で優しくて包容力があるのだと。

 

「皆さーん、お待たせしました。これで今日の作業は終わりましたよ」

 

 鍵を持ったシズネ上忍が返ってきた。シズネ上忍たち上忍は午後から会議に参加する。年度終わりの打ち上げも兼ねているようだ。現にシズネ上忍は普段着に近い恰好をしている。シズネ上忍とカカシは五代目の執務室でよく話している。この二人がどうこうなるかというと、そういう気配は全く無い。

 

 昼食は謝礼として近場の”美味いもの”を食べさせてくれると3人が言うので、その優しさに甘える事にした。サクラの誕生日は3日前だったため、オレとナルトは彼女に食べたい物をリクエストする権利をプレゼントした。個人的なプレゼントは既に渡してある。

 

これから昼食へ出発だ。

 

「おっと、その前に」

 

荷物を持って出発しようとしたオレたちを引き留めたのはカカシだった。

 

「1年ぶりに模擬戦でもしない?」

 

「えー!?」

 

「うえぇ?勘弁するってばよ先生。腹ペコペコなのに!!」

 

サクラとナルトが反対の声を上げるのもお構いなく、カカシは窓の外を指さす。

窓の外にはグラウンド。修行スペースとしても使われるそこに今は誰もおらず静かだ。

 

「・・・まじか」

 

「マジ」

 

ダメ押しするようにオレに胡散臭い笑顔を向け、カカシは「グラウンドに行こうよ」と言った。

 

                        ★

14:01

 

 まぐろ、サーモン、鯛、のどぐろ、雲丹、エビ、そしてイクラが豪勢に盛られた丼が目の前にある。それらは驚くほど新鮮で、生もの特有の生臭さが感じられない。里中心部にある海鮮丼を専門とした人気店に行ってみたいとサクラはダメもとでカカシに希望を出したところ、思ったよりもあっさりと意見が通って驚いていた。中忍になって無事に1年間が経過したお祝い、だと上忍三人は言った。

 

「いただきまーす!」

 

 『ゴージャス海鮮丼定食』を目の前に手を合わせ、オレたちはようやく昼食にありつけた。相変わらず素顔を見せないカカシはそんなオレたちを目を細めて見ている。微笑ましいとでも思っているのか?それよりも今はヤマト上忍とシズネ上忍と食卓を囲むのは珍しい気持ちだ。

 

 この1年間、色々な事があった。迫害される星宮一族と、その隠れ蓑に利用される扇城一族。そして見えない恐怖に怯えるあまり、他の一族を恫喝する事によって報復を回避し続けてきた鹿島香取氏族連合。鹿島香取氏族連合の上役が集まる会議、通称・上層部。そこのメンバーがほぼ粛清され、存在していたとされる里上層部の一部との癒着も残すところ僅かとなった。癒着があったからこそ、うちは脅威論の話を会議で容易に通過させられたのである。氏族連合粛清の決め手となる資料を提供してきた指名手配犯の星宮カガセ。彼は鹿島香取氏族連合を憎んでいるだろう。持っているであろう憎しみの感情でさえも利用されていたのだ。憎き一族の姫と婚約させられ、弟もまた同じ姫との縁談相手。その”姫”こと鹿島ライカと、その取り巻きである香取フツミと静織ハヅチは死んだ。おそらくアマツの手によって。

 

 模擬戦の結果はオレに関してはボロボロだった。ナルトはヤマト上忍と、サクラはシズネ上忍と戦っていた。ボロボロとはいっても、所々で良い感じだったのは我ながら良かったと思うようにする。カカシはカカシで昨年よりも本気度が高かったらしく、サクラの暴力的なまでの力の強さに明らかに引いていた。サクラの五代目を彷彿とさせる戦闘スタイルを見たシズネ上忍は見学しながら感嘆の声を上げていた。サクラは体術と幻術の技量がこの1年間で急上昇中なのだ。サクラとシズネ上忍は戦いに関しては互角。

 ナルトはチャクラのコントロール技術が向上し、明らかに落ち着いた様子でヤマト上忍に対処していた。その姿は見学するカカシに亡き師匠である四代目を思い起こさせるようで、部分部分でヤマト上忍に肉薄する場面があった。ナルトは時空間忍術を学んでいる。それの上達具合が目を引いた。

 一方でオレはいつもカカシと修行しているので、正直あまり新鮮さは感じていなかった。だが、決定的な違いを感じた。それはやはり”本気度”だ。師匠としてのカカシではなく、忍同士の対決をする時の姿を見た。殺気めいたその気配にオレの足は止まりそうになった。

 

だが、一撃。まともに一撃を食らわせられた。

 

「お前たち、本当に強くなったね。特にサクラ。去年とは全然違う」

 

「そうですか!?」

 

「はたけ上忍の言う通りです。びっくりしましたよ・・・、まさか、あそこまで追い込まれるなんて」

 

シズネ上忍は嬉しそうだ。サクラはそんな姉弟子を輝くような視線で見つめてガッツポーズしている。

 

「サスケ。お前もだよ。こんなに早く本気を出させられるとは思わなかった。上忍への推薦状を提出するのを早めても大丈夫な位だ」

 

「・・・そうか」

 

そう言われてもあまり嬉しくない。本気のカカシとの距離の遠さに眩暈がしそうになったからだ。カカシと少しはまともに渡り合えなければ、兄さんやシスイさんには絶対に敵わない。戦いが始まって足を一歩踏み出しただけで幻術によって完封される可能性すらある。

 

「ナルト。時空間忍術上達したな。驚いたぞ」

 

「へへっ!頑張って修行したからな!!」

 

「先輩の言う通り、僕も驚いたよ。所々危ないと思わせられた」

 

 ナルトは普段の修行は自来也氏に付けて貰っているが、定期的に五代目の護衛部隊によって時空間忍術の習得を目指している。二代目・黄色い閃光という声がちらほらと聞こえるようになり、ナルトは「父ちゃん母ちゃんに恥じない立派な忍者になりたい」と言って頑張っている。将来の夢として『火影になる』事を目標として限定していないのが最近のナルトだ。火影にも出来ること、出来ないことがある。理想と現実の狭間を五代目と一緒に見るようになって迎えた変化だ。オレは逆に火影という仕事について深く考えるようになった。兄さんやシスイさんが未来の候補者として挙げられているからだ。

 

「なぁなぁヤマト隊長。オレは!?オレは上忍としてどう?」

 

「どうって、技量だけなら推薦に相応しいと思うよ。後は上忍の皆さんによる審議次第」

 

「審議かぁ・・・」

 

 ナルトが何を恐れているのかオレは知っている。それはナルトに封印されている九尾の事だ。あの事件の関係で、上忍たちの中には当然ナルトを口には出さないが良く思っていない人間がいるのは確かだ。表立ってナルトの悪口を言う人間は昔と比べれば格段に少なくなった。いくら技量を上げようと、里の人々から信頼されていなければ上忍になれないとナルトは悩んでいると言っていた。

 

「ま、大丈夫でしょ。綱手様が直接推薦して下されば審議ナシで直接昇進可能だからね」

 

 ナルトは一瞬安堵の表情をした。ヤマト上忍も頷いている。これはカカシの言う通りで、推薦状提出からの審議による選考と直接推薦での任命が昇進方法として存在している。『認められたい』という思いが強いナルトとしては前者を望んでいそうだが。少なくとも上忍2人からの推薦が必要だが、火影ならば1人分だけでいい。火影による直接推薦の効力はとても強い。火影が持つ権限の強さを物語っている。

 

 遅めの昼食を食べ終わると、上忍三人は揃って定例会議のため先に食事処を去った。上忍三人と一緒だたという緊張感から解き放たれたナルトが姿勢を崩した。ナルトを主に緊張させるのはヤマト上忍である。自来也氏がいない時、ヤマト上忍がナルトの修行を見ているのだ。物凄く怖い時があるらしい。

 

「はぁ~。美味かったってばよ。美味いもん元気になるよなぁ」

 

「本当ね!!こんな無茶なリクエストが通るとは思わなかったわ。こんな豪華だなんて予想してなかったわよ・・・」

 

「同意だ。せいぜい一番安いヤツだとばかり思っていた」

 

テーブルから立ち上がり、食事処の店員に挨拶して入り口へ向かい引き戸を開ける。

 

「二人とも午後から何か予定があるか?」

 

 二人に問いかけると、それぞれ「暇すぎるくらい暇よ」「今日は丸一日オフだってばよ!」と返ってきた。オレはこのまま真っ直ぐに帰宅する予定だったが、今、思い付いた事がある。初めての育児で大変な兄夫婦のため、諏訪の地区に行って塩羊羹でも買ってから帰ろう。二人に塩羊羹を買いに行かないかと提案し、オレたちは諏訪の地区の方へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 風と水を司る軍神を祀る荘厳な神社と、灰色の鳥居の前に広がる静かな集落。派手さがなく、自然のままの色使いが特徴的だ。天龍大社の下社周辺と似ている。美しく整備された石畳と生い茂る木々、梶の葉を簡略化させた意匠の家紋が染め抜かれた幟が風にはためいている。氷の結晶だとばかり思っていたが本当は梶の葉らしい。最近知った事だ。春ならば藤棚が名所になる。それなりの人口が密集していながらそれを感じさせない静けさに満ちた集落をオレは何度か兄さんと共に訪れている。天龍大社分社は軍神を祀っているだけあり、それにあやかろうとする参拝者が多い。武芸を修める一般人にも人気だ。

 

 地区を行きかう一族の人々は皆、揃って色白で黒髪に黒い瞳をしている。鹿島香取と比べると華奢な印象だ。チャクラ量は鹿島香取より平均的に少ないとされる。しかし幻術が上手い者が多い。諏訪は一族とその支流の家々だけで集落を構成できる程度の規模がある大きな忍一族だ。300人弱といったか。

 それはそうとして、オレは兄さんの行きつけの和菓子屋を視線で探す。達筆な文字で『ふじもり和菓子店』と書いてある看板のある店だ。最初は読み方が分からず、兄さんの友人・諏訪ヨリヤ上忍に教えて貰った。ヨリヤ上忍は本家当主の長男だ。諏訪と鹿島香取は長年にわたる蟠りを解消した結果、戦国時代の延長の体制を維持する必要が無くなった。よって一族の代表者を表す”頭領”という呼び方を止め、単なる”本家当主”になった。諏訪軍団は事実上の解散を果たした。

 

「ここ、人気なのよね。前貰って食べたんだけど、美味しかったわ」

 

「美味いんだよな~、ここの饅頭」

 

「オレとしては隣の店の”おやき”もお勧めだ」

 

指で指し示したのは隣のテイクアウト可能な飲食店だ。『おやきあります!』と看板に書いてある。

 

「まさかサスケ君が言っているのっていなご入り?」

 

ナルトとサクラが二人して気味悪がるような目線で見てきた。ンなわけがあるか。

好きなやつは好きだろうが、オレはいなご入りは好きじゃない。天龍湖で試食してみて面食らった。

 

「まさか。トマト味が結構いけるんだよ」

 

濃紺の暖簾をくぐってその店の引き戸を開け、店内に足を踏み入れる。

 

「いらっしゃーい!」

 

 柔らかな声で対応してきた老齢の女性は同期の一人、藤森ケンゴの祖母だ。血継限界である氷遁を持たない諏訪の流れを組む庶流、藤森という一族から来た。藤森は諏訪軍団という血で結ばれた忍一族同盟の一角。諏訪軍団そのものの『宗家』が諏訪という苗字を名乗る血継限界を持つ一族で、残りの人々はその支流に当たる血継限界を持たない庶流の家々という構成だ。血と結束、そして信仰を同時に守るための知恵だ。なお、”宗家”の中にも本家と分家があるというので複雑である。オレの同期で諏訪の姓を持つのは諏訪オカヤとアザミ、それから苗字を戻したフウロ。血継限界を持たない庶流生まれは藤森ケンゴ。この4人が諏訪という一族の出身者だ。オカヤとフウロはどちらも頭領の甥で本家、アザミは本家からそれなりの距離がある分家の出。中でもアザミは諏訪の若者の中で一番注目されていると言ってもいい。

 

「サスケ君、ナルト君、サクラちゃんね。いつもケンちゃんがお世話になってるわ」

 

同期の祖母はオレたちに『プレゼントよ』と言いながら饅頭を三個ずつ持たせてくれた。

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「オレここの饅頭好きなんだってばよ。ありがと、藤森のおばちゃん!」

 

当たり前の事だが、「ありがとうございます」と感謝を示す。

 

「今日も塩羊羹でしょ。何本にする?」

 

「三本で」

 

「ちょっと待っててね。ナルト君とサクラちゃんは何かいる?」

 

業務用冷蔵庫から塩羊羹を取り出しながら、ケンゴの祖母は聞いてきた。

 

「え~と、今日私たちはサスケ君の付き添いなので」

 

「あら、そうなのね」

 

 快活な老婦人はナルトとサクラに『試食よ』と言い、塩羊羹を載せた紙皿を渡した。オレが甘いものを好まないのを彼女は知っており、代わりに新製品の煎餅をくれた。うちは煎餅とは違う同業他社の製品だ。サンプル品で幸い密封されていたため、貰ったそれを愛用の肩掛けカバンに入れた。

 

「藤森のおばさん、ありがとうございました。また今度家族と一緒に来ますね」

 

「オレも彼女と一緒に来る!」

 

 オレはケンゴの祖母に会釈し、「ありがとうございました」と言う。紙袋を抱えて外に出ようとすると、溌剌とした「ありがとうね!」という声が背後から響いてきた。いつも溌剌としたケンゴとそっくりだと思った。ずっしりと塩羊羹で重い鞄を抱えていると兄夫婦の姿が浮かんでくる。オレは隣の店でトマト入りの”おやき”を購入した。それも肩掛けカバンに仕舞う。そして解散。明日また会えるが、解散する瞬間だけは妙に寂しい気持ちになる。

 

「また明日な」

 

明日から新年度が始まる。

一体どんな風に進んでいくのかまだわからない新年度が。

 

                       

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