出逢い
いつもの退屈な日常の中に僕は生きている。
廊下の窓から見える晴れた空をぼんやりと眺めながら僕は思った。
今はちょうど現代文の授業中であり、比較的国語教科が得意な僕にとって、真面目に授業を受けるなどという心意気はなかった。
と、先生以外の話し声が聞こえてきた。どうやら、隣の人と相談するように言ったようだ。
僕は両隣を見た。
このクラスは担任の意向で男女が交互の席順なのだが、僕の席は教室の一番後ろの一番廊下側にあり、右隣に席はない。左隣には本来なら女子生徒がいるのだが今日は風邪でお休みらしい。
つまり、僕には今日相談する相手がいない。そんな風に考えているとまた先生が話し始めた。
前の席の男女二人はは寝ているのか、机に突っ伏していて黒板の前で話している先生の顔がよく見える。 僕はこの先生の授業、あまり好きではない。
気まぐれで先生の話を聞いてみるが、単調な話し声はまるで子守唄のようだ。やっぱり、つまらない。
生徒が寝るのもよく分かる。先生も先生で一生懸命なのだろうが……
そして、また僕は空を見て自分の世界に入る。
やる気の起きない授業の時は、よく先生の声をBGMにして授業とは全く関係ないことを思考する。 それはくだらないことであったり、難しいことであったり、様々だ。
そして今日はちょうどこんな風に考えていたのだ。
──―人生ってつまらないなぁ、と。
まあ少々ネガティブな僕はこんな感じのことをよく考えて、少し経った後に、必死に生きている人に申し訳なく思い落ち込んでしまうのだが。
「──────さん。 鈴木──―さん。鈴木
「あっ、はい、すみません」
どうやら先生に指名されていたようだ。特に難しくない質問に答えて、先生の注意が僕から逸れたのを見て、僕はまた考え事を始める。
そもそも、何故国語の授業で『舞姫』を読み返さなくてはいけないのだろうか。僕は一回読んだら読み返さないタイプなのに。
まあ、もし違う作品を扱っていたとしても、先生の授業が好きでない僕にとってこの授業が楽しくなるなんてことはあり得ないのだが。
──―キーンコーン、カーンコーン──―
……授業終了のチャイムだ。
僕はすぐに帰る支度を始める。さっきのが今日最後の授業で今日は掃除も当番ではないからすぐ帰れるのだ。
そういえば、僕は今まで小中高とチャイムが鳴る学校であったから、不思議ではないのだが、世の中のチャイムのない学校に通っていた人々にとっては珍しいものなのだろうか?
最近ではご近所関係からそのような学校が増えてるという噂を聞いた気がするし。
っと、こんなどうでもいいことを考えてるうちに、帰りの支度ができた。
僕は基本的に教室を一番最初に出るタイプの人間だ。なんといっても、早く帰りたい。学校はあんまり好きじゃないから。
僕はすぐに校舎を出て自転車置き場まで行く。
公立の高校だけあって、お金がないのか、自転車置き場は狭く、自分の自転車を出すだけで一苦労だ。
都会の学校だから元々自転車通学が少ないというのもあるかもしれない。中学は半分以上の生徒が自転車通学だったから、結構違和感がある。
東京ってすごいな。いや、地元が田舎なだけか?
やっとの思いで自転車を出して、帰ろうと自転車に乗った時、違和感を感じた。
「うわぁ、これは……パンクかぁ。はぁ~、しょうがない、歩いて帰るか」
今にして思うと、この時のこの選択が僕の人生のターニングポイントの一つだったのだろう。
歩いて帰るのは、何もこれが初めてのことではない。何度か、こういうことは今まであり、その度に僕は自転車を引きながら歩いて帰っていた。
というか、そもそも自転車で登校しているのは楽だからという理由で、別に歩いて帰れない距離ではない。自転車を引いているので少し大変になるが。
すれ違う人々には、好奇の目や同情の目を向けられ、中には心配して声をかけてくださる方もいたが、
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
と言ったら、できることは特にないと分かったのか、そのまま去って行った。
それは、今回も同じであると思っていた。
「大丈夫ですか?」
後ろから女性の声がした。
振り向いてみるとそこには、恐らくどこかの学校の制服であろう服を着た橙色の髪をサイドポニーにした女の子が立っていた。
その子の後ろには同じ制服を着た女の子が二人、呆れ顔で立っている。
学生かな? というか、スカートが短くて寒そうだな、もうすぐ冬だし、というか今日も少し肌寒い……いや、今はそんなの関係ないか。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
いつもと同じように言う。これで相手は去っていくだろう。
「そうですか? うーん‥‥‥、海未ちゃん、ことりちゃん、あのさ‥‥‥」
「はぁー、分かっています、付いていくなどと言うのでしょう。本当はやめて欲しいのですが……穂乃果のことです、止めても聞かないのでしょう。というか、最初に声をかけに言った時そうなるだろうとは思っていましたよ」
「うーん、穂乃果ちゃんだしねぇ」
「本当!? 2人ともありがとう。大好きだよ!」
「また、穂乃果はすぐにそういうことを……」
「私も穂乃果ちゃんのこと大好きだよ」
……なんか、場の空気に流されちゃってるけど、どう言う状況なの? これ。
「あのぉ、一体どういうことですかね?」
彼女たちはハッとした表情をして僕の方を見た。
「あっ、ごめんなさい。私たちあなたのことが心配なので、ついて行きますね」
「あ、そうなんですか。ありがとうござい‥‥‥えっ? ついて行く?」
「はい。……あっ、もっ、もしかして迷惑でしたか?」
やばっ、目の前の子が少し泣きそうになってる。こんな所を他の人に見られたら色々とまずいことになる。
「いっ、いや、そんなことないよ、うん」
「そうですか? えへへ、良かったぁ」
うわっ、急に笑顔になった。感情豊かだなぁ。じゃなくて、
「いいんだけど、あのどうしてでしょうか」
「ついて行く理由? ……うーん、なんとなくかな」
「はい?」
意味がわからない。なんとなくで知らない男について行ったりするものなのか? と思っていたところで、後ろの青い髪の女の子が言った。
「まぁ、とりあえずは、歩きながら話しましょうか。もう周りも暗くなり始めていますし」
本当だ。気づけば暗くなり始めている。
もう秋だし、日の入りが少し早くなっているのを感じるな。
色々言いたいことはあるが、もうこの子たちはついて来る気満々みたいだし、女の子をあんまり遅い時間まで連れ回すのもまずい。
「そう、ですね。はい、分かりました。まぁ、僕の家も近いのでそこまで時間はかからないと思いますけど」
そう言って僕たちは歩き出した。
これが僕と彼女たちの、本来起こるはずの無かった出逢い。
それはまさに僕たちにとって奇跡のような出逢いだった。
基本的には一週間に一話ペースで投稿していきたいと思います。次回は1月19日21時投稿予定です。