みんなが帰った後、穂乃果といろいろなことを話す音也。
その中で音也はオトノキ廃校のことや穂乃果の心情を知る。
音也は音也なりのの言葉で穂乃果を励まし、自分にも何かできることはないかと考えるのだった。
朝はいつも通りに起床、とはいかなかった。
──―ピンポーン
鳴り響くチャイムの音で目が覚める。眠気眼をこすりながら時間を確認する。おい、誰だこんな時間に、まだ五時だぞ。そう思って上着だけ羽織り玄関に向かう、そこにはある意味で予想通りの人物と予想外の人物がいた。
「おはよう、音也くん」
「おはようございます、音也」
「はっ? へっ? ……えっと、おはようございます?」
そこにいたのは、元気に挨拶してくる穂乃果と申し訳なさそうな顔で挨拶してくる海未だった。
「すみません、私は止めたのですが、穂乃果が……」
「音也くん、今から朝練するんだけど、一緒に行かない?」
どうやら朝練のお誘いのようだ。ここまで来ると罰ゲームか何かかと思えてくるぞ。
昨日から朝練をするつもりでこの二人は早く寝たのかもしれないが、僕は普通に日が変わるまで起きてた。まさかいつもより一時間も早く起こされるとは……正直言ってすごい眠い。
だが、昨日穂乃果にあんなことを言った手前、ここで引き下がるとう無責任かな? ……流石に毎日はきついけど、今日くらい付き合うか。でも僕が行って意味あるのか? まぁ、いいや。
「準備するから、ちょっと待ってて……ああ、寒いだろうから中で待ってていいよ。布団出しっぱなしだけど気にしないでね?」
「あっ、すみません。ではお言葉に甘させていただきます」
「お邪魔しまーす」
さて、僕も準備するか。そう思って服を脱ぎ出したのだが……
「おっ、音也くんなんで急に脱いでるの!?」
「いや、着替えるためだけど……」
「はっ、破廉恥です!」
二人して顔を赤くしながら僕を怒鳴る。だが、どう見てもこちらを注視してたような……
「じゃあ、あっち向いてればいいじゃん。……ああ、女子校の生徒だから男に免疫がないんだね。いやそれにしては初対面の男の僕にはそこまで恥ずかしがってなかった気がするけど……もうそれを突っ込み出したらきりがないか」
おそらく無限ループだ。なんで初対面は大丈夫なのって聞いたら、可愛くて男の子っぽくなかったから。今はなんでダメなのって聞いたら男の子の裸なんて久しぶりに見たから……みたいな感じになるだろう。というか……
「さっきからチラチラこっちを見るのは、流石に恥ずかしいからやめてくれない?」
「じゃあ、早く着替えちゃってよー」
「そっ、そうですよ。破廉恥です」
二人して手で顔を隠してるくせに指の隙間からこちらを見ているのだ。
僕が悪いのか? 悪いんだろうな、きっと。もう少し色々考慮するべきだったな。そう思ってる間に着替え終わる。
「着替え終わったよ」
そう言いながら布団をたたんで押入れに入れる。そして顔を洗おうと洗面所に向かうところで穂乃果がこんなことを聞いてきた。
「音也くんは、女子の前で着替えることになんにも感じないの?」
「学校だと、体育の前は女子の前でも着替え出すのが当たり前だし、女子の方も、キャー、みたいな露骨な反応はしないからさ、つい、いつもの癖で」
そう、学校だと別に女子がいたところで勝手に着替えだすから、特にそういうことで恥ずかしいとか思わなくなったのだ。女子のほうがどう思ってるかなどは知らないが。
穂乃果は僕の回答に納得したように頷いて、海未のほうを向く。
「じゃあ、海未ちゃんは絶対共学の高校には行けないね」
「なんで?」
「海未ちゃん、男の人にあんまり免疫ないから」
「あー、男友達が少なかったタイプなんだね。さすが、お嬢様ってところかぁ」
僕の同級生にも、あんまり男子と話せないような人はいた。おそらく海未もそんな感じだったのであろう。
というか、今まで穂乃果から聞いた話から中学から女子校に通ってるみたいだから、普通だったら穂乃果にも免疫はないと思うんだけど……まぁ、その辺りは気にしちゃいけないところか。
「いっ、いえ、話すくらいはできますよ。ただ、男の人の、はっ裸となると話が別で……」
「私も急にだったから驚いちゃった」
驚いたっていう反応だったか? まぁ、そういうことにしておこう。
「まぁ、僕も昔は恥ずかしかったんだけどさ、ほら、水泳の授業で見られてるから、あんまり変わらないかなって開き直ったんだ」
「あーそれは言えてるかも……そうだ! 海未ちゃん、今度プールか、海にでも行こっか」
一応僕なりに言い訳をしておく。その言葉に穂乃果は少し考えた後、名案を思いついたとでも言うように海未にこう言った。
「なっ、なんでですか!?」
「少しは男の人に免疫がつくかもしれないじゃん」
海未の戸惑ったような反応に穂乃果は理由を述べる。本当に穂乃果は急だ。海未が本気で困りだしたので助け舟を出すことにする。
「まぁ、その話は後にして……準備終わったよ?」
「そ、そうですか。コホン、それでは取り敢えず走ります。音也も一緒に走りますか?」
僕の言葉に海未は落ち着きを取り戻す。それにしても走るのか……まぁ、うん、久しぶりに走るのも悪くない。
「まぁ、うん、そうだね。せっかくだし僕も走るよ」
「分かりました、近くに神社があるのは知ってますか?」
「神田明神のこと?」
「そうです、取り敢えずそこまで走ります」
近いとも遠いとも言えない絶妙な距離だな。この練習メニューって海未が考えてるのか? すごいな。
「うん、それぐらいなら多分大丈夫かな?」
「では、私と穂乃果は先に行きますね。準備運動は済ませてあるので。音也もしっかり準備運動するのですよ」
「分かった」
僕の返事に海未は頷き、僕に注意しながら穂乃果と共に外に出る。準備運動か……まぁ、部活の時にやってのでいいだろう。
「では、行きますよ、穂乃果」
「うん」
そう言って海未と穂乃果は走っていった。
「……頑張ろう」
しっかり、準備運動はする。
終わったのは彼女らがスタートしてから五分ほど経った後だった。
「さて、行くかな。……そういえば、コース聞いてない。まぁ、一番大きな道でいけばいいよね」
そうして、走り出す。
自分のペースで走って数分後、彼女たちの後ろ姿が見えてきた。良かったコースは合ってたみたいだ。
少しペースを上げて彼女たちの横に並ぶ。
「意外に早く追いつきましたね、しっかり準備運動はしましたか?」
「したよ」
「それでは、ペースを上げましょうか」
「えー、もう無理だよ~、海未ちゃん」
「叫ぶ元気があるなら大丈夫です。音也を見習ってください、このペースで走っていた私たちに追いついたのですよ」
そう言ってペースを上げる海未、僕もそれについていく。だが、穂乃果はついてこない。
「いいの? 穂乃果を置いていって」
「いいんです。何事も自分のペースを守ることが大事なのですから、先ほどはああ言いましたが、穂乃果も自分の限界くらい分かっているでしょう」
「そっか」
「音也も自分のペースで走ってくださいね?」
そう言い残し海未は先に行ってしまった。
「……海未、すごいなー」
僕は海未に追いつこうともせず自分のペースを維持して走る。
数分後神社の境内の中に海未と二人でストレッチしながら、穂乃果を待っていた。
そういえば、海未と二人というのは初めてだな。今のうちにいろいろ聞いておくか。
「海未はさぁ」
「なんでしょう?」
「穂乃果とは長い付き合いなの?」
「そうですね。もともと家族ぐるみでの付き合いでしたから。昔からの友達です」
昔を思い出すように空を見上げる海未。……綺麗だな、ってそうじゃなくて。
「そっか……じゃあ、海未は今まで穂乃果が何か弱音を言ったりしたのを聞いたことある?」
「いえ、ないですね。落ち込んだりすることはたまにありましたけど、すぐに立ち直って弱音なんて吐きませんでした。どうしたんですか? 急に」
そうなのか、やっぱり昨日みたいな穂乃果は見たことがないってことか。多分あまり心配をかけたくないんだろうな。穂乃果がそのつもりなら僕も海未に言うべきではないかな。でも……
「ううん、なんでもない。ただ、少し穂乃果が心配で……」
海未は意味がよく分からないとでも言うように聞き返してくる。
「心配?」
「ああいうポジティブ子ってさ、どんなこともなんとかなるって思ってるから、どうにもならないことが起きた時どうなっちゃうんだろうって思って」
僕の言葉に海未は何か察したように頷く。
「聞いたんですか? 廃校のこと」
「うん」
「大丈夫です。穂乃果は私たちの想像以上のポジティブさです。だから、どんなことがあっても、すぐに立ち直りますし、私たちはそんな穂乃果を信じています」
私……たち、か。きっと穂乃果はずっとああいう感じでみんな引っ張ってきたんだろうな。ずっとみんなの前にいるから、横に誰もいない。そんなことにならなければいいけど。
「そっか、海未がそう言うなら、大丈夫かな」
「はい、あっ、穂乃果が来ました」
海未が指をさした方向には肩で息をする穂乃果がいた。
「ハァハァ、二人とも早すぎだよ~」
まぁ、こんな穂乃果を見てると確かに僕の考えすぎかもしれないと思えてくる。そう感じてそれ以上考えるのは控えるのだった。
その後、穂乃果が落ち着くと今度は海未の家に向かった。まさか昨日の今日で本当に園田邸に行くことになろうとは。
「本当おっきいなー、園田邸」
「でしょ~」
園田邸に入ってすぐ、思わず立ち止まってキョロキョロとしてしまう僕になぜか穂乃果が誇らしげにしていた。そんな穂乃果に海未が叱責する。
「ほら、穂乃果は早く準備をしてきてください。音也は付いてきてください」
「うっ、うん」
僕は別の場所? どこに連れいかれるんだろう? そう思いながら穂乃果と別れ海未について行った先には海未の祖母と思わしき人物がいた。
「失礼します、お祖母様。お連れしました」
というか、正座で襖をあけるとか本当に所作が一々すごいな。
「おや、その子が……確か音也さんと言いましたか? そこに座りなさい」
「はっ、はい」
「それでは、私は穂乃果のところへ参ります」
そう言って海未は行ってしまった。
まぁ、普通あの年頃の女の子が男を家に連れてきたらこうなるよなぁ。 そんな風に思っていると、海未祖母は僕の名前を呼ぶ。
「音也さん」
「はっ、はい」
僕の返事に少し微笑みながら、言葉を続ける海未祖母。
「そんなに緊張しなくても大丈夫、あなたのことは海未さんから聞いています。……一つ聞いていいでしょうか」
「なんでしょうか?」
「海未さんは男の人から見てどうでしょう?」
海未祖母の質問の意図が掴めず思わず聞き返してしまう。
「どう、とは?」
「魅力的か、ということです」
「ほぇ、えっと……」
予想外の質問に思わず変な声が出てしまった。
「海未さんはあの高坂の所の娘、穂乃果さんについていくようにオトノキに入学したのですが、あそこは女子校、全く男っ気がないもんで心配なんです、あの子の将来が」
……ああ、つまり後継の話か? 男がいないから早く結婚してほしいみたいなそういう……変なラノベの見すぎか?
「でっ、でも、息子さんとかいるんじゃ……」
僕の言葉に海未祖母は首を振る。
「いや、海未さんは一人っ子です。……何か勘違いをしていませんか? 私は別に跡取りとかそういう意味で言ってるんじゃありません。私はただ、海未さんには充実した青春を送って欲しいと思ってるんです」
「はぁ、それでなんで海未が魅力的かどうかなんて?」
所謂親心というものだろうか? だがそれが魅力的かという質問とどう関係するんだ? そう思っていると海未祖母はその疑問に答えてくれた。
「海未さんもそろそろいい年だし、彼氏の一人や二人くらいできないものかねぇ、と思いまして」
……あー、そういうことか。どうしよう、これはうまく答えないと面倒くさいことになるんじゃ。
「女子校だから出会いがないだけですよ。海未は十分魅力的だと思います」
「そうですか……ですが、出会いならありましたよね?」
しまった、そう来たか。いや、待て、落ち着け。なんだこの状況は。
「それは、あの、だっ、ダメですよ。海未の意見もきちんと考慮しないと……」
「海未さんの意見も、ということはあなたは良いということですか?」
「ふぇ!? はっ、はい、確かにそうですけど、いや、あれ、何言ってるんだ? 僕。一昨日初めて逢った人なのに……」
僕の言葉に海未祖母は微笑む。
「ふふっ、音也さんは不思議な方ですね。良いでしょう。二人のもとに案内します」
そう言って立ち上がる海未祖母。
「え? えっ??」
「二人もあなたが見ていた方がやる気が出るでしょう」
「え? あの……」
「それと、私はあなたを歓迎しますよ。音也さん」
「あっ、ありがとうございます?」
「さて、行きましょうか。こちらです」
「はっ、はい」
なんかよく分からないうちに話が終わってしまった。やっぱり人生の大先輩には勝てないなぁ、と思った。
案内された先は武道場だった。家に武道場があるとか意味が分からん。
「この中ですよ。それでは」
「あっ、はい、ありがとうございました」
海未祖母は僕を案内して去っていった。僕はお礼を言って武道場の中に入る。
中ではちょうど二人とも休憩をしていた。穂乃果はこちらに気付いて手を振ってくれた。
「音也くん、お話は終わった?」
穂乃果をそう聞いてくる。知っていたか、いや、海未に聞いたんだろうな。
「うん、終わったよ。そっちは?」
「今は休憩中~、もう一回試合をしたら今日の朝練は終わりだよ」
よく見たら二人とも顔は見えるが剣道着を着たままだ。
「そっか。僕は剣道のことはよく分からないから、応援しかできないけど、頑張ってね」
「そうですね。音也も来たことですし、始めましょうか」
「よし、やるよ」
「僕はその辺で見てるね」
その後二人の勝負を僕はただ見ているだけだった。見てもよく分からないのだけど。ただ迫力はものすごい。 と思ってるうちに勝負がついたようだ。どうやら海未の勝ちらしい。二人の反応からそんな気がする。
二人とも着替えてくると言って武道場から出て行った。手元無沙汰になった僕は、また考え事をする。
穂乃果と海未では海未の方が剣道は強いみたいだ。先の走り込みを見た感じでも、海未の方が体力はある。しかし、大会に出るのは穂乃果らしい。果たして、海未が自主退場したのか、はたまた、園田家の一人娘だから大会からストップがかかっているのか。
まあ、多分前者の方だろうな。というか後者みたいな理由が現実にあったら驚きだ。そんな風に考えていたら、海未が先に来た。僕の隣に座る海未。
「あれ? 穂乃果は?」
「シャワーを浴びてから来るそうです。まだ練習はあるというのに……どうしたのでしょうか?」
海未の言葉に僕は思わず乾いた笑みを浮かべてしまう。
「あはは……海未はいいの?」
「はい、どうせ後でまた汗を掻くなら気持ちは悪いですが別にいいかな、と思いまして」
こりゃ、祖母も心配する訳だ。本当に男っ気が感じられない。
「海未、一つアドバイスをあげる」
「はい?」
「女の子だけならまだしも、今日は僕がいるんだよ。気にならないの? いや、僕は別に気にしないんだけど」
僕の言葉に最初はポカンとしていた海未だったが、段々と顔を赤くしていく。やっぱり気づいてなかったんだ。
「……あっ、ああ、そういうことですか! えっ、えっと、はっ、破廉恥ですよ」
海未は怒鳴りながら僕から距離をとる。
「えー、そんな理不尽な」
僕が悪いのか? 今の。でも、まぁ確かに僕も無神経だったかな。
「すっ、すみません。次回からは気をつけます」
海未は僕の言葉を聞いて謝る。やばい、罪悪感が。
「いっ、いや、大丈夫、僕はそんな気にならないから。僕も悪かったよ、ごめん、無神経だった。……ただ、もう少しそういう……なんて言うかな、おしゃれ、とはちょっと違うけどそんな感じのこと気にした方がいいと僕は思うよ? 穂乃果は昨日言ってたけど、海未もそっち系はことりに頼ってるんでしょ?」
「そうですね……私にはよく分からなくて、今まで家のことで一生懸命でしたから。でも、興味がないわけじゃないんです」
「そっか」
「ええ、私にはこの家を継ぐという義務がありますけど……普通の女の子みたいなことをしてみたい、なんてことも思ってるんです」
ちょっと暗くなる海未。少し特別な家に生まれたからいろいろあったんだろうな、今まで。……ここはフォローしておくか。
「大丈夫さ、海未」
「えっ?」
驚いた顔をする海未に僕は言葉を続ける。
「誰かが言ってたけどね、女の子はみんな一人一人が特別なんだ。だから、海未のしていることだって、立派に女の子らしいことだし、海未が何かをすれば、それは女の子らしいことなんだと思うよ。あくまで、僕の持論だし、めちゃくちゃなことを言ってるけど」
僕の言葉に海未は笑顔になる。
「ふふっ、確かに、めちゃくちゃですね。ですが、あなたが私を励まそうとしていることは分かります。ありがとう、音也」
笑顔が眩しい、まともに海未の顔が見れない。
「うっ、うん、どういたしまして」
と、ここで穂乃果が来た。すっごいニヤニヤしてる。
「あー、海未ちゃんが音也くんとイチャイチャしてるー」
「いっ、イチャイチャなんてしていません。なんてこと言うんですか、穂乃果は」
「そ、そうだよ」
海未と一緒に否定するが穂乃果の笑みは一層深まる。
「動揺してると逆に怪しいよー?」
そんな穂乃果の態度に海未は遂に怒り出す。
「ほ~の~か~」
そんな海未を見て逃げ出す穂乃果に追いかける海未。
朝から元気だなぁ、と僕は人事のように感じながら朝ご飯のお呼びがかかるまで二人を見ていたのだった。
次回は3月8日21時投稿予定です。
今回はグダってしまって長くなりました。読みにくかったかもしれません。
本当は分割投稿するつもりだったのですが、うまいこと切れませんでした。長くても4000文字前後にできるよう努力しようと思ってます。……私がそれくらいが読みやすいので。
今回長かった為明日は投稿はしません。すみません。
という訳で、次回"響く音"お楽しみに。オリキャラ回です。