優勝の願掛けのため神社に赴く音也。そこで音也は希と出逢う。
絵里の知り合いという接点から何気ない会話を交わし友情? を育むのだった
今日で穂乃果たちと出逢って大体一ヶ月、僕は平穏な毎日を送っていた。基本は穂乃果に振り回され、時々海未やことり、絵里にも振り回され、学校では響子にいじられる。
高校に入ってから今まで事務的な会話しかしてなかった分、ものすごく、何というか、楽しかった。
まあ、そんなことはどうでもいい。今日はついに穂乃果が出る剣道の県大会当日なのだ。当然、応援に向かう。
「穂乃果……大丈夫かな?」
今日、穂乃果と海未は一緒に早めに会場へ向かった。二人に一緒に来るかと聞かれたが僕は流石にやめておいた。
その代わりというのはなんだが、ことりと一緒に行くことになっている。待たせるわけにもいけないので、早めに家を出る。集合場所はことりの家だ。なぜ? と思うかもしれないが、ことり曰く、持ってほしい荷物があるらしい。所謂荷物持ちだ。
「さて、ことりの家はどこだったかなぁ……」
うーん、ま、最悪ことりに電話すればいいし適当に行ってみるか。
そうして、朧げな記憶を頼りに歩いていると、偶然にも家の前で立っていることりを発見した。ふむ、僕の記憶力も案外侮れないな。そんな感じ自画自賛してるとことりもこちらに気が付いたのか、こっちに走ってくる。
「音也くん、おはよ~。よく来れたね、絶対途中で電話かけてくると思ったから逆に迎えに行こうと思ってたのに」
「いや、そうしたらことりの家を集合場所にした意味がないよね」
「あっ、それもそっかぁ。あはは~」
気付いてなかったのか。というか僕たち、計画性のなさすぎでしょ。メンバーの片方が行ったことない場所を集合場所に指定するとか。
ああ、ちゃんと僕も意見言っとけば良かった。今回はことりだけに任せちゃった僕の責任だな。
「ごめん、ことり」
「え~、何が~?」
ことりは分かってないようだ。まぁ、この謝罪はある意味自己満足みたいなものだから。
「ううん、なんでもないよ。それより僕に持ってほしい物って?」
「変な音也くん……まぁ、いっか。ことりちょっと準備してきちゃうから、家の前で待ってて」
そう言って家の中に入っていくことり。人の家の前で立っているっていうのもどことなく居心地悪いな。そんなことを思っていると玄関の開く音がした。振り向くとそこにはことりとよく似た人物が立っていた。
「あら、こんにちは」
「あ、どうも」
誰だろうか? おそらくことりのお姉さんとかかな?
「へぇ~、あなたが音也くん。ことりからお話は聞いています。ことりったらここの所ずっと音也くんの話ばかりなのよ~」
「は、はぁ、そうなんですか」
そんなこと言われても何と反応すればいいのか困る。と、また玄関の開く音がした。
「音也くん、お待たせ~ってママ! まだこんな所にいたの!?」
ママ!? 今ママって言ったよね!? え? この人ことりのお母さんなの!? 若!?
いや、よく考えてみると、穂乃果と海未のお母さんも若いよな。なんか状況証拠的に母親だって判断してたけど……あれか、母親たちがこんなに綺麗だから娘たちも可愛くなるのか。
「あら、ことり。ちょっと、噂の音也くんのことが気になってねぇ。ことりのお気に入りみたいだし」
「ママっ、その話は音也くんの前ではやめて!」
おお、あのことりが見事に踊らされているぞ。流石はことりのママって所か。……そうか、ことりの中の小悪魔は遺伝だったのか。
「ふふっ、それじゃ、音也くん、またお話して頂戴ね」
「あっ、了解です」
そう言って去っていくことりのお母さん。すごい人だった。
「音也くん、ママなんて言ってたの?」
「……ことり世の中には知らないほうがいいこともあるんだよ」
正直に言ってもいいが、ここは普段の仕返しをすることにした。
「え? どっ、どういうことなの!? ママは一体何を言ったの〜」
そうして唸っていることりを放って置いて僕はことりが持ってきた荷物を見る。なんだこれ? そこそこ大きいぞ。……そういえばこんな感じのバックを野球部の人たちがよく持ってたな。よく重そうだなぁって思ってたけど……そう思って持ってみると意外にも軽かった。
「ことり、これ何が入ってるの?」
気になったので、ことりに聞いてみる。先ほどまで唸っていたことりは我に返って僕の質問に答えてくれた。
「え? あ、うん、衣装だよ。応援するときに着るの」
「へぇ、衣装……これも、ことりが?」
「うん、最終的な調整とかは業者さんに頼むんだけど、大まかな部分は私が」
やっぱりすごいな、ことりは。
「さて、それじゃ行こうか。僕はこれを持ってけばいいだら?」
「だっ、だら? うっ、うん、お願いね」
おっと、方言が出てしまった。実家では会話全部が方言とかそういうのはなかったけど、それでも出るときは出るからなぁ。
「ごめん、出来るだけ方言は出ないようにしてるんだけど」
「……たしか、静岡だっけ? 音也くんの地元って」
おお、憶えてたのか。数回くらいしか言ってない気がするのに。
「正確には、静岡西部だね。あの辺は三河弁っていうのと遠州弁っていうのが混じってる地域なんだ。ま、方言って言っても標準語に近いタイプなんだけどね」
嬉しさのあまり雑学を披露してしまった。こういうの人によってはうざがられるんだよな。
「へぇ~、そうなんだ。知らなかった。すごいね、そんなこと知ってるなんて」
「あー、こんな雑学人に自慢するくらいしかできないし、もしかしたら僕の知識も間違ってるかもしれないから、感心されてもって感じだなぁ。まぁ、そう言われて悪い気はしないし……ありがとね、ことり」
「うん。さて、今度こそ行こう?」
「あっ、ああ、ごめん引き止めちゃって」
「気にしてないよ」
そう言って歩き出すことり。僕もついていく。
そうして数分後、会場に到着した。
「よし、着いた。それじゃあ、私着替えてくるから、音也くんは適当に席についてて」
「了解」
そんな会話をしてことりと別れる。でも、着替えてくるってどこで? ……そんなふうに考えながら、会場に入り観客席へ向かう。
「おお、すげい」
広いなぁ。入った瞬間感じたのはそんなことだった。観客はまばらだが、女子が多い気がする。……そうだよね、これ女子剣道大会だもんね。多分友達が出るから応援に来たみたいな女子高生が多いみたいな印象だ。まぁ、剣道ってそんなメジャーでもないしな。剣道やってる人には悪いけど。
と会場内を見渡していたら、観客席に見覚えのある頭を見つけた。
「あれって、もしかして……」
そう思って近づいてみると、案の定、花陽と凛だった。そしてあちら側もこちらに気づいたのか、手を振ってきた。
「あっ、音也センパーイ。こっちこっち」
どうやら僕のことを呼んでいるようだ。というかそんな大声で呼ぶなと言いたい。恥ずかしい。ほら花陽もあわあわしてるぞ。
「花陽、凛、おはよ」
「おはようございますにゃー」
「おはようございます、音也先輩」
ここ一ヶ月この二人とも何回か会っていて、そのうちに花陽の僕に対するおどおどした感じが少し消えた。嬉しい変化だ。
「そういえば、音也先輩のその荷物はなんですか?」
おっと、やっぱり気になるか。実はことりの荷物とは他にもう一つ大きめのバックを持っていたのだ。
「ビデオカメラだよ。わざわざこの為に買ったんだよ? あはは、欲しいゲームあったのになぁ、ハァ」
少し嫌味っぽい言い方になってしまったのは許してほしい。あのゲーム本当に欲しかったんだ。
「え? あ、はい、そうですか。……別にそんなことをする必要性を感じないにゃ」
ふむ、凛はよく分かってないようだな。
「これで撮った穂乃果の試合をネットにあげるんだ。まぁ、穂乃果が許可すればの話だけどね」
「なるほど~、それで、そんな用意をして……」
「ま、穂乃果の為だね」
そう、穂乃果の為。あの穂乃果が僕に吐いた弱音は絶対に忘れない。
「へぇ、穂乃果先輩の……音也先輩って穂乃果先輩のことが好きなんですかにゃ?」
「ふぇ!? ち、違うよ、いや、違わないこともないけど、僕にはそういうの向いてないというか……」
たじたじになる僕。正直僕はこういうのに慣れてない。
「ダメだよ、凛ちゃん! 音也先輩困ってるよ」
「でも、かよちん、音也先輩って絶対奥手だから、強引にでもそういうこと聞いていかないとダメだと思うにゃ」
「待って凛ちゃん? その言い方だと凛ちゃんが音也先輩を狙ってるみたいに聞こえるよ?」
「違うにゃ、音也先輩の反応が見たいだけだにゃ。そもそも凛は女の子っぽくないから、そういうのは似合わないにゃ」
二人がそんな会話をしている。なんだよ僕の反応が見たいだけって。というか、凛が女の子っぽくないって? 全国の女子に怒られるぞ、それは。
「大丈夫、凛。凛は十分女の子っぽいよ? というか可愛い……あ、やば、思わずすごい恥ずかしいこと言っちゃった、恥ずかし!」
やばい、無意識で本音が出た。恥ずかしい。
「なんで言った本人が恥ずかしがってるんですか? でも、お世辞でも嬉しいです、ありがとございますにゃ、音也先輩」
凛本人はケロッとしている、というかお世辞って……
「お世辞なんかじゃないんだけどなぁ。……本当に可愛いよ凛は」
なんか今度は半分やけになって言った。凛はもっと自分に自信を持つべきだと思う。
「分かった、分かりましたにゃ。だからもういいです、これ以上はやめて欲しいにゃ~」
凛はそう言ってなんかじたばたしている……どうしたんだ? この疑問には花陽が答えてくれた。
「音也先輩、凛ちゃんこう見えて照れてるんですよ」
照れてるのか、これで。さすがに分からなかった。
「ちょっと、かよちんなんで言っちゃうにゃー」
「そっか、それなら恥ずかしい思いをした甲斐があったね」
いや本当に恥ずかしかった。どっかのラノベの主人公とか、少女漫画のヒーローたちはよくこんなことが臆面もなく言えるよな。僕には無理だ……言えたとしても、すぐにこうやって自分が恥ずかしくなる。
「うー、音也先輩は意地悪だにゃ」
と、雑談をしてたところで会場アナウンスが流れた。どうやら大会が始まるようだ。開会式とかだるいな。ま、一応撮影始めるか。そう思って凛と花陽と別れ撮影しやすそうな場所に移動する。
「そういえば、ことりは?」
カメラの準備をしながら、周りを見渡す。すると、特徴的なトサカを見つけた。あっ、あれだ。分かりやすいな、めっちゃ目立つじゃん。ことりもこちらに気づき近づいてきたのだが……
「……何? その服……チア?」
ことりの着ていた衣装とは所謂チア服だった。ちゃっかりポンポンも持ってるし。
「そうだよ。やっぱり応援って言ったらこれだよね」
……満面の笑みでそんなことを言うことり。それは別にいいのだが、この服装、僕には刺激が強すぎる。なぜなら、圧倒的に布面積が小さいのだ。
「あー、そうだね、うん」
適当な返事だけしてすぐにカメラの方を向く。いくら女の子と接するのに慣れてきたと言っても、これはさすがにまだきつい。
「? 音也くん?」
ことりは僕の反応を不思議そうにしている。……ここはスルーしよう。
「……もうすぐ始まるみたいだよ? ことり」
「あ、うん、それじゃあ私はあっちで応援してくるね?」
そう言ってことりは去っていった。
その少し後に最初の試合が始まった。
正直言って今でも剣道のことは良く分からない。ただこの独特の空気はすごいと思う。
張り詰めた空気の中で起こる一瞬の攻防……会場内に響き渡る選手の声。言葉にはできない光景がそこにはあった。
しかし……これが今時の女子に受けるかと言われたら……そんなことを考えながら次々と試合が行われていく。
元々選手の人数が少ないということもあって、あっという間に決勝になった。
会場の真ん中で選手二人が向かい合っている。あの片方が穂乃果だ。
今までにも増した緊張感、形容しがたい空気の中で片方の選手が声を上げながら竹刀を振る。
それをもう片方の選手が竹刀でいなそうとする。しかし、その竹刀は空を切り、審判は旗を上げる。
結果は穂乃果の勝ちだった。
閉会式が始まり、穂乃果の名前が呼ばれる。賞状をもらう穂乃果……いつもの穂乃果らしからぬその大人びた顔に少し照れてしまったのは内緒だ。
閉会式は開会式ほど長くなかった。まぁ、疲れてるであろう選手たちへの配慮だと思う。
「音也くーん」
カメラの片付けをしている途中、名前が呼ばれる。声のした方を向くと穂乃果がいた。
「おめでとう、穂乃果」
「ありがとう、音也くん」
「それで? どうしたの?」
穂乃果は袴のままでまだ着替えていない。多分僕に用があって来たと思うのだが……
「あ、そうだった。記念撮影するんだけど……音也くんも一緒に来て」
「へ?」
穂乃果は僕の手を取って走り出す。何、どういう状況!? 流されるがままに穂乃果に引っ張られ、そのまま海未とことりがいる所に連れてかれた。
「よし、撮るよ! 音也くんが逃げ出す前に」
「え? え?」
「穂乃果!?」
「穂乃果ちゃん!?」
「はい、チーズ」
カシャというシャッター音が聞こえる。よく分からない内に写真を撮られたようだ。というか誰に撮られたんだ? とシャッター音の聞こえた方を向くと穂乃果母がいる……すごいニヤついてるし。あの人もグルか。
「ちょっと、穂乃果……」
「えへへー、ごめんね、音也くん」
悪びれる様子もない穂乃果、怒る気も失せる。が、どうやら、それが癪に障った人物もいたようで……
「穂乃果? 音也に説明せずに連れてきたのですか? 私言いましたよね、音也が納得したらって」
神やお天道様が許してもこの海未が許しませんと言わんばかりの気迫。だったら海未が呼びに来ればよかったのに……と思ったが、穂乃果のことだから、多分海未の静止も聞かず飛び出してきたんだろうな。
海未に怒られてことりに泣きつく穂乃果。ことりは穂乃果をフォローし、海未はそんなことりに甘すぎると苦言をもらす。僕はそれを見て苦笑い。
いつものはちゃめちゃな光景。だが、安心するような光景だ。そう思ったのだった。
次回は3月22日21時投稿予定です。
すみません、今日は諸事情から投稿が少し遅れました。こんな小説を待っててくれる方がどれほどいるか分かりませんが。
やっと優勝まで来ました。はい、漫画一巻の最初の数ページですね。……やっぱりこの話、つまらない? 私そんな気がしてきました。まぁ、続けるんですが。
次回"にこ"……タイトルからにじみ出る手抜き感。