パンクした自転車を引いて帰る途中の音也に声をかけてきたのはどこかの学校の女子生徒三人だった。
大丈夫ですかと聞いてくる彼女たちに大丈夫と言って別れようとした音也だったが、彼女たちはなぜかついてくると言う。
少しの問答の末押し負けた音也は彼女たちと一緒に家に帰ることにした。
「私の名前は高坂穂乃果、国立音ノ木坂学院の一年生です。あなたの名前は何て言うんですか? 多分どこかの学生さんですよね? 制服着てるし」
歩き始めてからすぐ彼女、高坂さんはそんなこと言ってきた。ちなみに高坂さんは僕の横、他の二人は後ろを歩いている。
それにしても、コミュ力高すぎやしないか、この子。めちゃくちゃグイグイ来るぞ。
というか、三人とも凄い容姿が良いし、めっちゃ緊張するんだけど……まさか、これが俗に言う逆ナンって奴か? ……いや、そんな訳無いか。さっき普通に心配なのでついて行くって言ってたし。ただ、この子の行動力が異常なだけか。
しかし、よく知らない男に声をかけれるなこの子。世の中の女子高生で知らない男に善意で声をかけれるひとがどれだけいるか……しかも音ノ木坂って言ったら確か僕の記憶が正しければ女子校だぞ。普通なら男に免疫無くて緊張する場面じゃないのか?
とまあ、いつものように自分の世界に入っていると、高坂さんが怪訝そうな目で見つめてきているのに気づいた。
いかんいかん、人前で黙り込むのは僕の悪い癖だ。えーとっ、名前だったかな。
「僕は……鈴木音也と言います。高坂さんの言う通り学生です。近くの公立高校に通っています、一年生です」
僕がそう答えると高坂さんが若干驚いたように目を見開いた。
「へぇ~、同い年なんだ。私達よりも背が高いからてっきり年上なのかと……よろしくね、音也くん」
「あっ、はい、よろしくお願いします?」
何だろう? よろしくって。一期一会を大切にするタイプなのか? いや、失礼だけどそんな風には見えないし。そういえば、敬語も無くなってるし……同い年って分かったからか?
「もう、なんで疑問形なのかなぁ。まぁ、いっか。それでね、この子が園田海未ちゃんで、こっちの子が南ことりちゃんって言うの。二人とも私の大切な友達だよ」
高坂さんはこちらの様子などは気にせず、どんどん話を進めていく。もう高坂さんはこういう人だって事で納得して、頭を切り替えるか……
さて、高坂さん曰く、先程からちらほらと声が聞こえていた、こっちの黒髪ロングの子が園田さん、そっち髪型が‥‥‥なんというか、独創的な子が南さんか。
園田さんは真面目そうな感じだ。たまに普通に話してるけど、ほとんどは敬語だし、家庭の教育かな? 南さんは、何か、ぽわぽわ~っとしてるというか……ていうか、初対面だし今まで触れないようにしてたけど、あの髪型は何だ? ……トサカ?
そんな風に考えていると、混乱していると思ったのか園田さんが話しかけてきた。実際には混乱しそうになったので考えるのを放棄しただけだが。
「ふむ、どうやら状況についてこれていないようですね。まぁ、無理もありません。穂乃果はこういう人なのです。それで納得していただけませんか?」
「穂乃果ちゃんでも、誰これ構わず、声をかけるわけじゃないんだけどね~。うーんと、音也くん、だっけ? あなたなら大丈夫そうだし」
何が大丈夫そうなのだろうか? 僕、無害そうってこと? なんというか、複雑な気持ちだな。
というか、こういう人って……友達もそういう結論に至ったのか。いや、分からなくもないが……高坂さん、今までもこういうことがあったんだろうなぁ。
その後しばらく話しながら歩いて、家の近くまで来た。
「あの、もう少しで家に着くので」
「え~、もう? どこなの? 音也くんの家って。というか、結構私の家に近いんだね」
高坂さんがそんなことを言ってくる。 そうなのか、知らなかったな。いや、知らなくて当然だけどさ。しかし、そう言われるとなんか見覚えがあるような、ないような。
「そうなんですか? あっ、僕の家はあのアパートですよ」
「アパート?」
「はい、僕は一人暮らしなので」
「えっ、一人暮らしなの!? 家族は!?」
高坂さんが心配そうに聞いてくる。どことなく他の二人も心配そうだ。なんだろう? 家族がいないとでも思われたのかな?
「大丈夫です。家族はまだ生きてますよ。僕は高校進学と同時に上京してきたんですよ。実家は静岡県です」
「ああ、そういうこと。びっくりした~」
「ふむ、高校生から一人暮らしとはご立派ですね」
「そうだね~。大変じゃない?」
三者三様の反応が返ってくる。というか実家の場所とか明らかにいらない情報じゃん。どうしたんだろ、何か変だ。
「大変……とかじゃないんですけど、ただ……」
僕は一体何を言おうとしてるんだろう、この子達の雰囲気に流されてるのかな。当の本人たちは首をかしげているが。
「「「?」」」
駄目だ、これ以上言っちゃいけない。こんなことを初対面の女の子たちの前で言ったら一生の黒歴史になる。そんな内心に対して口は勝手に動く。
「知り合いが誰もいないので、寂しい……というか……何言ってるんだろう、僕。あっ、あの今のは忘れてください」
うわっ、言っちゃった。どうしよう、めっちゃ恥ずかしい。 やばい、目の前の子たちがニヤニヤしてる。
「へぇ、寂しいんだ。へぇ~」
「初対面の私たちに吐露してしまうほど、溜め込んでいたんですね」
「うふふ、かわいいな~」
あまりの羞恥心に顔を手で覆う。アハハ、ダメだ。これはネタにされること間違いなしだ。そんな感じで身悶えていると、高坂さんがこちらの手を取ってきた。驚いて高坂さんを見ると高坂さんは僕に対してこう言った。
「音也くん、私たちはもう友達だよ? 自己紹介してお互いの名前が分かったら、それはもう友達なんだ」
そうしてニコッと笑う彼女。
僕はさっと目を逸らす。そんなむちゃくちゃな、と思う。そんなこと言ったら、クラスメイトは全員友達だ。でも、彼女の言葉には不思議と説得力があった。
ああ、きっと、今僕の顔は真っ赤だろう。でもそれが羞恥心から来るものか、嬉しさから来るものか、僕には理解できなかった。
ただひとつ理解できたのは、高坂さんのこのの笑顔を僕は一生忘れることはないだろうということだった。
次回は1月26日21時に投稿予定です。
うーん、こんなこと現実じゃまずありあえないですよね。自分で書いててそう思いました。
あっ、後、センター試験が終わった、そしてオワッタ。何で私はこんな時期に投稿を始めてしまったのだろうか……