世間はクリスマス、暇な音也は近所の公園へ。そこでお姫様のように高飛車な女性に出会う。
なぜか女性の悩みを聞いた音也は帰り際にアドバイスを送る。
名前も知らない女性はまたこの公園で待ってると音也に伝えるのだった。
世間では明日は正月。そう、今日は大晦日である。冬休みに入りちょくちょく掃除をしていた僕は大掃除をする必要もなく適当に食材だけ買い溜めしてゆっくり過ごそうかと思っていたのだが、刺客が現れた。
「音也く~ん、手伝いに来て~」
穂乃果である。どうやら和菓子屋さんはこの時期とてつもなく忙しいようである。神田神宮に納める菓子折りもここで作っているんだとか……
で、高坂家に行ってみると海未とことりもいた。
「ああ、音也も連れてこられたのですか」
「まぁ、音也くんは家近いし捕まえやすそうだしね」
「ちょっと、次の来ちゃうって」
雪穂もいる。本当に忙しそうだ。
「おい、ボサボサしてんじゃねぇ。次の行くぞ、っと音也か、お前はこっち手伝え」
……穂乃果父も喋ってるし。すげー。
「了解です」
返事をして穂乃果父について行く。まぁ、穂乃果父の声を聞くのは別段初めてでもないからそれに関して驚きはしないが、実際目の前で見ると迫力がとてつもない。はっきり言って怖い、が普段お世話になっている身なのでここは頑張ることにした。
「それで僕は何をすれば?」
「お前は貴重な男手だからな、ここにあるものを運んでくれ……つまり力仕事だ」
「あ、はい」
ここにあるものって……この和菓子の入った容器の山のことだろうか? これは確かに重労働かもしれない。でも、どこに運べば……
「おら、ボサっとするな! さっさと持ってけ!」
「は、はい、すみません」
作業をしながら怒鳴る穂乃果父、背中にも目がついているのだろうか? と、取り敢えずお店のカウンターの方に運べばいいかな?
「おい、どこに行く気だ?」
「えーっと、お店のカウンターの方に……」
「違う! それは穂乃果たちのところに持ってくんだよ!」
「え? あ、すみません!」
「言わなかった俺も悪かったが、お前も分からなかったら人に聞け! なんでもかんでも一人でやろうとするな!」
「は、はい」
……僕の返事にため息をつく穂乃果父。作業をしながら僕に話し続ける。
「いいか? こんな機会だから言うがな……音也、お前と出会ってからまだ三ヶ月くらいしか経ってないが、俺はお前を息子みたいなものだと思ってる。だからこそ親の立場として言ってやる」
「う、うん」
怒られたという事実と、いろいろと予想外のことを言われたことから、そんな返事しか出来なかった。そんな僕の様子を知ってか知らずか、穂乃果父の声色を優しげなものになる。
「確かに自分で考えるっていうことは大事なことだ。なんでもかんでも人に聞くのは良くない。だが、お前は逆に人に聞かなすぎだ。一人暮らしして自立心みたいなもんが人一倍強いんだろうが……もっと他人を頼ることを覚えろ」
「……」
穂乃果父の言うことに僕は何も言えなくなる。心の中にはよく分からない感情が渦巻く。
「俺はたまに思うんだ。お前のそういう所を見てると、俺たちに壁を作ってるんじゃないか、ってな」
「そ、そんなことは──―」
「お前がどう思おうが、周りには、少なくとも俺にはそう感じるってことだよ」
「……」
「人間そう簡単には変われないけどな、お前は自分一人で何でもやっちまうからその分いろいろ溜め込みやすいんだ。そんなんだといつか何かの拍子に爆発するぞ? 穂乃果たちと出会ったときみたいにな」
「……」
「心配なんだよ、親としてはな。きっと実家の親御さんも同じようなことを言うと思うぞ」
「……すみませんでした」
「……別に謝ってほしいわけじゃないんだけどな。あー、説教みたいになっちまったな。とにかく今はそれを運んでくれ」
「……はい」
その後のことはよく覚えていない、この時僕はどんな顔をしてたんだろう……なんとなく穂乃果たちが心配してくれていた気がするが……生返事していた気がする。
手伝い終わった後はすぐに家に帰った。椅子に座って天井を見上げる。
僕もまだまだ子供だってことだ。怒られて、気持ちが沈んで、それで周りに影響を与えるなんて……
「穂乃果たちと出逢って、変わったと思っていたけど……あんまり変わってなかったのかな? 僕」
……人と壁を作ってる、か。確かに僕なりに高坂家の人々とはある程度距離をとっていた。それが穂乃果父にはそんな風に思われてたなんて。
──―ピンポーン
チャイムが鳴る。……出たくないけど……出るか。
「はい、どちら様でしょうか?」
「音也くん、大丈夫?」
「え?」
そこにいたのはことり、その後ろには穂乃果と海未と雪穂もいる。
「なん、で?」
「お父さんがね、音也くんのフォローして来てって」
「まったく、お父さんも音也さんも不器用なんだから」
「事情は聞きましたよ、なんというか、どっちもどっちって感じですね」
──―いいか? こんな機会だから言うがな……音也、お前と出会ってからまだ三ヶ月くらいしか経ってないが、俺はお前を息子みたいなものだと思ってる──―
先ほど穂乃果父に言われた言葉を思い出す。
「お、音也くん!? なんで泣いてるの!?」
「え?」
穂乃果に言われて気付く。確かに僕は泣いていた。
「お、音也さん!? あの決して怒りにきたわけじゃ……」
「そ、そうです。先ほど穂乃果が言ったようにフォローに来たのです」
雪穂と海未は自分たちの言葉が原因だと思ったのかあわあわしている。
「ち、違う、よ?」
「じゃあ、なんで泣いてるの?」
ことりは落ち着いた声で聞いてくる。
「……嬉しかっただけ」
僕はこんなにもいろいろな人に関わって生きている。頭では分かっていても、それが実感できた。人と壁を作ってしまうのは僕の性質だ、完全には変えれないかもしれない……でも、少しずつ変えることならできる。
「ありがとう、みんな」
「なんか、よく分からないけど……どういたしまして」
穂乃果は笑顔になりそんなことを言う。海未とことりと雪穂もつられて笑顔になる。今までは変えられてきた……でもこれからは自分で変わっていこうと思う。そう決意した。
次回4月3日投稿予定。
今回の話は私が実際、親に怒られたことがモデルです。要するに報連相をしっかりしなさい、ということで……今もできてなくて書いてて心が痛かったです。でも、こういうことを言ってくれる親には感謝してます。
次回"義理" 季節はずれのバレンタイン回……