「……にこ」
今日も今日とて雨。皆、学校でやることがあると言うのを聞いた僕は、何をしているのだろう? と疑問に思っていたが、その後穂乃果から家に行くね? という連絡をもらい、意味が分からないうちにチャイムが鳴り、玄関を開けると目の前ににこ、その後ろにμ’sがいるという今の状況になる。
「音也! あんたは──―! いえ、あんたが助けたい相手っていうのはこいつらだったのね」
最初にすごい剣幕で迫ってきたにこだったが、すぐに冷静さを取り戻したかのように落ち着いた声で話しかけてくる。怒っているのだろうか? 思い当たる節はいくつかあるが……
「……そうだよ。そういうにこは皆を目の敵にしているって聞いてるよ。……ごめん」
「何を謝っているのか分からないけれど、もし私が怒っていると勘違いしているならその頭を上げなさい」
「違うの?」
「ええ、違うわ。私は別に怒っているわけでもなければ、音也に文句を言いに来たわけでもない」
「じゃあ、どうして? どうして、わざわざ皆を連れてうちに来るのさ!? 正直に言っちゃうけど、迷惑だよ? この人数でこんな狭い場所に来たら。幸い今の時間帯は人も少ないからいいけど……」
正直言ってうちは少し広いといっても普通のアパート。こんな人数で来られると通路の邪魔になる。用がないのに来られても、言い方は悪いが迷惑だ。
「文句を言いに来たわけではないけど、あんたと話すことがあるのよ」
「みんなを連れてきたわけは?」
「こいつらにも聞いてほしいから」
にこの顔は今までに見たことがないくらい真剣だ。後ろの皆もどことなくピリピリしてる。なんだろう? この空気。
「……そう。とりあえず中に入って? 狭いかもしれないけど」
「分かったわ」
なんの躊躇もなく部屋に入っていく皆の背中を見ながら、玄関の扉を閉める。その時になぜか見えた黒猫がひどく印象深く脳裏に焼き付いたのだった。
「さて、さっそくだけど……あんた、今までこいつらのためにどれだけのことをしてきたわけ?」
皆が適当にくつろげる態勢になったところで、にこがそう切り出す。予想外の質問に少々反応が遅れる。話ってそういう……
「……なんのこと? そもそもなんでそんなことを」
僕がとぼけたような返事をするとにこはため息を吐きながら、やれやれといった感じで首を振る。これは、誤魔化せないかな? でもなんで急に……
「最初から話すわね。今日から、私はμ’sに入ることにしたわ。いろいろあってね」
「いろいろ、ね。うん、まぁ、その話は気になるけど、とりあえず今はそうじゃないんでしょ?」
いろいろ……本当にいろいろあったんだろう。あのにこがμ’sに入るくらいだから。まぁ、その話はまた今度聞こう。今はきっとその話は必要ない。
「そうよ。それで今まで何をやっていたかとか聞いたんだけどね……どうにも納得いかないことが多くてね。例えば……人気の出方、とか」
「僕が何かやっているのでは? と考えたってこと?」
あながち間違いではない。正確には僕一人の力ではないが、μ’sの人気が出るようにいろいろと策を講じていたのは確かだ。
「……ええ、あんた以外にそういうことをやりそうな人が思いつかなかった、と言う方が正しいかしら」
「……僕は何もしていない、は通じない?」
そう言うと、にこはこちらを一睨みして言葉を続ける。まぁ、分かっていた。だが、結局何が言いたいのだろうか?
「……私はこいつら程ではないにしても、あなたとはそこそこ関わっているつもりよ。だからこそ、私は思うの……あんた、また一人でいろいろ抱え込んでるわね」
「えーっと……」
「言ったでしょう? 私は別に怒っているわけでもなければ、音也に文句を言いに来たわけでもない。あんたと話すことがあるって。いい? 音也。あんたがこの子たちとどうやって出会って今までどんな風に過ごしてきたか、ある程度は聞いたわ。その上で言わせてもらうわね。あんた、馬鹿よ」
「……馬鹿なのは自覚しているけど」
「そういう卑屈は今はいいの。まったく面倒くさい性格ね。そうじゃないのよ、全然違うのよ」
お前が言うなっていうのは言ったら余計面倒なことになりそうだからやめておく。と、遂に今まで黙っていた穂乃果が声を上げる。
「そうだよ、音也くん。なんで私たちに何も言ってくれなかったの!?」
「ちょっと、穂乃果……」
海未が止めようとするが、それを遮り凛も声を上げる。
「そうだにゃ! 音也先輩は私たちをもっと頼ってもいいと思うにゃ」
「いや、十分頼ってると思うけど……」
言い訳をしようとして、途中で真姫に遮られる。
「そういう意味じゃないのよ」
「今回は真姫ちゃん言うとおりかな~?」
「ことりまで……」
「そんなこと言って海未ちゃんだってそう思ってたんでしょ?」
「それは……」
海未がなんとも言えない表情で目をそらす。とりあえず黙っている花陽にも聞いてみる。
「……花陽も、僕のことをそうやって思ってたの?」
「え? あ、えっと……はぃ」
「そう、なんだね」
そうか、皆そんな風に思って、いたのか…………
「音也くん……音也くんは私たちのためだって思って、いろいろやってくれてるのかもしれない。でも……でもね、そんなの全然嬉しくないよ。私たちは一緒に……音也くんと一緒に頑張っていきたいの」
「で、でも……」
「音也、どうせ、スクールアイドルとしての活動に専念してほしい、って思っているんでしょう? でも、それじゃ意味ないわ。だってそれじゃ本当にただの人形……いえ、偶像よ。表面上は綺麗に見えるかもしれない、でも蓋を空けてみれば、何も考えてない、中身は空っぽ。そんなアイドルが魅力的に見える?」
「……」
「凛は難しいこと分からないけど……凛たちががむしゃらに練習している時に音也さんはいろいろ考えてて……なんか嫌にゃ」
「そうよ、あなた私になんて言ったか忘れたわけ? 人に好き勝手言って……許せないのよ!」
「音也さん。音也さんだってもっと我儘言っていいんですよ?」
「音也、私はあなたの気持ちも分かっているつもりです。でも、もう少し相談くらいしてくれてもいいではないですか」
「音也くん? 音也くんが私たちに感謝してるっていうのは分かってる。でもね、だからって私たちのためにそこまで頑張んなくてもいいの!」
「音也、あなたの行動は悪い言い方すると恩着せがましいわ。一方的なのよ、気持ちが」
散々な言われようだ。ここまで言われるとさすがの僕も傷……つく……なぁ。
「僕、だって……僕だって、ね。いろいろ、考えたよ。グスッ……でも、僕、頭悪いからさ……何も、分かんなくて……あれ? 僕、何を……」
よく分からない気持ちが心の奥から流れ出てきて、なんか何を考えてるか分からなくなって……
「え? ちょ、ちょっと、なんでない泣いてるのよ」
「泣い、てる? 僕が? ……本当、だ」
僕が泣き出してしまったことで、皆おろおろしている。
「ご、ごめんね。悪気はなかったの」
「お、音也? どうしたのです?」
「ご、ごめん。皆のせいじゃない、よ? ちょっと見ないで」
こんな大人数の前で一人泣くとか、どんな羞恥プレイだ。恥ずかしすぎ、思わず枕を取り出し顔をうずめる。
「……音也くん」
穂乃果の声が近くに聞こえる。
「……私はいつまでも音也くんの味方だからね」
これが僕の夢だったのか、現実だったのか……ただ、この後めちゃくちゃいじられることになったのは言うまでもない。
どーも、秋麦です。
今日は月曜なのになぜ? と思われた方もいるかもしれませんが、実は大学が休校になりまして……はい、ついに出ましたよ。例のウイルスの感染者。私がなってしまったという報告をしないことを願います。