朝から玄関の前に女の子が……と思ったら穂乃果だった。
何事かと思ったら、朝ご飯のお誘い。
なんだかんだで了承した音也は穂乃果と一緒に穂乃果の家に向かう。
「たっだいまー。お母さーん、連れてきたよー」
「えーっと、お邪魔します」
高坂さんについて行き、辿り着いた先は、なんとこの辺りではそこそこ名前を聞く「穂むら」という和菓子屋さんだった。確かに僕の家と結構近い。というか歩いて数分だ。
そういえば、夏休みに帰郷した時の土産はここで買ったなぁ。まさか、高坂さんがここの娘さんだったとは。裏口はこういう風になってたのか。
その時に、高坂さんに会ったのかな? うーん、あんまり覚えてないから、すれ違った程度なのかも? その時はもう少し小さい子が店番してた気がするし……。
そんな風に考えていると、高坂さんのお母さんと思われる人物が出てきた。……若いな。ちょっと歳の離れたお姉ちゃんとかじゃないのか?
「あら、おかえりなさい。へぇー、その子がねぇ」
なんかめっちゃ見られてる。えっと、どう反応すればいいんだろうか?
「もぉー、お母さん。音也くんが困ってるでしょ」
「あら、ごめんなさいね。あっ、朝ご飯はもうできてるから、手洗ってきなさい」
「分かった。音也くん、行こう?」
「あっ、うん」
なんなんだこれ? え? 何で娘が男を連れてきたのにこんな自然なの? そんな感じで困惑していると高坂さんに声をかけられ、家の中に入った。
手を洗って、高坂さんに案内されて食卓に赴く。……外観からの予想通り和室だ。それにしても、同年代の女の子の家に入ったのなんて小学生以来だなぁ。
食卓には既に先程見た高坂さんのお母さんの他に、祖母、父、妹と思われる人物が座っていた。というか、この妹さんって確か……
「お姉ちゃん、おかえり。その横の人が昨日お姉ちゃんが言ってた人? ……あれっ? その人前にもうちの店に来たお客さんだよ」
あっ、やっぱりか。この子だったんだ、この間来た時に店番してたのは。僕より年下っぽい子が店番してて印象的だったからよく覚えている。
「えっ? そうなの? 音也くん」
高坂さんが驚いたように聞いてくる。ふむ、まぁ、驚くのも当然か。世界は意外にも狭いのかもしれない。
「あっ、はい、夏休みの帰郷時にお土産を買わせていただき、確かその時カウンターにいたのが……」
ちらっと高坂さんの妹さんを見る。妹さんが頷いて後に続く。
「私だったんだ。いやー、うちにお姉ちゃんや私の友達以外で学生が来ることなんて珍しいからさ。覚えてたんだ」
「へぇー、そうだったんだ。それなら、そう言ってくれればいいのに。音也くん」
「高坂さんの家を知ったのは今日が初めてだったんですよ。無理に決まってるじゃないですか」
何を言ってるんだ、この人は。そんなことができたら、もはやエスパーだ。
「あれ? そうだっけ? ……ま、いっか。それより高坂さんっていうのはやめない? 私たちみんな高坂だよ」
そう言われれば、そうだ。言われるまで失念していた。そんなことにも気づけない程緊張していたのか。いや、特に考えてなかっただけか。
「えっと、じゃあ、穂乃果さんで……」
「“さん”も禁止、同い年で友達でしょ、私たち」
「えっ? うーん、ほっ、穂乃果? ……うわぁ、ダメだこれ思った以上に恥ずかしいよ」
相手の家族の前で相手を呼び捨てとかなんて羞恥プレイだよ! 思わずその場に座り込み顔を隠してしまう。
「……カワイイわね」
「……でしょ?」
「……お姉ちゃんが気にするのも分かるなぁ」
「別の意味で穂乃果と似たタイプね」
「‥‥‥」コクコク
「それ、どういこと? お婆ちゃん」
「どっちも正直者って意味よ」
「?」
ああ、なんか僕そっちのけで、家族団欒していらっしゃる。何を話してるのか、ちょっと聞き取れなかったが。何か高坂家全員受け入れ態勢だし、多分高坂さ……穂乃果さんが話したんだろうけど、それにしたってこの状況はありえなくないか?
そうか、もう高坂家の人たちが全員穂乃果さんだと思おう。やば、自分で考えといてあれだけど、ちょっと面白いかも。
ふぅ、なんとか落ち着いてきた。そうして立ち上がると穂乃果さんのお父さんに手招きされたので彼の横に座る。机の上にはThe日本の朝食といった感じの朝ご飯が並んでいた。ご飯に、味噌汁に、焼き魚に、卵焼きに、おひたしに……普通に豪華だな。……焼き魚か。自分で言うのもなんだけど僕結構綺麗に食べるタイプだから時間かかるんだよな。
「さて、いつまでも穂乃果のラブコメに付き合ってられないし、そろそろ食べましょうか」
穂乃果さんのお母さんがそう言うと、よっぽど予想外の発言だったのか、穂乃果さんが噴き出した。
「ぶふっ、ラッ 、ラブコメって何? お母さん」
「うわっ、お姉ちゃん汚い」
……どうやら、横にいた妹にかかったようだ。
「あっ、ごめん雪穂。でも、今のは私悪くないよね? ほら、音也くんからも何か言ってあげて」
「いや、ごめん、なんか逆に落ち着いてきた」
あれだ、一回落ち着くと少しのことじゃ動じなくなるあれだ。
「何!? いつのまにか敬語もなくなってるし!? いや、音也くんが馴染んでくれて嬉しいけどね!?」
すると、そんな穂乃果さんの様子を見て穂乃果さんのお祖母さんがフォローを入れた。
「はいはい、落ち着いて穂乃果。あなたが照れてどうするのよ、音也くんは受け入れてるわよ」
フォローというか、追撃だった。いや、別に僕も受け入れてるわけではないけど。否定するとそれはそれで面倒そうなのでやめておく。
「お婆ちゃんまで!? お父さんは? お父さんもなんか言ってよ」
「……」
「音也くんなら、オッケー。ですって」
「えぇ!? 何で初対面で好感度MAXなの? 普通お父さんなら、うちの娘はやれんとか言ってくれるんじゃないの!?」
それ、穂乃果さんの言えたことだろうか? おそらく高坂家の人間はみんなこんな家風なんだろうな。さっきの全員穂乃果さんだと思うっていうのも、あながち間違ってなかったのかもしれない。
それより、穂乃果さんのお父さん、今喋ってたのか? 横にいたのに全然分からんかった。
「さて、じゃあ、食べましょうか。いただきます」
「「「いただきます」」」
「……」
「待って、穂乃果のことはスルーなの!? ねぇ!?」
穂乃果さんが何か言っているが、お構い無しにみんな食べ始める。それを見てもう聞く耳持たないと悟ったのか、穂乃果さんも食べ始める。 とても賑やかな朝、寂しいなんて思うこともなかった。
その日の朝ご飯は、高校生になってから、こちらで食べた一番美味しい朝ご飯であった。
次回は2月16日21時投稿予定です。
穂乃果がおかしいんじゃない、高坂家が(いい意味で)おかしいんだ。