俺もなぁ、キャンプとか行ってくれる子がいたらなぁ(白目
久しぶりにソニアさんが出ます(小声
ブラッシータウンの研究所の玄関にノックの音が響く。
「開いてるぞー」
ホップの声が、外まで響く。少し軋む音を立てて開くと、リンドウの姿があった。
「フィールドワークの準備、出来たぞ」
キャンプの用具や、食材を持ちやすく纏めた物を二人分、片方は少なめなので女性用だろう。
「……そこまで準備して貰ってるのか」
少し呆れた表情でホップが呟くと、研究所の奥から声が響いた。
「あれー、リンドウ。もう来てたの!?」
いつもの白衣姿でリンドウを出迎える。フィールドワークに出かけるまで少し時間が掛かりそうだ。
「まぁ、一応依頼で準備してるからなぁ。貰ってる分は働かないとな」
ソニアのフィールドワーク同行は、ポケジョブを介して行われている。とはいえ、最低限の賃金と必要経費のみだが。
「そうよ、リンドウにはちゃんとして貰わないと困るんだからね」
自信満々に胸を張るソニア。それと同時に愚痴もこぼす。
「ホップが来てくれるんだったら、リンドウは必要ないんだけどねー」
助手なのにねー、と嫌みのようにホップを見るソニアに、ホップも少し罪悪感を持っているのか、困った表情をしている。
「んじゃ、ホップと行くか?」
リンドウが尋ねると、ソニアが首を横に振る。
「もー、そういう話じゃないって」
要するに、付き合いの悪い助手に嫌味を言いたかっただけなのだろう。
「俺もフィールドワークは行きたいんだけどなぁ……今日はリンドウに任せるぞ」
研究者の卵としては、ワイルドエリアの生態系や遺跡を調べるのは是非とも行きたいところだろうが、彼には先約がある。
「またユウリちゃんとデートでしょ? ホップも隅に置けないんだからね」
ソニアが意地悪そうに笑うと、ホップは否定する。
「違うぞ、次のリーグに向けての特訓なんだからな!」
少し頬を染めている様に見えるのは、やはり年頃ということだろうか。
「……え、ユウリちゃんに教えて貰ってるのか?」
リンドウが少し驚いた様子で尋ねる。
「そうだぞ? ユウリはポケモンバトルはめちゃくちゃ強いからな!」
リンドウの疑問に、ソニアが首を傾げる。ホップがしばしばユウリと出かけていること自体は、リンドウも知っているはずだからだ。
「強いなんてものじゃないだろ、俺からみたらダンデさんやマサルレベルだぞ? アレに着いていくなんて、並大抵じゃないだろ……」
彼女のポケモンバトルの腕は、最早チャンピオンレベルだと噂されている。公にバトルをすることは殆どないのだが、彼女の知名度もあがり、ファンクラブもあるほどだという。
「望むところ、だぞ!」
ナックルシティでワイルドエリアに入る準備をするホップ、そこで町並みを見上げると広告塔に大きくムゲン団とユウリの姿が映し出されている。
『無限の未来へ はばたこう』
ムゲン団は、短い期間で急成長した。それはユウリが中心になってからである。幼い容姿でありながらも、高いファッションセンスと軽いフットワーク、マクロコスモスの協力もあって老若男女問わずガラル地方で人気である。
「ねーねー、ムゲンニュース見た?」
「ユウリちゃんのファッションチェックだけ見た」
「チャンピオンとどっちが強いのかな?」
「流石にチャンピオンじゃねぇかなぁ」
「ダンデさんにホップ君、ユウリちゃんにチャンピオン……来年のジムリーグは見逃せないな!」
街行く人々の話題にも、ユウリで持ちきりだ。ホップは自分のポケモンの体調を確認し、回復やキャンプ道具をチェックし終えると、ナックル丘陵に降っていく。
ナックル丘陵を降り、巨人の帽子の辺りで見知った人影を見つける。ホップが手を振ると人影が手を振り近づいてくる。
「ホップ君!」
ユウリが近づいてホップの腕を掴んで引っ張っていく。
「えっ、ユウリ!?」
まるで主人の帰りを待ちきれない子猫の様で、それだけホップとの特訓を心待ちにしていたのだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 先に食事にしよう」
このまま彼女に引っ張られるままではきっと、げきりんの湖のど真ん中で体力が尽きるまで野生のポケモンと闘わせられることになる。
ユウリが嬉しそうに皿にご飯をよそい、そこにカレーを流し込んでいく。
「もう、そんなにお腹すかせていたんだね」
鼻歌交じりでユウリがカレーを作るが、手際の良さはまるで熟練のそれだ。
「それじゃ、いただきます」
スプーンを持ち、両手を前に合わせて感謝の気持ちを表す。ホップがカレーを食べている姿を嬉しそうに眺めるユウリが尋ねる。
「おいしい?」
ホップはその問いに、勿論美味しいと答える。
「えへへ、よかった」
そう言ってユウリが自分の分のカレーを口に運ぶと、ホップが会話を続ける。
「ユウリのカレーは甘口なんだな」
ぴくり
その言葉に、一瞬だけ止まった。ユウリが作ったカレーは、確かに果実や蜂蜜を使用しているので、食べやすくまろやかだ。それに合わせてルーも甘めのものを選択しているが、食べ進めて行くにつれてスパイスも感じるよく作り込まれているカレーだが。
「ソニアのカレーは、ピリッとスパイスが利いているんだぞ。そっちのカレーも俺は好きだな」
どうしてそんなことをいうの
ユウリが喉の手前まで出てきた言葉を呑み込む。ホップは自分の味の好みを語っただけなのだ。例えそれが作り手を傷つけるとしても、本人が意図して放った言葉ではない。
「そう……なんだ」
ホップはいつもと変わらない、純真な笑みで語る。
「今度は一緒に作ろう! 俺も材料を準備するぞ!」
ユウリは、微笑みを返す。
ワイルドエリアの端、古びた遺跡の前にテントを張っている。
「はい、干パン」
リンドウがソニアに渡すと、露骨に嫌な顔をする。
「はっ、何で干パンなの? 私カレーが食べたい」
ソニアの反応に聞く耳を持たないといった様子で、食事の準備を進めるリンドウ。
「湖周りならまだしも、乾燥地域で米炊くとか馬鹿なんですか。そんな量の水持ってきてないです」
文句を一通りソニアが呟いた後、干パンと水に口をつける。
「ん、干パンも美味しいじゃん」
テントに明かりをつけ、夜に向けて準備をしていく。
「ねぇ、私ユウリちゃんに嫌われているのかな?」
ソニアの唐突な質問に、危うくランプを転がしかけるリンドウ。
「……いきなり何だよ?」
ソニアも一通り観測機器の準備を終えたのか、最終チェックを惰性で行っている様子だ。
「いや、ホップがちょくちょく会いに行ってるし、リンドウも結構顔を合わせてるみたいだけど……私だけ会ったことないって、おかしくないかなぁ、って」
ソニアの言葉に、リンドウは返す言葉もない。
「ムゲン団の広告とか見てると、めっちゃ可愛いし、会ってみたいなー……なんちゃって」
そういうソニアは、真剣にリンドウを見つめる。それに対してリンドウは目をそらして口を紡ぐ。
「何か、理由があるみたい……だね」
ソニアの溜息が、夜のワイルドエリアに消えていく。最初はちょっとした疑問だったのかもしれないが、リンドウの反応で確信に変わった様だ。
「悪いけど、俺は会わない方が良いと思う。事情は人から聞いた程度だけど、な」
歯切れの悪い答えに、ソニアはただ笑って返した。
「そっか」
読了ありがとうございました。
曇らせコラ!曇らせコラ!
という訳で、これからも「」ウリちゃんとムゲン団の話は続きます。