はい、まだバトルタワーです……まだね?
リンドウはセンジュに呼び出されてシュートシティに繰り出す。
「ムゲン団の面接をして欲しい……ってどういうことだよ」
唐突に送られてきたメールにはそのような内容が入っていた。詳しい内容は分からないので、実際に会って確認するしかない。
「確かココのカフェに……居たな」
最初に出会ったカフェで、再びセンジュと向き合う。
「用件だけど、説明して貰えるかな」
リンドウが正面に座ると、センジュが赤い手をモチーフにした様なバッヂを渡される。
「これがムゲン団のバッヂです。入団希望の人に渡して下さい。制服は基本オーダーになります、色やサイズなど確認事項を記入した書類か、メールで頂ければ手配します」
そこまで説明したところで、リンドウは首を横に振る。
「いや、その前になんで俺がムゲン団の入団面接をすることになったの? そもそも、入団の基準すら分からないんだけど」
溜息をつくリンドウにセンジュは答える。
「「」ウリ様は、助けを求める人々に分け隔てなく手を差し伸べて下さいます。もし、自身で問題を解決した場合は、それは喜ばしいことです」
センジュの言葉を要約すると、来る物拒まず、去る者追わず、ということだ。
「……バッヂを配って回れ、ってことか?」
その問いに、センジュが訂正する。
「求める人間にだけで充分です。それでもそれなりの数になるとは思いますが」
この後にも、面接の予定をしているという。
「基準は分かった、どうして俺が?」
再度聞き直すと、表情を変えること無くセンジュは答える。
「ローズ委員長から、困った時は頼るといいとお聞きしましたので」
俺は便利屋かよ、と言う言葉をなんとか呑み込むリンドウ。ポケジョブで多岐にわたっている以上、便利屋でもあるのだから。
「ファッションセンスとポケモンバトルで、少しでもユウリ様に近づきたいの!」
「美味い物をたらふく食いたい!」
「宝くじが当たって欲しい!」
多種多様な人物達にバッヂを手渡していくリンドウとセンジュ。
「……俺が言うのもなんだけど、これでいいのか?」
面接に疲れて、ムゲンタワーの食堂に逃げ込むリンドウ。タイミング的に昼食の時間からずれてしまったので、食堂にはコックとリンドウしかいない。
「新メニュー、ムゲンカレー?」
新しく張り出されているメニューに違和感を持ち、コックに尋ねる。
「ああ、最近始めたのさ。結構人気だよ」
自信満々に答えたコックはこう付け足す。
「あのユウリ様のカレーを再現したものだらね!」
そう言われると、リンドウも興味がある。コックが自信満々なのだから、味は確かだろう。
「じゃあ、それで」
おすすめのムゲンカレーを食べ進めていくうちに、コックが正面に座る。
「仕込みも終わったからね、どうだい新商品」
客からの感想を聞きたいのだろう、期待に添えているかはわからないが、リンドウの答えは微妙だった。
「うーん、美味しいのは美味しいですね。フルーティで食べやすいけど、個人的にはもっと辛い奴のが好きかなぁ」
その言葉に意外にもそうだろうね、と頷くコック。
「その美味さは、年を取ってから分かる……人も居るからね」
必ずしも全員ではないらしい。ただ、美味しいことは確かなので完食に然程時間はかからなかった。
「ああ、そういえば。過去に戻れたら何がしたい?」
コックの突然の質問に、リンドウが疑問を浮かべる。
「心理テストとかですか?」
その言葉にコックは首を横に振る。どうやらムゲン団の間で最近流行っている質問らしい。
「へぇ、なんでまたそんな流行が。そうですねぇ……一週間前の仕事、無駄足だから受けなくても良かったなぁ、ぐらいですかね」
コックがその言葉を受けて、大笑いをする。
「そうか、君はそうなんだなぁ! いやいや、ムゲン団のえらいさんだからもっと凄いのがあるかと思ったんだけどなぁ!」
そういうと、他の人達にも同じように質問してみるのも良いかもしれないぞ、そう言われる。どうしてコックがそんなことを言ったのかは分からないが、リンドウも適当に相づちを返した。
キルクスタウンの外れ、とある富豪がすんでいるという豪邸に来たリンドウ。センジュ曰く、ムゲン団の初期から応援してくれていたらしいが、バッヂを渡すのが遅れていたということだ。
「リンドウ様ですね、少々お待ち下さい」
メイドらしき人が中を案内してくれる。通されるままに進むと、老人がソファに腰掛けている応接室に案内された。
「お初にお目に掛かります、リンドウさんですね」
リンドウに気付いた老人は丁寧に挨拶をすると、リンドウも頭を下げて挨拶を返す。
「いやぁ、凄い豪邸ですね」
ソファの正面に座ると軽快に笑う老人、話を聞いているとどうやら一代で築き上げた凄腕の様だ。
「勿論運がよかったのもありますがね、色々な人の支援もあってここまで来ました」
もう実務は息子に任せてしまっているが、と加える。リンドウはここまで成功した人間にムゲン団に入る理由が思い当たらず、疑問をぶつける。
「何故ムゲン団に、ですか。まぁ、ムゲンダイナやダイマックスの研究は急務ですし、伸びしろのあるものですから、先行投資する価値があった、というのもありますが」
そこで老人が一息ついて、メイドの淹れた紅茶を飲む。
「先代のチャンピオンもそうですが、時代を作っていくのは若者達です。今のチャンピオンもそう、「」ウリさんも、きっとこの時代を作っていくのでしょう……そう考えると、手を貸すことが老人の使命だとおもいませんか?」
そう呟いた老人に、ふと思い出したかの様にリンドウが問答を思い出した。
「貴方は、過去に戻れたらどうしますか?」
その言葉に老人は目を見開く。数秒の間悩んでいたが、口を開く。
「貴方がそう言うならば、ムゲンシステムの話は本当だったのですね……」
天井を見つめ遠い目をする老人。リンドウは適当に相づちを打つ。
「ムゲンシステムを……知っているのですか?」
握りしめた拳には、もしかしたら冷や汗が流れていたのかも知れない。
「噂程度に、ですが。ムゲンダイナのムゲンダイマックス。その力に願い星で制御して過去に跳ぶことすら可能になる、そんな夢物語ですね」
その言葉に、リンドウは少し考える。
「実際に、どこまで出来るかはまだ実験段階ですが」
そう答えるしかない。もし仮に、「」ウリ達が何か準備していたとしても、リンドウに知ることは出来ない。
「ああ、過去に戻れたら……でしたね。こう見えて、あまり過去には後悔はしていないのです。協力者に恵まれ、今では大切な家族もいる、今に不満はない」
ただ、少し窓から見える空を見て、言葉を溢す。
「私は、ここまで来るのに、多くの人々を犠牲にしてきました。競争の結果でしたが、不必要な犠牲もあったと思います。何より、私が今大切に感じている物を……あの時は、何とも思わず、壊してしまった」
リンドウは何も言わず、老人の独白をただ聞いて居た。
「出来るのなら、私が奪った幸せを少しでも少なくしたい。傷つけた人々に、贖罪を……等と考えるのは、傲慢ですかね」
少し自嘲気味に呟いた言葉に、リンドウは首を横に振る。
「未来のために行動することが、贖罪でしょう。人間には、それしかすることが出来ない……それに、ムゲンの未来は子供達だけではありません、貴方にもあるんです」
若者の言葉に老人は微笑んだ。
読了ありがとうございました。
別の世界線ではもしかしたら、ムゲンタワーで闘うことになったかもしれない人達の話でした。
ムゲン団の人達も最初はムゲンシステムについては噂程度にしか思ってなかったんだろうなぁ……って