ソニアさん登場ヤッター
どうやって登場させるか、割と悩みました(笑)
……早口で喋ってそう(偏見
視界は半分赤く染められていた。分かっているのはマルヤクデが倒れた事、バンギラスが観客席に向かっていること。
「いてぇ……あた、まが……回らねぇ。くそ、次の……ぽけも、ん」
これ以上バンギラスをのさばらせれば、試合が止められてしまう。ほのおバッヂを手に入れる千載一遇のチャンスを、逃がすわけにはいかない。
「ぼー……る、を」
左手に力が入らないから、右手に持ち替えてバンギラスをボールに戻す。そのあと、新しいポケモンを出すために、手持ちのバンドに手を伸ばした、つもりだが。
「あ、れ?」
どうやら、また天地がひっくり返るみたいだ。視界が暗転して、気付けば見たことがない部屋にいた。
「……へ? あれ、ここは?」
真っ白い部屋に、ベッドに寝かされていることに気付くと鈍痛が襲う。
「あ、起きた? いやぁ、最近の若い子は無茶するのね~。いや、私も若いけど?」
そう言ってなれなれしく話しかけてくる女性は、ソニアと名乗った。
「知り合い、じゃないですよね?」
どうしてそんなつまらないことを聞くのか、そんな顔をすると言葉を返すソニア。
「貴方が起こした騒動、観客席の混乱、それのお客さんの誘導、ただ試合を見に来ただけの私がしてあげたんだけど? そのおかげで、騒ぎにならずに済んだと思うんだけど、その辺どう思う?」
早口でまくし立てられると、リンドウは怯む。
「あ、ありがとうございます」
礼を聞けて満足したのか、医務室の椅子を借りてリンドウと向き合う。
「うんうん、まぁ私もお礼が欲しくてした訳じゃないから、そう言って貰えるだけで充分かな。ただまぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、きいてもいい?」
「俺が分かることで良ければ、構いませんけど?」
学もないリンドウに何を聞くつもりなのか、それは分からないが、助けて貰ったことは事実だ。お礼をするのも吝かじゃ無い。
「そう!? ならねー、ガラル地方の伝説とか、そういったこと聞いたこと無い? ダイマックス関連だと嬉しいけど、なんでもいいよ。ジムチャレンジの前準備で各地を回ってたんでしょ、何か分かることがあったら些細な事でもいいからさぁ」
そういうとソニアは期待した目でリンドウを見つめる。
「えーと、ブラックナイトの事ですか?」
わざとらしく落胆した様子を見せるソニア。
「だよね~、色々聞いて回ってるんだけど、誰も知らないって……え、今なんて?」
どうやら聞き込みをするのはリンドウが初めてではないらしい。だが、リンドウが喋ったブラックナイトの事は知らないようだ。
「え! 何!? ブラックナイト!? 何それ、聞いたこと―――」
「病人を揺さぶるのは感心しないな、特に頭部を傷つけているんだ。異常は無かったとは言え、控えた方が良いと思うが」
入り口からジムリーダーのカブが入ってくる。半ば無理矢理ソニアをリンドウから引き剥がす。
「え、ちょっと待って、まだ聞きたいことが」
「今は、安静だ。病状が落ち着いてから、ゆっくり話してくれ」
病室内にいると騒がしくなると思ったのか、無理矢理外に出そうとする。
「ナックルシティで待ってるから! 話の続き、絶対に聞かせて!」
そう言い残し、ソニアは病室から見えなくなる。
「……全く、騒々しいことだ。すまない、大切な話だったかな?」
「いえ、大した話じゃないですよ」
そう話すリンドウの目は少し、寂しそうな顔をしていた。
「傷は、傷むかい?」
カブが優しく話しかけると、リンドウは正直に答える。
「ええ、まだ少し頭痛は残ってます。話したりしてる分には、酷くはなりそうにはないです」
むちゃくちゃなバトルをしている割には冷静に会話が出来ているものだ、そうカブが呟くと言葉を続ける。
「君のバトルの方針だが……目に余るものがある。勿論、育てるポケモンもそのやり方も基本的には自由だが、具体的に言わせて貰えば、もう一度バンギラスが暴れることがあれば、ジムチャレンジの権利を剥奪されると思って貰って良い」
カブのその言葉に、頭を抱えるリンドウ。
「マジか……ラテラルタウンもバンギラスで乗り込むつもりだったのに」
落ち込んだ様子を一瞬見せて、顔を上げる。顔色が悪いのは、怪我の所為か、忠告の所為か。
「分かりました。俺もここまでコントロール出来ないのも……怪我するのもこりごりですし、今後は控えます」
あまりにあっさり了承するリンドウの反応に、カブは少し戸惑う。
「いいのかね? 私が言うのもなんだが、並大抵の苦労ではなかっただろうに」
自分より格上のポケモンを捕まえるのはかなり苦労するものだ。ましてやバンギラスクラスになると、やろうとして出来るものではない、例えそれが、誰かの協力の元であったとしても、だ。
「このジムチャレンジの為に捕まえたようなものですから、流石に野生に返すのはもうちょっと先にはなると思いますけどね」
「野生に……返すのか?」
「おかしいですか?」
リンドウの純粋な反応に驚く。トレーナーとしての感覚では、強いポケモンはそれだけで価値があるはずなのに、まるでそれは今だけなのだ言わんばかりの彼の反応に少し戸惑う。
「いや、とやかく言うのは止めよう。忠告を聞くのならば、渡すものがある」
そう言って、リンドウの手にほのおバッヂを渡す。
「これから先も大変だが、頑張ってくれ。それと、体は大切にな」
そう残すと、カブは病室から離れた。
バッヂを手に入れたが、実感は伴っていない。頭だけでも無く、体の節々が痛むから、その日は病室で安静にすると決めてから、まるで夢の中にいるような感覚に陥ってしまう。
「……まさか、俺が、ねぇ。夢みたいだ」
そう呟くと、程よい疲労感が眠気を誘っていることに気付いた。特にあらがうことも無く、休息に付く。
携帯電話の音が鳴る、すやすやと眠っていたのを邪魔されて、少し苛立ちながら電話を取る。
「もしも―――」
「やぁーーと、繋がった! なんしとっと!!!」
耳を劈く声が、電話から響く。その声の持ち主はよく知っている相手だった。
「……マリィ?」
画面の向こうには怒髪天を衝く勢いで怒りを見せる少女がいた。
「何回電話したと思とっと! カブさんとの対戦、見たと……心配したんよ?」
不安そうな声色が、リンドウに響く。ふと携帯の画面に目を落とすと、大量のマリィの着信履歴と結構な時間眠っていた事を告げる時刻が見えた。
「……ごめん」
それだけ伝えると、マリィも少し落ち着いたのか、声のトーンも落ち着いてきた。
「まぁ、終わってしまったことは仕方なかと……体は、大丈夫?」
マリィの言葉に、リンドウは頷く。
「大げさに包帯を巻いてるけど、擦り傷ばっかりさ。見た目程じゃないよ」
そう言うと、安心したと呟いてマリィが告げる。
「そっか、それじゃあ、バンギラスをこっちに送ってくれたら許してあげる」
不意に飛び出した言葉に、リンドウは一瞬戸惑う。
「……なんて?」
「バンギラス、こっちに送って。またあんなバトルしたら、次どうなるかわからんち、私が預かってたら安心でしょ?」
数秒の沈黙の後、リンドウが言葉を詰まらせながら言葉を紡ごうとする。
「えーと……まぁ、それは」
「拒否権はないよ?」
少女の威圧に敗北を悟り、ポケモンを送る準備を始めるリンドウ。
「えぇ、と。カブさんのところのジムチャレンジなんだけど……」
マリィとジムチャレンジの事について話し始める。
マリィとの会話が終わり、再びベッドに転がる。
「バンギラス無しで、次のジムチャレンジどうしようか……」
次のジムリーダーのことを考え、憂鬱になるリンドウだった。
読了ありがとうございました。
ようやく、ブラックナイトが少しだけ見えました。
主人公の出自も書かないとなぁ、と思いつつどの辺で書くか悩み中……