グロとかではありませんが、自分で書いてて嫌な気持ちになったので……
時間は遡る。今から十数年前だろうか、病室で赤子を抱える母親がいた。その子は、生まれてからずっと、泣き続けていた。
「……ずっと、泣いてるわね」
眠る時以外はずっと泣き続けていた。医者に診せても。
「異常は見られません」
そう告げられるだけだ。困った母親は、疲労が積み上げられていく。
「何が……悪いの?」
友人に聞いても、病院の人間に聞いても、答えは分からない。そうして数ヶ月が過ぎた頃、違和感を覚える。赤ん坊の髪の色が夫婦のどちらとも違うのだ。
「……遺伝的になるはずの無い色です。後天的な要素によるものだと考えられますが……原因はわかりかねます」
首を横に振る医者、その言葉に母親は正気を失った。
「この子は……私の子供じゃ無いの」
父親に抱えられてやってきたのは、孤児院だった。本来であれば身寄りが無い人間が集まる場所で有り、父も母も健在の赤ん坊には由縁がないはずだが。
「すみません……この子が居ると、妻が狂ってしまうのです。遠からず、その手に掛けてしまう」
事情を説明され、孤児院の委員長はその子供を受け入れる。誰の手に抱かれても泣き続けるその子供は、まるで周囲の不安を感じ取っているかのようだった。
真っ白の髪と真っ黒の瞳を持つ少年は、いつも独りだった。誰からも相手されないということではない、彼自身が他人と共に居ようとしていないのだ。
「別に……他人が嫌いな訳じゃない」
これでも、親元に居た時よりも遙かにマシになっているのだ。泣き続ける事も無くなったし、意思疎通を図ろうとするようになった。それでも、孤児院の人間と仲良くなるということは無かった。
「こんにちは、僕はビート……君の名前は?」
孤児院に新しく子供が入ってきた。経歴こそ分からないが、この子供も親と離れなければならない理由があったのだろう。
「……リンドウ」
アラベスクタウンに遠足に行くと、リンドウはフラフラと森に迷いこむ。それをルミナスメイズの森とよばれていることを知ったのは、随分と後の事だった。アラベスクタウンに来たことで、昔のように戻ってしまったのだ。周囲の不安が、周りの感情が自分に流れ込んで来る。まるで自分が無くなってしまう様な、押しつぶされてしまう様な恐怖から逃れたくて、唯只管に人のいない方向に歩いて行く。
「フゥ?」
森の中を彷徨い歩いていると、紫色のポケモンと出会う。頭に角が生えている、イエッサンと呼ばれるポケモンだ。リンドウが泣きじゃくっていると、イエッサンもその感情を共有してしまったのか、不安な表情になる。それを感じてまた、リンドウはより強く泣く。だが、イエッサンは哀しく、不安な表情のまま、リンドウに寄り添った。
「フゥウゥ」
赤ん坊の時以来のぬくもりに、リンドウは涙を流す。堪えきれない不安が溢れ、他人のぬくもりを思い出すことに、安心を覚える。
それから、一年の時が流れた。最初はイエッサンの集落で過ごすことに慣れなかったが、今ではリンドウもイエッサンの家族のようになっている。互いに協力しながらルミナスメイズの森で生活していると、偶にイエッサンから尋ねられる。
仲間が恋しくはないか?
リンドウからすれば、イエッサンが家族のようなものだったが、それでも自分がイエッサンと違う種族だということは分かる。ルミナスメイズの森で生活していれば、トレーナーの姿を遠くで見ることもあった。だが、気配を感じるとリンドウは逃げ出した。不安と恐怖が伝わるのだ、昔に戻るのを恐れて近づくことが出来ない。
「あー、もう! 腹立つあの糞ババァ!」
いきなりの大声に、驚いて腰を抜かすリンドウ。
「あれ? こんなところに子供がいるなんて珍しい……街の子供かな、迷子?」
そう行って、プラチナブロンドの女性がリンドウに手をさしのべる。今まで人間が近くに居て気付かなかったことはなかったのに、何故かこの女性には気付かなかった。
「あなた、だれ?」
その言葉に、胸を張って女性が答える。
「私の名前はメロン! キルクスタウンのジムリーダー 氷タイプの使い手、メロンさんだよ!」
スタイルの良い肢体をアピールしながら名乗りを上げる。リンドウにとって、色々な意味で初めて出会うタイプの人間だった。
イエッサンはリンドウに尋ねる。本当に彼女の元に行かなくて良かったのかと。人間と共に暮らさなくて良いのかと。
「……分からない。だけど、怖いよ」
首を横に振るリンドウ。確かに彼女は他の人間と違ってそばに居ても怖くはなかった。だがしかし、それは彼女だけだった。そして、その彼女がリンドウの事を友好的に見てくれる保証はない。恐らく、メロンと呼ばれた女性は、この土地に暮らす人間では無いのだろう。出会うチャンスは多くは無いはずだ。
「……怖い」
再びメロンが森に現れる。自信満々に歩き回る彼女を避けるように動くリンドウ。時折聞こえる声が、リンドウを探しているだろうと事が分かった。
「イエッサン?」
♀のイエッサンが不安に震えるリンドウの手を掴む。温もりが少しリンドウの不安を和らげる。
「……えっ?」
一瞬にっこりと微笑んだかと思ったら、ものすごい勢いでイエッサン♀が走り出した。勿論、メロンの元に向かって。
「えっ、この間の少年……とイエッサンじゃ無い」
突然現れたリンドウに驚き、怯えてイエッサンの後ろに隠れる少年に、優しい笑みを向ける。
「あなた、良かったら私と一緒に暮らさない? 子供が一杯いるから、きっと直ぐに馴染むわ」
差し伸べられた手を、リンドウはじっと見つめる。不安と恐怖と、僅かな期待を持ってリンドウはその手を取る。
「……きゅ?」
安心した表情のイエッサンが、一転疑問の表情に変わる。
「……」
メロンの手を取ったリンドウだが、もう片方のては、イエッサンの手をしっかりと握りしめている。
「あら、貴女も来るのね? 勿論、大歓迎よ」
読了ありがとうございました。
いや、別に悲劇のヒーローを書きたい訳じゃないけど!
設定が生えるのを放置してたらこうなったorz