バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
私の出番だ
ブレイクデカール──それはナノICチップを練り込んだ非公式ツールであり、チートと同じ類の不正コードである。ネットワークゲーム「GBN(ガンプラバトル・ネクサスオンライン)」においてこのブレイクデカールを扱う者たちは「マスダイバー」と呼称され、運営から問題視されていた。
不正コードを使用したガンプラは紫色のオーラを纏い、その機体性能をシステムに定められた数値を超えて大幅に上昇させる。
故にこのGBNでは「楽をして強くなりたい」というゲーマーにありがちな誘惑からこのツールに手を染める者が多く、運営側の対処も追いついていないのが実情である。
ブレイクデカールは不正の証拠をデータに残さず、有効なパッチも作られていない。急速に広まりつつあるブレイクデカールの前では、そのツールを組み込んだガンプラを直接破壊するしか有効策がないのだ。
そしてこのツールはゲームシステムそのものを脅かすバグを撒き散らし、電子世界に未曾有の危機を齎していた。
そこでブレイクデカール、及びマスダイバーの撲滅に乗り出したのが、GBNチャンピオン「クジョウ・キョウヤ」である。
彼はチャンピオンとして培ったその人脈から上位ランカーを始めとする有望なダイバーたちを募り、「有志連合」を結成。上位ランカーたちの捜索によって遂にブレイクデカール発生の元凶を突き止めた彼らは、黒幕が潜伏している初心者用サーバーエリア11、ラグランジュ4の資源衛星へと乗り込んだのだった。
しかし、マスダイバーたちもまた彼らを待ち構えてきた。
彼らのアジトである資源衛星の中から続々と出てきたのは、ブレイクデカールで異常に強化されたガンプラ。操縦するダイバーの腕は決して高くなかったが、破壊されても再生を繰り返し、何度撃墜されても理不尽に蘇ってくる軍勢を前に有志連合は次第に追い込まれていった。
唯一の希望と言えばチャンピオン・キョウヤを始めとする上位ランカーたちが、黒幕のいる資源衛星へと侵入したことだけだ。
侵入した彼らが黒幕を討ち取ることだけが、有志連合に残されたただ一つの勝ち筋だった。
──しかし、戦局は資源衛星から出陣してきたマスダイバーの黒幕、彼が操る超巨大モビルアーマー「ビグ・ザム」の登場によってさらに窮地に立たされることとなった。
原作からしてただでさえ巨大なビグ・ザムが、ブレイクデカールの効果によって通常の三倍を遥かに超える超弩級サイズになって有志連合の前に立ちはだかったのである。
圧倒的な殲滅力によって有志連合のガンプラは次々と撃墜され、極まったブレイクデカールから広がっていくバグが一気にゲームのメインプログラムへと侵食し、この世界を崩壊の危機へと陥れていった。
この力に敵う者はいない。ビグ・ザムのコクピットの中、自身の想定をも超えるブレイクデカールの力に黒幕が哄笑する。
「裁きの時は訪れた。さようなら、噓っぱちの世界……偽りのエデン」
ブレイクデカールによるGBNネットワークの完全破壊。それこそが彼の目的であり、野望だった。
本物のガンプラバトルを否定し、ただのネトゲに落ちぶれた……偽物の戦いに塗れたこの世界が許せなかったから。
憎かったのだ。ガンプラバトルの本質を見失い、この世界を生み出した創造主も、それを管理する運営も、そして何も知らないまま偽物の戦いを楽しんでいる愚かなダイバーたちも。
故に彼は、その引き金を引くことに躊躇わない。
ハロのアバターを駆る彼はビグ・ザムの胴部全周に装備されたメガ粒子砲を乱射し、周囲のガンプラを纏めて貫き消滅させていく。
その余波を受けたかのように宇宙空間を模したバトルフィールドに亀裂が走り、フィールド各所から電子の網が剥き出しになっていった。
「偽物らしい惨めな景色だ……」
もう少しだ。
もう少しでこの世界を破壊できる。偽物のガンプラバトルを終わらせられる。
ビグ・ザムの圧倒的な暴力で蹂躙しながら、彼は阿鼻叫喚の光景が広がるモニターを愉悦げに見つめた。
すると一機、こちらへ向かって新たに接近してくる機影に気づいた。
「モビルアーマー……? いや、シャトルか」
このビグ・ザムに対して同じ巨大モビルアーマーを選んで対抗してきたのかと疑ったが、その相手は大した武装も積んでいないスペースシャトルである。つまらん相手だと溜め息を吐く。
しかしそのシャトルはビグ・ザムに進路を取った状態のまま進行速度を緩めることなく、一直線に突進してきた。
なんと傲慢なのだろう。奴はスレッガー中尉にでもなったつもりか。
「馬鹿め」
シャトルはおそらくフルスクラッチで作り上げた物だろう。降り注ぐメガ粒子砲の嵐を受けながら突っ込んでくる性能は悪くないものだったが、ビグ・ザムの敵ではない。
その機体の突進で自分諸共沈めに掛かろうとするのは、このビグ・ザムを見たガンダムオタクなら誰もが思いつくことであろう。それ故に、既に対策済みである。
ブレイクデカールの力を極限まで高めたこの機体の装甲は、たかがシャトル一機の突進では傷一つつかない。何ならガデラーザやネオ・ジオングが特攻をかましてきても問題ないだろう。
丁度いい機会だ。よく見ておけ雑魚共。
自分に挑む有志連合をより深く絶望させる為、ビグ・ザムはあえて無防備にシャトルの特攻を受けた。
その結果は、彼の予想通りだった。
「ふん、無駄なことを」
ビグ・ザムの装甲に完敗し、先端部からひしゃげ呆気なく爆散していくシャトル。
その哀れな末路を見届けながら、無傷のビグ・ザムの中で黒幕はせせら笑った。それ見たことか、と。
だがモニターを覆う爆煙を突き破り、白い機体が舞い上がっていく姿を目にした瞬間、彼の余裕が僅かに崩れた。
「あれは……バエル?」
直後、友軍マスダイバーの機体反応が次々と消滅していく光景をモニターに映し、ハロのアバターはその目を見開いた。
白い何かが猛スピードで宙域を横切っていく度に、不正強化されたマスダイバーの機体が次々と切り刻まれ爆散していく。
資源衛星の内部から脱出し、ガンダムダブルオーダイバーエースのコクピットからリクがその光景を認めた時、ガンダム00シリーズのファンである彼は「マルートモードのガンダムハルートがGNシザービットを使っているのではないか」と疑ったほどだ。
ファンの間ではGN動体視力検査とも言われている劇場版ガンダム00の戦闘シーンを思わず想起するほどに、マスダイバーのガンプラを細切れにしていくそのスピードは鋭く速すぎた。
非凡な戦闘センスを誇り、今もダイバーとして凄まじいスピードで成長を続けているリクでさえも、遠目からではその機体を視認することができなかったのである。
「なんだ……? 何が起こって……」
「ガンプラ……」
「え?」
「凄く、綺麗なガンプラっ」
二本の剣を携えた一体のガンプラが、近接戦闘だけで複数のマスダイバーたちを蹴散らしている。
その事実に最初に気づいたのはリクでもチャンピオンでもなく、リクの隣から嬉しそうな顔でモニターを見つめているサラだった。
そして次の瞬間、強制的に回線が開かれる。
ダブルオーダイバーエースだけではない。マスダイバーと有志連合、この戦場全てに存在するダイバーたちに向けられた音声通信だった。
ディメンション存亡を賭けた戦場に、威勢の良い男の声が響き渡った。
《革命は終わっていない!》
なすすべもなく崩壊していく世界を前に、諦めかけていた者たちの心に希望を与える一声だった。
《諸君らの気高い理想は、決して絶やしてはならない!》
通信の発信源は前方──リクとサラが見つめるモニターの中で、マスダイバーの機体を単独で爆散させていくアンノウンにあった。
敵のコクピットに黄金の剣を突き刺し、足蹴にしながらそのガンプラは立ち上がる。
リクの目はその時になって初めて、アンノウンの全貌を捉えた。
白いカラーリングに、鋭角的なフォルム。左右の手にはそれぞれ黄金の煌きを放つ実体剣が握られており、背中には二対の大型のスラスター─―翼が広がっていた。
その翼から青白い光を放つバーニアを吹かしながら、ダブルオーダイバーのトランザムをも上回る超機動で縦横無尽に駆け巡り、マスダイバーの機体の首を次々と撥ね飛ばしていく。
この瞬間、誰もがその姿に目を奪われていた。ブレイクデカールの元凶たる超弩級ビグ・ザムよりも派手に、その機体は衆目の視線を釘付けにしたのである。
《アグニカ・カイエルの遺志は、常に我々と共に在る……》
宙域にZ字の軌道を描きながら、頭上のXアストレイのオールレンジ攻撃を掻い潜り、コクピットを一突き。
そのまま前方にいたアストレアTYPE-Fとの鍔迫り合いをいなし、胴部を一閃。
返す刃で後ろから迫るエクストリームガンダムを粉砕すると、白き機体は立ちはだかる敵の全てを己の剣のみで薙ぎ払っていた。
マスダイバーたちの扱う異常性能の機体を物ともせず突っ切り、月の光に照らし出された白き機体がビグ・ザムの前に躍り出る。
そしてそれを駆るダイバーが、高らかに言い放った。
《ガンプラバトルの真理はここだ。皆──バエルのもとへ集え!》
その瞬間、リクの心が震えた。
初めてチャンピオンのバトルを見て、このGBNの世界に憧れを抱いた時と同じように──純粋な少年の心を、目の前の白き機体は突き動かしたのである。
「バエルだ!」
「アグニカ・カイエルの魂!」
その機体の名は、ガンダム・バエル。「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に登場するモビルスーツである。
既にマスダイバーに敗れ、コクピットから放り出されていたダイバーたちがその機体を指差し、右腕を振り上げながら思い思いに歓声を上げた。
この絶望的な状況において、白き機体の奮闘は、有志連合に所属するダイバーたちの心を熱く燃え滾らせたのである。
「そうだ……ガンプラバトルの正義は我々にあるっ!!」
その後は回線に割り込んできた誰かの叫びに呼応するように、有志連合一同から雄叫びが上がった。
うおおおおおっ、と響き渡るコクピットの中で、彼に触発されたリクもまた戦場に合流した。
──守ってみせる、みんなが大好きなこの世界を!
圧倒的不利な状況から、一転して士気を取り戻した有志連合一同。
その様子をガンダム・バエルのコクピットから見下ろしながら、未だハーメルンの笛を吹き続けるダイバー「マッキー」は満悦していた。
──今の私、最高にバエてる……!
この喜びに、もはや言葉は要らない。
よもやGBNを始めて、これほどまでアグニカに満ちた状況が訪れようとは……運命か。
マスダイバーという絶対的悪の存在と、ディメンション崩壊という絶望的な危機。それは彼に取って、不謹慎ではあるが願ってもみない状況だった。逆境に対して真っ先に立ち上がる最高にカッコいいバエルを、寝る前に絶えずシュミレーションを欠かさなかったことがここに来て役に立つとは思わなかったものだ。
既に脳内が大量のアグニウムに満ち溢れ、テンションが最高にハイになったマッキーは立ち塞がるガンプラを切り刻み、貫き手で敵のパーツを抉り出しながら叫んだ。
「GPDから移籍してきた俺が、不正ユーザーの敵将を一人で葬る! その行為が、世界を変えるッ!」
四年前、かつて流行していた「GPD(ガンプラデュエル)」の時代から……いや、鉄血のオルフェンズを観たあの時から、彼はずっとこのような日が訪れることを待ち望んでいたのだ。
彼がこよなく愛するガンダム──ガンダム・バエルの素晴らしさを、世界中の人々に知らしめられるこの好機を!
故にこの男は、全GBNダイバーが悲鳴に喘いでいるこの状況をただ一人、全力でエンジョイしていた。
ダイバー・マッキーはアホである。
頭アグニカと言ってもいい。
そんな彼は、筋金入りのバエリストであった。
──時は、少し前まで遡る。
ガンプラバトル・ネクサスオンライン──通称「GBN」。
それは電脳仮想空間「ディメンション」内でガンプラバトルを中心としたミッションを楽しむ、世界規模の最新ネットワークゲームである。
フルダイブ式のMMOであり、ダイバーギアさえ所有していれば誰でもログインすることができる為、ガンプラバトルだけに留まらず遠距離の友人とのコミュニケーションツールとしても利用されていた。
仮想空間中に広がる広大なマップは地球規模に留まらず宇宙まで広がっており、歴代ガンダムシリーズに登場した地形や都市を忠実に再現し、作り込まれていた。ガンダムシリーズのファンでなくても、マップを飛び回っているだけでも充実した観光気分を味わえるほどだ。
そんなネットワーク世界に入り浸りながら、ダイバーたちは自らのガンプラを披露し、競い、時にビルダー、時にファイターとしてお互いを高め合っていた。
戦いの中でコクピットを撃たれても原作のガンダムシリーズのように命を落とすことはなく、四年前まで流行っていた「GPD(ガンプラデュエル)」のように実際のガンプラが破損してしまうこともない。命を賭けることなく闘争を求め、全力で遊ぶことができるのがこの世界「ディメンション」だった。
ここは、そんな理想の世界……いい大人たちが自前のガンプラでとんとん相撲を行っていた頃から夢想に描いていた、真実の世界である。
私、「マッキー」もまたそのGBNのプレイヤー、即ちダイバーである。自らのアバターをガンダムシリーズ「鉄血のオルフェンズ」に登場する例のキャラクターに寄せて登録した私は、私自身が描き続けてきた理想を実現させる為、このディメンションにログインしていた。
マッキーとはマクギリス・ファリドのあだ名。マクギリスとは鉄血のオルフェンズにおいて団長と争うほどの人気キャラクターである。
私はこのキャラクターをとても気に入っている。
卓越した実力を持ちながら、凄惨な過去から刻まれたコンプレックスとままならない世界への憎しみを拗らせ続け、最期には見えていた筈のものさえ見えないふりをし、友の手で散っていった哀れな男だった。
物語のキーパーソンという立ち位置としてはかのシャア・アズナブルとも通ずる点があり、こちらも金髪の美青年ということから製作者サイドにもそういった意図があったのではないかと推測される。
しかし、残念ながら現実世界──特に鉄血のオルフェンズ放送終了後における彼の評判は、私が本編から感じたものとはまた違うものであった。
マクギリスと、彼の乗機であるガンダム・バエル。インターネット上でその二つのワードから検索してみようと「マクギリス バ」まで打ち込んでみた。すると、どうだろうか?
《マクギリス 馬鹿
マクギリス バエル
マクギリス バエル セリフ
マクギリス バカ
マクギリス バエルの》
サジェストはこの有様である。乗機であるバエルよりも先に、あろうことか「馬鹿」が上に出てしまう。おかしい、こんなことは許されない。
つまるところ、大多数の視聴者は彼のことを最終的にそういうキャラクターだと感じてしまっていたのが実情だった。
……それは、仕方がないとは思う。
要所要所で致命的なミスを犯し、最後はそのミスが原因となって破滅していったのだ。結末を思えば、彼が愚かだと言われるのは致し方ないことなのだろう。作中においても終盤は明確に愚者扱いされていた以上、製作者側も意図的にそういうキャラクターとして描いていたように思える。
私的には彼の人間臭さに溢れたやらかし要素もまた、キャラクターとしての魅力の一つだと思っているので、そのことについて彼のことを今更悪く言うつもりはない。見ていて面白いキャラだったのは事実なので馬鹿でも良いのだ。
しかし、だ。
私にはどうしても許せないことがある。
《バエル ガンダム
バエル メギド
バエル すしざんまい
バエル 電磁砲
バエル 悪魔
バエル 改造
バエル 雑魚》
バエル 雑魚。
……は?
私は激怒した。必ず、バエルに従わぬ者を除かねばならぬと。
マクギリスは馬鹿──それはいい。そう見えてしまう理由は私とて理解しているつもりだ。
だが……しかし。
バエルは雑魚?
あんた正気か? これには、どうしても頷けない。
作中においてガンダム・バエルの存在は登場以前からも何度か仄めかされており、ガンダム・フレームの元ネタであるソロモン七十二柱において序列一位であることや、英雄アグニカ・カイエルの魂が宿っているギャラルホルンの象徴としてこれでもかと言うほどにハードルを上げられていた機体だ。
マクギリスが初めて起動させた時は圧倒的な威圧感を放ちながら飛翔し、作戦は成功した。青年将校たちは既に勝ち確の雰囲気を放っており、マクギリスは生きていたところでバエルの敵ではないというような目でガエリオを見下ろしていた。登場時には物語も佳境であったことから、ガンダム・バエルはまさにラスボスのような風格だった。
おそらくは、視聴者にとってそれが不味かったのだろう。
「こんなんラスボスやんけ……」「……あれ?」
大まかに説明してしまうと、それがその後におけるガンダム・バエルの活躍から受けた印象であろう。
盛大な前振りと、あの強キャラのマクギリスが少年のように拘り続けていた機体ということもあり、視聴者の多くはバエルに対してこれまでのモビルスーツが束になって挑んできても単騎で壊滅させられるレベルの期待を抱いてしまっていたのだ。
要は、過剰な期待を掛けすぎてしまったのである。
実際の機体性能はガンダム・キマリスヴィダールと遜色ないレベルであり、それどころか最後は敗北してしまっている。あの時、艦隊に囲まれながら浮かべていたマクギリスの不敵な笑みは一体何だったのかと言うように、特殊な能力を一切披露することなく退場してしまったのである。それが、視聴者の多くにバエル=弱いという誤った印象を植え付けてしまったのであろう。
だが、負けたからと言って雑魚と言うのは早計すぎないだろうか?
私は作中の描写から見て、バエルは既に十分すぎるほど強いと認識している。
改造に改造を重ねた主人公機、三日月・オーガスのガンダム・バルバトスルプスレクス。作中最高レベルの戦闘能力を持つあのガンダムをもってしても避けられなかったダインスレイヴの連射を、バエルは全て避けきっている。この時点で機動性はバエル>ルプスレクスなのは確定的に明らかだ。
鉄華団はギャラルホルンのなりふり構わない圧倒的な物量で押しに押され、最終回ではとうとう力尽きてしまったものだが、バエルはこの時より多少の薄さはあれど敵包囲網を単独で突破している。
「彼らの協力を得られなかったのは想定外だった」例のシーンに関しても、雑に振るったネームバリューだけで大多数の艦隊を中立の立場に抑え込めたのだ。これは他作品で言えばメサイア攻防戦でラクス・クラインが「道を開けなさい」とザフト軍艦隊に呼び掛けたあのシーンに匹敵する効力であり、その事実から300年経って尚バエルの名には戦略兵器級の威光が残っていることが窺えるだろう。
そして最後のキマリスヴィダール戦になるが、あの時ラスタル様は「この戦いを見届けたい」と言ってガエリオ以外の全軍を停止していたが……この発言も余裕から来たものなどではなく、バエルの力を認めた上での虚勢だと私は見ている。
この発言以前にもマクギリスの乗ったバエルはアリアンロッド艦隊を戦艦、モビルスーツ部隊共に単騎で蹴散らしており、仮に手を出していたところで掠り傷一つ負わせることができないことは明白である。つまりは戦っても無駄。精々自分の船が潰されるまでの時間が伸びる程度だろう。
つまり聡明なラスタル様は、ガンダム・フレーム以外の機体ではどうやってもバエルを止められないことがわかっていたのだ。ラスタル様はとても慈悲深いお方なので、身内同士の争いであれ以上大勢の部下が無駄に犠牲になることを良しとしなかったのである。
即ち、ギャラルホルンを追われたマクギリスのバエルがアリアンロッド艦隊の敵将を一人で葬ることができるのは十分に成し得た事実であり、寧ろこれを打ち破ったガエリオ、アイン、キマリスヴィダールの強さこそ異端であり、異常だったのだと私は思う。
しかもそのキマリスヴィダールとて決して楽な戦いだったわけではなく、勝ったとは言ってもほぼ相打ちに近いギリギリの勝利である。寧ろアインの脳という機体の中枢を担うパーツが修復不可能になってしまった時点で、キマリスヴィダールの方こそバエルよりこの戦いで受けたダメージは深刻だったと言える。
加えてあの戦い自体、バエルからしてみれば大部隊との連戦に次ぐ連戦から接敵したものであり、機体コンディションに関しては整備面から見てガエリオ側が圧倒的に有利だったことをどうか頭に入れておいてほしい。加えて操縦するマクギリスの手も、おそらくはまだ妻から受けた名誉の負傷が癒えきっていない筈だ。
要するに、ガンダム・バエルは戦う状況や相手に恵まれていなかっただけなのである。
マクギリス、バエル共に万全な状態で挑んでいればキマリスヴィダールに勝てた可能性は十分にあり、そうでなくても仮にもしあの時マクギリスの相手をしたのが鉄華団討伐組と逆であったならば、バエルはダインスレイヴなど物ともせず敵部隊に壊滅的な被害を齎していたところだろう。
さて……ここまで踏まえれば、バエルが作中一を争う強さであることがわかる筈だ。
故に、嘆かわしい。
実に嘆かわしい。
世界はこんなにも、バエルの力をわからぬとは……。
不当に機体の能力を過小評価し、ネタとして扱う者も。
最強でなければ雑魚だと極論に走る者も。
昨今のガンダムのゴテゴテした武装にばかり気を取られ、剣二本とレールガンのみというシンプルなエレガントさを理解できない者も。
私の「好き」を否定する者……それら全てに対して、私は日々鬱屈した思いを抱えていた。
故に私は、ガンダム・バエルの力を世界に知らしめたかった。
たったそれだけの為に私は全ての力を行使しガンプラを組み立て、GBNのアカウントを作ったのだ。
「300体だ……」
300──それが、私がこれまでに組み立ててきたガンダム・バエルの数である。
作り上げてはGPDで起動実験を繰り返し、その出来に満足できなければ即解体し作り直す。
PGレベルで内部フレームを作り込み、ディティールに拘り、折れない剣を拵える。絶えず試行錯誤を重ねた私のビルダー人生の全てが、常にバエルと共に在った。
「もう休暇は十分に楽しんだだろう? アグニカ・カイエル……」
──さあ、目覚めの時だ。
そして今、300体の犠牲の上に、バエルは蘇った。
それが、私ことマッキーがGBNに参戦した経緯である。
GBNのアカウントを作ってからまだ日は浅いが、私は既にフォース──即ちプレイヤーギルドに所属しそのリーダーを務めている。
フォースの総人数は私を含めて七人。彼らとは、GPD時代からの付き合いである。彼らのGBN歴はそれなりに長いようだが、彼らは私がこのGBNにログインしてくる日を以前から待ち兼ねていたようであり、合流した我々は早速その場でフォースを立ち上げることになったのだ。
──フォースの名は「アグニカンスピリッツ」。
メンバーは皆、かつて私と同じサークルに所属していたGPD経験者だ。GPD時代は各人ぼくがかんがえた最強のガンダム・バエルを作ることを目指し、バエルをベースにした機体を扱っていたものだが……このGBNでは量産機ベースの改造機体を扱っているようだ。
……どうやら彼らは、この私に気を遣ってくれたらしい。
「我々は、准将のバエルこそが真のバエルだと確信しているだけです。我々のフォースに配備されるバエルは一体だけでいい……それが、我々の総意です」
「言ってくれるな、イスル……いや、ここではイッシーだったか」
准将という呼び名は、GPD時代に付けられた私の肩書だ。
健気にも私がこのGBNに参戦してくることを楽しみにしていたらしい彼のダイバーネームはイッシー。彼とはGPDのお株がGBNに取って替わられて以来久方ぶりに会うが、その忠誠心は未だ健在のようだ。
「仲良し四人組も息災か」
「「魂っ!」」
「ふっ……相変わらずで何よりだ」
お揃いのパイロットスーツをヘルメットまできっちりと身に纏っているのは、揃ってモブキャラのようなアバターをしている青年たちである。
彼らは常に四人で行動しており、四人で一体のガンプラを扱う仲良しカルテットである。口癖は「バエルだ!」「アグニカ・カイエルの魂!」。ガンプラバトルでバエルを見掛けた時、ゲームセンターでバエルを見掛けた時には必ずそのリアクションを取るのが彼らの流儀らしかった。サクラとしても扱えるので今回は重宝しそうだ。
そして最後の一人の名は、ソウダ・セイギ。そう言えばまだ、こちらでの名を聞いていなかったな。
「ソウダのことは、何と呼べばいい?」
「セイギ!」
「なるほど、リアルと同じか」
イッシー、仲良し四人組、セイギ、そしてこの私ことマッキー。この鋼鉄の七人がフォース「アグニカンスピリッツ」のメンバーである。
まだゲームを始めたばかりである私だが、フォースの加入に必要なダイバーランクには夜通しのプレイで到達することができた。
そんな私は彼らの前に立ち、薄っすらと笑みを浮かべる。
「理想のバエルを手に入れた今、私もようやくGBNに乗り込むことができた」
この世界で機体を動かしてみてわかったが、基本的にGPDとGBNの戦闘システムは同じようだ。GPDでできた動きはこちらでもできるし、今のところは操縦面に不便を感じていない。すぐに慣れるだろう。
つまり、かつてGPDで名を上げた私が、ここでも変わらずその力を見せつけることができるということである。
尤も、バトルでガンプラが壊れることがないこのGBNはGPDに比べてユーザーフレンドリーに作られている為か、その人口は既にGPDの比ではない。あっという間に世間へと広まり一大ブームを巻き起こしたこのGBNの裾野は広く、ガンダムオタクのみならず少年少女を始めとする数多のライトユーザーたちに溢れていた。
そこで、私の出番だ。
「私は私のバエルこそが唯一絶対であり、全てのガンプラの頂点に立つと確信している」
私が至高のバエルを作り、このGBNに参戦した理由。
それは、原作鉄血のオルフェンズでは終ぞ叶うことがなかったアグニカン・ドリームの実現である。
ガンプラバトルという純粋な力のみが成立させるこの世界は、言うならば真実の世界である。
しかしこの世界はまだ発展途上であり、プレイヤーたちの間にはネットの世界同様、バエルの素晴らしさが広まっていないことが不服だった。
ガンプラへの愛。闘争への探求心。大いに結構である。
しかし、彼らはまだわかっていない。その真理を。
ならばわからせよう。私が、俺が、バエルの力を。
「マクギリス・ファリドが叶えられなかったものを、我々の手で成し遂げよう。今こそバエルの理想を……アグニカン・ドリームを果たす時だ!」
拳を突き上げ、宣誓する。
世はまさに、大アグニカ時代の幕開けだ。
「バエルだ!」
「アグニカ・カイエルの魂!」
「そうだ……ガンプラバトルの正義は我々にある!」
「准将おおおおおおおっ!!」
──要するに私は、ガンダム・バエルを使って最高にバエる戦いをしたいということだ。
ロビーフロアの中、多くの他プレイヤーから不躾な視線を浴びせられることにも動じず、我々のフォースは立ち上がった。
我々はアグニカンスピリッツ、アグニカン・ドリーム実現を目指す者──。
ビルドダイバーズを見ながらガンプラを作っていたらどうしても書きたくなった。
あの世界はやたらアグニカポイント高いキャラが多くてとてもバエる。
マッキーがダイバーズ世界にいたらチャンピオンと一緒に「リクサラいいよね……」「バエルいい……」と仲良く語り合っていると思う。