バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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 ハシュマル戦の王道感すき


さあ、目覚めの時だ……!

 サーバーエリア11──ラグランジュ4資源衛星。

 

 そこがディメンションにブレイクデカールを蔓延させた黒幕の拠点であることを、シオンは本人から直接知らされたらしい。

 シオンから私の元に送られたメッセージは、全て黒幕由来の情報だったようだ。

 黒幕は独自の情報網からチャンピオン率いる「有志連合」の動向を事前に察知していたらしく、これを迎撃すべくマスダイバーたちを集結させていた。あちらもまた、決戦の準備を備えていたということだ。

 

 そしてその招集命令が、先日シオンの元にも下されたらしい。

 

 シオン自身はこれまでのプレイでブレイクデカールを使ったことはないようだが、最も荒んでいた時期に出会した黒幕から一方的にブレイクデカールを手渡されたとのことだ。以来黒幕は彼女のことをマスダイバーとして認識していたらしく、彼女の元にも招集命令が送られたという経緯だ。

 黒幕からシオンへ、シオンから私へと情報が流れ、今に至る。

 彼女がいなければ私は、千載一遇のアグニカ・チャンスをみすみす逃した愚者として歴史に名を刻んでいたところであろう。

 そもそもブレイクデカールという不正ツールがディメンションに蔓延っていたことすら、平和にGBNを満喫していた私からしてみれば本来知りえない情報だったのだ。我ながら呑気なものである。

 

 ゲームシステムに介入し機体データを操作することで、限界値以上の性能を発揮させる不正ツール。それがブレイクデカールだ。

 

 私が求める純粋な力とはあまりにもかけ離れており、バエルを持つ者として見過ごしておけない存在だった。

 しかしその力を黒幕から直々に渡されながらも最後まで使わなかったシオンの判断には、よくぞ踏みとどまったとチョコレートを進呈したいところである。

 ガンプラバトルとは、ガンプラに人の苦労と情熱、愛情を注ぎ込んでこそ輝きを放つ舞台なのだ。

 ゲームシステムに介入し本来の力を弄り回すなどと言う、己が作ったガンプラさえも否定するその行為は断じてアグニカではない。

 

 即ち、ブレイクデカールを扱うマスダイバーとはアグニカ・カイエルに非ず。

 

「バエルに逆らう逆賊」と書き綴られたシオンの一文は、彼らの在り様を的確に表したものだった。

 この私を乗せる為にあえてそう書いたのであろうが、流石はシオン。バエルのことをよくわかっている。

 

「バエルに逆らう逆賊……マスダイバーを排除するのです!」

「そうだそうだ!」

「アグニカ・カイエルの魂!」

 

 GBNチャンピオン「クジョウ・キョウヤ」が結成した有志連合と、ブレイクデカール事件の首謀者が招集したマスダイバー連合の決戦は、私がアグニカしてバエる為の絶好の舞台であると同時に我々がガンプラバトルの正義を為す聖戦でもあった。

 趣味と実益が完璧に合致した今の我々は、もはやオルガ・イツカの如し。決して止まることはなく、止められる者は誰もいない。

 

 

 ──その後、我々は久方ぶりに現実世界で会合を果たし、七人一体となって決戦への介入準備を行った。

 

 私は他の一流ビルダーたちと比べて、ガンプラ一体あたりの製作時間が一際長い方だと自覚している。故に今回の準備も私一人の力では時間が掛かりすぎてしまい、決戦まで間に合わなかったところかもしれない。

 しかし優秀なビルダー七人掛かりの人海戦術により、当初の予定以上の早さとクオリティーで仕上げることができた。

 

 それがこの、「バエル登場演出用特攻小型艇」である。

 

 見た目は何の変哲もないスペースシャトルだが、その機能は特攻兵器として徹底的に作り込まれている。素早い航行で敵の弾幕を突破した後、速やかに爆発四散して衆目を集めるパンジャンドラムのような設計が施されていた。その爆発は実際の威力こそ弱いが見た目は大きく、通常よりも多くの爆煙が排出されるのが特徴だ。

 機体表面には特攻前から敵の砲撃に撃ち落とされることがないよう簡易的なナノラミネート処理が施されており、ステルス性能においては我々が乱入するまで外部から発見されることがないよう「ミラージュコロイド」が搭載されている。

 開戦時にはミラージュコロイドを展開して戦場の様子を窺いつつ、頃合いを見計らって全速前進。敵陣のど真ん中に突如として現れては速やかに爆散し、「あれは……バエルだ!」という展開へと持っていくのが、想定された運用方法だった。

 

 ふふふ……完璧だ。あまりにも完璧なシチュエーションである。

 こんなこともあろうかと、毎夜寝る前にこの状況をシミュレートしていた甲斐があったというものだ。

 小型艇の製作と並行してバエルの微調整を終えた私は万端の準備を整えながら、決戦前夜は来るべき戦いの興奮を胸に布団へと入った。

 

 

 

 

 そして、決戦当日──我々アグニカンスピリッツはこの日の為に完成させた小型艇に乗り込むと、予定時刻に合わせてマスダイバーたちの本拠地、サーバーエリア11へと潜入していった。

 

 

 宇宙はいい。今からこの静かで広大な世界をバエルが支配すると思うと、居ても立っても居られないものだ。

 私は逸る気持ちを一旦抑えると、まずは状況の把握に努めた。

 因みに、小型艇の操舵士はセイギが担当している。この大役を引き受けるに当たっては彼が最も気合いが入っており、昨日からしきりに「操舵セイギ!」と自己主張を続けていたのだ。

 ミラージュコロイドを展開した状態で小型艇が微速前進していくと、我々は艦橋から宙域の観察を行った。

 

 ──すると、ほどなくして複数の機体反応がレーダーに映った。

 

 

「密集した複数の機影……これは、有志連合です」

「ふっ、いいタイミングだ。シオンの情報は正しかったな。セイギ、彼らに気づかれんようこのまま距離を保て」

「操舵は我にあるッ!」

「仲良し四人組、モニターを拡大できるか?」

「魂っ!」

 

 発見した機影に対して仲良し四人組がモニターを拡大させると、そこにはガンダムAGEⅡの改造機を先頭に資源衛星へと飛行していくガンプラたちの姿があった。

 あれが「ガンダムAGEⅡマグナム」……GBNチャンピオン「クジョウ・キョウヤ」のガンプラか。なるほど……ここから見てもわかる。GBNの王に相応しい、見事な機体バランスである。

 チャンピオンのAGEⅡマグナムに追従していくのは彼のフォース「AVALON(アヴァロン)」の面々と、「グリモアレッドベレー」を駆るロンメル大佐の「第七機甲師団」、そしてシャフリヤールの駆る「セラヴィーガンダムシェヘラザード」やタイガーウルフの「ガンダムジーエンアルトロン」、マギー女史の「ガンダムラヴファントム」等、一度GBNの情報誌を手に取れば頻繁に目にする名機の姿がそこにあった。

 

「こうして見ると壮観ですね……」

「それほどの相手だと言うのだろう。ブレイクデカール……それを操るマスダイバーというのは」

 

 普段は別のフォースで競い合っている上位ランカーたちが一堂に会し、連合を組んで立ち向かっていく。一人一人が一騎当千の実力者である彼らのガンプラがそうまでして対処せざるを得ないほどに、マスダイバーとは強大な相手なのだ。

 ……事実、私が調べた情報によるとロンメル大佐の第七機甲師団さえもマスダイバーを前に敗戦を喫していると言う。その際、マスダイバーのガンプラは何度壊してもゾンビのように再生していたという情報があり、それが本当ならばもはやガンプラバトルが成り立たない相手である。

 そのうえ強力なブレイクデカールは発動と同時にゲーム内に膨大なバグを撒き散らし、電子世界を崩壊させる危険があると呼び掛けられていた。なるほど、それはまさしく世界の危機である。

 

 実に酷いことをするものだと、私はニヤけながら呟く。

 

 もちろん、そのような輩は到底許すことができない。彼らマスダイバーの存在を知った以上、私は仮にバエルを持っていなくても立ち上がっていたところだろう。

 しかしバエルを持つ私は、このようなアグニカ・チャンスを持ち込んできてくれた黒幕に対して不謹慎ながら感謝の気持ちを抱いていたのだ。

 

 世界にブレイクデカールという名の災いを振りまくマスダイバーと、それに立ち向かう有志連合。その関係からモビルアーマーとガンダム・フレームを想起し、厄祭戦めいたものを感じていた。

 そして有志連合を率いるクジョウ・キョウヤの存在は、まさしくアグニカ・カイエルの体現者である。その存在は英雄として語り継がれていくことだろう。

 

 私としては、別段それでも構わない。

 

 直接の面識はないが、界隈においてアヴァロンのクジョウ・キョウヤと言えばプレイヤーきっての人格者であることは周知の事実であり、少し調べてみただけでも彼が残した伝説的な逸話は数多い。GBNにおける力の象徴とも言うべき彼のアグニカポイントは、既にアグニカ・ザ・アグニカを名乗るに相応しいものだろう。

 

 しかし、それはそれとして私もアグニカしたい。彼に対抗心があるわけではないが、私も自分が果たすべき役目を果たしたかったのだ。

 故に我々アグニカンスピリッツは、彼の有志連合とは異なる立場からこの戦いに介入することとする。

 

「准将、たった今、サーバーの出入口が封鎖されました」

「黒幕を逃がさないようにする為か。やはり、有志連合のバックには運営がついているらしい」

 

 黒幕を逃がさぬ為に、このサーバーは運営権限によって隔離されたようだ。これでもう、このサーバーから脱出するには事件を解決するか撃墜されるしかなくなった。実に私好みの展開である。

 

 ……さて、そろそろか。

 

 

「始まったな」

「ええ」

 

 ミラージュコロイドによるステルスを続けながら彼らの様子を窺っていると、視認したラグランジュ4資源衛星の方向から無数の閃光が放たれた。

 黒幕がこの日の為に招集した、マスダイバーたちのガンプラである。

 有志連合のガンプラたちはこれに応戦し、決戦の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、時は今に至る。

 

 

 戦闘開始からここまで、体感では24時間以上待ち続けた気分だ。

 遠目から戦況を窺っていた私は、どのタイミングで介入するべきか大いに悩み苦しんでいた。

 バエルの登場に当たって最もバエるシチュエーションと言えば、やはり有志連合の窮地であろう。追い詰められた有志連合の前に颯爽と姿を現し、その力でマスダイバーを蹴散らす。その一連の流れこそが、バエルが最もバエる瞬間と言える。

 

 もちろん、あえて窮地の状況を作るのは論外である。そのようなマッチポンプを行っても貰えるのはアグニカポイントではなくラスタルポイントであり、アグニカからは大きく掛け離れてしまう。

 故に私は、有志連合が窮地に陥るかどうかは時の流れに任せることにして静観を決め込むことにした。

 しかし、ここで問題だったのが有志連合の実力だった。

 マスダイバーたちが扱うブレイクデカール機の理不尽な再生能力は確かに厄介だが、それでも素の実力差は如何ともしがたく、開戦からの戦況は有志連合が優勢だった。

 その実力差と言えば寧ろバエルの出番が必要無いまま事件が解決してしまいそうな勢いであり、チャンピオンたちが資源衛星内に侵入した時はいよいよ私も突入をするべきか悩んだところだ。

 

 彼らがそのまま何事も無く事件を解決してしまうのはGBNプレイヤーとして喜ばしい限りなのだが、バエルを持つ私としては今一つノリきれないものがあった。

 仲良し四人組などは逸る気持ちを抑えきれず、バエルの出番はまだなのかと幼子のように艇内を右往左往していたものだ。

 

 

 ──しかし、待ちわびた時は遂に訪れた。マスダイバーが繰り出した超巨大モビルアーマー「ビグ・ザム」の出現である。

 

 

 資源衛星を内部から破壊しながら姿を現したビグ・ザムは、圧倒的な力で有志連合のガンプラを次々と破壊していった。

 そして他のマスダイバー機たちも全身に禍々しい闇のオーラを纏ったビグ・ザムに呼応していくようにブレイクデカールの力を増幅させ、有志連合側が一気に劣勢へと傾いたのである。

 

 かの厄祭戦を彷彿させるその状況に、私の迷いの霧は晴れた。

 

「セイギ!」

「操舵ッ!」

 

 カッと目を見開いた私の指示により、セイギの操舵でミラージュコロイドを解除した小型艇が全速前進。

 遂に訪れたハイパー・アグニカ・チャンスを前にイッシーからは恐る恐る「准将は、ここまで見越していたのですか……?」と問われたものだが、私もそこまで万能ではない。

 私がここまで静観を続けることができたのはただ、有志連合とマスダイバーの決戦などという壮大な一大事であれば、否が応でも想定以上の事象が起きるだろうと予測していただけだ。

 よもやマスダイバーがこれほど巨大なモビルアーマーを持ち出してくるとは、流石に想定外だったが。

 

 

 

 

 ──それからは予定通りこの小型艇でビグ・ザムに特攻を仕掛けた後、爆煙に紛れて我々はガンプラで脱出。

 

 衆目から見て最も目立つ位置からバエルで飛び出した私は、既に超強気状態のMAXハイテンションだった。

 枷から解き放たれた獣のように縦横無尽に宇宙を飛び回ると、擦れ違ったマスダイバーのガンプラを手当たり次第乱雑に切り捌いていく。

 私が高揚のままマクギリス・ファリドめいた演説を行えば、面白いほど一身に皆の意識が集まってきているのが伝わってきた。

 闇のオーラを纏うビグ・ザムの出現によってフィールドはおびただしいバグに侵され、宙域はところどころが電子の網が剥き出しになっている。既に電子世界の崩壊が始まっているのだろう。

 噂以上のブレイクデカールの力に私は内心驚いていたが、今この瞬間はそれすらも興奮に変わった。

 

 それはこのような絶望的状況で登場したガンダム・バエルの姿が、今やチャンピオンさえも差し置いて最も目立っていたからだ。

 

「ガンプラバトルの真理はここだ……皆、バエルのもとへ集え!」

 

《バエルだ!》

《アグニカ・カイエルの魂!》

《そうだ……ガンプラバトルの正義は我々にあるっ!!》

 

 私の演説に仲良し四人組たちのガヤが続くと、触発された有志連合一同から雄叫びめいた歓声が次々と上がっていく。

 そうだ、それでいい……人生の絶頂とも言える心地良さが、私の心を満たしていた。もはやこの時点で、私の目的はほぼほぼ完遂されたと言える。

 

 だが、チャンピオンよ! 上位ランカーたちよ! マスダイバーたちよ! 私のアグニカン・ドリームはまだこんなものではない。今こそ刮目せよ……世界を切り拓くバエルの力を! 

 

 尚も込み上がってくる無尽蔵な興奮に酔いしれながら、私はモニター越しにビグ・ザムの姿を見据えた。

 その画面には、これまでバエルを操縦していた時には無かったコマンドが展開している。

 それはこの機体が「ガンダム・バエル」である以上私も当てにしていたが……いざ目の前にすると感動を抑えられなかった。

 

 それは、バエルから私に寄越されたリミッター解放の要請シグナルだった。

 

 いわば私宛てに送られたバエルのメッセージとも言える画面を見て、私は喜びに打ち震えた。  

 

 

「そうか……お前も昂っているのか」

 

 モビルアーマー「ビグ・ザム」。その存在はこのバエルから、狩るべき獲物として認定されたようだ。それは鉄血のオルフェンズ作中において、三日月・オーガスのガンダム・バルバトスが見せたものと同じ反応だった。

 

「モビルアーマー……人を狩る天使を前に、居ても立っても居られないと言うのだな? アグニカ・カイエル……いや、ガンダム・バエルよ」

 

 コクピットの中で一人ガンプラに語り掛けながら、私は微笑を浮かべる。

 ならば、いいだろう……思う存分に解き放つといい。お前の全てを。

 

「さあ、目覚めの時だ……!」

 

 私は操縦桿のスイッチを押し、我が愛機からの要請に迷わず従った。

 ガンダム・フレームを繋ぐ余計な枷を──阿頼耶識システムのリミッターを解放したのだ。

 今この瞬間、バエルの双眸はさらに深い赤へと染まり、輝きを放ったことだろう。

 そんなバエルの姿をモノアイに捉えたビグ・ザムが、機体側面から放つメガ粒子砲で怒涛の砲撃を仕掛けてくる。

 一つ一つがモビルスーツ級の口径から放たれるビームの嵐は、さながら光の槍を針に見立てた剣山のようだ。

 しかもIフィールドを応用した特殊な改造が施されているのか、発射されたビームは付近のガンプラを貫いた後で軌道を変え、曲がるビームと化してバエルの元へと殺到してきた。

 一発の砲撃がまるで大艦隊の総攻撃であり、この時私はアリアンロッド艦隊のダインスレイヴ部隊に一人で立ち向かっているような感覚を催した。

 

《あ、危ない!》

 

 無双ミッションを軽く超えるメガ粒子砲の弾幕を前に、ちらりと視界の端に捉えたダブルオーガンダムの改造機から慌てた声が入る。

 ふっ、案ずるな少年。この程度の砲撃に怯むバエルではない。そうだろう? アグニカ・カイエル! 

 

《す、凄い……! あの攻撃を……》

《全部、避けちゃった……》

 

 リミッターを解放した今のバエルならば、曲がるビームの嵐だろうと物の数ではない。少年少女たちから寄せられる素直な賞賛の声が、最高に心地よかった。

 私はこう見えて、子供は好きだ。特に昔のシオンや我が友の妹のように純粋な子供は大好きだった。

 故に、君たちにも見せてやろう。自由を手に入れたバエルの、全てを捻じ伏せる力を! 

 

「バエルッ!」

 

 一声私がそう呼び掛けると、バエルが呼応してツインアイを輝かせてくれた気がした。

 私の操るバエルがリミッターを解放した圧倒的な推力を持って飛翔すると、フルスロットルでビグ・ザムへと突っ込んでいく。

 ビグ・ザムの側面からは尚も執拗なメガ粒子砲が降り注いでくるが、その光はいずれもバエルの影すら掴むことができなかった。

 刹那で間合いを詰めた私は二本のバエルソードを引き抜くと、取りついたビグ・ザムの頭頂部で剣の乱舞を披露する。

 バエルは私が要求する動きをも超越した剣技で軽快にビグ・ザムの装甲を切りつけていくが、その度に剣から伝わってくる手応えは装甲強度の一言では済まされない鈍さだった。

 ふむ……今のバエルをもってしても抜けない装甲となると、この敵はもはやガンプラですらないようだ。

 なるほど……これがブレイクデカールの力か。このビグ・ザムはシステム面から機体データを改ざんされ、そもそもがガンプラの攻撃でダメージを受けないように設定されていると見た。でなければ、バエルの剣が通じない筈がないからだ。

 事件の首謀者が乗っていると確信するには十分すぎるほどに、闇のオーラを纏うモビルアーマーは何から何まで異常だった。

 

 しかし……たかが理不尽の一つ、バエルで押し潰してくれよう! 

 

 ウイングスラスターから青色の光を吹かしビグ・ザムの頭頂部から後退した私は、超高速で旋回しながら手近なところにいた他マスダイバーのガンプラと接敵する。

 

 あれは……ザムザザーか。よし、君に決めた。

 

「いいザムザザーだな。借りていくぞ」

《な、何をするきさっ……わあああああ!?》

 

 私は一瞬にしてザムザザーの死角へと回り込むと、その腹部に向かって右手のバエルソードを突き刺した。

 ビグ・ザム同様闇のオーラを纏った装甲はブレイクデカールの力で強化されており鈍い手応えだったが、ビグ・ザムほどの強度ではなく上手く刺さってくれた。これならば、いける……! 

 通常であれば剣が急所に刺さった瞬間から致命傷の判定が下りザムザザーは爆散する筈だったが、これもブレイクデカールの力か、マスダイバーのガンプラは消滅することがないまま串刺しの状態で漂っていた。

 

《ば、馬鹿めっ! ブレイクデカールで強化された私のザムザザーは不死身だ! その程度の攻撃で……》

「ああ、元より君を倒すつもりはない」

 

 そんな攻撃で倒されはしないと……ほくそ笑みたかったのであろうマスダイバーの言葉を遮りながら、私はバエルソードでザムザザーを突き刺した体勢のまま再度ビグ・ザムの姿を見下ろした。

 ……そう、君を倒すつもりなどない。これから存分に暴れてもらうのだから、倒れてもらっては困るのだ。

 私は今、君のように丁度いい具合にギザギザした形をしており、丁度いい具合に頑丈で大きく、丁度いい具合に振り回しやすそうなガンプラを求めていたのである。

 

「君は今からバエルの武器となるのだ。この程度で倒れてしまっては困る」

《は? な、なんだそれは!? まっ……》

 

 待てという言葉は、残念ながら私には届かない。君はここが痛みの無い仮想空間であることに感謝しながら、そこで歯を食いしばっているといい。

 ザムザザーを剣先に突き刺した状態のまま、バエルは再びフルスロットルで急迫しビグ・ザムの砲撃を掻い潜ると、瞬く間に頭頂部へと取りついていった。

 

「はあっ!」

《ああああああ私はっ!?》

 

 ザムザザー、君はいいモビルアーマーだが、君のパイロットがいけないのだよ。恨むのなら私ではなく、ブレイクデカールなどという禁忌に手を染めた彼を恨むといい。

 私は依然ザムザザーが突き刺さった状態のバエルソードを振り回すと、鬼神の如きバエルの膂力に任せてそれをビグ・ザムの頭頂部へと叩き付けていった。

 何度も何度も、自機より一回り以上大きいザムザザーの機体を鈍器として扱い、その装甲に振り下ろしたのだ。

 

 これぞ三日月・オーガスの力……外道サーフィンならぬ、外道ハンマーである! 

 

《あ、あああ悪魔めぇ……! な、なんてことをするのだ貴様ぁ!》

「ふっ……これは異なことを。仰っていることが理解しかねます」

 

 自らの機体を鈍器として扱われることに憎まれ口を叩くマスダイバーだが、私にとってその言葉は褒め言葉だった。

 そうとも、ガンダム・フレームとは天使を狩る悪魔。ガンダム・フレームはどれも兵器としては美しすぎる姿をしているが、元来モビルアーマーの殲滅を目的として生み出されたその戦闘スタイルは一貫して粗暴であり、容赦が無い。そうやって純粋かつ強大な力を人々に示し続ける存在こそがガンダム・フレームがガンダム・フレームたる所以であり、ガンダム・バエルとはその中でも序列一位に君臨する魔王なのだ。

 

 君たちマスダイバーはバエルに逆らった。よって、相応の裁きを受けてもらう。

 

「バエルに逆らう逆賊に怒りの鉄槌を!」

《あああああ私はぁ!? こんなところでぇ! あああああアーッ!!》

《バ、バエルだ……!》

《ア、アグニカ・カイエルの魂……!》

 

 規格外の力を解放したバエルの前では、仲良し四人組たちさえも震えている様子だ。

 ここがゲームでなければ、ザムザザーのパイロットは今頃ミンチよりも酷い有様になっていたところであろう。しかし私の裁きは止まらない。加速する……! 

 私がザムザザー印の外道ハンマーをしきりに乱打していると、十数回目ほど叩きつけたところでビグ・ザムの装甲に小さな亀裂が走った。

 

 ……睨んだ通り、ブレイクデカールの装甲にはブレイクデカールの力で対抗することができるようだ。

 正規のガンプラの攻撃でダメージを与えられずとも、同じツールが使われている機体をぶつければビグ・ザムにもダメージを与えられると思った判断は、どうやら正しかったらしい。

 加えて、ブレイクデカールの力で壊れても再生を繰り返すザムザザーハンマーはまさに不滅の槌と言ってもいい性能だった。

 

 これなら殺し切れるか……? 確かな手応えを感じた私だが、ビグ・ザムを操るマスダイバーの親玉はこのまま黙って殴打されてはくれなかった。

 

 さらに崩壊が加速していくサーバーの中で、私は想像以上に凄まじいブレイクデカールの力に内心舌を巻いていた。

 ザムザザーのマスダイバーが良い反応を返してくれたものだから気分は良かったが、このような戦い方はやはりバエルと言うよりもバルバトスの領分であり、私が本来予定していたアグニカとはどこか違っていた。

 

 そして私は、今の自分が思っていた以上に苛立っていることに気づいた。

 

 それは根本的にゲームシステムを侵してビグ・ザムにバエルの剣が通じないように設定してきたブレイクデカールの理不尽さに腹が立ったのかもしれないし、黒幕の思惑に後輩が利用されかけたことを少なからず気にしていたのもあるのかもしれない。私はそんな殊勝な人間ではないだろうと、それについては苦笑を禁じ得ないが。

 

 

 ──しかしその苛立ちを、解消してくれた者がいた。

 

 

 それはチャンピオンのAGEⅡマグナムでも、上位ランカーたちのガンプラでもない。

 

 

 一人の少年と少女が羽ばたかせた「光る翼」。

 その輝きがこの宇宙を駆け抜けた瞬間──私はGBN(ガンプラバトル・ネクサスオンライン)の世界に、アグニカ・カイエルを見た。

 

 

 

 




 シバさんの科学力はやっぱりおかしいと思うの(´・ω・`)
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