バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
Gジェネにやり過ぎはなかった。
夕焼け空の下、穏やかに波打つ大西洋をゆっくりと巡航していく空母艦タケミカズチ。
まだ外装の改造には着手していないが、安価でできる分の内装には既にささやかな改造を施していた。
例えばこの艦長室。デスクの上に両肘をつきながら司令官のポーズで待機している私の背後は、外の景色が一望できるガラス張りの壁になっていた。さながらその部屋はマクギリスが使用していたヴィーンゴールヴの重役室のようだ。
無論、室内の備品やオブジェの配置もこの内装の雰囲気に見合ったものに変更している。一時間で仕上げた簡略的な改造にしては、案外様になるものだと私は自らのデザインセンスに自画自賛する。
そんな艦長室のドアが、私が見つめる先でウィーンと心地良い稼働音を鳴らしながら開かれていく。
最初に入室してきたのは、我らがフォースの副リーダーイッシーである。
しかし彼は今その後ろに、我々のフォースメンバーではない人物を引き連れていた。
「准将、お連れしました」
「ご苦労」
待ち構えていた私に向かって生真面目な表情で報告するイッシーだが、彼が内心「言ってやった! 言ってやった!」とばかりにしたり顔でこのシチュエーションに喜んでいることを私は見抜いた。
言うならばこの時、彼は300石動ポイントを獲得したのだ。おめでとう。
普段にも増して完璧なロールプレイで敬礼を寄越してくるイッシーに対し労いの言葉を贈りながら、私は彼が連れてきた男たちの姿を一瞥する。
……うむ。皆革命軍の装いをきっちりと着こなしているな。それぞれ10アグニカポイント進呈しよう。
緊張した面持ちで私と向き合う男たちの姿は、どれもギャラルホルンの青年将校を模した兵士的なアバターをしていた。
総勢五名。あれから団長と別れ、イッシーたちと合流した私は、フォースの助けになり得る存在として彼らを紹介され今に至る。
「君たちか? 報告にあった、入隊希望者というのは」
デスクを立ちながら私が彼らにそう問い掛けると、五人を代表して垂れ眼の青年将校が一歩前に踏み出し、返答を寄越した。
「はっ! アグニカ・カイエルの体現者であり、真のバエルを持つ准将にお仕えすべく、御身の元へ参上いたしました!」
「そうか……ふむ、君の名前は?」
「ライザップと申します!」
過剰に肩ひじ張った姿は、まるで初めての就職活動のようだ。しかし、びしりと決めた敬礼のポーズは中々堂に入ったものだと思わず感心した。
私がそう畏まることはないと緩やかに返すと、青年将校たちは何故か感激した眼差しで私を見つめてきた。
それから数拍の沈黙を置いて、代表の青年将校ことライザップが語った。
「ディメンションにログインしてから早幾年……私は貴方のようなバエル使いが現れる時を、幾日も待ち続けていました。純粋なバエルを操り、その性能を極限まで引き出して戦える存在……貴方こそがまさしく、私が思い描いていたアグニカ・カイエルそのものだったのです!」
……イッシーからの報告には聞いていたが、なるほどこれは逸材かもしれないな。
察するに、彼は私と同じだ。バエルをこよなく愛し、ただひたすらに戦場でバエる為にアグニカし続ける人種……すなわちバエリストである。
ライザップは語る。
「バエルに憧れを抱いていた我々は、かつてバエルの力をこのGBNに知らしめてやろうと日々布教活動を行っていました……しかし残念ながら、我々の腕では力及ばず、バエルを使いこなすことができませんでした」
悲しいことに、彼らがバエルを扱った際の勝率は一割にも満たなかったのだそうだ。
彼らはあくる日もバエルを使いながらも全くガンプラバトルに勝つことができない自分たちの実力に嫌悪し、絶望していた。その申し訳なさに耐えかねてか、いつしか彼らはバエルを降り、内なる心にアグニカンスピリッツを秘めながらも燻り続け、このディメンションを当てもなく流離っていたらしい。
しかし、そんな彼らのもとに転機が訪れた。
「そんな時、准将のバエルを見たのです」
バエルだ。
アグニカ・カイエルの魂。
「映像を見ただけで……我々のガンプラとの格の違いがわかりました。あの日……マスダイバーとの戦いで宇宙を駆けるバエルの姿が、我々に立ち上がる勇気をくれた。そう!」
バエルを愛していながらも、バエルに認められなかった悲劇の有志たち。そんな彼らの心に火をつけ、新たな希望を手に入れたのだとライザップは言った。
もう陰でこそこそとバエルの良さを語り合う必要は無い。
もう自分たちでバエルを作る必要など、どこにもないのだと。
「我々はついに立ち上がった! 革命の時が来たのだ! 同志たちよ! 新しい風を起こし、ガノタの間に蔓延した「バエルが弱い」などと言う戯けた風潮を吹き飛ばす! 我々が一人一人の力でこの欺瞞に満ちた世界を変革するときが来たのだ!
平和と闘争の融合であるガンプラバトル。それはガンダムファンの面々が理想のガンダムを享受するための都合の良い舞台に過ぎなかった! 鉄血のオルフェンズ本編で起きたガンダム・バエルとガンダム・キマリスヴィダールの激突。その結果をコントロールしていたとされる大人の事情がラスタル・エリオンとつながっていたことが我々の内偵により明らかになった!」
「やめたまえ」
「イオク・クジャンは一民間組織であるタービンズを違法組織に仕立て上げ強制査察! 違法兵器であるダインスレイヴを自らが使用し、多数の非戦闘員の虐殺! 政治抗争に腐心し民間人を虐殺してなお、最終回にはラスタル陣営が良い目を見る結末に……」
「落ち着けよ」
「ハッ……!? 私は何を……?」
「なんだろうな」
全く、一体何を言い出すのだ君は。
自然な流れでライザ・エンザの演説に入った彼の語りに対し途中までは感心しながら聞いていた私だが、何だか不穏な気配を感じ始めたので強制的にシャットアウトさせる。私個人の意見としては本当にラスタル陣営が良い目を見たとは思えないしな。
……まあ、なんだ。彼が病的なまでにバエルを愛していることはわかった。
やや倒錯的すぎるきらいが窺えるが……私に言えたことではないな。高校時代の私と比べればまだ大人しい方だろう。
ここまでの語りから、私は彼らが言わんとしていることを察する。
「即ち、君たちもバエルのもとで戦いたくなったということか?」
「はっ! 力無き身でありますが……我々を、准将のバエルのもとへ集わせてください!」
「ふむ、素晴らしい熱意だ」
少年のような熱さを感じる良い返事だ。残念ながらリク君ほどの爽やかさはないが、これもまた若さだ。
リアルのことを詮索するのはマナー違反だが、彼の反応から実年齢はまだ十代なのではないかと推測できる。
尤も、我々アグニカンスピリッツの入隊に年齢は関係ない。仮に一桁の年齢だろうと、私は快く歓迎しよう。
ただ一つだけ、絶対条件さえ満たしているのであれば。
「では一つだけ質問しよう。君たちはバエルのどんなところが好きだ?」
我ながら意地悪な質問だと苦笑しながら、彼らに一人ずつそう問い掛ける。
その応答に彼らが要した時間は、それぞれ一秒も掛からなかった。
「生まれてきてくれたことです!」
「バエルだからです!」
「アグニカ・カイエルの魂だからです!」
「ギャラルホルンの正義だからです!」
「バエル・イズ・アグニカ!」
ふっ、いいだろう。全員合格だ。
アグニカンスピリッツは君たちの入隊を歓迎する。イッシー! 仲良し四人組! セイギ! 後に続け!
「では、共に駆け上がろうか」
「准将おおおおおおおっ!」
「バエルだ!」
「アグニカ・カイエルの魂!」
「そうだ……バエルは我々にあるっ!」
「おおおおおおおおおおっ!」
「やったぞみんな! 入隊は成功だ! 我々の勝利だ!」
即決した私がこの場で彼らに採用を告げると、今回の面接を物陰から見守っていた仲良し四人組たちが一斉に飛び出し、祝福の歓声を上げる。青年将校は歓喜し、高らかな勝利宣言に酔いしれた。
新たに五人のメンバーが加わり、我々アグニカンスピリッツも賑やかになったものだ。彼らは皆ガンプラバトルの自信はないらしいが、私としては入隊の審査は能力よりも心構えを重視しているつもりだ。
ネットゲームのプレイスタイルはガチ勢、エンジョイ勢と大まかに二つの姿勢に分けられるが、そういう意味では我々はエンジョイ勢に当たるのだろう。
だが勘違いしてもらっては困るのは、我々はエンジョイすることに一切妥協をしないということだ。真剣に、心からエンジョイする。アグニカするということはそういうことなのだと、今のうちにしっかりと理解しておくといい。
「覚悟の上です、准将! 我々のガンプラバトルの腕は皆さんには到底及びませんが……我々がこの日の為に培ってきた人脈や情報はきっとバエルのお役に立てる筈です! 例えばこのフォースネストの改造に使えるパーツの入手方法だったりとか!」
「ほう、それは頼りになるな。今の我々が最も必要としていたものだ」
「はした金ですが、我々が稼いだビルドコインもお納めします!」
それはまた渡りに船だ。一気に人数が増えたことで、ここから先の資金稼ぎも効率的になるだろう。
これは想定以上の嬉しい誤算である。バエル宮殿の建設とタケミカズチのヴィーンゴールヴ化も、予定より早く進みそうだ。
だが、今はその前に、もう一つ君たちに手伝ってもらいたいことがある。
「さて、新メンバーを迎えたことで私からも報告がある」
「報告、ですか?」
情報収集に人材探しという私が与えたミッションを、イッシーたちは彼らの入隊という形で見事こなしてくれた。
ならば私もぺリシア・エリア探索の成果を披露するとしよう。
「フォース「鉄火団」と五対五のフォース戦を行うことになった」
それは、新たなる戦いの幕開けだ。
基本的にフォース戦の条件にはこの人数が指定されることが多い。今回も仲良し四人組を二人組に分けることで対応するつもりだったのだが、新しい人員が加わるのであれば話は早い。
そう……私はあの時の再会から、あちらのリーダーと対戦の約束を取り付けていた。
大人にはなり切れぬものだな。これほど心が躍るとは。
──同じ頃、フォース「鉄火団」のフォースネストでも会議が行われていた。
集会所に招集を掛けられたのは鉄華団風のジャケットを身に纏った妙にガタイの良い男たちである。そのジャケットの背中に描かれたマークは良く見ると鉄血のオルフェンズでお馴染みとなった花のマーク……ではなく、マグロの切り身だった。
この花のような形をしたマグロの切り身のマークこそが、彼ら鉄華団をリスペクトしたパチモンフォース「鉄火団」のシンボルマークである。
何故花ではなくマグロなのか、その理由を団長は語る。
『マグロは止まんねぇからよ……なんだよ、結構似てんじゃねぇか……』
マグロは止まらない。それはエラ呼吸だけでは酸素が足りない為、泳ぎながら酸素を取り込んでいく必要があるからだ。口を開いたまま泳ぐことで海水から必要な酸素を取り込んでおり、これをラムジュート換水法と言う。
そして、鉄華団団長オルガ・イツカも止まらない。それは過酷な環境で生きてきた彼らには戻る場所などなく、たどり着く場所しかないことを悟っていたからだ。
マグロとオルガ。生きる限り進み続け、止まることは死を意味するという点において両者は完全に一致していた。
故に、オルガ・イツカを敬愛するリーダーは自ら創設したフォースに「鉄火団」と名付けたのだ。これはそう言った経緯で決められた小粋なダブルミーニングであり、決してフォース結成の申請時に誤字したわけではない。……ないのだ。
そんな鉄火団のリーダーこと団長は、集会所の朝礼台に堂々と立ちながら一同に告げた。
「みんな聞いてくれ。次のフォース戦の相手が決まった」
それまで雑談に講じていた団員たちが静粛となり、団長の元に視線が集中する。
それはいつもと変わらない彼らのフォースの日常であったが、このように自然と多人数の視線を集めることができるカリスマ性こそが団長が団長たる所以だった。
彼ら鉄火団のメンバーは総勢二十人に及び、上位に片足を踏み込んだ中堅フォースとしてはかなりの大所帯である。
「今度の相手はアグニカンスピリッツだ。久しぶりにでっかい戦いになるだろう」
そんな彼らが今後挑むことになったフォースの名に、一同の口からざわめきが広がった。
アグニカンスピリッツ──それはこのGBNに彗星のように現れた新進気鋭のフォースだ。
彼らの存在を世間に知らしめたのはとあるダイバーがG-tubeに投稿した一本の動画からである。絶望的な戦力差を前に突如として姿を現し、バエルに集えと剣を振るい大立ち回りをしたガンダム・バエル。圧倒的な力を見せつけたその戦闘映像が、今GBN界隈を賑わせていた。
この鉄火団の間でも、その噂は広まっていた。
何せリーダーが団長の知人なのだ。
「アグニカンスピリッツって……最近噂になってるあそこだよな?」
「マジっすか!? 凄いバエルがいるとこっすよね!」
「ああ、団長がいた模型部のメンバーだったっていうあの……」
そう、鉄火団の団長を務める男は、そのバエルを操るダイバーと少なからず因縁があったのだ。
一同の反応に対し、にやりと口元をつり上げながら団長が言った。
「そうだ。リーダーはマッキー、俺の高校時代のライバルだ」
渦中のバエルのパイロットであるマッキーは、団長が良く知っている男だったのだ。
高校時代、同じ模型部に所属していた二人はガンプラバトルを愛する同い年の仲間であると同時に、凌ぎを削り合うライバル関係でもあった。……少なくとも、団長は彼に対してそう認識していた。
「ライバルって……団長、この前その人に一度も勝てなかったって言ってなかったっすか?」
「……ああ、確かに俺は、タイマンじゃ奴に勝つことはできなかった」
ぺリシア・エリアでのゲリラ撮影を行った先で、偶然にも団長は彼と久方ぶりの再会を果たした。しかし、その後の会話は十分程度で切り上げ、つい先ほどこのフォースネストに戻ってきた次第である。
積もる話もあったが、再会を果たした団長には世間話をするよりも先に叩きつけてやりたいものがあったのだ。
それこそが、彼のフォース「アグニカンスピリッツ」への挑戦状である。
マッキーという男の実力を、高校時代三年間付き合ってきた団長は良く理解しているつもりだ。
そんな団長の彼との戦績を上げれば、あまりにも散々たる結果だった。
挑んでは倒され、ガンプラを壊され、幾度となく改修を重ねながら使い込んだオルガ専用獅電は彼らが卒業する頃にはもはやツノしか残らなかったものだ。
しかしそれでも、団長は彼との戦いを投げ出すことはしなかった。いつでも全力で正面から挑み掛かり、砕け散っていったものだ。
それは、今も同じである。
「だがな! ここで負ける気はねぇぞ! ここで足を止めるわけにはいかねぇ。俺たちのテッカダン・ドリームは終わってねぇからな! 確かにアイツは俺の知る誰よりも強かった。だがチームバトルならやってやれねぇわけはねぇ!」
因縁深きあの男と再会を果たした団長は、迷うことなく挑戦状を叩きつけることにした。しかしそれは一対一の勝負ではなく、彼がこのGBNにログインしてから磨いてきた複数人によるチームバトルである。
団長はこれまでに培ってきた群れとしての力を、彼に見せつけたかったのだ。
自分自身も含めて鼓舞するように、団長は語気を強めて団員たちに語り掛けていく。
「この地球には鉄血のオルフェンズを嗤っている奴らがいる! オルガ・イツカはその筆頭になっちまった。けど、奴らは分かってねぇ! 鉄華団も鉄火団もただのネタキャラの集まりじゃねぇってことをな!」
勝算はある。
マッキーは強い。そしてあの男が遂に理想のバエルを完成させ、このディメンションに乗り込んできた。
これから間違いなく、彼はその名をこの世界に轟かすことになるだろう。もしかしたらその牙は、無敵のチャンピオンにさえ届くかもしれない。
だが、団長は今の自分なら、自分たちならいけ好かない彼の顔面にオルガのような鉄拳を叩き込める筈だと信じていた。
その勝算の一つであり、数日前にこの鉄火団に加入した少女の方へ目を向けながら団長は呼び掛けた。
「今までは動画配信を想定して、取れ高を重視して戦ってきた。こっから先はそうじゃねぇ! 俺たちの前に立ち塞がる奴は誰であろうとぶっ潰す。そうだろ? ミカ!」
ミカ。そう……団長はこのGBNで、他の誰よりもすげぇ「ミカ」を見つけたのだ。
そのミカを鉄火団に迎え入れた時点で、団長がこのGBNでやりたかった目的の八割は達成していた。
ミカは彼の視線にふっと微笑を返すと、膝に乗せたカンテレを緩やかに弾きながら涼しげな表情で応えた。
「この会議に意味があるとは思えない」
「……お前な」
ポロロン、とカンテレの音が響き渡る。団長の演説が盛り上げた空気を一瞬で平常に戻す、落ち着いた音色だった。
そんな「ミカ」の態度に団長が指摘するよりも先に、彼女の隣にいた小柄な少女が叱りつけた。
「もう、ミカ! せっかく団長さんがみんなを盛り上げてるのにそんなこと言ったら駄目でしょー!」
「場を盛り上げればいいってもんじゃない」
少女のアバターはアトラ・ミクスタをゆるキャラ風にデフォルメしたような姿をしていた。ダイバーネームはシンプル・アトラチャン。即ちかんたんアトラちゃんである。ガンプラバトルは得意ではないが、独創的なガンプラ製作技術で団員たちをサポートしている縁の下の力持ちだ。
鉄火団にとっては貴重な女性団員の一人であり、「ミカ」にとってはリアルでも交友がある友人だった。
そのアバター故に表情が全くわからない顔で叱りつけるアトラチャンの姿はそれはそれで怖いものがあったが、ミカは一切態度を変えることなくカンテレの音をマイペースに奏でていた。
彼女が入団して数日しか経っていないが、そんなミカとアトラチャンのやり取りは既に鉄火団の日常になっていた。
それを見て団員の誰かが呆れ声を上げるのも恒例である。
「おい団長! こいつ入れたのは絶対失敗だったって! 確かに腕は三日月みたいに良いけどよ……ミカはミカでも、このミカはお前に従わねぇって」
「そんなことはねぇ! 俺が本気なら、ミカはそれに応えてくれる。確実にな!」
「何でも期待に応えられる人間はいないさ。風は気まぐれだからね」
「なぁにやってんだミカァァァー!!」
「? 奏でているのさ、君たちの心音を」
「そ、そうか……」
つかみどころのない反応を返しながら、ミカは微笑みながらカンテレを弾く。
その様子に団長は苦笑し、何かを悟った様子で視線を外す。
何事もなかったかのように話をアグニカンスピリッツとのフォース戦に戻し、彼は続けた。
「……まあ、そういうわけだから奴には何としてでも勝ちてぇ。対戦を取り付けたのは個人的な理由だが、鉄火団としても旨味はデカい。バエルに挑む俺たちの動画をあげれば、世間は確実に盛り上がるぞ! メンバーは俺、ミカ、タイゾー、RIDE ON、タカキンの五人で行く!」
「おお、うちの本気メンバーか!」
「ああ、奴はそこまでしなきゃ勝てねぇ相手だ! 今のランキングはこっちの方が圧倒的に上だが、近いうちに追いついてくる奴らだ! 手加減なしでぶっ潰さなきゃなんねぇ!」
試合数自体がまだ少ない為、アグニカンスピリッツのメンバーの実力は未知数な部分が多い。だが、少なくともリーダーであるマッキーがとてつもない実力者であることを団長は知っていた。過去に身を持って思い知ったのだ。とても自慢にはならないが、団長は自分こそが彼に最もガンプラを破壊された男であることを確信している。
しかし、それを踏まえた上で団長には彼のフォースを倒す自信があったのだ。
自分自身も高校時代よりかは幾らか腕を上げたつもりだが、それ以上に彼には自慢の仲間が、団員たちがいた。
「うわっ……本当だ。なんだよこの動き!? 気持ち悪っ」
「人間の動きじゃねぇよ……」
「俺ももっともっと頑張らないと、とても抑えられそうにないですね」
早速参考映像としてG-tubeに投稿されていたマッキーのバエルの動きを閲覧させてみると、動画に映る圧倒的な戦闘能力に主力メンバーたちから早くも弱音が溢れた。
鉄火団のレギュラーメンバー、タカキンとタイゾー、RIDEの三人。その姿は一見頼りないが、一際戦場に出ればいかに強力な相手だろうと自分の役割を果たすナイスガイであることを、団長は知っていた。
タカキンは鉄火団の誇る広報兼動画編集兼小道具兼脚本兼カメラマン担当である。ガンプラバトルでは乗機ガンバレルダガーを操り、持ち前の器用さから様々な分野で活躍することができるユーティリティープレイヤーである。その名に恥じない頑張り屋であり、単独のチャンネルでも別のネットゲームの多課金プレイ動画やガチャ開封動画などで視聴者を楽しませている売れっ子G-tuberでもあった。
タイゾーは動画では主にチャド・チャダーンのモノマネを行っているモノマネG-tuberである。
本名は「カタイ・タイゾー」。彼はリアルでも顔立ちや体型が原作のチャドに酷似しており、コスプレすれば本気で本物に見間違うほど完成度が高いのだが、残念ながら肝心の喋りが全く似ていない為、チャドはチャドでも「肩を撃たれて痛がるチャド」というピンポイントすぎるモノマネしかできないキワモノである。しかもそれがどういうわけか視聴者にウケてしまっているポンコツ系G-tuberだった。
しかしロールプレイのクオリティーに反してガンプラバトルの実力は真っ当に高く、乗機はシンプル・アトラチャンが作った「SDガンダム・バルバトス」の改造機、「カンタンバルバトス」を操り、これまでフォースのエースポジションを務めていた。
RIDE ONはアバターこそライド・マッスのような少年の姿をしているが、こう見えてGBNのサービス開始当初からこのゲームをプレイしている古参ダイバーである。最近までは鉄火団で唯一必殺技を習得していた団員であり、安定感こそ乏しいもののその爆発力は非常に高い。乗機はジョニーライデン専用ゲルググの改造機、「ジョニー雷電号」。
因みにリアルの職業はタクシーの運転手である。車の用意できました。
「ガンダム・バエルってカッコいいねー!」
「カッコいい……それはガンプラバトルにとって大切なことかな?」
「それは、一番大切でしょ? なら、ミカは何の為にガンプラバトルしてるのよ?」
「ガンプラバトルにはね、人生の大切なことの全てが詰まっているんだ。だけど多くの人がそのことに気づいていないんだ」
この三本柱にミカのガンダム・フレームを加えたのが、今の彼ら鉄火団の最強戦力である。
本物の鉄華団の主力メンバーと比べると大分混沌とした面々だが、団長としてはどこに出しても恥ずかしくない戦力だと思っていた。
長年の悲願である「ミカ」を迎え入れた今、俺たち鉄火団はもっとデカくなる!
後はこれらの戦力を団長である自分がどう生かすかだけだと、団長は自らを鼓舞するように胸を叩いた。
「俺が最高に粋がって、カッコいいガンプラを見せてやる。待ってろよマッキー……高校時代の落とし前は、きっちりつけさせてもらう!」
GPDで受けた借りを、ようやく清算する時が来たのだ。
幾度となく辛酸を舐めさせられてきた過去のバトルを思い返しながら、団長はその牙を研ぎ澄ませた。
新メンバー追加。次回からは戦闘回になります。
団長の機体は安直にカラミティにしようかと考えていたのに俺はゴッドガンダムを裏切れねぇ……