バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
一方、タカキンは頑張っていた。
イッシーと仲良し四人組、セイギはそれぞれ攻撃目標であるシャトルを狙い、一機先行したバエルとは別方向から進軍を仕掛けていた。
そんなアグニカンスピリッツの動向に気づいたタカキンはRIDE ONと共に応戦し、仲良し四人組とセイギに対して単独で渡り合っていたのである。
《アグニ!》
《アグニ!》
《アグニの魂ッ!》
《我々の正義は!?》
《バエルだ!》
《アグニカ・カイエルの魂!》
《そうだ! ギャラルホルンの正義は我々にあるッ!!》
前衛にはセイギのシュヴァルベ・ゲイツ。後衛には仲良し四人組のリーオーランチャー。
ミドルレンジから牽制と言うには高火力に過ぎるアグニが火を噴けば、クロスレンジからはスラスターを吹かしたゲイツが味方の砲撃を恐れることなく果敢に突っ込み、ビームの刃による近接戦闘を仕掛けてくる。お互いがお互いの戦術を知り尽くしている彼らの立ち回りは、ただ仲良しなだけでは実現することのできない熟練のコンビネーションであった。
しかし、タカキンはそんな彼らの猛攻に対し時に地形を利用しながら狡猾に立ち回りつつ、ガンバレルダガー最大の特徴である有線式ガンバレルによるオールレンジ攻撃を使いこなすことによって二機同時に相手取っていた。
二対一でも劣勢にならずに済んでいるのは、ひとえに彼の技量の高さを物語っているところだろう。
尤も、だからと言ってこちらのペースかと言われればそうではない。敵に致命打を与えられていないのは、タカキンも同じだった。
「くっ、このままじゃ引くも押すもできない。援護してくれRIDE ON!」
《悪い無理! コイツの相手で手がいっぱいだ!》
「ええー……」
元々タカキンのガンバレルダガーはRIDE ONのゲルググ・ジョニー雷電号とカバーし合える位置に待機していたのだが、今現在雷電号はアヘッド、ガンバレルダガーはゲイツとリーオーによって完全に分断されてしまい、それぞれの援護に向かえない状態になっていた。そこは相手側にしてやられたと言うほかないだろう。
《コイツを倒したらそっちに行くから、タカキンはそのまま頑張れ!》
「ああ、もう! わかったよ!」
事前情報として調べていたが、雷電号が食い止めているヘルムヴィーゲ・アヘッドは中々手強い相手であり、こうして戦力を分断されたのも彼による奇襲が一因だった。
タカキンとRIDE ONの強みである連携が生かせないでいるこの状況、時間が経てば苦しいのはこちらだった。
だが。
「頑張るさ……俺は鉄火団のメンバーだ!」
タカキンは頑張り屋である。悪い言い方をすれば専らメンバーの貧乏くじ担当と言ったところだが、それ故に人一倍逆境には強かった。
それに、タカキンもRIDE ONも、孤立したら何もできなくなるようなヤワなダイバーではない。フォース鉄火団の一員として積み重ねてきた彼らの戦闘経験値は、元GPDプレイヤーにも劣っていなかった。
《魂!!》
「この人たちほんと楽しそうだな……」
シャトル発射まではまだ時間が掛かる。それまで一人で彼らを足止めするのは中々に高難度だが、タカキンは二機とも自分が倒すつもりで立ち回ることに決めた。
氷河地帯の一角に、硝煙と火花の光芒が瞬きを見せている。
獅電・サブナックとカンタンバルバトス、そしてガンダム・バエルによる戦闘の光だ。
戦闘開始から数分が経過した今、二人掛かりで仕掛けている筈の団長とタイゾーの攻撃は一度もバエルの動きを捉えることができないでいた。
《ちぃっ! バエルがなんでこんなに強いんだ!?》
ガンプラの性能の高さはもちろんとして、恐ろしいのがそれを完璧に使いこなす敵パイロットの技量である。
彼の携える二本の剣にメイスで打ち合うタイゾーを援護しながら、団長は戦闘時間が経過すればするほどバエルの動きが研ぎ澄まされていくのを感じていた。
こちらの動きが読まれている。
次の動きが予知されている。
こちらが死角から放った筈の砲撃すらこともなげにかわしてみせる姿はまるでニュータイプやイノベイター、Xラウンダーとでも言うように、戦場全体の動きを把握しているようだった。
「これが……マッキーの切り札……っ」
水を得たマグロの如く、バエルを得たマッキーは動きそのものが生き生きとして見える。
二人掛かりでも一向に有利を取らせない敵の力に、団長は舌を巻いた。
獅電・サブナックの砲塔が放つ一射をひらりとかわせば、間髪入れずメイスを振り下ろしてきたカンタンバルバトスの猛攻を小刻みな旋回運動と巧みな剣捌きで無効化していく。
跳躍しながら頭上を通過していったカンタンバルバトスに肘打ちを喰らわせると、不意打ちのように放った獅電のスキュラが届く頃には、そこにはいない。
気づけば、コクピットにけたたましいアラーム音が鳴り響いたのはこちらの方だった。
「くっ……!」
《団長!?》
「大丈夫だ! こんぐらいなんてこたぁねぇ!」
死角からレールガンの直撃を受け、獅電・サブナックのコクピットが揺れる。ガンダム・バエルのレールガンは牽制目的の武装であり、獅電・サブナックの重厚な装甲の前では致命傷になり得なかったが、一方的に攻撃を受けている現状どちらが押されているのかは明白だった。
二機を相手取りながらも、バエルはなお優勢を保っている。
機体が躍っているようだ。パイロットのマッキーが要求する操縦の精密さと機敏さに、あのガンプラは完璧に応えている。
グリムゲルデに乗っていた頃よりも、あらゆる面で戦闘のレベルが上がっている様子だった。
だが、こっちも簡単に負けてやるわけにはいかねぇ!
何度となく舌打ちと苛立ちを吐き出しながらも、団長とタイゾーは巧妙に被弾箇所をずらすことでダメージを最小限に抑えていた。
鉄火団の勝利条件は発射時間までシャトルを守り抜くことだ。必ずしも敵を落とさなければならないわけではない。
このまま持久戦に徹し、時間を稼げば勝利は見える筈……と、生半可な指揮官ならそう思うだろう。
しかし、今のマッキーに対してその戦法が悪手であることは団長が誰よりも理解していた。
マッキーが最もその実力を発揮するのは、積極的な攻めに徹した時だ。
こちらが撃墜を恐れて消極的な姿勢を見せれば、彼は気持ち良く苛烈な攻撃に回りこちらのガンプラを切り伏せてくるだろう。
だからと言ってこちらから迂闊に飛び込んでいくのは論外であるが、時間を稼ぐのであれば団長たちは尚更攻撃の手を止めるわけにいかなかった。
「タイゾー!」
《応ッ!》
予定より早いが、出し惜しみすればこのまま何も出来ずに負ける。そう判断した団長はタイゾーに指示を飛ばし、瞬間、カンタンバルバトスのツインアイが深い赤に染まった。
阿頼耶識システムのリミッターを解放したのだ。
カンタンバルバトスの改造元となったガンプラはSDガンダムであるが、作中のバルバトスが発揮した能力は概ね再現されている。デフォルメされた見た目に反して、シンプル・アトラチャンお手製のガンプラは順当に高スペックであった。サイズこそ小さいものの、リミッターを解放した際の出力はグレイズ・アイン戦のバルバトスにも引けを取らない。
《死ねよやぁーっ!》
喋ると似ない男、カタイ・タイゾーがチャド・チャダーンとは似ても似つかない咆哮を上げながら、カンタンバルバトスは飛躍的に向上したスピードで後方から回り込み、SDガンダム特有のトリッキーな動きとバルバトスのパワフルさを兼ね備えた力でガンダム・バエルへと攻め込んでいく。
リミッターを解放した今、メイスを押し込む膂力も手数も格段に跳ね上がっている。その性能で真っ向から打ち合えば、いかにマッキーと言えど捌き切ることは不可能だと判断していた。
そんな僚機に対して後方支援に徹する団長はバズーカの砲弾でバエルを牽制しながら、巻き起こった爆発で退路を塞ぐことでカンタンバルバトスと打ち合わざるを得ない状況を作り上げた。
その援護に乗り掛かり、間合いに入ったカンタンバルバトスが剛腕を振り上げる。
《チェストォー!》
跳躍しながら振り下ろしたメイスの一撃は二本の剣で受け止められたものの、強引に腕力で押し切り、バエルの機体が大きく弾かれた。
無防備になった敵の胴部に目掛けて、ツインアイから赤い帯を引くカンタンバルバトスが再度躍りかかる。
《貰った!》
《ふっ……》
「!? 待てタイゾー!」
力の優劣が逆転し、一気にとどめを……と思われたその時、敵からの不敵な笑みに不穏な気配を感じ取った団長が制止を呼び掛ける。が、その声は一歩遅かった。
急迫するカンタンバルバトスに向けて、バエルは右手に持った剣を投擲したのだ。
《悪あがきを……!》
タイゾーは反射的にメイスを盾に構え直すことでその剣先を弾き、巧みに受け流す。
数少ない手持ち武器を投げ放った一見やぶれかぶれな戦法も、タイゾーの前には通じなかった。しかし、バエルの攻撃はまだ終わっていなかった。
タイゾーがガードに思考を振った隙に体勢を立て直したバエルは、背面に立ち塞がっていた氷塊を蹴った反動で自らカンタンバルバトスへと急迫すると、フリーになったその右手でカンタンバルバトスの頭部を鷲掴みにしたのである。
お互いの体格差を余すことなく利用しながらカンタンバルバトスを拘束したバエルはそのまま乱暴に振り回すと、カンタンバルバトスの機体を背中から氷壁へと叩きつけていった。
《ぐああっ!?》
「くそっ、離しやがれ!」
機体を氷壁にめり込ませ、磔のように封じ込めたカンタンバルバトスに対し、バエルは処刑執行人の如く左手のバエルソードで解体しに掛かる。
味方の窮地に声を荒げながら割り込んだ団長はその氷壁に向かって砲弾を放ち、カンタンバルバトスを解放すると共にバエルに向かって氷塊の雨を浴びせ掛かった。
砲弾の影響で崩れ落ちた氷塊は、付近の地盤を巻き込んで南極の海へと沈んでいく。
バエルは投擲に使ったバエルソードが一緒に沈んでロストすることを恐れたのか、地に突き刺さっていた剣を速やかに回収すると一目散に空へと上昇し、崩壊する地盤から逃れていった。
「タイゾー、大丈夫か!?」
《肩痛ぇよぅ……》
「タイゾー!」
《お、おう!》
何故か肩を押さえながら弱気に陥りかけていたタイゾーに奮起を促すと、団長は空に浮かぶ悪魔の姿を睨みつける。
カンタンバルバトスにとどめを刺すことよりも剣の回収を優先したのは、後の戦いを見越しての判断か。剣が二本ありさえすれば、俺たちなんていつでも倒すことができると。
団長の知るマッキーにしては随分と悠長な判断に感じたが、生かされたにせよここで味方が落とされなかったのは幸いだった。
挑発と皮肉を込めて、団長は通信回線を開く。
「武器が少ない機体ってのは不便だな! いつかシオンの奴が言ってたように、セブンソードにでもしたらいいんじゃねぇか?」
《ふ……私はこの剣とレールガンのみを持つバエルこそが、唯一無二のガンダムだと確信しているに過ぎんよ》
「相変わらずのバエル馬鹿だな」
《お前に言えたことではないさ》
「へっ、違いねぇ!」
もしもバエルに豊富な武装があれば剣の使い捨ても上等な戦い方ができたろうにと思う団長に対して、マッキーはそんなバエルだからこそ美しいのだと言い切る。
確かにその通りだ。バエルに拘り、拘るからこそ強い。マッキーとはそういう男だ。そして、鉄火団団長も!
「行くぞタイゾー! ヒットマン・コンビネーションだ!」
《っ! 了解!》
両手でメイスを掴みながら急いで戦線に復帰したカンタンバルバトスと波長を合わせながら、団長の獅電・サブナックが空中のバエルを目掛けて弾幕を張り巡らせていく。
バズーカもレールキャノンも一撃でも当たればバエルとて大きなダメージは免れない筈だが、鋭角的に空を駆ける敵の軌道を掴むことは困難を極めた。足の一つでも吹き飛ばしてやりたいところだったが、バエルは敏捷な動きで傷一つ負うこと無くかわしてみせる。
だが、命中させずとも味方に敵の動きを読みやすくする為の牽制にはなる。
カンタンバルバトスを操るカタイ・タイゾーは優秀なパイロットだ。細かな指示を与えずとも、その一言で団長の意図を的確に察して行動してくれた。
高々く跳躍したカンタンバルバトスが、再びバエルに迫りメイスを振り下ろす。今度はリミッター解放時の性能を過信することなく打ち付けた一撃は、しかしアクロバティックに身を翻した敵の飛行を前に空を掻いた。
反撃の剣を振り払ってくるバエルをカンタンバルバトスから引き剝がす為、団長はスキュラの放射を割り込ませる。
二機一組となって襲い掛かる団長の戦法はシンプル故に効果的だった。
片方がメイスで接近戦を挑めば、もう片方が実弾射撃の狙いを定める。不利と悟れば退き、代わって後ろにいた一機が攻めて、その隙に退いた機体が体勢を立て直す。その繰り返しだ。
巧妙な攻撃の応酬に対して、フッ……と勝ち誇ったような笑みが聴こえてきたのはその時だった。
《大した練度だ……相当な訓練を積んできたようだ。しかし、私には残念ながら届かない。バエルという絶対的な力の前では》
「言ってくれるじゃねぇか……粋がるには早ぇぞ!」
実際、団長はここまで自身の実力を100%引き出した戦いができていた。しかし、その内心では既に何度目になるかもわからない舌打ちを繰り返していたこともまた事実だった。
強がってはみるものの、バエルを手に入れたマッキーの戦闘能力は想定以上である。二人掛かりならどうにか抑え込めるかと高を括っていたのだが、こうも明確な力量差を見せつけられれば心の動揺は激しかった。
距離を保ちながらレールキャノンを連射するものの、バエルはそれらの砲撃を避け、時に見せつけるように剣で切り払ってみせた。
「本当に折れない剣を作る奴があるか! 加減しろ馬鹿!」と団長が悪態を吐けば、質量に任せたメイスの打撃を鮮やかに弾き返されたタイゾーが敵の性能の理不尽さに驚愕する。
《バエルの細い剣で……リミッターを外したバルバトスのメイスに、打ち勝てる筈はねぇ! どういうことだ……お前の力はどうなってやがる!?》
その発言に対してマッキーが返した声は一見シリアスだが、心なしか上機嫌そうに弾んでいた。
《わからないか? Ζガンダムが人の意志を力に変換する機体だったように、バエルはアグニカポイントをエネルギーに変える魂の機体だ!》
嬉々として語りながら、バエルソードを携えたバエルがカンタンバルバトスのメイスと真っ向から打ちつけ合うと、質量で勝る筈のメイスに対してじりじりと圧迫していく。
よく見れば悲鳴に喘ぐように、カンタンバルバトスの両腕関節から火花が散っていた。
《そして私は、バエルをこよなく愛する全身アグニカ人間!》
押し込まれた二本の剣の圧力が一点に重なった瞬間、折り重なった部位からカンタンバルバトスのメイスにぴしりと亀裂が走る。
その瞬間を待っていたかのように、バエルのスラスターウイングが放つ推力が爆発的に増大した。
《だから私自身がアグニカポイントに満ち溢れている限り!》
赤い目を光らせたカンタンバルバトスも負けじと全ての力を注ぎ込んでいくが、武器の強度も機体の膂力も、全てにおいてガンダム・バエルが上回っていた。
そんな彼を止めるべく団長は援護射撃を繰り出すが、バエルの苛烈な攻勢を前にしてはさしたる効果をもたらさなかった。
昂ぶりに昂ったマッキーが、否定を許さない勢いのままに叫ぶ。
《ギャラルホルンの創設者、アグニカ・カイエルの魂を受け継ぐガンダム・バエルの力は!》
そんなパイロットの精神に呼応したようにバエルのツインアイが輝くと、バエルソードはカンタンバルバトスのメイスを粉々に叩き斬りながら、その勢いのまま右手の剣先をカンタンバルバトスの頭部へと突き刺していった。
《
《うっ、ぬおああああああああっ!?》
言っていることはまるで意味がわからないが、どうせ今回もノリで喋っているだけだろうとかつての付き合いから団長は察する。
しかし現実として彼のバエルは単純な力比べではまともにやり合うことが出来ず、同じガンダム・フレームだろうと正面から捻じ伏せる力を持つということが明らかになった。
なんだよ……あれじゃまるで……
「悪魔じゃねぇか……!」
それも、モビルファイターのような拳法でもトランザムシステムのような特殊能力ではなく、持って生まれた純粋な力だけで。それはビルダーとして驚嘆すべき事実であり、数々のガンプラを見てきた団長の心さえも震撼させる機体性能だった。
だが……まだだ!
鉄火団にはまだ、この悪魔を止める切り札がある。
理不尽な力には理不尽な力を。悪魔には悪魔をぶつければいい。
何故ならば自分は団長で、気づけばいつも「あの目」に見られているのだから。
「まだだ! このままじゃ……こんなところじゃ、終われねぇ!」
故に団長は当初の計画を前倒しにし、鉄火団の切り札を切ることにした。
「そうだろ!? ミカァ!」
身を乗り出すように団長が吠えた瞬間──南極の地に、流星が飛来した。
バエルのコクピットから、団長は通信機越しに初めて敵が驚きを表したのを感じた。
頭部に突き刺した状態から袈裟切りに振り下ろされようとしたバエルの一閃は、今度こそカンタンバルバトスの息の根を止める筈だった。
その窮地に割り込んで、遠方から閃いた一発の砲弾がバエルの右肩を撃ち抜いたのである。
それは敵が咄嗟に上体をずらさなければ、間違いなく背中越しにコクピットを撃ち抜いていたであろう完璧な狙撃だった。
《このバエルに当てる、だと……?》
「寧ろ、なんで完全な不意打ちが直撃しねぇんだ……勘弁してくれよまったく」
敵は自分が当てられたことに驚いているようだが、団長からしてみれば今もなお健在なバエルの姿に呆れすら浮かぶところだった。
元々の予定としてはバエルは自分とタイゾーの二人で抑え込みながら、可能な限りマッキーの意識を引き付ける。そこに「ミカ」による意識外からの狙撃を仕掛け、一撃で仕留めるというのが団長の企てた作戦だったのだが……致命傷を避けられてしまったところを見るにマッキーの野生的な勘が働いたのか、彼には二人を相手してなお外からの狙撃を警戒するだけの余裕があったということなのだろう。
「やっぱりあんたはすげぇよ……マッキー。けどなぁ!」
団長は唇をつり上げながら、戦場に駆けつけてくれた新たなエイハブ・ウェーブの反応に高揚する。
一機、降り積もった雪を蹴散らしながら氷上を疾走する機影が見える。
それはモビルスーツ特有の人型の姿ではなく、四足歩行の獣を模した姿はさながら鋼鉄の豹のようだった。
それこそが鉄火団の切り札、「ミカ」の操るガンプラであった。
《モビルワーカー……? いや、このエイハブ・ウェーブの周波数は……本来のフラウロスか!》
増援として駆けつけた新たな反応に、マッキーがこれまで以上の警戒心を表す。
ASW-G-64【ガンダム・フラウロス】。それも、鉄血のオルフェンズ作中でノルバ・シノ用に「流星号」としてチューニングした仕様ではなく、厄祭戦当時に扱われていたとされる原型の姿である。
それに特殊な改造を施したのか、ホバーリング機能を持つ四本脚で高速機動しながら、この戦場に三機目の白いガンダム・フレームが姿を現した。
──本当の勝負は、ここからだ。
作中の扱いでネタにされてしまっているルプスレクスやバエルよりも、微妙にネタにしづらいフラウロスくんが一番かわいそうな機体なのではないかとGTは思います。