バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
戦略兵器──敵国の重要な産業や軍事、公共施設などを大規模に攻撃し、経済基盤や国家活動に重大な影響を与えることで敵国の戦争継続能力そのものを失わせることを目的とした兵器のことを指す。
戦車や戦闘機のように戦場での戦闘を行う目的で使用される戦術兵器とは、対照的に利用される枠組みである。
その「戦略兵器」は戦争を題材にしているガンダムシリーズでも各シリーズに及んで登場しており、作中勢力に甚大な被害をもたらしてきた。
それは1stガンダムのコロニー落としから始まり核ミサイルやソーラ・レイ、コロニーレーザー、バグ、エンジェル・ハイロゥ、バルジ、リーブラ、ジェネシス、レクイエム、メメントモリ等、一撃で戦争を終わらせることができる兵器の存在は、主に主人公勢力側の脅威として立ちはだかることが多い。尤も、平成以降のアナザーガンダムシリーズでは主役モビルスーツ自身が戦略兵器であることも多いがそれについては割愛する。
そんなガンダムシリーズの戦略兵器において特に異質なのが鉄血のオルフェンズに登場する「ダインスレイヴ」である。
こちらは一撃で広範囲を消滅させるコロニーレーザーのような派手さこそないものの、ナノラミネートアーマーを物ともしない貫通力と視認性の極悪さ、配備の容易さ、何より衛星軌道上から一方的に制圧することができる圧倒的な射程距離と狙撃能力は、主人公陣営すら終ぞ攻略することができなかった働きぶりである。
ロボットアニメにおいてこう言った過剰な威力を持つ戦略兵器というものは、作劇上散々脅威を見せつけた上で主人公陣営に攻略されることが多いのだが、このダインスレイヴにおいては最後の最後まで戦果を上げ続けた珍しい一例と言えるだろう。
モビルスーツ同士の戦闘であれば一騎当千の活躍を見せたバルバトスやグシオンを以てしても、大量のダインスレイヴが配備された正規軍の圧倒的な物量を前にしては勝利を掴み取ることができなかったのだ。
即ち、ダインスレイヴとは鉄華団を滅ぼした兵器である。その認識でほぼ間違いないだろう。
しかし、鉄華団をリスペクトするパチモン集団「鉄火団」のリーダーである団長は、このGBNを始める前から絶えずダインスレイヴを攻略する方法を考え続けていた。
ダインスレイヴとて人間が作った物だ。戦略兵器と言えど、決して無敵ではない筈だ。攻略できない筈はないのだと。
だからよ……俺が鉄華団の無念を晴らしてやりたい。いや、「挑戦したい」と言った方が正しいのかもしれない。鉄華団を滅ぼしたダインスレイヴに鉄華団フォロワーである自分たち鉄火団が挑戦し、そして勝つ。悪友の言葉を借りれば、何とも「アグニカン」な発想だろう。
そう……団長は来たるべきダインスレイヴとの戦いの為に考え続け、団員たちと共に導き出したのだ。
鉄血のオルフェンズにおいて無双を誇ったダインスレイヴを攻略できる、たった一つの道標を。
それこそが、ダインスレイヴならぬ「団員スレイヴ」である。
「本当は対ダインスレイヴ用の技だったんだがな……!」
ダインスレイヴを攻略する為の最終手段「団員スレイヴ」。それを今、ここで使うこと自体に躊躇いは無い。
マッキー擁するアグニカンスピリッツは、まともなやり方で勝てる相手ではないのだ。
ミカとタイゾーに指示を送った後、フラウロスの援護射撃を失った団長は単身バエルと切り結んだ。
《何をするつもりか知らないが、黙って見ている筈があるまい!》
「わかっているよンなこたぁ!」
半壊状態のカンタンバルバトスが陰から動き出すと、フラウロスが合流しようと移動を始めた時点でマッキーもこちらの意図に気づいたようだ。
バエルは打ち付け合う武器の下から右足を振り上げるとサブナックの腹部を蹴りつけ、こちらの機体を強引に引き剥がす。
その隙にフラウロスの元へ急行しようとする彼を、素早く体勢を立て直したサブナックが追いすがった。
「待てって言ってるだろうが!」
団員スレイヴの発動に、カンタンバルバトスとフラウロスは必要不可欠だ。あの二機の動きが一瞬でも妨害されてしまえば全てが水の泡となり、シャトルは落とされるだろう。
だから、ここは通さない。
たとえここでやられようとも、這ってでも! 為すべき使命を果たす!
そうとも……俺は鉄火団団長だぞ! こんぐらいなんてことねぇ!
「お前の相手はこの俺だって言ってるだろうがピギュッ!?」
《残念だが……お前はもう限界だ》
追撃を掛けようとした矢先に、サブナックのスラスターからおびただしい黒煙が噴き溢れる。
元々耐久性を無視した設計な上に、ここまでバエルの動きに対応し続けたのだ。機体は既に、限界に達していた。
しかし敵はそんな団長にとどめを刺すことよりもフラウロスたちの妨害を優先し、脇目も振らずにこの場から飛び去ろうとする。
奴の目はもはや、俺の姿を見ていない。奴の目には俺が見えない!
その屈辱に抗うように、団長は吠えた。
「まだだァ!」
スラスター制御を失った状態から、ガンダム・サブナックは最後の力を振り絞って棍棒を右手に構えた。
離脱するバエルの背中を目掛けて、槍投げの要領で団長が投げ放つ。
「ヴァアアアアアアアア!!」
《悪足掻きを……!》
右肩の関節が弾けながら投擲した棍棒は矢のような速さでバエルを猛追し、団長は墜落していくサブナックのコクピットから固唾を呑んでその行方を見守った。
一直線に向かっていった鋼鉄の一撃は──バエルを振り向かせることもできず最小限の動作でかわされる。
だが、それでもいい。
コンマ一秒でも足を止められれば、後はお前が決めてくれる。
そうだろう?
「ミカァ!!」
その呼び掛けに応えたかのように、ミカは準備を終えた。
砲撃形態のフラウロスの砲身がスライドギミックによりロングバレルへと延長され、四つ足で踏ん張りながら彼方上空を飛行している目標へと狙いを定める。
主砲発射体勢になったフラウロスの元へ合流すると、ロングバレルの砲身へと潜り込むように密着したのがカタイ・タイゾーのSDガンダム・カンタンバルバトスだった。
──それこそが、彼らの「団員スレイヴ」である。
団員のガンプラ自らを弾頭として打ち出す禁忌の力だ。
ダインスレイヴを意識したネーミングであるが、原理としては流派東方不敗の「超級覇王電影弾」に近いかもしれない。
《チャダーン・コーティング展開! 吠えろバルバトスッ! その名の如く!!》
砲身にセットされたカンタンバルバトスの機体がおもむろに輝きを放つと、全身が白銀の膜に覆われていく。
自身を砲弾とする際の摩擦に耐える為、専用のバリア機能を張り巡らせたのである。
ここぞの出番を受けて、パイロットのタイゾーは妙なテンションで叫んでいた。
その御膳立てを受けたフラウロスが、静かにトリガーを引く。
──
ミカを名乗る少女が、必中の狙いを定めて。
《やったぞみんな! 作戦は成功だ! 我々の勝利だ!》
その時のライザライザーのパイロット、ライザップの落ち度と言えば結果が出る前に勝利を確信してしまったことだろうか。頼もしき同志たちの活躍により相手フォース各機の分断に成功し、攻撃目標であるシャトルへの爆撃が決まった。なるほど、ここまで行けばほとんど王手をかけたようなものである。
事実、鉄火団の配信動画に登場する機体はどれも地上戦を想定した陸戦型の機体であり、高高度の敵に対する攻撃オプションは乏しい。その上鉄火団のポリシーとしてダインスレイヴだけは絶対に使用したくないらしく、それらの情報を踏まえればエリア範囲ギリギリの高度でステルス飛行していたライザップのライザライザーは、完璧な立ち回りと言えるだろう。
この作戦は元々彼が立案し私が許可したものだが、攻撃目標だけを潰すのであればシンプルかつ有効な手だと思っていた。作戦の穴と言えば彼が戦線を外れることで実質5対4の戦闘となり、敵部隊の相手を引き受ける我々の負担が増える点にあるが、その点はバエルが三人の相手を引き受けることでクリアした筈だった。故に、彼の撃墜はフラウロスを止められなかった私のミスである。
いや、止めようとはしたのだ。発射の際にレールガンをフラウロスの足元に放ち、体勢を崩してやった。誤算だったのは体勢を崩されてもなお敵は狙撃を続行し、そのまま狙い通りライザライザーを撃ち抜いたことである。
撃たれたライザップは大層驚いただろう。
これほどの距離があれば今更奇襲に気づいたところで鉄火団に打つ手はなく、後は無防備なシャトルに向かって全弾発射するだけだったのだ。私としてもアグニカンスピリッツとしての彼の初陣は、彼の活躍による勝利で飾ってやりたかったものだったが、つくづく勝負の世界とはままならぬものである。
突如鳴り響いたアラート音と同時に閃く一瞬の光──団員スレイヴとして氷河の地から飛来してきたカンタンバルバトスの突撃によって、ライザップの目の前は真っ暗になってしまった。
カンタンバルバトスと共に砕け散っていくライザライザーの爆散はあまりにも呆気なく、彼には自分が何故にどうして撃墜されたのかもわからなかっただろう。
心根はイッシー同様生真面目そうな彼のことだ。今回のことで自分がフォースに貢献できなかったと気に病まなければ良いが、全ての責任は私にあり、ギャラルホルンの真理はここだ。バエルに集い、次に生かせばいい。それがバエリストの特権だ。
寧ろ私は、彼らにとって虎の子の一撃であろう狙撃を一身に引き受けてくれたライザップに感謝すらしていた。
機体そのものを弾頭にして発射する「団員スレイヴ」。それは操縦するパイロットの肉体的負荷を考慮する必要が無いGBNならではの技と言えるだろう。言ってみればかつて私がやったザムザザーハンマーもあれと同じようなものだ。或いはそれが彼らが編み出した「必殺技」なのかもしれない。
「団員自らダインスレイヴになろうとは。龍を狩る為に、龍の血を浴びたか」
今彼らがとった行動は、バエルを持つマクギリスの言葉に背くセブンスターズと同じぐらい想定外なものだった。
無論、彼ら鉄火団があのまま素直にこちらの奇襲を許してくれるとも思っていなかったが、よもやこのような形で凌がれるとは思わなかったものだ。
ダインスレイヴ級の射程に加え、体勢を崩されながら直撃させたパイロットの技量、フラウロスの性能には素直に驚かされた。私とは趣向が異なるが、これもまたアグニカだ。
……しかし、解せないことがある。
「団員を生け贄に捧げ、敵を倒す。それは君が理想とするオルガ・イツカに反するのではないか?」
今の一撃がもたらした影響はライザライザーの撃墜だけではなく、弾頭にしたSDガンダム・カンタンバルバトスもまた着弾と同時に消滅した。既に死に体だったとは言え、あのような仲間の犠牲を前提にした戦法が本来の団長が企てたものとは思えなかった。それは彼がリスペクトするオルガ・イツカならば、何があろうと絶対に取らない手段だからだ。
トマリストである彼にとって、オルガロールという信念を曲げることは私で言えばアグニカを否定するようなものだ。彼の人となりを知る私としては考えがたいことだった。
「……返事がない。先の墜落で倒れたか」
本人に直接問い質したいところだったが、どうやら彼のガンダム・サブナックは既に通信できる状態にない様だ。流石は完成度の高いガンダム・フレームと言うべきか、それでもまだイオク・クジャン並にしぶとく生き残っているようだが、再び戦線に復帰するのは難しいだろう。
……と、そこまで思考して気づく。爆散による撃墜判定を受けることが少ないナノラミネートアーマー機にとって、まともに動けなくなった機体を強力な武器として転用できる団員スレイヴは呆れるほど有効であり、高いシナジーを持つのではないかと。ネジ一本無駄にせず武器にするとは、まさしくエコだよ。
すなわち、敵を無力化したからと言ってその場に放置しておくのは非常に危険だということだ。このフラウロスがいる限り、ダルマだろうと弾頭として有効に扱われてしまう。先のカンタンバルバトスのように。
故にここは団長にきっちりとどめを刺しておきたいところだったが……バエルの行く手を阻んだのは、やはりガンダム・フラウロスだった。
「変形のスピードが恐ろしく速いな」
四つ足の獣が、一瞬にして二足の悪魔へと変貌した。あわよくば変形の隙を突いて叩き切ろうと考えていたのだが、予想以上にスピーディーな変形動作にビルダーとして感心してしまった。
バエルと同じサイズの白きガンダムは右手に120mm口径マシンガン、左手にアサルトナイフを構えながら油断なくこちらを見据えている。
さて、どうするか……ここから団長の元へ向かおうと背を向ければ、私とて間違いなく撃ち落とされるだろう。これほどの相手となれば命がけだよ! 私も!
自然と闘気の笑みが浮かぶ。そんな私の耳に、戦場の雰囲気にそぐわないウィスパーボイスが響いた。
《前に団長が言っていた》
「む?」
《団員を守るのが団長の仕事だけど、君にだけは負けたくないんだって。みんなも、そんな団長の気持ちに応えてあげたいんだってさ》
それは最も近い場所から彼を見ていた鉄火団団員による代弁だった。
オルガロールは大切だが、それ以上に大切なものが彼にはある。それらを守る為ならば、彼は己が信条とするオルガロールすらねじ曲げる覚悟だと。始めからそのつもりで臨んでいたのだ。
なるほど、それが彼の戦いか。確かに彼は鉄火団団長であって鉄華団団長ではないのだから、道理だろう。
要するに、彼ほどのトマリストがオルガロールをねじ曲げなければならないほど、私のバエルは偉大だということだ。
《ただ単に優先順位の問題じゃないかな? 三日月くん風に言うと、とりあえず今は君が邪魔だってこと》
「なるほど……それが君たちのアグニカか」
愛されたものだな、彼も。戦っている団員たち全員から望みを叶えてやりたいと想われているのは、団長という男のカリスマ性と日頃の努力の賜物だろう。その点に関して言えば、私の方こそ彼には勝ったことがない。
だからこそ、俺も戦闘では負けたくないと思っていた。
「見事な采配と言いたいが、勝てるかな? 団長を失った今の君たちが。バエルを持つ私に!」
《勝ち負けが全てじゃない。刹那主義には賛同できないね》
けど……そう呟きながら、彼女がふっと微笑みを浮かべる。
《私なりに、全力でいかせてもらうよ》
「いいだろう。団長が認めたその力、バエルに示すがいい!」
砲撃タイプのガンダム・フレームが、周囲から蒸気を噴き上げながらふわりと浮かび上がる。
《ガンダム・フラウロス》
「アグニカ・カイエル!」
《ナナシノ・ミカ》
「飛翔せよ!」
《いくぞっ》
「バエルッ!!」
気合いを入れ直したパイロットの声と共に、リアクター推力を引き出した二機のモビルスーツが青白い光を放ちながら突進していく。
態度は飄々としているが、強い意志が込められた太刀筋に私は高揚する。
凄絶たる火花はこの試合の行方を占う激闘の開戦を告げる合図となった。
アグニカンスピリッツと鉄火団。どちらもフォースの名前からして色物集団であり、実際色物集団なのだが、並外れた実力派ダイバーが所属していることもまた上位ランカーの間に広まっていた。
鉄火団は世間的にはフォース戦よりもG-tubeに投稿されるネタ動画の方で人気を博しているフォースなのだが、わかる人間が見れば実力面でも真っ当に評価されていた。
アグニカンスピリッツと言えばマスダイバー討伐戦で大立ち回りしたマッキーの存在である。
互いに今後も期待される成長株フォース同士であり、観戦エリアにはエンタメ目的で観戦する者も多かったが、次に対戦する際にガンプラやパイロットのデータを探っておく目的で偵察に訪れている者も少なくはなかった。
《爆熱っ! ライデンフィンガァァー!!》
《なに……!?》
《ボルテージ・エンドォ!!》
《させん! トランザム!》
《団長との通信が途絶えた!? くそっ》
《バエルだ!》
《アグニカ・カイエルの魂!》
《我々はそうだ正義ぃ!》
観戦エリアのモニターに映し出されているのは、北極フィールド各地に光芒を煌めかせる一進一退の攻防である。
それぞれのガンプラがビルダーの心血注がれた自由なギミックを解放しながら、時に硬派に、時に派手な爆音を響き渡らせていく。
そんな彼らの激闘に興奮と感嘆の声を上げるギャラリーたちに紛れ……いや、雑踏に紛れることができない存在感を放つ者たちが一堂に会し、神妙な顔でモニターを見つめていた。
第七機甲師団隊長ロンメル。
いずれもディメンションでは名を知らぬ者のいない猛者であり、互いに示し合わせたわけでもなく集まるのは通常のフォース戦観戦ではほぼ起こりえない事態だった。
そんな彼らが見つめているのはやはり、ぶつかり合う二機のガンダム・フレームである。
「ガンプラ戦車道のミカ……フォースを抜けたと聞いたが、鉄火団に入っていたとはね。しかも、前見た時よりも明らかに上達している」
「ガンプラ戦車道はタンクタイプのみを扱うフォースでしたね。彼女もあの頃はまだ自分に合った機体運用ができていない印象でしたが、可変式のガンプラを扱うようになって開花したのでしょう。元々光るものがあったので私も気には掛けていましたが、ここまで腕を上げていたとは……」
「ふむ。気まぐれでムラのあるダイバーだと思っていたが、鉄火団のリーダーは上手く育てたものだね」
「団長ですか……エンタメ専門のダイバーという印象は、改めなければなりませんね」
可愛らしいオコジョの姿をしたロンメル大佐はモニターを眺めながら副官のクルトと語らっており、周囲には各自映像記録の保存を進めている諜報部員たちの姿がある。こう言った人海戦術による膨大な情報網を用いた軍隊的な戦略が持ち味の彼ら第七機甲師団だが、今回は普段にも増して戦力分析に力を入れている様子である。
もっと言えばこうして隊長と副官が直々に偵察に訪れるだけでも異常事態なのだが、彼らがそうせざるを得なかったのはアグニカンスピリッツの悪魔のデータが圧倒的に不足していたからであった。
「バエル……アグニカ・カイエルの魂か」
彼らの脳裏に浮かぶのはあの日──窮地に陥ったマスダイバー討伐戦の最中、彗星の如く現れては圧倒的な力でマスダイバーたちを蹴散らしていった悪魔の姿である。
ガンダム・バエル。マクギリス・ファリドが熱中するわけだと、ロンメルは初めてかの機体に畏怖を抱いたものである。
巷では壮大な前振りに対して目立った武装もなく何の特殊機能も持たないバエルは今ひとつ残念なガンダムだという意見が多かった。決して弱いわけではないのだが、マクギリスが言うほど絶対的な存在ではなかったというのが放送終了後に落ち着いた一般的な認識だろう。
そんなガンダム・バエルだが、このGBNで多少腕に覚えのあるダイバーたちが実際に扱ってみた上での評価は原作の印象同様、今一つ思わしくないものだった。彼らが口を揃えて言っていたのが、武装の使いづらさである。接近戦に持ち込む前に撃ち落とされるか、決め手に欠く武装に苛ついた結果挫折してしまう者がほとんどだった。
そんな彼らはバエルを扱いやすくする為に射撃武器を持たせたり、ビームサーベルを足したり、挙げ句のはてにはファンネルやGNドライヴを盛った者たちもいた。その結果出来上がったのはもはやバエルではない別の何かになり、バエリストと呼ばれる人種はそういったチューニングを嫌い、尽く他の機体へと乗り換えていったものだ。
そんな中でロンメルが見たのが、原作通りの性能を以て立ち塞がる全てをねじ伏せてみせたマッキーのバエルである。
ロンメルはGBN古参メンバーの一人である。それ故にこれまで数多のバエルと相まみえてきたものだが……過去の例を顧みるまでもなく、マッキーのバエルは最高の出来映えだった。
バエル……最高のバエル。多くのバエリストたちの悲哀を見てきたロンメルが有志連合決戦で受けた衝撃たるや、現チャンピオンであるクジョウ・キョウヤと初めて戦った際に抱いた以来の感覚だった。
「キョウヤ、君はあのバエルをどう見る?」
丁度今横にいるチャンピオンに向かって、率直な感想を求めてみる。
彼はいつものように爽やかに、しかし瞳の奥にはプライドを滲ませながら答えた。
「あれの性能は、全く底が見えないのが恐ろしい。ガンプラはもちろん、ダイバーのマッキー准将は現時点でも十指に入る腕前の持ち主だろう。GPD時代に培った実戦経験も豊富で、精神面でも安定しているのが強い」
「確かに、先ほどのような奇策を受けても全く動揺していないのは素晴らしいね。そうか、やはりGPD経験者か……」
「彼なら必殺技を習得するのも時間の問題だろうね。リク君と言い、僕と戦える日が来るのが待ち遠しいよ」
「君は本当にリク君が好きだね……」
「大佐も同じだろう?」
「心の美しい者が嫌いな人間がいるかね? あの少年たちには我々が失ったものがある。それはどこまでも眩しく、尊いものだよ」
「わかる」
自前のリクライニングシートに腰を埋めながら、イイ声でロンメルが語る。
宇宙を駆ける機動戦士に憧れてはや幾年。少年の果てを過ぎて大人になってもなお、心だけはいつまでもあの日のようにありたいと思い続けている。GBNはそんな大人たちの夢も実現できる世界だと思っているが……過去ではなく今を生きる少年たちの無垢な輝きの前では、どうしても霞んでしまう。そんな、少しばかり爺くさい会話を二十代のチャンピオンと交わしていると、ふと後ろから近づいてくる足音が聴こえた。
『あの男もまた、少年の心を持った人間だ』
鉄の中でくぐもったような、聴き取りづらい声音である。
異質な声は第七機甲師団のメンバーやキョウヤのものではなく、ロンメルは思わず後ろを振り返った。
そこには──いた。
頭部全体を覆うフルフェイスの仮面を被った、見るからに怪しい男が。
その風貌を認めたキョウヤは驚きに目を見開くが、ロンメルはなんとなく不敵な笑みを浮かべた。
「君は……?」
「ふっ……そうか、君も見に来たのだな」
軍服を纏った無骨なフルフェイスマスクのダイバー。彼は仮面の目元を不気味に発光させながら、ただ冷徹にバエルが映るモニターを見上げていた。
彼は傭兵である。ロンメルたち上位ランカーに匹敵する実力を持ちながら、いずれのフォースに所属することもなく傭兵プレイに徹している奇異な存在だった。
今この場でこの瞬間のみ、キョウヤ以上の存在感を放つその男の名は──
「ヴィダール仮面」
その正体は、謎に包まれていた──。