バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
既に試合開始から、二十分以上が経過している。
すなわち、タイムアップまで残り十分を切ったということだ。この時間が過ぎた時、敵チームの残機に関わらずシャトルは打ち上がり、我々の敗北が決定する。
だが、時間を気にして戦っている余裕も無いかもしれない。目を離せばやられる。
左手に携えたアサルトナイフを振り上げ、フラウロスがこちらに向かって機体を疾らせてくる。
思い切り振り下ろされた刃を、バエルの剣で受け止める。しかし急迫した時に機体に乗せたスピードと勢いは、このバエルを以てしてもそう簡単に殺しきれるものではない。フラウロスは尚もアサルトナイフを押し込むと、右手に携えたマシンガンの銃口をこちらに傾けてきた。
この体勢から撃てるのか……と舌を巻きながら、不利を察した私は剣をいなしてその場を飛び退いた。
おかげで至近距離から浴びせられた銃弾の嵐をかわすことができたが、相手は私が上空へ逃れたことを隙と捉えたようだ。
フラウロスが、空中変形する。
一瞬にして獣の姿へと再変形したフラウロスの砲弾がバエルに襲い掛かる。
数発目まではかわすことができた私だが、立て続けに迸る弾丸の一撃にバエルの右脚が撃ち抜かれた。
ナノラミネートの装甲が抉られ、爆砕する。一撃でこれとは、どうやらこの弾頭には禁止兵器級の威力が込められているようだ。
「……っ、やるな!」
彼女のフラウロスは原作には無い飛行能力を持っているだけではなく、特殊な変形機構を空中戦でも活用できるようだ。装備自体はシンプルな機体だが、その戦法は私の目にも挙動が読み取れないものだった。
それにこの精度……どうやら私の回避パターンは彼女に読まれているようだ。団長の後衛に徹していた時よりもさらに精度が増している射撃を受けて、私はあの時団長が装甲をパージしてまで積極的に接近戦を仕掛けてきた本当の意味を理解した。
彼女は今までバエルに対して狙撃ではなく、「観察」を行っていたのだ。
団長は自分が戦っている間、彼女に生きた私の動きを研究させていたのである。
しかし、だからと言ってこうも正確な予測ができる筈がない。
それは、敵の行動を一定時間観察することで一歩先の動きを読み取り、反射的に最適な手段を取ることができる稀有な才能の持ち主なのだと理解した。
「慣れた」の一言でこちらの動きに対応してくる姿は、音に聞こえた三日月・オーガスのようだった。
「なるほど……これが「あの目」というものか」
団長ほどの男が、自ら前座に回ったわけだ。彼女の実力を最大限発揮できる状況……それを作ることこそが、彼にとって勝利への布石だったのだろう。
弧を描くような軌道で滑りながら空を飛翔していくバエルを追って、フラウロスは尚もショートバレルの砲弾を浴びせ掛かる。バエル本来の機動性を持ってすればかわしきることは不可能ではなかったが、さっきので右脚を失ったことで僅かに機体のバランスが崩れ、機体を左右に動かす度にイメージ通りの機動から誤差が生じていた。
モビルスーツにとって、足など飾りだと言う者もいる。実際、扱う機体によってはその通りでもあるのだが、私のバエルのように元が完璧な機体であればあるほど、一度バランスが崩れた際の立て直しは楽ではなかった。
だが、それだけで終わる我々ではない。
このバエル……たかが一発の被弾で劣勢に陥る機体ではないさ。
「いいだろう……どちらが悪魔の王か教えてやろう! アグニカ・カイエルゥー!!」
《よく喋るね……》
バエルソードを構え直した私は、フェイントを入れながら一気に加速し、フルスロットルで再度接近を仕掛けていく。
当然、モビルスーツ形態へと変形したフラウロスも迎え撃ち、二機のガンダムが交錯した。
擦れ違いながらの、一瞬の接触だった。
ガンダム・バエルは近接タイプの機体であり、ショートレンジでの戦いには絶大の能力を誇る。
それでも二機の交錯が生んだ結果は、全くの互角だった。
バエルはフラウロスの胸に、フラウロスはバエルの右翼に、それぞれの身に一撃を刻み込んだのである。
「っ!」
《……っ》
入りが浅かったか! 私としては今ので決めるつもりだったが、彼女はギリギリのところで上体をずらし、返す刃でカウンターを決め、バエルの翼の先端を切り落としてきたのだ。
短剣とは思えない凄まじい切れ味である。距離が空けば離れていくバエルを追って、再び弾幕を展開していく。
《危、ない、なぁー》
気の抜けるようなウィスパーボイスが聞こえてくるが、敵の攻撃は態度に反して苛烈極まりない。
中距離戦に移ればこちらもレールガンで応戦しているが、完成度の高いフラウロスのナノラミネートアーマーの前では着弾の煙を上げたところで、敵の装甲にはほとんどダメージを与えた様子がない。今しがた付けた胸の傷に撃ち込めれば話は変わってくるが、あちらも致命傷になり得る迂闊な防御姿勢は取ってこなかった。
その上で反撃の手を休めず、うるさい小バエを追い払うように右腕を動かしながらその手に携えたマシンガンで銃弾を連射してきた。
敵の攻勢に私も機体を左右に動かして的を絞らせないようにしたが、右脚と右翼を損傷したこの状態では完全とはいかなかった。
流れ弾じみた一発がバエルの右腕に突き刺さり、爆発を起こす。
「くっ……」
腕の装甲は無事だが、爆風に煽られた影響で右手の刀身が弾かれ、バエルソードがはたき落とされてしまう。
急いで体勢を立て直そうとする私の目に、接近してくる白い機体の姿が映った。
ガンダム・フラウロスの左手に握らせたアサルトナイフを振り上げながら、彼女は斬り掛かってくる。
それを私は……待っていた。
──今だ。
懸命に体勢を立て直した機体から、左手のバエルソードで斬撃を受け止め──
相手がこの至近距離から突き出してきたマシンガンの銃口を右手で掴み、握りつぶしてやったのだ。
《……! やられた……罠だったか》
そう、私にもこのぐらいのことはできるのだよ。
動きが読まれているのなら、こちらも相応の戦い方を選ぶまでだ。
左手のアサルトナイフで押さえ込み、至近距離からの銃撃で仕留める。バエルと密着するその動きを、私は誘っていた。この瞬間を待っていたのだ!
彼女は私が右手のバエルソードを失ったことを好機と見たのだろうが、このバエルには機体そのものの膂力という唯一無二の武器がある。その右手で豪快にマシンガンを無力化した私は、左手のバエルソードをさらに押し込みながら、力押しで敵の左手からアサルトナイフを弾き飛ばすことに成功した。
これで君を守るものは無くなったな。気分はさながらドラマCD版のハム仮面である。
両手の武器は無くなり、敵は丸腰になった。それでもフラウロスは背中のショートバレルを果敢に乱射してくるが、懐に入った私は乙女座のようにしつこく、粘り強い男だ。過去にシオンから「先輩のそういうところすっごい気持ち悪いです」と散々批難されてきた実績は伊達ではない!
だからミカよ、君はここで倒す。我らアグニカンスピリッツにとって、最大の障害である君だけは!
「押し込む!」
密着した体勢を保ちながら、バエルは敵の右肩関節部に左手の剣先を突き刺し、抵抗する敵の左腕を右手で押さえ込んだ。そのまま最大出力に引き上げたスラスターを解放すると、バエルとフラウロスは地上の氷山に向かって急降下していった。
轟音を上げながら、氷山の壁に向かってフラウロスの背中を強引に叩き付ける。まるで悪役レスラーのような戦い方であるが……本気のガンプラバトルを行う私は、相手が女性だろうと容赦なく押し倒せる男だった。
「とどめだ!」
かなり時間は掛かってしまったが、ここで落とせば私がシャトルまで向かう時間は十分にある。
背中を氷山にめり込ませたことでショートバレルを無力化したフラウロスに向かって、私は最後の一撃を決めるべく剣を振り上げた──その時だった。
「なぁにやってんだミカァァァァァ──!!」
突如として、響く。
天を突き刺すような迫真の叫びだった。
それはコクピットの通信回線を介したものではない、獣のような肉声である。
放ったのはもちろん、あの男……鉄火団団長だった。
トマリストである彼にとって、その台詞を叫ぶにはおあつらえ向きのシチュエーションだったのだろうか。……いや、そんなことは関係なしに、ミカに負けてほしくないという純粋な思いで吠えたのだろう。アレはそういう男だった。
そしてその叫びは私の状況にとっては喜ばしくない一声だった。
彼の叫びがこだました直後、グレイズ・アインに追い詰められたバルバトスが如く、再び息を吹き返したフラウロスが振り上げた右脚で私のバエルを蹴り飛ばしたのである。
その姿から何かただならぬ雰囲気を察した私は、一旦距離を取りながら剣を構え直す。
バエルのコクピットに、今度は「ミカ」の声が響く。
《ねぇ……バエルの人》
「なんだ?」
《君は、彼の友達なんだよね。高校時代の》
「ああ、良き友であり、良きライバルであった。良き同志には、なり得なかったがね……」
《そっか》
崩れ落ちていく氷山をバックに立ち上がったフラウロスが、中途半端に繋がっていた状態の右肩を自ら引きちぎると、それを得物にして左手に構える。
隻腕となった悪魔は、威圧的な眼光を赤く輝かせた。
《少し、羨ましいね》
「ふっ……そうだろう!」
リミッターを外してきたか。そうだ、それでこそミカだ!
なり振り構わぬ野性的な姿に、私はアグニカ・カイエルの姿を見た。そうか、そういうことか。君もまた、誇り高きアグニカだった。
いいぞ、それでいい!
私に刃向かえ! そしてバエルの威光を受け入れよ!
「はっ……やっぱすげぇよミカは……」
機体ダメージの蓄積により通信不能になったことで、団長はコクピットハッチを開放した状態で身を乗り出しながら叱咤激励を送った。そんな彼の肉声は無事にミカに届いたらしく、リミッターを解放したフラウロスは沈む氷山から飛び出すと、ガンダム・バエルと壮絶な格闘戦を繰り広げていった。
自らちぎり取った片腕を振り回しながら、蛮族のようにバエルの頭を殴りつけていく隻腕のフラウロス。返す剣でそれが切り飛ばされれば、今度はもう一本のアサルトナイフに持ち替え苛烈な剣戟を繰り広げていく。
なり振り構わない獣の如き荒々しさを惜しみなく晒している姿は、まさしく彼の求める「ミカ」そのものだった。
すげぇ奴だよミカは……あのマッキーは、とても俺が勝てる相手じゃなかった。
二人の天才の戦いは、仮にサブナックが万全だったとしても団長に割り込める領域ではないだろう。
彼の目に狂いはなく、このGBNで見つけたあのダイバーは間違いなくミカだった。しかし……
モビルスーツにとって片腕を失うことによる弊害は、片脚を失うことよりも重い。二機のガンダム・フレームはスピード、パワー共に拮抗していたが、徐々にフラウロスの方が手数の差で圧され始めていくのが見受けられた。
「ミカ……クソッ!」
シャトル発射まで、残り三分。このまま粘っていれば、有利なのはこちらだ。
だが彼なら三分もあれば、ミカを突破した上でシャトルを落とすことができるだろう。今のバエルには、団長にそう思わせるだけの凄みがあった。
それは、そんなことは許されない。
団長が団長である限り、仲間の犠牲を無駄にするわけにはいかないのだ。
ああ、そうだ……
「何が鉄火団団長だ! ここで動けないで何の為に俺がいる!?」
感情に任せながら激しく操縦桿を動かし、団長は自らを奮い立たせる。
機体は無茶が祟ってか駆動部がイカれ、リアクター出力も半分以下に低下している。辛うじて撃破判定が出ていないのが奇跡的な状態である。
だが撃破判定が出ていないということは、まだ戦えるということだ。
鉄火団団長はまだ、死んでいない。
「団員を守るのは俺の仕事だ! 動けサブナック! 止まってるんじゃねぇぞ!」
何度目になるかもわからない呼び掛け。それが、勝利への希望となった。
彼の胸を焦がす使命感に応えるように、サブナックの眼が鈍く輝いた。
マズいな……もう時間がない。
同志諸君の機体もまだ落とされてはいないようだが、いずれも敵の足止めを受け、シャトルに近づくことができていない状況にある。
当初は私がこうしてエースを抑えておけば、シャトルの方は彼らがやってくれるだろうと思っていたが……想定以上に、鉄火団員たちが優秀だったということだろう。これは戦力分析を見誤った、私のミスだ。
ならば、その尻拭いは私自身が引き受けよう!
「ふっ!」
切り結んだ状態から膝蹴りを繰り出し、ジャブの要領で敵の体勢を崩す。
その隙に機体を反転させると、死角から回り込んでフラウロスの背後へと回り込んだ。
僅か一秒にも満たない、一瞬の攻防である。
今度こそ最後の一撃となる剣を振り上げた瞬間──バエルの左腕が、僅かに硬直した。
「……!?」
突き刺さっていた。フラウロスの、アサルトナイフが。
意識外からの奇襲──誰がやった? これは、
いや……もはや振り向くまでも無い。下手人は、あの男に決まっていた。
《ありがと、団長》
私が弾き飛ばしたフラウロスのナイフを拾い、彼が地上から投擲してきたのだ。
鉄火団団長が操る、ガンダム・サブナックが。
「団長……ふっ、困った男だ……」
ミカにとっては最高の、私にとっては最悪のタイミングでの援護射撃となった。
投擲され、バエルの右腕に刺さったナイフは浅く、腕が切断されるほどの一撃にはならなかった。しかしその衝撃は僅かにこちらの動きを止め、フラウロスが振り向き、反撃を返すまでの時間を稼いだ。
団長がアルミリアめいた役割を果たすなど、一体どんな悪夢だ……そう思いながら、私はこの後に起こる事象を悟り苦笑した。
《准将ォオオオオオオオオオオオッ!!》
……そう、悟っていたのだ。
やはり君は優秀だ。待ち兼ねたぞ、イッシー!
フラウロスが私にとどめを刺そうとした瞬間、今度は彼方から赤い彗星が──トランザム状態のヘルムヴィーゲ・アヘッドが突っ込んできたのである。イッシーのアヘッドはGNアーチャーを襲ったガガのようにフラウロスへと突進すると、そのまま彼女の機体を攫い私の元から引き剥がしていった。
見れば彼も手酷くやられたのであろう。イッシーの機体は満身創痍の状態であり、頭部と左脚、右腕を失っていた。団長のサブナック同様いつ爆散してもおかしくない状態にも拘わらず、彼は足止めを突破してバエルの窮地に駆けつけてくれたのだ。
ふっ……見ているか団長? 良き団員に恵まれたのは、君だけではないということだ。
《准将っ、この隙に、シャトルを!》
「いいだろう! バエルの勇姿、とくと見ておけ!」
《了解ッ!》
制限時間まで残り三十秒を切った。ここでサブナックとフラウロスを仕留めている時間も、我々には残されていない。
悔しいが……どうやら君たちとの勝負は、今この戦いでは決着をつけられなかったようだ。
だが、試合はアグニカンスピリッツがいただく!
今出せる最高の速度を引き出し、私は後ろを向いて全力で前進する。シャトルは……あそこか!
既に点火状態であり、今にも飛び立ちそうだ。急がねばイッシーの犠牲が無駄になる。
脇目も振らずに向かった直線的な軌道は狙撃手にとって良い的であったが、後ろからの攻撃を気にしている時間はもはや残されていなかった。
次に君たちと戦う時は、時間制限なしでやりたいものだな!
団員とイッシー、二人の乱入により試合終了直前になって混沌としてきた舞台であるが、試合の決め手となり得る人物は当初の予定と何ら変わらなかった。
この場を強引に突破し、なり振り構わぬシャトル狙いに切り替えたマッキー。今シャトルを落とせるのは彼だけで、彼を止められるのもまたミカだけなのである。
「させないよ」
ヘルムヴィーゲ・アヘッドの乱入というアクシデントに対しても、ミカは冷静さを失わなかった。
彼はRIDE ONのゲルググ・ジョニー雷電号を退けてやってきたようだが、その戦闘で受けた手傷は深く甚大。こちらも半壊とは言え今の彼ならばミカの敵ではなかった。
ボロボロの機体でこちらを羽交い締めにしようとする彼を容赦なく蹴り飛ばすと、ミカは追撃にショートバレルを三発撃ち込んでやった。
《ありが……》
パンッ、パンッ、パンッ、と……何やら問題のシーン的なものをガンプラで再現するような形になってしまったが、彼はクランク二尉ではなく石動ポジションだろうとミカは思う。
無慈悲に撃ち込んだ弾丸でヘルムヴィーゲ・アヘッドは呆気なく爆散し、橙色のGN粒子を撒き散らしながら消滅していった。
しかし撃破の余韻に浸る隙もなく、ミカは流れ作業のようにフラウロスを砲撃形態へと変形させた。
「団長、団員スレイヴを……って、聞こえていないんだったね。どうしようか……」
彼女が彼のアヘッドに組み付かれ、これを撃ち落とすまでに掛かった時間は僅か五秒。しかしシャトルに向かって飛翔していったバエルを追い掛けるには、あまりにも致命的なタイムロスだった。
だが、追い掛けることはできなくても、撃ち落とすことならばできる。
それが「団員スレイヴ」……ミカと愉快な仲間たちが生み出した、鉄火団だけの「必殺技」だった。
「あっ、私に合わせてくれるの? 流石団長」
状況を打開するには、団員スレイヴしかない。それは団長も承知していたようで、サブナックの通信機器が故障していようと二人の意思疎通に支障はなかった。
変形した状態で着陸したフラウロスは、「必殺技」の解放状態となって待機し、突き出したショートバレルをロングバレルモードへと展開した。
その砲身の前に、這うような足取りでたどり着いた半壊のガンダムフレームが鎮座する。
ミカはコクピットに下ろした狙撃用スコープを掴むと、それを右目に当てて狙いを定める。
変形時の前足となる右腕を失ったことで機体のバランスが崩れているのか、スコープの照準は重くブレていた。システムのサポートが受けられないと見るなり即効でマニュアル操作に切り替えたミカは、目標をセンターに収め、静かな息遣いで標的の背中を見据える。
そして、ふとした感傷が脳裏に過ぎった。
ミカは元々、このフォースとは別のフォースで活動を行っていたダイバーである。
そこでたまたま対戦することになった鉄火団との試合の後、団長から熱烈なスカウトを受けてこの鉄火団に移籍した身だった。
ミカが彼のスカウトをあっさり引き受けたのは、決して元のフォースで上手くいっていなかったからとか、そういうわけではない。理由はただただ単純なもので、彼らと一緒に戦う方が性に合っているように感じたのだ。そんな風の導きによって、ミカはここにいた。
団員たちにはつかみどころのない態度を見せているミカだが、彼女としてはこの鉄火団のことを大いに気に入っていた。
それは団長も、タイゾーも、RIDE ONも、いつも頑張ってる人も……皆、結果に拘るよりも自由にGBNを満喫しているからだ。
彼らはガンプラバトルもロールプレイも全力で楽しんでおり、全員が自分たちの「好き」に対して少年のように純粋だった。
その上で決して立ち止まることを善しとせず、新しい道を拓こうとする貪欲さもある。
そんな彼らを見て、なんだろうか? 人生に必要なことをそのままガンプラバトルで学んでいるような彼らが、とても温かく眩しく見えたのかもしれない。
そんな鉄火団が、団長がとことん勝ちに拘ったのがこの試合である。普段は勝ち負けに拘らない団長だからこそ、ミカも全力で彼の助けになりたいと思っていた。
──それにしても、ミカ、ね……。
自嘲するような風がミカの心に流れていく。
鉄血のオルフェンズの主人公、三日月・オーガス。彼と自分とでは見た目も戦闘スタイルも乗っている機体も違うのだが、どういうわけか鉄火団団長はミカのことを三日月のように扱っている。
鉄華団のエースの呼び名──それが自分の実力を認め、仲間だと受け入れられての呼称だと思えば嬉しいが、いつまでもダイバー・ミカとして見てもらえないのは少々反発心が浮かび上がる。団長の言うことに一々逆張りを返すのは、そんな彼女のちょっとした意趣返しでもあった。
架空の人間である三日月・オーガスに対する嫉妬と言うと、少しばかりみみっちいが……それは彼女も自覚しているところである。
だが団長は、鉄火団の仲間たちは元々余所者である自分をこの戦いで、大事な場面で、最も重要な役目を与えてくれた。
その期待に応えたいと思う気持ちは、誰よりも強いつもりだった。
「すぅ……」
ミカは己の全神経を右目と右手の指先に集中させる。
13、12、11、10、9、8、7……モニターの端に刻々と刻まれていく、シャトル打ち上げのカウントダウン。
その数値が5を越えた時、
「
ミカの声と、サブナックのコクピットから叫ぶ団長の叫びが重なり合う。
その動きはコンマ一桁のラグも無く機体に伝わり、ロングバレルの銃口から弾頭と化したガンダム・サブナックが射出された。
銀色の弾丸が空を駆け抜けていく。
団長の咆哮と団員たちの願いが込められた一撃は、全てを粉砕する破壊力を持って狙い違わず突き進んでいく。
そして──その結末を見届けた瞬間、ミカの口元に笑みが浮かんだ。
「……それが、君たちのガンプラ道か」
彼女らの団長スレイヴは、敵の機体を貫いた。
バエルの前に立ち塞がったシュヴァルベ・ゲイツと、リーオーランチャーの機体を撃ち抜いたのである。
《バエルだ……》
《アグニカ・カイエルの……魂!》
自分たちと同じく全力でガンプラバトルとロールプレイを楽しんでいた男たちが、共に親指を突き立てながら盛大に爆散していく。
それと、同時──発射まで残り2秒から1秒に変わろうとするカウントダウンへと割り込み、突進したバエルの剣が発射寸前のシャトルを突き刺していった。
「そうだ……これもまた、我々のアグニカだ」
今回は、同志諸君に助けられた戦いだった。
それは圧倒的な力で相手をねじ伏せるアグニカとは違う結末であったが、私としては何ら許容できないものではなかった。
敵を圧倒できないことはアグニカではない。しかし敵を圧倒することだけが、アグニカとは言えない。
それは奇しくもあの少年、リク君から教わったことだ。
時には目標の為に一心不乱にもがき足掻き、仲間と共に泥臭く戦うこともまた……アグニカなのだと。
つまり、それはどういうことかと言うとだ……
【WINNER アグニカンスピリッツ!】
やったぞ同志諸君! 我々の勝利だ!