バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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 新章開幕バエル。


私は君たちを過小評価するつもりはない

 

《マスダイバーについて、重要な話がある》

 

 バエル宮殿に佇むバエルの姿をしみじみと観察していたその時……突如として私の端末に届いたメッセージである。晴天の霹靂か、或いは新たなアグニカ・チャンスへの千載一遇の機会か。

 心が湧き立つような件名が書き記されたメッセージの送り主は──押しも押されぬGBNのチャンピオン、クジョウ・キョウヤである。

 さて、このディメンションで今日も今日とてアグニカの道を探究していた私にとって、「マスダイバー」という存在もどこか懐かしく感じた。

 

「なるほど」

 

 だが私は自身のプライベートチャンネルに届いたそれをスクロールすると、丁寧ながらも簡潔に記載されていたその内容を速やかに理解する。

 仮想現実の世界でリアルを詮索するのはマナー違反だが、頭の良い人間特有の簡潔かつ明解な文章は、クジョウ・キョウヤという人間がリアルでも仕事の出来る人間であることが察せられるものだった。

 

 

 ──マスダイバーの残党狩りに力を貸してほしい。

 

 

 つまりは、そういうことである。

 マスダイバー……闇のチートツール、「ブレイクデカール」を扱う不正プレイヤーの総称。

 私のバエルが最高にアグニカした先の有志連合戦線と、その黒幕をリク君がリアルの世界で打ち破ったことを以て事件は終息に向かったものと思っていたが……どうやらこのGBNにはまだ、往生際の悪い残存勢力が残っているようだ。

 ガンダム作品において「⚫︎⚫︎残党」ほど恐ろしいものはないからな……一握りのカリスマがもたらした苛烈な思想というものは、本体が壊滅してもなお際限なく湧き出てくるものなのだ。その思想が「ブレイクデカールによるGBNサーバの破壊」というのは、アグニカ・チャンスとは言え笑えない話だがね。

 

 しかし、チャンピオン・キョウヤが救援を求めるほどの相手となると──不謹慎ながら私自身もまた、込み上がってくる高揚を抑えられなかった。

 

 そしてメッセージにはもう一つ、気になる言葉が記載されていた。

 

 

「セイギ、話がある」

「我々にある?」

「いや、他のメンバーには無い。私と君個人に対して、だそうだ」

「正義……?」

 

 

 誘いの言葉が向けられた相手は、私だけではなく。

 キョウヤからのメッセージにはできるだけこの話を他のダイバーたちに広めないでほしい旨と、私とソウダ・セイギの協力を名指しで依頼するものだったのだ。

 フォース「アグニカンスピリッツ」ではなく、私たち二人に協力を依頼してきた……それがどうにも、私には引っかかりを覚える内容だった。

 

「というわけで、我々が今からチャンピオンのところへ行ってくる。後は任せたぞライザップ、仲良し四人組」

「は、はぁ……」

「魂!」

 

 とにもかくにも、まずは直接詳しい話を聞かなければ始まらない。

 メッセージには話を受ける気があるなら指定の場所に来てほしい──と記載されていたが、この指定してきた場所というのも中々曲者だった。

 

 

 それは我々のような一般ダイバーたちには日頃縁の無い──「GBN運営の業務サーバ」だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「招集に応じてくれてありがとう、マッキー、セイギ君。君たちなら引き受けてくれると信じていたよ」

「ふっ……受けるかどうかは話の詳細次第だがね」

「我々にある!」

「ああ、そうだねセイギ君。急に呼び出したからには、詳しく説明するよ」

 

 メッセージに記載されていた業務サーバ内の一室。どんな内密な話も外に漏れることのないそのプライベートルームに私たちが足を踏み入れると、中から金髪の青年が爽やかに出迎えてくれた。

 同じ金髪でも、マクギリス・ファリドと違って胡散臭さを感じない爽やかな笑顔である。そんな彼こそがクジョウ・キョウヤであり、有志連合戦線以来意気投合し、しばしばメールのやりとりをしていたGBNの最強ダイバーその人であった。

 

 そして、もう一人──この部屋には先客がいた。

 

「そちらがあのバエルのパイロットとシャトルの操舵手か、キョウヤ」

「ええ、今回の件も必ず頼りになりますよ」

 

 我々の入室と同時に、部屋の奥の席に座っていたSDガンダムのアバターが立ち上がる。

 ふむ……珍しいアバターだな。私はあまりSDシリーズには詳しくないが、そのアバターの作り込みからしてレア物であることはわかる。キョウヤとは親しい仲のようだが……アヴァロンのメンバーではないな。

 

 よもや、彼は──

 

 

「二人とも、こちらがGBNのゲームマスター、カツラギさんだ」

「……ゲームマスター殿であらせられましたか」

「GBNの正義……!」

 

 

 思うより 上の立場で 驚いた。マッキー心の川柳である。

 

 ……いや、GBNのサーバを崩壊させうるかのツール「ブレイクデカール」が関わっているともなれば、運営側が真っ先に対応するのは当たり前な話ではある。しかし初手でGMが出てくるのは想定外だった。

 法的な意味ではセイギの言う通り、まさしく「GBNの正義」とも言える存在。それがゲームマスターである。そんな彼はアバター越しでもわかるほどに、全身から鬼気迫るような覇気が滲み出ていた。

 

「カツラギさん……」

「……ああ、失礼しました。マッキー殿、セイギ殿、お忙しい中……両名にはご足労おかけして誠に恐縮です」

「いや、忙しそうなのは貴方の方だと思いますが」

「せ、正義……っ」

 

 何故だろうか……作り込まれたSDガンダイバーのアバターは無表情である筈なのに、その両眼は赤く血走っているように見えた。

 

 私にはわかるぞ。このゲームマスター、どう見てもお疲れである。

 

「ああ、君にもわかるか。カツラギさん、今日で三徹目なんだよ……」

「会議は後日にしましょう」

 

 こっそりと耳打ちしてきたキョウヤの言葉に、私は即座に最善の対応を言い渡した。

 なるほど、やはりこの圧は激務中に眠れていない労働者によるプレッシャーであったか……! 三徹目ともなると流石に寿命にも関わってくるのでこんなところで会議している場合ではないと真顔になった私だが、彼は「そういうわけにはいかない」と頑なに首を振った。

 

「それでも……今、この時でさえ……件のマスダイバーたちはGBNの平穏を脅かしているのです……」

「カ、カツラギさん……!」

「ゲームマスターとは、大変なのだな……」

「正義はどこにある……?」

 

 証拠の出ない不正ツール、ブレイクデカールへの対応はそれほど過酷な問題なのだろう。GBNの健全な運営の為に誰にも見えない場所で日夜奮闘している彼らには、全く頭が下がる……それこそ10000アグニカポイント級の偉業と評したいほどである。

 

 ならば今の私にできることは、そんな彼の覚悟を汲み、一秒でも早く快適な眠りを過ごせるように協力することか。元々協力するつもりでここに来た私たちだが、実際に苦しんでいるGMの姿を見ると俄然その気持ちが強くなってきた。

 私はそこまでお人好しではないのだがね……GBNを日々全力で楽しんでいる身としては、運営に尽くしたくなる思いもあるのだ。

 

「どうぞこちらにおかけください。ただ今から私、ゲームマスターのカツラギから本件について説明させていただきます」

「よろしくお願いします。ですが、我々の前では畏まらなくて結構。三徹の思考に我々への気遣いは負担でしょう。我々に対しては、キョウヤと同じように対応していただければ」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 ブリーフィングルームのような応接間に通された私とセイギは、彼から共に促された席に着席すると、カツラギGMが手前のスクリーンを点けて今回我々を呼び出した理由を語り出した。

 

 彼がいる時点で察してはいたが、やはりキョウヤからのメッセージはGBN運営が彼を仲介役として送った依頼だったらしい。

 

 運営側が私とセイギに対して名指しで依頼してきた事実には他ならぬセイギ自身がピンと来ていない様子だったが、そこも含めてカツラギGMがこの場で説明することとなった。

 

 

 

 ──ディメンションにはまだ、マスダイバーの集団がいる。その拠点を特定したため、捜査に協力してほしい。

 

 

 

 始まりは、カツラギGMに向けて宛てられた一通のメッセージだったと語る。

 有志連合の決戦からしばらくの時が経った今、運営側ではリク君のダブルオーダイバーエースが見せた「光る翼」の現象を基に修正パッチや対ブレイクデカール用のワクチンプログラムを開発。それによって今のGBNはかつてと違い、マスダイバーの悪事に素早く対応できるようになったという。

 そうした中でダイバーたちから寄せられるマスダイバー関連の報告は順調に少なくなっていたのだが……ある日カツラギGMのもとに奇妙なメッセージが届いた。

 

 

 ──マスダイバーにガンプラが盗まれた。

 

 

 それは、このディメンションでは起こる筈の無い事件だった。

 

 

「ガンプラが盗まれた? リアルではなく、このGBNで?」

「……ああ。正確にはGBNにダイブする際に登録した、実機のスキャンデータが盗用される事件が起こったのだ……」

「それは……大事件ですね」

「悪……!」

 

 ああ、セイギが正義ではなく悪と断定するほどの大事件である。GBNの今後のサービスにも関わる重大な案件には、果たして我々が聞いて良い話なのかと疑うほどだ。

 

「SNSを見ると、前からその手の話はちらほら挙がってたんだけどね。もちろん、その大半は不当なネガキャンというかガセ情報だったんだけど……」

「私のもとに届いた情報は、残念ながら真実だった。被害に遭ったのは既に廃棄されたアカウント……GBNを引退したプレイヤーのガンプラで、そのスキャンデータが確かに何者かに盗用されていたのだ……」

「ふむ……それはまた、ハイエナのようなことを」

「だからこそ、発見が遅れてしまった……引退したGBNプレイヤーが再びディメンションに戻ることも珍しくないが、盗まれたガンプラはあくまでデータだけのもの。スキャン元の実機は変わらずプレイヤーの手元にあるため、盗まれた側は以前と変わらず同じガンプラを使用することができた」

「だから盗まれたプレイヤーたちはそれでプレイに困ることもなく、盗まれた事実に気づけなかった──ということか」

 

 被害者は既にアカウントを廃棄し、GBNにログインしなくなった者たちのみ。確かにそれならば、我々現役ダイバーたちの間で騒ぎになっていないのも頷ける。

 それに……データを盗まれたとは言え、実機が盗まれていない以上証拠の立証は難しくなるからな。仮にアカウントを再取得してGBNに復帰したプレイヤーが盗まれた自身のガンプラと遭遇したとしても、相手から「たまたま同じデザインに被っちゃったね♠︎」とでも言い張られてしまえば証明は難しくなる。

 

 しかし、妙だな……それが何故、マスダイバーの仕業だと言える? 腕利きのハッカーによる犯行というのは私にもわかるが。

 

「それは厳密に語ると順序が逆になるが……我々GBN運営がディメンション内を捜査しハッカーの痕跡を辿ったところ、行き着いた先のエリアに大量のブレイクデカール反応が検出されたからだ」

「……なるほど」

 

 我々を呼び出したメッセージには字面としてインパクトの強い「マスダイバーの残党」という言葉を遣っていたが、彼ら運営としてははじめからマスダイバーに決め打ちして捜索していたわけではなく、件のガンプラデータ盗難事件を起こしたハッカーを追ったところ、その過程でマスダイバーの残党としか思えない痕跡が見つかったというわけか。

 そこまで行くとGMの領分ではない気がするが、お仕事お疲れ様です。

 流石はゲームマスター、対応が早い。証拠が残らないブレイクデカールの厄介な性質を攻略し、既に犯人の居場所まで突き止めていたとは恐れ入る。

 

 300ギャラルホルンの秩序ポイントにおまけして、療養に良いと言われている健康ランドの割引券を進呈したいところである。

 

「それはどうも……」

 

 しかし、まだわからないな。

 あんた正気かとオルガ・イツカではないが、キョウヤのように運営と繋がりのあるプレイヤーならばいざ知らず、これほどの案件は我々のようなチンケな組織に依頼することではあるまい。

 

「君たちにこのことを話したのはキョウヤからの推薦もあるが……私は君たちを過小評価するつもりは無い」

 

 ほう。

 

「前回の事件でも、君たちは有志連合に加わらずして独自の調査で黒幕にたどり着いたと聞いている。そしてかのビグ・ザムとの戦いでは、私は君たちの活躍こそを最も評価しているつもりだ」

「それはまた、光栄です」

「ギャラルホルンの正義はここに」

 

 やはりと言うべきか、カツラギGMはあの時の戦いを目撃していたらしい。あの時のバエルの活躍は私の人生の中でも一二を争うアグニカだったからな……多大な評価が嬉しくないかと言われれば、それは嘘になる。

 

 いや、超嬉しい!!!!!! GMから公認を貰えた!!!!!!

 

 認められようと認められまいと、我々のやることに変わりはない。

 変わりはないのだが、それはそれとしてより多くの者たちにバエルの力を見せつけるのは誤魔化しようのない愉悦であった。

 セイギと目配せしながら心の中でサムズアップを送り合うと、そんな私たちに向かってカツラギGMが続ける。

 

「これを見てほしい」

 

 彼が指し示したモニターに、ある映像が映し出される。

 それは、何処かの──宙域のエリアの監視映像であった。

 

 だが、ただの宙域エリアではない。宙域全体をバリアのように覆っているあれは……「アルテミスの傘」か? 最近の映画で見たのが記憶に新しい。

 

「見た目はアルテミスの傘のようだが、これは違うものだ。あれは、「エリアの壁」だ」

「エリアの壁?」

「ほら、一昔前のゲームでよくあった──「※エリア限界です。※ここから先は進めません」と行き止まりになっている壁のようなものだよ」

「ああ、把握した」

「正義……」

 

 聞き慣れない単語についてゲーマー目線で解説してくれたキョウヤの補足を得て、私は映像に映っている赤く透明な壁の正体を理解した。

 フィールドとて無限ではないので仕方がないのだが、突き当たると妙に悲しくなる例の壁か……頑張って抜けようとすると奇怪なバグが発生することもあるあの。

 

「……このGBNでは、あの壁の向こうにはまだテスト中のエリアであったり未実装のエリアが広がっているが、当然プレイヤーは中に入れないようになっている。……しかし我々運営の権限があれば、問題無く入り込める筈だった……」

「筈だった? それでは……」

「ああ、今は入れなくなっている。今この映像に映っているサラミスは、定期メンテナンス用に巡回している運営チームの艦なのだが……この通りだ」

「弾かれた……」

「正義が無い?」

 

 その映像にはエリアの中に外側から入り込もうとした一隻の戦艦サラミスが、透明な赤い壁に行手を阻まれ衝撃に潰される無惨な光景が映し出されていた。

 

 運営チームの渡航をも阻むエリアの壁──それはまるで、一つのサーバが運営ではない何者かによって乗っ取られているかのような状況だった。

 

「……事実、このエリアは今、マスダイバーと思われる何者かに乗っ取られているのだ。ここにあったのはGBNの正式サービス開始と同時に廃棄し抹消した筈の、試験用エリアの一つだったのだがな……」

「貴方がたの管理権限が無かった、そもそも管理する必要が無くなっていた筈のエリアと……それがどういうことか、何者かの手によって勝手に復旧され、その手に落ちてしまったということですか」

「……お恥ずかしい限りだが、我々が通報者の情報で見つけた時には、既にこの状態だった」

 

 日々アップデートを続けていくディメンションの広大さ故に、とっくに廃棄していた筈のエリアの情報まで目が届かなかったということか。

 そして、気づいた頃にはそのエリア──「デブリエリア」はこの壁によって完全に封鎖されていたと。

 

「理解が早くて助かります……」

「君は「デブリエリア」と呼ぶのか。私としては「ホロウエリア」や「ゴーストエリア」と呼ぶのはどうかなと思っていたのだが」

 

 ああ、「ゴーストエリア」とはいい表現だな。

 デブリだと他の宙域にもたくさんある宇宙ゴミと被るから、今後はそちらの呼び名で統一するとしよう。

 

「ホロウでは駄目かい?」

「そちらもイメージはしやすいが、「ホロウエリア」というイメージは私の好きだったライトノベル原作のゲーム作品に引っ張られてな……」

「わかる。SAOホロウ・フラグメントは名作だからね……」

「そうだ……キリトさんの正義はアレにある!」

 

 フッ、流石はチャンピオン。昨今のVRMMORPGブームの先駆けとなったアレを君も履修していたか。

 我々の世代としては、このゲームのダイバーネームに「†KIRITO†」を名乗っているプレイヤーをあまり見ないのが不思議なくらいである。アレはそれほどの作品だった……

 

「わかる……! 他のゲームでは今も現役のメジャーネームなんだけどね……ガンプラバトルユーザーとなると、微妙にプレイヤー層が変わるのかな」

「……コホンッ……名称はさておき、話を続けていいか?」

「あ、はい」

 

 おっと脱線しかけたな。構わん、続けたまえ。

 

 とは言うものの、既にここまで聞いたことで話の流れは概ね理解した。

 要はあの「ゴーストエリア」に立て籠もったハッカーやマスダイバーたちを、有志連合戦線の時のように我々のガンプラの手で叩き潰そうと言うのだな?

 

「そうだ。……しかしこの壁が厄介でな。この壁自体に大量のブレイクデカールが使われており、アクセス権限の奪還はもちろん、物理的破壊による侵入も困難になっている」

「先日完成したという対ブレイクデカール用のワクチンならどうです?」

「もちろん、試した。だが……」

 

 パチンッとカツラギさんが器用に指を鳴らすと、画面の映像が切り替わる。

 映し出された映像は先ほどと同じゴーストエリア外側の様子だったが、その前方には運営の警備部隊と思われる10隻ものサラミス艦隊の姿が広がっていた。

 これはまた壮観だ。是非ともバエルで突破してみたい艦隊である。

 

「これら全ての艦の砲門にワクチン弾を充填し、一斉砲撃を行った。しかし、その結果がこれだった……」

「壁は一時的に破壊することができたが、辛うじて空けられたのはシャトルが一隻通れるか程度の穴……その穴も、ものの数秒で閉じてしまう有様と」

 

 なるほど……前に戦ったビグ・ザム並みか、それ以上のブレイクデカールが使われていると見える。

 強度はもちろん再生速度が尋常ではなく、加えて壁はアルテミスの傘と違って何らかの装置を介することなく無から展開している為、ニコル・アマルフィのように発生装置を狙うこともできない代物だ。

 

「運良く中に入れた船もあったのだが……あのエリアは入って早々にデブリベルトが全面に広がっており、突破は不可能だった。見ての通りスペースデブリに押し潰され、撃沈した」

「……これがGBN上のミッションなら、ロータス・チャレンジよりもタチが悪いですね」

 

 あまりにも固く再生速度が速いバリアに、その先に待ち構えている大量のデブリベルト。まさにクリアさせる気の無いゲームと表現するしかない映像に、私は思わず苦笑する。

 

 ブースターをつけた小回りの利くモビルスーツで突入する──という手もある。それこそ私のバエルなら単独で突破できる自信があるが、それと引き換えにある程度の消耗は避けられないだろう。

 まだあのエリアの先にはマスダイバーたちが待っているというのに、到着時点で疲労困憊では流石に分が悪い。そう考えるとそれも最善手とは言えなかった。

 

 ああ、だからか。

 

 私は隣でほえーっとスペースデブリに押し潰されていくサラミスの映像を眺めていたソウダ・セイギの姿を一瞥し、彼を名指しでこの場に呼んだ理由をはっきりと理解した。

 

 

「ええ、この映像を見た限りでの所感になりますが、我がアグニカンスピリッツの輸送船「スーパーアグニカトランスポーター」とそれを操舵するセイギの技量を以ってすれば──突破は可能です」

「……! 操舵……正義は我ッ!!」

 

 

 彼にはキラーパスのように振ってしまったが、私が微笑みかけると彼は即座にその意図を察し、頼もしく拳を振り上げた。

 自分の操舵の腕には確かな自信がある。アグニカンスピリッツのアーノルド・ノイマンと称しても過言ではない彼の技術ならば、壁の穴が再生する前に急加速で突破することも、その先のデブリベルトをユージン・セブンスタークの如く突っ切ることも可能だと感じた。

 幾つものS級ダイバーがいるGBNの中で、カツラギGMがあえて我々に白羽の矢を立てたのはそういう狙いであろう。そう訊ねると、彼は「ええ、その通りです」と肯定を返した上で改めて問い掛けてきた。

 

「引き受けていただけますか? 公的にはデバッグ作業のための臨時バイトという扱いになりますが……こちらとしては成功、失敗問わず相応の報酬の用意があります」

「我々が求めるのは最果ての先にあるアグニカン・ドリームのみ……故に、お金は要りません。ただ一つ条件を付けるとすれば、私のバエルを突入部隊に加えさせていただきたい」

「それはもちろんだ。私は貴方のことを、あのシャトルの管理者……」

「スーパーアグニカトランスポーター」

「……あのスーパーアグニカトランスポーターの管理者である以前に、キョウヤと共に戦う戦力として助力を乞う予定でした。ですからそれは条件として付け加える必要はありません。他に要望はありますか?」

 

 わざわざ協力の見返りを自分から差し出そうとするとは、律儀なのだなカツラギGMは。いや、だからこそ現場から頼りにされているのだろう。

 

 ……だが、それ故に損な性格とも言える。そんな彼から貰える報酬は何がいいか真剣に考えた末に、私が思いついたのはこれだった。

 

「では私からは一つ。これが終わったら、しばらく休んでいただきたい。貴方が倒れてしまうと、GBNが終わる気がしてならないので」

「ああ、それは僕も本当にそう思う。だからちゃんと寝てください、カツラギさん」

「そうだ……GBNの正義はカツラギにある!」

「……善処しよう」

 

 いわゆる「やることが……やることが多い……!」状態なのだろうが、貴方はアグニカ・カイエルではないのだから自分一人で何もかもを背負う必要は無いのだ。

 

 ……ハッ? まさかカツラギGMもまた、アグニカンドリームを追い求め、それ故に自らの力だけで全てを捩じ伏せようとしている……!?

 

 

「それはない」

 

 

 そうか……

 

 

 

 しかし問題はここからだ。

 

 突入メンバーをスーパーアグニカトランスポーターに積み込み、セイギの操舵を以ってマスダイバーたちの待つゴーストエリアへ突入する──方針はそれで良いとしても、スーパーアグニカトランスポーターは輸送船としては小型なシャトルだ。加速力は折り紙付きでも、搭載可能なモビルスーツの数には制限がある。

 

「何機までなら積め込めるんだい?」

「頑張っても四機が限界だな」

「四機か……まるでソレスタル・ビーイングだね」

 

 ああ、必然的に少数精鋭の電撃戦になるわけだが……そうなると今度は突入メンバーの人選が問題である。

 キョウヤのAGE2マグナムは当確として、私のバエルで残る枠は二つ。順当に考えればその枠はカツラギさんの機体とトップランカーの誰かになるだろうか。

 

「無論、私も総責任者として船には同乗するが、モビルスーツは使わない。マスダイバーとの戦いが不慣れな私よりも、その枠は他の者に使ってほしい」

 

 ……そこをシビアに考えてくれるのは、我々としては有り難い話だ。

 カツラギGMが辞退となると、残るは二枠か。さて、より取り見取りなGBNの有志たちの中で、誰を選抜するのか見物だなチャンピオン殿?

 

「ふふ……有志連合の時のように私が人選を決めていいなら、一人はまずロンメル大佐を誘おうと思う」

 

 ロンメル大佐か……この上なく順当な人選だな。

 確かにキョウヤに次ぐ№2の実力者であり、マスダイバーとの戦闘経験も豊富な彼ならば頼もしい限りだ。

 

「では、最後の四人目にはリク君はどうだ? そも前回の戦いの功労者という点では、私よりも適任だと思うが」

「ああ、私もそう思ったのだけど……彼はまだ学生だからね」

「ふむ……そうか」

「それに……」

「それに?」

 

 確かにまだ学生の時分である彼を、今回の件に駆り立てるのは常識に反する行いではある。候補から外すのは極めてまともな判断だろう。

 ……しかし何故か、この時の私にはそれだけが彼を誘わない理由とは思えなかった。

 それは本当に何となく感じた違和感であったが──ほんの僅かに言い淀むこの時のキョウヤの目が、困ったようにカツラギGMを一瞥したように見えたのだ。

 

「……いや、ゴーストエリアはGBNにとって、言わば裏側のエリアだ。そんなところにあの子を招くのは、遊園地で遊んでいる子供をマスコットの更衣室まで案内するような行いに思えてね」

「なるほど、確かにあどけない少年の夢を壊す愚行だな」

「散々巻き込んでしまって今更ではあるのだけど、デビューしてからずっと不正ユーザーやトラブルに関わってきた彼には、今後はGBNを遊びとして、心から楽しんでほしいんだ」

「立派な心意気だな。ふっ……そういうことにしておこう」

「……感謝する」

 

 大人の意見として、至極まともな不選理由に一応の納得をしておく。

 しかし、何だろうな。私がリク君の名前を挙げた瞬間、表情を伏せたカツラギGMから感じた違和感は……私はニュータイプではないので言葉にしてもらわねば何もわからないのだが、どうにも彼からはリク君に対して何か……そう、疑いだ。何かを疑い、信じ切れていないような雰囲気を感じた。

 

 何を疑っている? ……まさか……アレか。

 私が彼にアグニカ・カイエルを見たあの時の力──ブレイクデカールの力を鎮めた不可思議な「光る翼」のことか。

 

 

「……GMは、彼のことを不正ツール使用者と疑っているのか……?」

 

 

 単刀直入に、小声でキョウヤに訊ねると彼は困ったように笑って返した。

 

「そういう意味で疑っているわけではないと思うけどね……ただ、詳細が全くわからないあの「光る翼」のことは、今後何が起こるかわからないと慎重になっているみたいだ」

「ゲームマスターさえも恐れさせるとは……流石だな、リク君」

「ああ……流石だよね、リク君」

 

 流石は私が見込んだアグニカンスピリッツの持ち主である! 常識の枠に収まりきらないからこそ、私もチャンピオンも彼の輝きに脳を灼かれているのかもしれないな。

 そういうことならば逆に、あえて彼を誘ってカツラギGMのこともリク君のファンにしてしまうのも一向にアグニカンだと思うが……最初にキョウヤが言った通り、学生の彼を無闇に巻き込むことはできないのは道理である。彼の方は、後で知ったら水臭いと思うかもしれないが。

 

 

「……すまないが、突入メンバーについてだが……最後の一人は既に私の方で話が決まっている」

「えっ、そうだったんですか?」

「そのダイバーはこのエリア──ゴーストエリアのことを私に報告し、ブレイクデカールの解析も手伝ってくれた民間協力者でな……今は(・・)トップランカーではないが、実績は保証する。丁度今、この場所に着いたそうだ」

「それはいいですね! では、突入メンバーは決定と」

 

 

 私がキョウヤと話している間妙に静かだと思ったが、カツラギGMは先ほどまでその人物とメッセージのやりとりをしていたらしい。

 

 

 ──そして噂をすれば、早速その人物が来訪してきたようだ。

 

 この業務用ルームのパスを空けて開いたその扉から──件のダイバーは姿を現した。

 

 

 その口に咥えたハーモニカを、何故か華麗に吹き鳴らしながら。

 

 

「む……この去り際のロマンティクスは……!?」

 

 

 会議の場にはあまりに不釣り合いな味のある音色に、私は思わず椅子から立ち上がって目を見開き、カツラギGMは寝不足が響いたのか頭を抱えながら下を向いて蹲った。

 

 

「……何故……ハーモニカの音が聴こえる……?」

 

 

 誰だか知らないが、公開されたばかりの機動戦士ガンダムSEEDの映画主題歌をハーモニカで演奏しながら入室してくるとはエラいハリキリダイバーがやって来たな!

 初対面だが、私はすぐに君と打ち解けられそうだぞ。ナイスアグニカ!

 

 そうテンションが跳ね上がり、踊るような気持ちでその入室者を出迎えようとした私は──その人物の思いがけない正体を確認した途端、思わず言葉を失った。

 

 

「……シオン……か……?」

 

 

 私よりも頭二つ分小さいその姿に対して、失礼ながら見下ろすように目を向けると──そこに佇んでいた白銀色の髪の女性(・・)が、演奏を終えるなりハーモニカを口元から外し、私の姿を静かに見据えた。

 

 

「お久しぶりですね……マッキー先輩」

 

 

 入室した四人目の突入メンバー……それは私の高校時代の模型部の後輩であり、幾ばくか前にこのGBNで熱き決闘を繰り広げたダイバー「サティス・F・シオン」。

 そのリアルの姿である「あの頃の彼女」と、全く同じだったのである。

 

 

「……なぜ、ハーモニカを、吹きながら、入ってきたのだ……!?」

「カツラギさん……辛そうなので本当に横になってください。後は僕が引き継ぐので……」

「……ああ、すまないが頼むキョウヤ。……ディメンションの中なのに、何故かこの場所が西部劇の街中に変わる幻覚を見た……!」

「お労しい……今日はゆっくり休んでください、カツラギGM」

「……セイギ君、普通に喋れたんだね」

 

 

 ──それは、さしもの私も、セイギさえも予想外の再会だった。

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