バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
今回の事件──仮に「ガンプラデータ強奪事件」と呼んでおこうか。意味合いとしては「盗難」や「盗用」の方が正しいのかもしれないが、「強奪」の方が何となくガンダムらしいからな。フリーダム強奪事件よろしくその言葉だけで何となく何が起こったのか想像しやすいのが良い。
その被害に遭ったのは、GBNを引退し、削除されたアカウントに紐付けられたガンプラのデータだとカツラギGMは言っていた。
そしてここに集まった五人の中には、丁度その立場に当てはまる人物がいた。
「なるほど……シオン、君もガンプラのデータを盗まれた被害者だということか」
「……ええ」
今はただのシオンだが、彼女はかつて「サティス・F・シオン」という名のアカウントを持っていたダイバーである。そんな彼女は心境の変化からかつてのアカウントを削除し、心機一転して今のアカウントを作り直した身である。
事情はともかくとしても、彼女のように元々持っていたアカウントを一度削除して作り直すプレイヤーは他のゲームでは珍しくもなかろうが、このGBNではそう多くはないだろうというのがキャプテン・ジオンの見解だった。
「いわゆるガチャ要素の無いこのGBNでは、リセマラ目的でアカウントを作り直す必要も無いからね。アバターを変えるにしてもわざわざ今のアカウントを消す必要は無いし、引退から復帰したプレイヤーには元々アカウントを消していなかった者も多い」
GBNはアカウントの数だけ月額料金を取るということもないからな。だからこそリク君たちのような学生でも気軽にプレイすることができるし、それこそ引退したプレイヤーも丁寧に自分のアカウントを削除してから離れた者はそこまで多いわけではないのかもしれない。
だからこそ被害を受けたのは彼女のような復帰前提でアカウントを消したプレイヤー……ということか。
「しかし君の
GBNの中で発生したガンプラ強奪事件はあくまでもGBNという仮想現実の中でのこと。ここで盗まれたことがリアルに影響することはもちろん無く、それ故に今回の事件の発見が遅れたとGMは言っていた。
それならば今のシオンにも盗まれたガンプラを再度扱うことはできる筈なのだ。しかし彼女の現在の愛用機体に設定されているのは101.5ガンダムではなく「デュエルデスガンダム」というガンプラ──その意図が、私には読み取ることができなかった。
そんな私の問いに、彼女は不機嫌そうに眉をひそめる。
「この機体では不足ですか?」
「いや、そういう意味ではない」
おっと、機嫌を損ねたか。これは私の言い方が悪かったな。すまない。
「このデュエルデスガンダムという機体の性能が101.5ガンダムに劣っているとは思わんよ。ただこれを見た限り、機体特性がかつての君の得意戦術と正反対なのが気になってね」
「? 私から見るとこの機体、万能な高性能機という感じで無駄の無い完成度だと思うんだけど、シオンさんの得意戦術とは?」
「大量のビット兵器を扱った手数で圧倒する戦術だな。私とは対を為す戦闘スタイルが彼女の持ち味だ」
「なるほど……そうなるとこのデュエルデスガンダムは全く別の設計思想に見えるね」
デュエルデスガンダム──その機体はキョウヤが言った通り「万能な高性能機」という評価が最も当てはまるガンプラであった。
名前通り、「GAT-X102 デュエルガンダム」をベースとした機体に死神のような意匠とおどろおどろしいカラーリングが施されたこの機体の印象は、全身に武装が仕込まれていたかつての愛機
というのも、この機体には二種類の武器しか搭載されていないからである。
メイン武装にはサイドスカートにそれぞれ一挺ずつ搭載された「M8F-SB1 ビームライフルショーティー」。同SEEDシリーズの外伝主役機「ストライクノワール」の愛銃として有名な短銃型のビームライフルは、射撃武器でありながら敵機との格闘戦でも邪魔にならないコンパクトな取り回しが持ち味の武装である。
それと頭部のバルカン砲「イーゲルシュテルン」だけがこのデュエルデスガンダムに搭載されている武器であり、オフェンス面で言えばビームサーベルすら持っておらず、改造元のデュエルガンダムよりもシンプルであった。
尤も、攻撃に扱う武器がその二種しか無いというだけで、幾つか特殊な兵装を積んでいるのは彼女らしいがね。
「具体的に、どこが私らしいんですか?」
真っ先に目を引いたのは、デュエルデスガンダムが羽織っている赤いロングコートのようなマントだな。これにはアンチビームコート「ABCマント」が扱われており、フェイズシフト装甲の弱点であるビーム攻撃をケアしている。
そして何より恐るべきはこの機体にはデュエルと同じGATシリーズから、ブリッツガンダムの「ミラージュコロイド・ステルス」が搭載されていることだろう。
その隠密性を以って敵の背後に忍び寄り、脳天に突きつけた拳銃の一撃で刈り取る──まさに死神の銃、「デスガン」と言った設計思想である。
目的を達する為には確実に急所を撃ち抜ける銃が二挺あれば十分という考えは、得物は違えど剣二本で戦うバエルに通ずる部分があり、正直に言ってしまうと101.5ガンダムよりも私好みなアグニカポイントの高いデザインだと思った。
「そ、そうですか。アグニカポイントは要らないです。……ふふっ……」
煽てたわけではないのだが、機嫌を取り戻してくれたようだな。
ああ、デュエルデスガンダムは機動性も高水準で101.5のそれにも劣っていない。故に君がこれを乗り回すことに文句は無い……が、疑問はある。
君は101.5ガンダムのことをかなり気に入っていたと思っていたのだが、あれを今回の作戦に持ち出さない理由は何だ?
ロンメル大佐が自分よりキャプテン・ジオンを適任としたように、多数のマスダイバーを少人数で相手取ることが想定される関係上、素人目にはテクニカルなデュエルデスガンダムより101.5ガンダムのパワーデュエルの方が適任だと思うのだが。
「ナチュラルに自分のバエルを棚上げするのはムカつく……ですが、それを含めて皆さんに伝えておくことがあります。特にチャンピオン」
「私に?」
思った通りと言うべきか、今回の戦いに最適な101.5ガンダムを使わないことには理由があるようで、シオンは神妙な態度で一同に告げた。
「今回、私たちが挑む敵には──ビット兵器が通じません」
それはバエルやデュエルデスガンダムの武器の如く、あまりにシンプルな理由であった。
その日のブリーフィングからそう多くの日を跨がずして、作戦は決行日を迎えた。有志連合戦の時と同様に、相手に準備時間を多く与える前に決着をつけたいというカツラギGMの判断だろう。
そのカツラギGMだが、無事睡眠を取ってきたことで本日は万全な状態で総責任者の席に君臨していた。そしてそんな彼がいるのは我らが母艦スーパーアグニカトランスポーターの艦橋である。
《カツラギさん、全サラミスの配置完了しました》
「ああ、追って指示を出す。それまで待機してくれ」
《了解です》
運営のサラミス艦隊が広がる中、それらを従えるように駐留する我らのスーパーアグニカトランスポーター。バエルではないが、その光景には湧き立つ感情を抑えられない私がいた。
「ではカツラギGM、我々も出撃準備に入ります」
「ああ、頼む。私から必要な指示を送ることもあるかもしれないが、基本的には現場の裁量に任せる……存分に見せてくれ。アグニカ・カイエルの理想を」
「! 拝命した」
ふっ……カツラギGMめ。貴方は合理的な人だ。出撃前にそう言っておけば、私のコンディションが磐石になることを理解した上でかけたようだが……その通りである。
これは言っても良いことがなかったからあえて口にしなかったが、私はキョウヤやキャプテン・ジオンほどGBNを愛しているというわけではないし、不正ダイバーに対して然程強い義憤に駆られたというわけでもない。いや、確かにそういった感情も無いわけではないが、私がこの作戦にこうも乗り気になっている理由ではなかった。
私は、そう──アグニカしたいのだ。盛大にバエたいのである!
マスダイバーの残党を人知れず四人のモビルスーツ隊で葬る! その行為が私の魂を荒ぶらせ、シオン風に言えばさらなる満足に導いてくれる。
私は徹頭徹尾バエルの都合しか考えていない。つまり私は、マスダイバーと戦う状況を利用してアグニカするのだ。
その上で、この「ガンプラデータ強奪事件」を解決することが被害者の一人である後輩を助けることにつながるのなら、私のモチベーションが高まる理由としては出来すぎていた。
そしてそれは、彼らも一緒であろう。
「平和と秩序の番人たるゲームマスタ──―それは、GBNプレイヤーの面々が楽しいゲームを享受するための、都合の良い中間管理職に過ぎなかった! カツラギGMの休息を阻害せんと企むマスダイバーたちを、今こそ我々の手で浄化するのだ! 立ち上がれ! 同志たちよ!!」
《バエルだ!》
《アグニカ・カイエルの魂!》
「そうだ……GBNの正義は我々にあるっ!!」
スーパーアグニカトランスポーター艦橋の操舵席には予定通りソウダ・セイギが、そして艦長席にはロータス・チャレンジの時と同じようにライザップが座っていた。
実家のような何とやらという奴だが、彼らをこの場に呼び出したのはその方が安心して船体を動かせるからというセイギからのカツラギGMへの進言である。
GMとしては今回の件について多くの一般プレイヤーに触れ回るのはいただけないが、それでこの船の性能を最大限発揮できるならと許可してくれたのだ。
こうなるとイッシーも連れてきたかったところだが……彼とはまだ連絡がつかない。私からも一応メッセージは送っておいたのだが、アレも大概いじっぱりな奴だからな……おそらくは私のバエルと並び立つ自信を取り戻すまで、彼は戻ってこないつもりなのだろう。
やむを得まい。それもまたアグニカだ……そんな頼れるフォースメンバーたちの姿に苦笑しながらハンガーへと向かった私は、そこに佇むバエルのコクピットへと乗り込んでいった。
ガンプラへの搭乗手段は自身を起点に変身ヒーローのように粒子から変換したり、キャプテン・ジオンのように機体と融合するような演出で乗り込んだりと色々とあるが……私としてはこうして直接開けたコクピットに乗り込む方が好みだ。
それにはせっかく実機のコクピットを細部まで作り込んだのだから……と言うのもあるが、やはりこうして無重力から跳び上がった先のコクピットハッチに自らの手が触れた時、モビルスーツの巨大感をその身で直接味わえるのが何度味わってもたまらないものなのだ。
君もそう思うだろう?
「さあ、目覚めの時だ……」
そのまま機体に乗り込んだ私がハッチを下ろすと、私のガンダム・バエルが展示モードから操縦モードへとシームレスに切り替わっていく。
起動した際のモニターまで完全に原作のバエルを再現してくれるのは、そのガンプラを極限まで作り込んだ者の特権──いわゆるフル改造アグニカボーナスという奴であろう。
《アグニカ要ります?》
我々にある!
《AGE IIマグナム、こちらの準備はOKだ》
《キャプテン・ジオンがジオンガンダム、アナハイム・フュージョン完了!》
《あ、私もデュエルデスガンダム、準備できました。……しょうがないけどぎゅうぎゅう詰めですね》
「それは我慢してくれ。このスーパーアグニカトランスポーターのハンガーは三機までの運用が基本なのでね」
《一人だけ機体が大きい私のせいだな。すまない……》
《……いいですよ。一度だけ乗った、満員電車って奴よりはマシですから》
《……? 一度だけ?》
《先輩がいなかったら圧死してました……もう二度と乗らない……》
私のバエルが立っていた横にキョウヤのAGEⅡマグナム、キャプテン・ジオンのジオンガンダム、シオンのデュエルデスガンダムと次々に展開されていき、ハンガー内は満杯となる。
特にキャプテン・ジオンの機体が最もスペースを取っていた為に彼がマスクの上から器用に肩身の狭そうな冷や汗を流していたが……確かにシオンの言う通り、都会の電車よりはマシだろう。
だがよく覚えているな、そのような些末事。あの頃、身体の小さかった彼女は生まれて初めて乗ったという電車がトラウマになっていたな……今の言葉であれ以来乗っていないことがわかって、私としては安心するべきなのか苦笑すれば良いのかわからないものだ。
しかし、なんだ。満足を求める彼女が、満員電車は大の苦手というのは……
《笑うな》
さて、雑談に心を落ち着けた後、私はサブウインドウに表示した艦橋との回線に報告する。
「モビルスーツ隊、総員準備整いました。はじめてください。カツラギGM、ライザップ艦長」
《了解した》
いよいよ作戦開始の時が来た。
艦長ライザップ、操舵セイギ、ゲストカツラギ。Gジェネレーション風に言うとそのような配置となったスーパーアグニカトランスポーターの艦橋にて、本作戦の総責任者であるカツラギGMが他の艦に向けて、高らかに命じた。
《これより「クラッシュエリア解放作戦」を開始する! サラミス、一斉砲撃放てーッ!》
前方に広がる薄ら赤い障壁、エリアの壁──ガンプラデータ強奪事件の主犯ハッカーやマスダイバーらが潜伏しているとされるその「クラッシュエリア」の防護壁に向けて、サラミス艦隊から放たれた景気の良い砲弾が次々と爆音を上げて突き刺さっていく。
シオンから提供されたブレイクデカールの現物をもとに運営チームが開発したと言う、対ブレイクデカールのワクチン弾。その効果の程は確かであり、我々のガンプラのスロットにも何発か拝借されていた。
《クラッシュエリア? イメージとしては悪くないが、ゴーストエリアと呼ぶのではなかったのかね?》
《昨日まではそうだったんだけど、今日クラッシュエリアに変わった。カツラギさんの鶴の一声だったよ……どうにもこの作戦が成功する夢を見たらしく、その時のエリアの名前がそれだったらしい》
《験担ぎって奴ですね……いいんじゃないですかクラッシュエリア。私にはこっちの方がしっくり来ます》
私にも不思議としっくり来る。
虚ろなエリアや幽霊のエリアよりも直接的な表現になるが、運営的には「破損したエリア」と呼んだ方が後でこのエリアのことを外部に説明する時に便利そうなのもグッドだろう。
対外的には、この作戦は破損データのメンテナンスという扱いになるからな。私たちは識者として雇われたデバッグ作業のバイトである。
……ただ、何となくだが私はこのエリアの名前が今後も何度か変わる気がしてならなかった。そうだな。事態が終息したら私のバエルの活躍にあやかって「アグニカエリア」と呼ぶのはどうかな?
《絶っっっっっっ対に嫌です》
《ああ、その理屈だと作戦が終わった後には「キャプテンジオンエリア」になってしまうからね!》
《えっ、やだ》
《……真顔で否定しなくても……》
《それなら「マグナムエリア」の方がいいんじゃないかな?》
《大人気ないぞキョウヤ! 君はチャンピオンの特権をたくさん持っているのだから、今回は他に譲りたまえ》
《……いえ、お二人より私が活躍するので、あのエリアは「シオン公国」になりますね!》
《どうぞどうぞ》
《良き名ではないかシオン公国》
《コイツら……!》
ふっ、シオンの奴もすっかり他のメンバーと打ち解けたな。恐るべきはチャンピオンとキャプテンのコミュニケーション能力と、シオンの成長である。しかしシオン公国のセンスは私も嫌いではないぞ。ガンダム要素が強いネーミングなので真面目に有りだと思う。
《冷静に批評しないでください……》
ともあれ作戦が終わった後のあのエリアの扱いはカツラギGMの仕事として、それは勝ってからの話だ。
我々は何としてでも成功させなければならない。必ず勝つぞ。そして……
「取り返すぞ、君のガンプラを」
《……はい》
盗まれたのはデータとは言え、もしも私のバエルのデータが何者かに盗まれたと想像するとその時は私も冷静ではいられないだろう。手塩にかけて作り上げたガンプラを奪われるというのは、ビルダーにとっては命や魂を奪られるに等しい。到底許し難い蛮行だ。
キョウヤやリク君なら、真っ先にその義憤に駆られるところなのだろうがね……やはり私の本質は、バエルを通さなければ人並みの怒りも感じない人でなしの男なのだろう。
《そんなこと、ないです……》
おっと……今、揺れたな。
スーパーアグニカトランスポーターが加速に入るようだ。各員、出番は近いぞ備えておけ。
《准将、サラミス艦隊による壁の破壊を確認しました! 直ちに突入します!》
「頼むぞ諸君、全速前進だ」
《操舵! 正義!》
運営チームのワクチン弾によりブレイクデカール製の壁を一時的に破壊。そこから再生される前に、スーパーアグニカトランスポーターの加速力でこじ開けた穴を突破する──その作戦が狙い通り進行していることを、ライザップがハンガー内故に状況の見えない私たちに逐一報告してくれた。
本当ならそれは艦長ではなくオペレーターの仕事なのだがね……残念ながらそれが出来るイッシーが現在不在な為、彼に兼任してもらうほかなかった。
《距離2000……1000……壁、突破しました!》
《おお!》
壁が再生する前に全速力を以って突破してみせたスーパーアグニカトランスポーターの性能に、艦橋のカツラギGMから歓声が上がる。
《流石はロータス・チャレンジを攻略したシャトルだ!》
《でも、問題はここからでしょう?》
ああ、ここまでは既定路線である。何せ最高の艦を最高の操舵手が動かしているのだからな……やってもらわねばというところだ。
そして無論、ここからも!
《前方にデブリ
《そ……そうだ!》
《頼むぞセイギ君!》
《操舵の正義は君だ! やり遂げるんだ! 君こそが、GBNのNEWヒーロー!》
《が、頑張れー!》
壁を越えた先の向こうにはデブリ帯が広がっている──その状況もまたブリーフィング通りだったが、ここは艦の性能以上にソウダ・セイギの操舵技術に掛かっていた。故に、一同は各々のコクピットから彼に熱い声援を送っていた。
何度となくハンガー内が大きく揺れ動き、シオンから小さな苦悶の声が漏れる。ガンプラに乗り込んでいる間は受ける震動も少なくなるのだが、それでもなお殺しきれぬほどにデブリ帯内の航行には多くの衝撃が生じていた。
《……マッキー、そろそろ行くか!?》
「まだだ」
《だが、この感じでは持ちそうにないぞ!》
「まだだ!」
船体が軋む音が大きくなるに連れて、次第にキャプテンたちからも焦りの声が聞こえ始める。
確かに艦がデブリ帯を突破するまで持たないなら、突破を待たず我々が出撃するというのもサブプランの一つだ。
だが、私の両手はまだバエルの操縦桿を握っていなかった。
それは私がまだスーパーアグニカトランスポーターも致命傷を受けていないことを理解しており、尚かつセイギの操舵なら絶対にデブリ帯の向こうまで我々を届けてくれると確信していたからである。
《……信じてるんですね、彼を》
「当然だ。私の同志だからな」
そんな全幅の信頼に対して、感心した様子のシオンの声を受けて私は迷い無く言い返す。
そうとも、彼とてアグニカ・カイエルの魂に導かれた我がアグニカンスピリッツの同志だ。今までガンプラバトルでの活躍こそ目立っていないものの、その技量には確かな正義がある。
バエルを持つ者として……私にはそんな彼が積み重ねてきた努力や献身を、否定することなどできなかった。
それに──
《だ、駄目です! きょ、巨大な隕石が前に……!?》
《マッキー!》
《カツぅぅぅぅー!!》
大丈夫だ、諸君。
この作戦をより確実なものとする為に、彼が──彼らがいる。
そうだろう? 仲良し四人組!!
《バエルだ!!》
《アグニカ・カイエルの魂!!》
《そうだ……ギャラルホルンの正義は我々にあるぅ!!》
仲良し四人組だと?──とキャプテン・ジオンの声が上がる。
そう、この艦にはもう一人、否、もう四人のメンバーが同行していた。それがアグニカンスピリッツが仲良し四人組の一同である。
セイギが同行を頼み、カツラギGMが許可したその四人の姿は艦橋には無く、彼らには賑やかしだけではなく大事な役割があった。
──それは、彼らの会得した「必殺技」である。
《……そうか! 彼らの必殺技なら!》
キョウヤがその意図を理解し、私が頷く。
そしてハッと自分がやるべきことに気づいた艦長のライザップは、バサリと軍服のコートを振り上げながらその指を高らかに前へ突き出して告げた。
《アグニカン・アーマー! 発動! 承認!!》
そんな彼の指示に従い──スーパーアグニカトランスポーターの艦船にこれまで張り付いていた仲良し四人組のリーオーが、金色に光り輝いた。
《いつの間に……》
《えっ、今まであの揺れの中、ずっと張り付いてたんですか……?》
当然だろう。仲良し四人組なのだから。
ハンガーには入れない以上、彼らのリーオーは最初から外に張り付いておくしかあるまい。そして彼らの必殺技「スピリッツ・コネクト」は、その機体で張り付くことにこそ大きな意味があるのだ。
《……どういう意味ですか?》
《説明しよう! 仲良し四人組の必殺技の名は「スピリッツ・コネクト」。それは、複数のガンプラの魂を一つにすることで、一定時間自身と密着した機体の装甲強度を爆発的に上昇させる最硬最後のフィニッシュムーブであるッ!
発動条件として自機以外の機体と密着する必要があり、発動終了後には自壊してしまうデメリットがあるが……発動中のリーオーと密着対象の装甲は、あらゆる攻撃を受け付けぬ絶対防御を発揮する──のだったな》
《……やっぱり私、GBNの自由さが苦手です》
《ガンダムシリーズでも割とあるではないか》
《そうですけど……!》
彼ら仲良し四人組の必殺技概要について、実にイイ声で説明してくれたキャプテン・ジオンに30アグニカポイント進呈しよう。
そう……彼ら仲良し四人組の配置はひとえに彼らの必殺技「スピリッツ・コネクト」の効果を、このスーパーアグニカトランスポーターに対して適用する為であった。
《ロータス・チャレンジでも見せた、アレを使うのかい?》
「ああ、どちらかと言えば、今回の「防御力バフ」と言った使い方が本来の形なのだがね」
あの時は彼らの必殺技で爆発的に硬度を上昇させたこの艦を強引に巨大バエルソード「アグニカン・スラッシャー」とすることで、ロータス要塞ラビアン・クラブを叩き切る戦略兵器級の一撃として扱ったものが……恐らくシステムサイドが想定していた本来の運用は、誰かの盾となる為の純粋な防御技なのだろう。
そしてその効果を、今まさに不可避の隕石群と衝突しようとするスーパーアグニカトランスポーターの装甲強化に使った──というわけである。
しかしそれには、失うものがある……
「ここまでよく私についてきてくれた。君たちの犠牲は決して無駄にしない……先に逝って、待っていてくれ」
《バエル……》
《アグニカ……》
《カイエル……》
《魂……》
魂……
コクピットの中からモニター越しに敬礼した私に続いて、キョウヤ、キャプテン・ジオン、ライザップが敬礼の構えを取る。皆、彼らの信念を己の魂を以って理解した漢たちであった。
《……これがアグニカンスピリッツ……先輩の、今のチームってわけですか……》
そういうことだ、シオン。だからこそ私はあの時君のフォースに行くことができなかった。
今更だがすまなかったな。それと、あの時誘ってくれたのは素直に嬉しかったよ。何故か君のアバターがああだったことには驚いたがね。
《そうですか……いいですよ、私はデキる後輩なんで許してあげます》
──というわけだ。今も私は、良き仲間に恵まれている。
その点に関してだけはきっと、マクギリス・ファリドにも負けていないと断言できるつもりだ。
《……アグニカンスピリッツの仲良し四人組が身をもって隕石の衝突を防いでくれました……しかし、しかし仲良し四人組は……!》
悲しみを押し殺したような艦長ライザップの言葉を受けて、私は心の中で合掌し黙祷を捧げた後、操縦桿を握る。
彼らが切り拓いてくれた道だ。私たちをここまで送り届けてくれた彼らの為にも、この作戦は絶対に失敗できなくなった。
「揺れがおさまった……いよいよだぞ、皆」
《デブリ帯を抜けた、ということだな》
《仲良し四人組……惜しい人たちを亡くしてしまった》
《……まあ、面白い人たちでしたよ……最後までご一緒できなかったのは残念です》
《バエルだ!》
《アグニカ・カイエルの魂!!》
《生きてる……!?》
それは生きているだろう。ここは戦場ではなくガンプラバトルなのだから。
必殺技のデメリットでリーオーは自壊しロストしてしまったが、彼らはスーパーアグニカトランスポーターの艦橋に無事リスポーンできたようだ。そのあたりの仕様はこの未知のエリア「クラッシュエリア」でも変わらないようである。
だが、好都合。身を挺して艦を守ってくれた褒美として、バエルとトップランカーたちのコラボレーション──とくと目に焼き付けるがいい!
《魂!!》
《魂!!》
それから程なくして、我々の視界に淡い星々の光が射し込んできた。
スーパーアグニカトランスポーターのハンガーと直結しているハッチが今、開かれたのだ。
輸送艦としての彼らの役割はこれで仕舞い。ここからは──我々の出番だ。
《進路クリア。准将、発進どうぞ!》
《……頼んだぞ》
了解。ガンダム・バエル、マッキー出る!
外から見るスーパーアグニカトランスポーターの船体は、思っていた以上に傷だらけの有様だった。
ここまで敵の攻撃は無かったものの、デブリ帯を抜けるのは下手な大隊を相手にするよりも過酷と見受ける。その役目を全うした母艦に感謝の意を捧げながら、バエルに続いて他の三機も追従していく。
狭いハンガーからようやく出てこれた喜びか、心なしか彼らのガンプラも開放感に溢れている気がした。
そんなガンプラたちのコクピットの中で、戦士たちはこの戦いに寄せるそれぞれの信念を胸に、思い思いに呟いていた。
「チャンピオンとして、GBNを愛する一人のダイバーとして……私は戦う。このAGEⅡマグナムで」
一人は、GBNの象徴たる使命感と持ち前の正義感を胸に。
「キャプテン・ジオンはゲームマスターではないが不正行為を許さない。力無き者たちに変わって、この世界を脅かす悪を討つ」
一人は、戦えない者たちに変わって悪を討つ慈悲と峻厳の心を胸に。
「……待ってて、ワンハンドレッド・アイズ……今、助けに行く……」
一人は、奪われた自らのガンプラのデータと向き合う恐れと、贖罪の心を胸に。
そして──
「バエルゥ……」
バエル。
高尚な思いを掲げる実力者たちを束ねる隊長殿は、この状況でもただ一人平常運転であった。
だが、それぞれが別々の信念を持てども、彼らが今このGBNを守る為に行動してくれているのは同じである。そこに頼もしさと少々の不安を抱えながら……スーパーアグニカトランスポーターのゲスト席に座るゲームマスター・カツラギはダイバーたちの発進を見届けて告げた。
「ミッション・スタート!」
そんな彼もまた、一人のゲーム好きとして、ガンプラバトル好きとして──この戦いに対して仕事の範疇を超えた思いがあることを、決して否定しなかった。
ブリーフィングだけで結構話数がかかりましたが戦闘開始魂
というわけでクラッシュエリア編スタートです