バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
抹消された筈のエリア、「クラッシュエリア」。
このGBNが正式サービスを開始するよりも前、試験用のエリアとして作られたそこは原作ガンダムシリーズの世界観を完全に再現しているGBNの宇宙とは違い、異質な雰囲気を纏っていた。
モニターの先に広がる漆黒の宇宙の各所はテクスチャーが剥がれ、ポリゴンが剥き出しになっており、輝く星々は「機動武闘伝Gガンダム」に登場するスペースコロニーよりも直接的に、廃墟や海、空、陸地のエリアが不規則的に浮かんでいた。
作戦前には「遊園地の裏側」のような場所とキョウヤは形容していたが、まさにその通りの印象である。お化け屋敷として扱うには些か稚拙に過ぎ、アトラクションとして扱うにはどうにも薄気味悪い。
ただ、このエリアにおける最大の光源として真っ赤な光を放っているあの月──三日月ではなく、物理的に真っ二つに割れている赤い月のデザインは、これはこれで退廃的なダークファンタジーRPGのようで悪くない雰囲気だと思った。
《なんだ、これは……》
《カツラギさん?》
《……各員、気をつけてくれ。このエリアはかつての試験エリアとはまるで別物だ》
「やはりか」
思った通り、この景色はカツラギGMが知る本来のそれとは違うらしい。
一応参考までにとカツラギGMからはブリーフィング時にテストエリア時代のマップ情報を貰っていたが、開始早々にそれが当てにならないことを我々は理解した。
尤も我々は四人とも、その程度のイレギュラーに動じるダイバーではない。
《思っていたより静かだね……》
《町の中にはギャラルホルンもいないし、本部とは偉い違いだ》
《縁起悪いからやめてください》
「カツラギGM、敵の居場所は?」
《今捜索中だ。有志連合戦の時と同じなら、ブレイクデカールの反応が最も強い場所が怪しいが……》
《もっと奥の方を捜す必要があるようだ》
事件の主犯と思われるブレイクデカールの反応は、スーパーアグニカトランスポーターにいるカツラギGMの端末から追えるようになっている。そういう意味でも、我々の艦がデブリ帯の中で撃沈しなかったのは大きい。
嵐の前の静けさを思わせる静かな宇宙を飛翔しながら、我々は周囲の警戒に当たっていた。
その時である。
《……なら、アイツらに訊いてみましょう》
バエルのセンサーが複数の熱源を検知する。
待ちくたびれたと言いたいところだが、ようやく敵がお出ましのようだ。
数は4。丁度我々の頭数と同じである。
《キャプテン・フラーッシュ!!》
挨拶代わりの先制パンチを仕掛けたのは、我々の中で最も射程距離の広いキャプテン・ジオンのジオンガンダムだった。バックパックから射出した二基の内、片側の「手」から五門のメガ粒子砲を照射していく。
小惑星群から飛び出してきた四機の機影は散開してそれを回避すると、群れからはみ出た一機がお返しとばかりにビームを撃ち返してきた。
《む、狙撃タイプか》
無論、それに捕まるキャプテン・ジオンではないが……あちらの射程も大したものだ。
その正体を直に確かめる為、私はバエルのスラスターを加速させ一気に接近していった。
「キャプテンはそのまま狙撃手を頼む。その隙に、私が斬り込む!」
《OKボス!》
そうしてすれ違い様に振り抜いたバエルソードの一閃を──横合いから割り込むなり、右腕の大剣で防いでみせたトリコロールカラーの機体の姿に驚く。
このフォルムはエクシア……? いや、違う!
「ウィンダムだと!?」
私のバエルと剣を交えたその機体は、「機動戦士ガンダムSEEDDESTINY」でお馴染みの量産MS……この間見届けた映画では冒頭にてシリーズ一の活躍を披露した「GAT-04 ウィンダム」だった。
一機だけではない。現れた四機のガンプラは、四機とも各々に特別な改造が施されたウィンダムである。
《あれは……ウィンダムマイスターズのガンプラ!》
《ウィンダムマイスターズ?》
「知っているのかキャプテン・ジオン!」
《ああ。GBNのサービス開始初期に活躍していたS級フォースのガンプラだ。メンバーは皆ウィンダムをこよなく愛し、それぞれの性能に特化した特別なウィンダムを操る優秀なダイバーだったのだが……一部のメンバーの不正行為が発覚した後、自主解散しGBNを引退してしまった》
なるほど、つまりは引退したかつての名フォースということか。
名前の通り、各々のウィンダムには別シリーズのガンダムを連想させるチューニングが施されていた。
大剣を持ったトリコロールのウィンダムは、近接タイプのウィンダムエクシア。
スナイパーライフルを携えた緑色のウィンダムは、狙撃タイプのウィンダムデュナメス。
羽の付いた橙色のウィンダムは、高機動タイプのウィンダムキュリオス。
MA級の砲門が付いているデカブツのウィンダムは、ウィンダムヴァーチェと言ったところか。
《ブレイクデカールの反応が検出された。気をつけろ、その機体はマスダイバーだ》
《やるな! どれもいい機体だ!》
AGEⅡマグナムと高速戦闘を繰り広げるウィンダムキュリオスの姿を尻目に、ウィンダムヴァーチェの援護砲撃を潜り抜けながら私はウィンダムエクシアと切り結んでいく。
このパワーとスピードはブレイクデカールによる上昇もあるのだろうが……それと関係なしに、元となったガンプラの完成度が高い。四機とも良い性能をしているな。
特に何が素晴らしいかと言うと、モチーフはソレスタルビーイングのガンダムマイスターでありながら、一切00系列のガンプラをミキシングしていないところだ。
パッと見ではGNソードに見えるウィンダムエクシアの大剣は、実際にはストライクガンダムのXM404「グランドスラム」をそれらしい形状に加工したものであり、狙撃タイプのウィンダムデュナメスが携えているスナイパーライフルはバスターガンダムの「超高インパルス長射程狙撃ライフル」と見た。
今私がかわしたウィンダムヴァーチェのスキュラ砲のような赤白ビームは、察するに連合のモビルアーマーザムザザーのM534複列位相エネルギー砲「ガムザートフ」と見受ける。GNバズーカのような形状に加工されているあの巨大な砲門は、かのMAの脚をベースに作られたものか!
大した機体だ……これほどのビルド、強奪されたデータではなく本物のウィンダムマイスターズと戦ってみたかったものである。
《……一目でそこまで見抜く君も、大概大したものだと思うぞ》
フッ……GBNのスーパーヒーロー、キャプテン・ジオンからお褒めに預かり光栄である。私の観察眼も、捨てたものではないらしい。
ついでに言うと今変形したフェニックスモードのAGEⅡマグナムを追いかけ回しているウィンダムキュリオスの変形機構には、「GAT-X370 レイダー」のギミックが使われているようだな。
ウィンダムマイスターズの改造コンセプトは「ガンダムSEEDシリーズの地球連合軍の技術で作ったソレスタルビーイングのガンダム」ということか……見立て改造に命をかけたそのセンス、ナイスアグニカと言わせてもらおう!
《おお、キュリオスが落ちたな。キョウヤめ……相手の性能を把握した途端、速攻で決めたか》
グラハム・マニューバのように最高速度からの急ブレーキ、変形解除からのドッズライフル接射か……あれではブレイクデカールで強化された装甲でも無意味だろう。
相手の視点からしてみれば、優勢に追い回していた筈の自分が何をされたかもわからぬまま、一瞬で撃破されたように感じた筈だ。流石はチャンピオン、無駄弾を使わず華麗に決める姿はアムロ・レイの如き安定感である。
私も負けていられないな。この際一人一殺という割り当てでも構わない……が、私は目の前の敵を斬る前に一つ、確かめておきたいことがあった。
「聞こえるかウィンダム、それほどの腕を持った貴殿が、何故ガンプラ強奪に加担する?」
──返答は無し、か。
先ほどから回線を開きっぱなしにしているのだが、これまでも敵機からのレスポンスが無い。
私としては自分の物でもない盗品のガンプラを、性能に振り回されることなく扱いこなしているパイロットの腕はかなりのものだと思っているのだが……何故だろうな。
私は今も私のバエルと激しい剣戟を繰り広げているウィンダムエクシアの剣に、全くアグニカを感じていなかった。
戦闘中に周りの機体の分析を行っていたのも、そんな個人的感傷からなる私の不誠実さ所以である。
だが、どうにもこのダイバー相手には気分が乗らないのだ。満足できない。
GBNの強者特有の魂は感じるのだが、何かが足りない気がする。
ウィンダムエクシアの投擲したGNダガーもといアーマーシュナイダーを蹴り飛ばしながら不審に思った私は、この戦況を見つめているであろうスーパーアグニカトランスポーターのカツラギGMに訊ねた。
「カツラギGM、彼らは無人機ですか?」
《……ああ、今私の方でも投降を呼びかけているが、反応は無い。ダイバー反応もだ。おそらく四機とも、NPCによる自動操作だろう》
やはり自動操作──ガンダム風に言うとモビルドールの類いだったか。盗んだ機体にしては、妙に練度が高いわけだ。
しかし無人機という事実を聞いて、一同から戸惑いの声が上がった。
《NPCにしては、特有の単調さを感じないが……》
《ああ、私の知っているNPCよりも、随分とテクニカルな動きをしていた》
GBNにおけるNPCの技量はレベル設定に応じてピンキリではあるが、よく言えば正攻法、悪く言えば没個性な動きをする傾向がある。キョウヤたちほど熟練したプレイヤーたちからしてみれば次の手が読みやすく、こちらの想定を上回る奇策を練ってくることもないため御し易い相手と言えた。
そんなNPCがこのウィンダムマイスターズのようなガンプラを扱った場合、尖った性能をバランス良く扱おうとする為、本来の能力を十全に発揮するのは難しい。
にも関わらず、彼らは個性豊かなガンプラをまともに運用している──GBNの外から持ち出したAIだとしても、些か出来が良すぎる気がした。
《ジオニック・ソォォードッ!!》
……おっと、考え事をしている間にキャプテン・ジオンが二機目のウィンダム、ウィンダムデュナメスを落としたな。隕石を遮蔽にしながら接近し、一太刀で両断するとは見た目に反して手堅い戦い方である。
これで二機撃破。残るは私が引き受けているウィンダムエクシアと──
《こんな無人機で、私が満足できると思うな……》
今しがた突如として爆散したウィンダムヴァーチェの姿を確認し、私は苦笑する。
シオンめ……接敵から一言も発していないと思っていたが、やはりミラージュ・コロイドで姿を消していたか。
ウィンダムヴァーチェはこちらもザムザザー由来のバリアシステムをGNフィールドのように展開していたため、早々にキュリオスを始末したキョウヤも攻めあぐねていたのだが、それは囮。
人知れずバリアの内側に入り込んでいたデュエルデスガンダムが、至近距離からのビームライフルショーティーで急所を撃ち抜き、爆発四散という巧みな顛末であった。
「さて、ではこちらも決めるか」
三人から素晴らしきアグニカを見せてもらった手前、アグニカ・カイエルの魂を扱う私が遅れを取るわけにはいかない。
敵が無人機を扱っているという情報を引き出せた今、私は惜しみ無く拮抗した態勢からバエルソードを振り下ろした。
その一閃はウィンダムエクシアの大剣を真っ二つに叩き割ると、その勢いのまま機体を縦一文字に切り裂き、この歪な宇宙に光の花を咲かせていった。
《大剣ごと叩き斬るか……流石はマッキー。援護は不要だったね》
《バエルだ!》
《アグニカ・カイエルの魂!》
当然だ。本来のパイロットならいざ知らず、アグニカを知らぬ者の剣など私には届かない……バエルの中で生きてきた私には。
《言ってることは意味わからないですけど、意味わからない強さも変わりませんね先輩》
《彼は昔からこうだったのかね?》
《私が初めて会った頃にはもう……あの頃はもう少し、チャンピオンみたいに爽やかでカッコ良かったんですけどね……》
《だけど、今でもカッコ良いのだろう?》
《……チャンピオンも、大概意味わからない人ですね》
《そうかい?》
《冷静に見えて、時々理解し難い挙動をするからな君は》
《それ、貴方が言いますかキャプテン……》
《HAHAHA! 何のことかな!》
さて、このクラッシュエリアで最初の戦闘は危なげなく終わったが、もちろんこれで事件解決ではない。
カツラギGMの報告によれば未だブレイクデカールの反応は絶えず溢れているようであり、それはこのエリアが下調べ通りマスダイバーの巣窟であることを意味していた。
……一番警戒するべきはそこだな。
多勢に無勢という言葉があるが、それは一人で天下無双の働きをする我々には当てはまらない。烏合の衆が、このバエルの相手にはならんよ。
だが彼らには力量差を覆し得る力としてブレイクデカールがある。我々のガンプラにも運営から提供されたワクチン弾が搭載されているが……ブリーフィングの際にシオンが言っていた情報も気がかりだった。
「そう言えば、キャプテンのサイコミュ兵器は通じたな」
《ああ、ファンネルやファングの類いはコントロールを奪われると言っていたが、私のジオニック・ジャスティス・ハンドは通用した。やはり、有線式ならば問題無いようだ》
《ジオニック・ジャスティス・ハンド》
《それ、そんな名前だったんですね……》
今回の相手にはビット兵器が通じない──シオンがこの戦いに
あの時の話である。
その件について詳しく聞くと、シオンはガンプラデータ強奪事件の犯人と直接交戦した経験があるのだと言った。
サティス・F・シオンのアカウントを消去し、ただのシオンとしてリスタートした彼女は当初まで以前と変わらず101.5ガンダムを扱っていた。
ガンプラに罪は無い……だから今度はもっとまともなガンプラバトルで、この子を満足させてあげたかったのだと。
──しかしそんな彼女の前に、まるで自身のかつての罪を突きつけるように、ソレは現れたのだと言う。
彼女のガンプラと全く同じ姿、同じ色、同じ武器を持った機体──
『GBNには自分自身のガンプラとミラー戦ができるトレーニング用エリアもあるが……』
『私がそいつと遭遇したのは、あそことは全く関係ない通常のエリアでした。それどころか、外でお花を摘む非戦闘ミッション用のエリアでしたし』
『君も、そういうミッションをやるんだな』
『……まあ、前のアカウントではやらなかったので気まぐれに』
戦闘禁止エリアに現れた、自分と全く同じガンプラ──確かにそれは、一目でまともではないとわかる異常事態であろう。
そしてその101.5ガンダムは彼女の制止を無視し、有無も言わさず攻撃を仕掛けてきたのだと言う。
『戦ったのかね? ダイバーはどういう人だった?』
『返答無し。完全に回線を切られていたので何もわかりませんでした。……ただ、NPCの暴走とかではなかったと思います』
『根拠は?』
『モビルスーツの動きに、感情が乗っていたので』
『……思っていたより、抽象的な根拠だね』
『いや、わかるよ。私も人の扱う機体とNPCの扱う機体は、少し戦えば何となくわかる。上手く言語化するのは難しいけどね』
『私もだ。NPCにはアグニカの魂を感じないからな』
『三人とも天才であったか……まあ私も、そのぐらいは見分けられるが』
『ですよね!』
その時にシオンが対峙した敵は、会話はできなかったが今しがた戦った相手とは違い、プレイヤー特有の気配があったという貴重な情報である。
当時の彼女の感覚が嘘を吐いている、とは微塵も思わない。シオンは私の感覚に対して「鋭すぎて気持ち悪い」と評していたものだが、私からしてみれば寧ろ彼女の方がそういった感受性の高い人間だと認識していたのだ。
『同じ機体を扱っている以上、ワンハンドレッド・アイズのコピーは私の敵じゃなかったんですが……追い詰めたところで何故かこちらが仕掛けたビット兵器が一斉に寝返ったせいで、まんまと逃げられてしまいました』
『それでカツラギさんに報告し、今に至ると』
『ビットの制御権を奪われる……NT-Dではないのだな?』
『私も最初はそう思ったんですけど、カツラギGMに当時の記録を見せたところ、「敵の機体データは100%私のガンプラと一致している」と言われました。もちろん私の101.5ガンダムにサイコミュ・ジャックの機能は無いので、ゲーム仕様外のハッキングか何かで奪われたんじゃないかと』
そんな疑念を抱えながら捜査を重ねていけば、次々と出てきたのがブレイクデカールの痕跡である。
そこからは彼女とカツラギGMの調査により戦闘中にジャックされる可能性があるのは「ガンプラの手元を離れた装備」という結論になったようだが、我々のガンプラの制御が直接奪われることはないということがわかり一先ずは安心したものである。
──そんなブリーフィングの一幕を思い出した後、私は再び意識を目の前に向ける。
《君のファンネルはどうだ? キョウヤ》
《試しながら戦える相手か、と言うと正直難しいところだね。私のファンネルが敵に奪われる状況にはしたくない》
《それもそうだ》
《その点、先輩のバエルはいいですよね。遠隔操作する武器なんてはじめから付いてないですから》
「フッ……バエルを持つ私は、そのような些末事に断罪される身ではない」
《はいはいさすバエさすバエ》
遠隔操作……か。もしかしたら今しがた戦ったガンプラたちも、それなのかもしれないな。
今回の事件の敵について、一つ頭に過った仮説がある。
おそらくカツラギGMあたりは既に同じ可能性を考えていることだろう。
「カツラギGM」
《何だ?》
「今回の犯行、思っていたよりも少人数の仕業かもしれません」
《……その可能性は否定できない。いや、今エリアから集めている情報から推理すると、そちらの方が濃厚かもしれないな》
流石はGM、戦場から離れた位置に駐留していながら、既にこのエリアのマッピングを進めていたか。
それは私としては少ない状況証拠から導き出した安易な推測であったが、案外正解に近いのかもしれない。
──この「ガンプラデータ強奪事件」を引き起こしたのはシオンが戦ったという敵を含めて、僅かな人数しかいないのではないかという推測である。
《……だが、先ほどの機体がNPCではなく何者かのリモート操作だったと仮定すると、最低でも四人はこのエリアに潜んでいる筈だ。一人の人間があれほどの操縦を、四機も同時に行うのは不可能だからな……ガンプラのデータを盗んだマスダイバーは、間違いなくこのクラッシュエリアにいる》
「具体的に、どの辺りが怪しいかわかるか?」
《……すまない。全て怪しいとしか言いように無い。こちらで確認した検知器には、君たちのいる場所を含めてエリア中が真っ赤に反応しているのだ》
なるほど、それは確かに怪しいところしかないな。近すぎると目が眩むというのは人間関係にも言えることだが、ブレイクデカールについても同様のようだ。
そうなると敵の居場所はこのクラッシュエリア中、全ての場所を虱潰しに探し回る必要があるか……索敵は私よりもイッシーの方が得意なのだがね。困ったことだ。
私がバエルのコクピットの中でそう苦笑していると、並走するデュエルデスガンダムから通信が入った。
《先輩》
「む、どうしたシオン?」
《マッキー先輩はどこが怪しいと思いますか?》
君らしい、直球な質問だな。
しかし残念ながら今は情報が少なすぎる。君が求めるような回答は、保証できないぞ。
「私にブレイクデカールの専門知識は無いからな……個人的な勘でしか答えられない」
《それを聞いてるんです。こういう時、先輩の勘は当たりますから》
……言ってくれるな、後輩。
推理や推測と言うにはあまりに拙いが、直感的に怪しいと見ている場所は確かにある。
その方向に機体のセンサーを向けながら、私は彼女の質問に答えた。
「あの月だな。これ見よがしに赤く輝いている、世界の終末のような割れた月……いかにも何かありそうだと、私の勘が言っている」
《ふっ……そこはバエルが言っているんじゃないんですね》
「バエルは私に何も教えてはくれない……しかしアグニカの魂は、常にここにある」
──ああ、そうだ……隊長役に任命されて浮かれていたか。何を冷静に対処しようとしているマッキー!
感謝するぞ、シオン。我が後輩よ。
おかげで今、隊長として私が何をすべきか見えてきた。
《えっ……?》
私はスラスターの出力を上げると、バエルをトップランカーたちよりも前へと飛翔させる。
赤い月の光が最も射し込んだその宇宙で、黄金の剣を高々く振り上げて告げた。
「GBNの真理はここだ。皆──バエルのもとへ集え!」
前提からして間違えていた。
どこへ行くのではない。
バエルが突き進む道、それこそが真理なのである!
故に、私は己の直感を信じ、あの赤い月から捜索を行っていくことを剣先で示してやった。
一同に対してバエルに続くように命じると、命知らずたちはすかさず反応を返してくれた。
《バエルだ!》
《ンアグニカ・カイエルの魂ィッー!!》
仲良し四人組ではない。キョウヤとキャプテン・ジオンである。
二人は私の求めるレスポンスを寸分の狂いも無くそっくりと返してくれた。私たちは、わかり合うことができたのだ……
《…………》
さあ、次の声を聞かせてくれ……私のバエルがそれを待っている。
《セイギさん、出番ですよー?》
《…………》
《んー?》
《…………》
《……えっ、私に言えって!?》
君以外に誰がいると言うのだ、シオン!
この部隊の隊長は私だ。ならば隊員にも当然、私の判断に従ってもらうことになる。拝命したブリーフィングの時に言っていた筈だが?
さあ、早くするのだシオン。皆も待っている。
《こ、こんな同調圧力で満足なんですか? ……まあ別にいいですけどね……ンンッ》
咳払いぐらいは許そう。
──さあ今こそ産声を上げよ、未来を目指す戦士よ! アグニカ・カイエルの魂に誓って!
《そうだ……! マッキー先輩の真理は我々に──私にあるっ!!》
???
《よく言ったぞ! やるな、シオンさん……!》
《ババババババエルだっ!!》
《ア、アアアグニカ・カイエルノタマシイィ……!》
《ケツが痒くなってきた……さあ、では行こうか月の向こうへ!》
《正義は我々にある!!》
《なんだこの流れは……》
……すまない、カツラギGM。こういうつもりではなかった。シオン、君はまだ……
だが、何度離れようと挑み続けるその姿勢──私にはできなかった生き方だが、俺は君を尊敬しよう。フルキ・シオン。我が後輩よ。
《……私は、今でも変わらない気持ちです……》
お互いに、大人にはなりきれないものだな。
チャンプは久しぶりにリーダーをやらなくていい立場なのではっちゃけています