バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
基本的に現代よりも遥かに宇宙開発が進んでいるガンダムシリーズにおいて、月は人類の新たな居住地としてのほかにモビルスーツの金属をはじめ重要な資源を採掘できる衛星として扱われている。
それ故に敵味方問わず大規模な施設を構えていることが多く、度々戦いの舞台にもなっていた。
特にいわゆる「アナザー世代」のガンダムファンの頭には、物語のクライマックスを彩る最終決戦の場のイメージが刻みつけられているかもしれない。
振り返ってみると実際のところ、1st〜Wまでのテレビシリーズでは月そのものが最終決戦の舞台になったことはないのだがね。
しかし「X」や「SEEDDESTINY」、「00」あたりの年代には最終決戦が月となる作品が多かったからか、何となくその印象に引っ張られているのかもしれない。「∀ガンダム」も最終決戦こそ地球だったが、「月の繭」ではあるので実質月と言ってもいいだろう。
《……まあ∀が月の印象強いことに異論は無いですけど……》
というのも私自身がダブルエックスの最期を視てから思ったことだが、「月に漂う大破したガンダムの姿」というのはそれはもうバエるものなのだ。
デスティニーもエクシアも、いずれも壊れの美学に寄り添った儚くも美しいラストカットだったと思う。
《先輩が正しい意味で「バエる」って言葉遣うところ初めて見た》
バエるに……本物と偽物があるのか?
《その語録、便利すぎるので禁止してください》
バエルゥ……
《嘘でしょ……? この二人、あの発言の後で平然と会話してる!?》
《キャプテン、素が出てます……》
《おっと失礼、私としたことが》
平然と、とは言うがね。シオンも私も既に思春期の年頃は通り過ぎた身である。
故に残念ながら我々の間では、相手の一挙一動にドギマギし気まずさに目も合わせられないというようなチャンピオン好みの光景を見せることは無いだろう。
《そんな》
何より今はバイト中だ。他のことに気を取られて目の前の戦いに集中できないなど、それこそノットアグニカ。バエルを持つ者に相応しくないのだよ。
故に、少なくともこの戦いが終わるまでは私から言うことは何も無いと言っておこう。
《酷くない?》
《……こういう人なんです。この男は》
《君も大変だね……》
《……あのような雑談をしながら、敵の撃墜ペースが変わらないのは流石と言うべきなのか注意するべきなのか……》
《はは……皆さん個々の実力は物凄いですから。雑談しながら次々と敵を落としていくのは、自分としてはこう、歴戦のベテランチームみたいで堪らないですが!》
ああ、艦橋のライザップの言う通り、我々は口を動かしていながらも機体の動きは一切止めることなく、この間にも接敵した敵のガンプラを千切っては投げの快進撃を続けていた。
しかし言われてみればこの状況、「若き主人公の前に現れた歴戦のベテランチーム」のようだな……そうなると我々四人とも主人公を守る為に盾となって殉職しそうなポジションにも見える。
《ありきたりな死亡フラグですね》
《だがそれがいい》
ふっそうだな……しかし残念ながらこの場には死亡フラグを成立させるような、主人公に相当する若手パイロットはいない。
シオンも若いが、それでも初登場時のシャア少佐より歳上だからな……尤もこの場合、ガンダムシリーズのキャラクターの実年齢が、作中から受ける印象よりも異様に若すぎると言えるが。
《私はフロスト兄弟やトレーズ閣下の年齢設定にビビりましたね……》
《私はガトー少佐に》
《私はハリー・オードだね。とても18歳の貫禄じゃないよ……》
《えっ、ハリー中尉って18だったんだ……それにしては紳士すぎるでしょ》
「ハリー・オードだからな」
過酷な環境が実年齢より大体10歳以上の風格を与えてしまうというのは、現実世界でも往々にしてあるものだと聞く。そういう意味ではシリーズにおける戦時下のキャラクターの風貌は、実にリアルに描かれているのかもしれない。
《あっキャプテン、そっち行きましたよ》
《キャプテン・ジオンは無人機であろうと、非道な行いを許さない! ジオン⭐︎張り手!!》
《おおー! ジオング・ハンドにそんな使い方が……やるじゃん元大佐!》
《私は元ではない! もちろん大佐でもないがねHAHAHA!》
そんな会話をしながらも、襲い来る敵を一機、また一機と私たちは撃墜していく。
その間特筆するべきことは然程なかったが、一機のレギンレイズに対して二つの「手」で拘束し、左右からすり潰すように手のひらを合わせて破壊したキャプテン・ジオンのジオンガンダムの戦術には感心したものである。見た目は少々残虐的だが、対ナノラミネートアーマー用の戦術としては実に理にかなっていた。
特に最近はガンダム・フレームを扱うダイバーが増えてきたからな……対戦環境に合わせてメタを張っていくのは、彼のような戦略家からしてみれば当然なのだろう。
私が今後彼と戦う時は、「その手」には気をつけなくてはならないな。二重の意味で。
《しかしこれで50は倒したと思うが……全部、無人機とはね》
「だがあの月に近づくに連れて、間違いなく敵の数は増している。私の勘は、あながち間違いではないのかもしれない」
《ああ、私もそう感じている。やはりあの月には何かあるのだろう》
これまでに出会した敵の機体は宇宙世紀、アナザー問わず実にバリエーション豊かなガンプラたちであったが、共通してその全てがダイバーのいない「無人機」であった。
最初に遭遇したウィンダムたちは、やはり威力偵察だったのだろう。我々の機体が赤い月に近づけば近づくほど、その行く手を阻むように次々と敵の増援が駆けつけてきた。
烏合の衆がこのバエルの相手にはならないが……次第に私の口数も減っていく。まったく、困った相手だ。
──その時である。
『……来る……』
「……?」
囁くように──しかしはっきりと、私の耳に何者かの声が聴こえた。
それはキョウヤやキャプテン・ジオンのような渋い声ではなく、鈴が奏でるような可憐な少女の声だった。
目の前のメリクリウスをバリアシステムごと両断した私は、通信回線から訊ねる。
「シオン、今私に何か言ったか?」
《? 何も言ってないですけど? 言いたいことならたくさんありますが》
「そうか……」
我々の紅一点であるシオンの声ではないと。
ならば、今の声は何だ? 幻聴……にしてははっきりとしすぎていた。
怪訝に思いながらも、私は後ろからミラージュ・コロイドステルスで仕掛けてきたブリッツガンダムを横薙ぎに斬り伏せた。シオンの真似をするには奇襲が素直すぎる。その程度の潜伏を見抜けぬバエルではないよ。
──もしや……今の声はこの機体の接近に対する虫の知らせか……?
正常性バイアスによって、私の思考が先ほど聞こえた声の正体を定義付けようとしたその瞬間──再び「少女の声」がコクピットに響いた。
『避けて、バエルさん……!』
先ほどよりもはっきりと聴こえたその声音は、幻聴と聞き流すには無理のある一声であった。
それだけではない。赤い月から伸びてくる極太の射線が、突如としてモニターの端に表示され、その場からの緊急退避を促してきたのである。
さながらイザーク・ジュールの機体に届いたネオ・ジェネシス発射の警告表示のように。
それを受けた私が咄嗟に行ったのは真偽の確認ではなく、一同に向けての退避命令だった。
「各機、散開! 砲撃の光が来るぞ!」
《何ッ!?》
皆のこの反応……警告は私のバエルにしか届いていなかったようだ。
疑問に思うよりも先に操縦桿を動かした我々の判断は功を奏し、直後、先ほどまで我々が密集していた場所を巨龍の如き光の奔流が駆け抜けていった。
《ぬううっ!?》
《くっ……これは、衛星砲……!?》
……恐ろしく、凄まじい熱量だ。
先日戦ったマグナアストレイの必殺技よりも広範囲かつ絶大な威力が込められたその砲撃は、月というステージに因んで「宇宙戦艦ソレスタルビーイング」の主砲によるものではないかと疑ったほどである。
だが、長い長いガンダムシリーズの歴史において、月に因んだ戦略兵器の類いは一つや二つ程度には収まらない。その光源をバエルのセンサーが捉えた瞬間、私は砲撃の正体を看破した。
「違う。今のは、モビルスーツの砲撃だ」
《……! サテライトキャノンか!》
そう、衛星砲でもコロニーレーザーでも、戦艦による砲撃でもない。
それと見間違えるほどの一撃を放った者の正体は、たった一機のモビルスーツである。まったく、これだからガンプラは面白い……!
背中のバックパックから両肩の上にかけて展開している二門の大砲──ツインサテライトキャノン。なるほどその機体はこの舞台に誰よりも相応しい、ガンダム
されどその機体はダブルエックスに非ず。
背中に広がる翼のような放熱板からは東方に燃える朝日のような灼熱の輪が広がっており、その両手には連結された状態の「ツインバスターライフル」が二挺携えられている。
ツインサテライトキャノンを含め、合計砲門は六。ガンプラならではの改造が施された火力全振りのガンダムの姿が、赤い月を守護する番人のように我々の前へと立ち塞がっていた。
《うわっ……みんな一度は考えたことあるゴテ盛り機体がいる……!》
《なるほど……ツインサテライトキャノンと、ツインバスターライフルの合わせ技だったのか!》
《機体名は「オルタナティブガンダム」か。よくぞ、あれほどのガンプラを作り上げたものだ!》
「シオンの101.5ガンダムも似たようなコンセプトだと思うがね」
《私も足し算が好きなので挑戦したことはありますけど……よほど上手く作らないと、燃費が悪すぎてまともに使えませんよ》
相手の改造ガンプラに使われている素材を一目で見抜く私の観察眼については、キャプテン・ジオンからもお褒めの言葉を貰っている。しかしこのガンプラの場合はカラーリングが原型のままであるため、誰が見ても一目で看破することができるだろう。
腕はゴッドガンダムで、胴体はウイングゼロ。肩と両脚はダブルエックスで、頭部については三機の特徴がそれぞれミックスされている。
背中にはゴッドガンダムの日輪とウイングガンダムゼロカスタムの翼を推進システムや放熱板として組み込んでいるその機体は、まさしく「オルタナティブガンダム」の名に相応しい姿だった。
……因みに私が平成のアナザーガンダムシリーズ三作のことを「オルタナティブシリーズ」と呼ぶことを知ったのは、つい最近のことである。
ガンダムファンとして、私もまだまだ勉強不足ということだな。
《いや、あの名前の初出ってつい最近なんじゃ……》
「……それだけではないようだ」
《注意しろ! ここからが地獄だぞ!》
《ッ!》
まるでオルタナティブシリーズの主人公機が合体したようなオルタナティブガンダムが姿を現してから程なくして、レーダーはその機体を皮切りに赤い月の月面から次々と無数の機影を観測した。
なるほど、今のツインサテライトキャノン&ツインバスターライフル・フルバーストは、本格的な開戦を告げるファンファーレだったということだな。
敵は10や50では足りないと判断し、100以上の軍勢を持ってきたか!
《この数は……!》
《ガガみたいにわらわらと!》
《ガガはいないな! ガザはいるが!》
「これらも皆、引退者たちのガンプラか……!」
こういった雑兵は一機一機の性能は大したものではないのが相場だが、彼らの場合はどれも元のビルダーが丹精込めて作り上げたガンプラのデータを基としているため、無人機とはいえ気を抜ける相手ではなかった。
先ほどのようにそこらの機体がナノラミネートアーマーやプラネイトディフェンサー、ミラージュ・コロイドステルスを使ってくるというのは、正直言って最高難易度コンテンツのような理不尽さすら感じる。
その軍勢に飲み込まれないように適切なポイントを維持しながら一機ずつ処理していく我々のもとに、スーパーアグニカトランスポーターから吉報が届いたのはその時である。
《……一つ、はっきりしたことがある》
「カツラギGM?」
《今こちらのハッキングが成功し、このエリアにおけるNPCの管理コードを再取得した》
《流石です、カツラギさん!》
《フッ……大したものだ》
《……やるじゃん》
我々が発進してから口数が少なくなっていたカツラギGMだが、どうやら我々が戦っている間に運営責任者としてやるべきことをこなしていたらしい。その有能な働きぶりに一同は感謝するが……彼自身は神妙な態度を崩さない。
それはまるで、NPCの管理コードを得たことが何の収穫にもならなかったと悔やんでいるような様子だった。
「……なら、直ちに彼らの攻撃を停止できませんか?」
《もちろん、そうしている。だが、結果は見ての通りだ……》
──管理コードを手にしてもなお、停止することなく攻撃を仕掛けてくる敵の軍勢。
その事実に基づいた一つの確証として、我々は敵の正体に近付いた。
《つまり彼らは、NPCが操作している機体ではないということか》
《ああ、最初にマッキーが立てた仮説通り、あれらのガンプラはNPCの操作では動いていない。何者かによるリモート操作ということが判明した》
行動パターンがNPCのそれとは違うと皆も感じていたが、やはり当初の想像通りだったようだ。
しかし元より生身の戦闘ではないこのGBNで、あえて遠隔によるリモート操作でガンプラを動かすとはな……敵は相当に慎重か、臆病な集団らしい。
だがリモート操作と判明したならば、我々にも対抗策が打てるというもの。
《なんだリモートか。なら、勝利条件は簡単ですね》
《ああ、そのリモート操作をしている何者かを仕留めれば、この部隊の動きも直ちに停止する──モビルドールの弱点と同じだな》
機体に乗り込んでいないが故に戦場で落とされても本人へのダメージは無いが、機体に乗り込んでいないが故に機体を操作している本人の周りは無防備となる。
そこをピンポイントで叩けばいかに数が多かろうと、敵の部隊は全て無力と化すのがリモート操作の弱点だった。
《問題はその何某がどこに、何人いるかだが……》
ああ、問題はそこだな。
見た限りあの赤い月の大きさは現実の月ほどではないが、この人数で中を探るとなると無謀の極みだ。手当たり次第探し回ればいつかはたどり着くかもしれないが、それをするには敵の数が多すぎる。
そもそも本当にこの赤い月に潜んでいるのかもまだ、はっきりしていないという問題もある。
さて、どうするか……この軍勢を正面から打倒し、その後で悠々と黒幕を探しに行くのはアグニカである。
しかし無策で行き当たりばったりの戦いを続けるのは、隊長らしい判断とは言えない。私やアグニカンスピリッツの戦いなら迷わずそうしていたところだが、この戦いにはシオンのガンプラとGBNの平和がかかっているのだ。
どのような判断を下すべきか、熟考しながら近づいてくる敵機を縦横無尽に切り裂いていると──再び「声」が聴こえてきた。
『大丈夫……あの子はあそこにいるよ』
「……! 君は……」
聞き間違えではない。
そして、見間違えでも。
操縦桿を握る私の傍らに、まるで幽霊のように、透き通った「白い服の少女」が現れてはそう語りかけてきたのである。
少女の姿はまばたきした後には朧のように消えていったが……それは間違いなく、先ほどオルタナティブガンダムの砲撃を警告してくれた声の主だった。
……なんだというのだ、君は……? このクラッシュエリアに生じているバグか? それとも我々以外に誰か、このエリアに侵入したダイバーが?
カツラギGMに訊いてみるのが無難だが……私には何となく、それをする気にはなれなかった。
根拠は無く、バエリストとしての勘である。今GMにこの現象のことを報告するのは何か、アグニカンではないと感じたのだ。
しかし一つだけ、私の中で決まったことがある。
「……このガンプラたちは明らかに月面から発生している。そしてこの数と来れば、敵の本拠地はやはりこの月と見て間違いないだろう。このまま攻め落とすぞ、皆で」
《判断が早いですね、先輩は》
予感ではない。そうはっきりと、確信しているのだ。
《だがこうも露骨な配置は、そう思わせる敵の罠という可能性もあるぞ》
《言ったらキリがないよ、キャプテン。私は隊長の判断に従おう》
《もちろん、従わないと言っているのではないさ。釈迦に説法かもしれないが、その可能性を視野に入れるべきだという先達からの、ジオニックな意見だ》
いや、この月は敵の本拠地だ。
私がそう判断した。
「キャプテンの意見はご尤もだが、今の私は少々機嫌が悪くてな。それに、私のバエリストとしての直感が先ほどからうるさいのだ。「この先に、我々の求めるものがある」とね」
『? 私、うるさい……? ごめんなさい!』
……いや、君のことではない。謝らなくていいよ、レディー。
『そっかぁ……』
もしやこの声は、私のバエル愛が生み出したイマジナリー擬人化バエルの類いなのではないか……?と少しだけ疑っていたのだが、この受け答えから察するに流石にそうではなさそうだ。少しだけ残念である。
しかし、何だろうな……? この声の少女が放つ無垢なる雰囲気には妙に既視感が……そう、サラ君だ。
リク君と共にいる少女サラのそれに、何となく近しいものを覚えたのだ。
『……そう、貴方もあの子のお友達なのね』
友ではないが、知っている仲ではあるね。
私個人としては、リク君共々目をかけているつもりだ。
あれは……そう、天使だ。
『そうだねっ! バエルさんにもわかってもらえて嬉しい!』
しかし君は……サラ少女のことを知っているのだな。
それにこの雰囲気、もしや君はあの子の姉妹──
《フッ……バエリストの直感であれば仕方がないか。奇遇にも、私のジオニストの勘も同じことを訴えているからな。ならばその直感、仮面砕けるまで付き合おう! このキャプテン・ジオンが!》
《……GPデュエリストの直感もそうだそうだと言っていますよ?》
《そうだ! 正義は我々にある!》
《ふふ……もちろん私の、チャンピオンとしての勘もね》
おっと、そうこう思考を巡らせている間に、皆も決心を固めてくれたようだ。ならば一蓮托生!
皆この先如何なるイレギュラーが起ころうと、最悪個々の力で切り抜けることができる自信と実力を持つ猛者たちだ。
相手の戦力が予想以上であろうと、私の無茶振りに応えてくれると信じている。
「感謝する!」
ならば私が示そう! このバエルで!!
敵のケンプファーに投擲して突き刺したバエルソードを勢い良く引き抜くと、爆散していく機体を足蹴に推進力として加速をつけて反転していく。
狙うのは、再びツインサテライトキャノンの発射態勢に入ったオルタナティブガンダム。
月面に辿り着くには、今はまず君が邪魔だ。故にこのバエルが先んじて切り拓いてみせよう! オルタナティブの先の未来を!
「これを見ているこのエリアの支配者よ! いかに誇り高いガンプラをけしかけようと、この程度で我らの行く手を阻めはしない!」
オルタナティブガンダムの日輪が真っ赤に燃えたその瞬間、私を目掛けてツインサテライトキャノンが放たれる。ツインバスターライフルもだ。
いかにビームに耐性がある私のガンダム・バエルと言えど、これを浴びればひとたまりも無いだろう。
「何故か!? 我らのガンプラにあって、無人機には無いものがあるからだ!」
ああ、我々の世代の者ならば誰もが思ったであろう。「ツインサテライトキャノンを持つ機体にツインバスターライフルを持たせれば最強じゃね?」という理論……お子様ランチと笑いたければ笑え、その時が貴様の最期だ!と言わんばかりのカスタマイズは、まさに少年の空想を現実にしたようなロマン溢れるガンプラの姿だった。
……それ故に、惜しいと思う。
これほどの機体を作ったビルダーが、GBNからアカウントを消してしまったという事実が。
「バエル!!」
襲い掛かるツインサテライトキャノンとツインバスターライフルの
凄まじい威力の余波に機体のセンサーが焼け付くような熱を感じたが、それでも私は止まらなかった。
団長ではないが、私もやると決めたことはやり遂げるまで止まらない男なのだ。その上我慢弱く落ち着きが無い、人の話を聞こうともしない。俗に言う嫌われ者だ!
バエルの中で生きていく方法しか知らず──だから未だに嫁さんも貰えない。
《ふっ……そうですか。……良かった……》
しかしそんな私にも、吐き気を催す悪というものがある……!
それは他人の魂が籠もった作品を我が物顔で操り、その誇りを傷つける者だ!
もしも今我々と戦っている敵がそのような愚者であるならば、私はアグニカ・カイエルの魂に誓って粛清したいと思う。
そうとも──私が、俺が、バエルだ!
オルタナティブガンダムのフルバーストを紙一重で潜り抜けながら懐へと飛び込んでいったバエルが、その右手に携えた黄金の剣を振り下ろす。
同時に、オルタナティブガンダムのツインバスターライフルを投げ捨てたその右手が真っ赤に燃え、勝利を掴めと轟き叫んだ。
爆熱ゴッドフィンガーである。
両腕があからさまにゴッドガンダムだと思っていたが、やはりその力を搭載していたようだ。
──瞬間、激突する聖剣バエルソードと爆熱ゴッドフィンガー。
小細工を廃した純粋な力と力のぶつかり合いは、衝突の余波で付近のガンプラたちが一斉に蒸発するほどであった。
「機動武闘伝Gガンダム」の作中において、数々のラストアタックを飾ってきたゴッドガンダムの代名詞。その右手が作中通りの威力を発揮していたのであれば、私のバエルの剣とてへし折られていたかもしれない。
だが、これは
勝敗を決定づけるのは作中の性能だけではなく、ガンプラの出来栄えだけでもない。
本来のダイバーの駆る機体にはあって、無人機には無いもの──
「それは──勝利への執着だ!」
そう啖呵を切った私の感情に呼応するようにガンダム・バエルの瞳が赤く輝くと、この機体の出力が上昇していく。必殺技ではない、純粋なるバエルの暴力がそこにあった。
瞬間、爆熱ゴッドフィンガーと拮抗していたバエルソードの切っ先が遂に相手の手のひらを貫き、その勢いのままオルタナティブガンダムのコクピットを袈裟切りに裂いていった。
見たか! これこそが自由を手に入れたバエルの──全てをねじ伏せる力だ。
《……絶対、アグニカの魂って言うと思いました》
「ふっ……今の私は、バエルを持たぬ者を否定しない。純粋にガンプラバトルを楽しむ者は、たとえバエルを持たぬ者であろうと、尊敬すべき強者なのだ」
《……そうですか……》
《バエルだ!》
《アグニカ・カイエルの魂!》
《そうだ……ガンプラバトルの正義は我々にある!!》
《やったぞみんな! バエルの勝利だ!》
この境地に辿り着くまで、こんなにも長く時間がかかってしまったがね。
しかしだからこそ、思っていた以上に私は、私自身もガンプラバトルを冒涜する輩を許せないらしい。
「ここで終わらせるぞ、この事件。遅れるなよ、シオン!」
《……隊長こそ。私のデュエルデスガンダムから離れないでください》
「ふっ……言うようになった!」
私の方針は決まった。
故に隊長命令として、諸君らに下す命令は一つ──「相手が参ったと言うまで、全力でアグニカしろ」
《わかりやすくていいね!》
《滅茶苦茶だ……だが、悪くない手だ!》
ここに黒幕がいようと、そうでなかろうと、それが有効打になるのは間違いない。目の前の敵を悉くねじ伏せれば相手の方が先に根を上げる筈だ。
劇的な舞台に似つかわしい、劇的な演出だろう?
今夜は特別な夜だ。
全てを忘れ………これから起こる運命さえも忘れ、踊り明かそう!
次回は遂に黒幕が現れます
そして謎の白い服の幽霊少女……一体何者なんだ……