バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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私も欲しくなった

 さて……最初に戦った汚名挽会だが、どうやら彼らは中堅ながら一部の界隈では人気のあるフォースだったらしい。彼らの試合に注目していたダイバーもそれなりにいたらしく、我々との試合がG−tubeのチャンネルにアップされた途端、新参フォースでありがら彼らを下した我々の存在がほどほど視聴者から注目される形となった。

 

 その結果どうなったかと言うと、我々のフォースに押し寄せてくるフォース戦申請の数々である。調べてみたところ、いずれも一癖二癖ありそうな個性的なフォースだった。

 例を挙げると「ガンプラ戦車道」はメンバー全員がタンクタイプの機体を扱う女性たちで構成されたフォースであり、「チーム満足」は自らをデュエリストと称するGPデュエル経験者のみで構成されたあらくれ系フォースである。「KYS小隊」はトールギス、ターンX、スカイグラスパー等、例の中の人が演じていたキャラの機体を好んで扱うフォースであり、いずれもこのGBNで同好の士が集まったと窺える統一感のあるフォースだった。

 

 そんなプレイヤーたちとのフォース戦も大事だが、このGBNはGPDとは違い、対人戦だけを楽しむゲームではない。

 広大なマップをバエルで探索しながら数々のイベントミッションをこなすこともまた、アグニカン・ドリームの実現と言う目的から外れたものではなかった。

 バエルの力を示す場所は、GBNに用意されたステージにもあるということだ。

 

《この心の温かさを持った人間が、地球さえ破壊するんだ! それをわかるんだよ!》

「なればこそ! 世界にバエルの威光を示さねばならんのだ!」

 

 例えばそれは、アムロ・レイのνガンダムと共にバエルでアクシズを押したりするミッションだとか。

 

「カテジナ・ルース……困った女だ……」

 

 信念を持った薄気味悪い子供の代わりに、狂気に飲まれた女性に腹を刺されたりするミッションだとか。

 

《准将、ブリュッセル大統領府はシェルターシールドを張っています。正面突破は無理です!》

「無理は承知! しかしこのぐらいのことをしなければ、誰もバエルのもとに集おうとはしない!」

《誰を……待っているのですか?》

「バエルに従う者たちだ! ここでマリーメイアの独裁を許すようでは、第二のマクギリス・ファリドを生み出すことになる!」

 

 ガンダムが来るまで無限に押し寄せてくるサーペントの軍勢を、コクピットを狙ってはいけない条件付きで応戦し続けたりだとか。

 

「勝利者はザイデルでもブラッドマンでもない……アグニカ・カイエルだ!」

 

 フロスト兄弟と共に新連邦、コロニー革命軍の首脳を一掃したりだとか。

 

「ローラ、いいよね……」

「バエルいい……」

 

 パーティーでグエン卿とのトークに盛り上がったりだとか。

 

《もはや止める術はない! 地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙となる!》

「バエルを操る者こそが唯一絶対の力を持ち、その頂点に立つ!」

《それだけの業! 重ねてきたのは誰だ!?》

「バエルを持つ私の言葉に背くとは……」

 

 世界を破滅させようとする仮面の男と、熱い舌戦を繰り広げたりだとか。

 

《勇敢なるザフト軍兵士の皆さーん! 今日は見に来てくれてありがとー!》

「勝ち取りたい! ものもない!」

 

 大きい方のラクス様のライブに乱入し、この時代に叩きつけてやる歌を歌ったりだとか。 

 

《フィールドが!?》

「純粋な力が成立させる正しき世界! それこそが、アグニカン・ドリーム! バエルがそれを為す! 私と、共にっ! 私が……俺が、バエルだ!」

 

 バエルソードでGNフィールドを突破し、黄金大使を滅多刺しにしてみたりだとか。

 

 他にもダブルオークアンタの進路を開く為にバエルに集えとELSをおびき寄せたり、アグニカポイントカンスト勢であるアスノ司令と共に政界のヴェイガン関係者を一掃したりするミッションもあった。

 そう……このGBNには自分自身が歴代ガンダム作品の名シーンに介入し、各シチュエーションに沿ってクリア条件を目指すイベントミッションが数多く導入されているのだ。

 それは上記のような有名なシーンもあれば、外伝や設定集、ドラマCDから拾ってきたコアなネタまで盛りだくさんである。

 戦闘だけではなく、アザディスタンの花を摘む採取ミッションや団長の死亡を回避する護衛ミッションなど、ガンプラを持っていないダイバーでも達成することができるミッションも多かった。

 

 ミッションごとにクリア報酬は異なり、ゲーム内通貨である「ビルドコイン」やそこでしか手に入らないビルドパーツやアクセサリーなど、報酬内容は様々だ。

 我々はイベントミッションの中から報酬として貰えるビルドコインが高いものから積極的に受注し、先立つものとして資金調達に励んでいた。

 しかしそれらの報酬が二の次になってしまうほど、歴代ガンダム作品のシチュエーションに飛び込んで暴れるのは気分がいいものだった。

 

「これこそが自由! バエルを手に入れた私の、全てを捻じ伏せる力だ!」

《准将おおおおおおっっ!!》

 

 それもそうだろう。「もしもバエルが他ガンダム作品にいたら……」という妄想を、仮想空間とは言えこの手で実現することができるのだから。

 

 私は常々、面白い作品にはバエルを足せば面白くなると考えていた男だ。

 

 何にだって、どんな作品にだってバエルを加えればより良くなると私は思う。想像してみるがいい。例えば「スター・ウォーズ」にバエルを足したらアグニカンだろう? 「七人の侍」だってさらに良くなる。「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」にバエルを足したらバエルが二機になってさらにアグニカンだ。

 君もそう思うだろう? 

 

 そしてその日の締めとして最後に受注したのは、「機動戦士ガンダムUC」のシチュエーションを再現したモビルアーマー討伐クエストだった。

 NPD(ノンプレイヤーダイバー)──いわゆるディメンションのNPCが操作するネオジオングをビスト神拳ならぬアグニカ神拳連打で掻き毟っていくバエルを見ながら、後方で大破したリーオーライザーから脱出していた仲良し四人組たちがバエルの威光を前に感動の声を上げる。

 

「バエルだ!」

「アグニカ・カイエルの魂!」

「可能性などではない……これが真実だ、フル・フロンタル」

《そうか……奇跡もまた、繰り返す……》

「そうだ……スペースノイドの正義は我々にあるぅ!」

 

 

 

 ──MISSION COMPLETE! ──

 

 プレイ中は終始脳汁をドバドバ溢れさせながら戦い続けていた我々は、高難度のイベントミッションをクリアした達成感に包まれ、七人共に声を上げて笑い合った。

 過激なGPDプレイヤーの中にはGBNのことを「本当の戦いを忘れた薄っぺらな世界」と蔑む者もいるが、私はそうは思わない。

 このGBNは、バエルの威光を示す機会に恵まれすぎている。世界全体がバエルを求めているのだ。元GPDプレイヤーである私もまた、この世界に満たされた「愛」を確かに感じていた。

 

「歴代ガンダムのクライマックスシーンを追体験するイベントミッション……まさか、こうも簡単にクリア出来るとは……」

「君たちが前に挑戦した時はバエルがいなかったのだろう? 驚くことではないよ」

「いえ……バエルはもちろんですが、やはり准将の存在が大きいかと」

「買いかぶってくれる」

 

 ダイバーたちの集まるロビーエリアへと移動した我々は、振り返りながら今日一日受けたミッションについて語り合う。

 私よりも先にこのGBNに参入していたイッシーたちは以前も同じミッションを受けたことがあるようだが、その時の結果は思わしくなかったようだ。

 確かに歴代ガンダム作品の強敵が出現するミッションは、NPDながら相手の能力も強めに設定されており、少人数での攻略は至難だ。寧ろ簡単であっては困ると言うのがファン心理である。とは言うものの、ゲームである以上ある程度は攻略可能なレベルに仕上げられており、原作そのままのフロンタルやクルーゼと比べれば遥かに落ちる技量だったと思う。

 でなければ、いくら私のバエルと言えど無傷でクリアすることは困難だった筈だろう。

 

「しかしこうして高難度のミッションを梯子するよりも、割のいいミッションを周回する方が効率的ではあるな」

「准将は、その方がいいと?」

「まさか、それではバエることはできんよ」

 

 ミッション一回ごとの報酬は高いが、クリアに掛ける時間はどうしても通常より掛かってしまう。やはりこういったゲームの資金稼ぎには周回可能なミッションの中からクリア時間と報酬が美味しいものだけを追っていくのがプレイ効率は良いのだろうが……そんなものを私は、最初から求めていなかった。

 報酬は欲しいが効率は優先しない。無策というわけではないが、基本的にはその時最もバエるプレイングを選んでいくのが我々のスタイルだった。

 

 私はとにかくバエルでアグニカしたい。

 イッシーたちはアグニカしているバエルを見たい。

 

 ワン・フォー・バエル、オール・フォー・バエル──それが我々なのだ。

 このアグニカンスピリッツはメンバー全員の利害が完璧に一致したフォースであり、矛盾は無かった。

 

「初回クリア報酬が豪華でしたから、今日一日で随分とビルドコインが溜まりましたね」

「そうだな。このペースで行けば、一月以内にはフォースネストを手に入れられるだろう」

「このペースでも、一月ですか……」

「なに、これからは時間もたっぷりある。問題はないよ」

 

 イッシーが端末を開き、フォースの予算として蓄えられた貯蓄を見て微笑を浮かべる。

 我々が二回目のフォース戦よりも先にイベントミッションの連戦を選んだのは、今はまず大量のビルドコインを必要としている為だ。

 フォースを結成した我々アグニカンスピリッツだが、まだ我々には専用の拠点が無い。

 このGBNにおいて、フォースを持つ者はその恩恵としてディメンションのフィールドに一つだけ専用の拠点「フォースネスト」を作ることができる。MMORPGによくあるマイハウス、マイタウンのようなものだ。

 フォースネストの改造は各フォースで自由に行うことが出来、私がこれまでに確認したところではアフターコロニーの「サンクキングダム」や宇宙世紀の「ラビアンローズ」を再現した見事なフォースネストが建設されていたものだ。

 そしてダイバーたちの魂が宿るそれらの施設を見て、私は思ったのだ。

 

 ──私も欲しくなった。

 

 ガンダム・バエルに相応しいフォースネストが欲しいと。私は強欲で我慢弱く、その上人の話を聞こうともしない俗に言う嫌われ者だ。そんな私だからこそ、私も彼らのような……いや、彼らを超える立派な拠点が欲しくなったのだ。

 しかしその為には、莫大なビルドコインが必要になる。

 もちろん、デフォルトでも各フォースには無料でフォースネストが与えられている。だが、その設備はやはり簡素なものだった。

 私にはそれが不服だった。アグニカ・カイエルの魂を迎えるに当たって、簡素な初期設備ではアグニカリティーが足りないのだ。

 故に、私は新たなる巨大フォースネストの建設を企てたのである。

 

「言葉にすれば、大した話ではないのだがな……当面の目標は、バエルに相応しいフォースネストを作ることだ。その為にはまず……バエル宮殿を手に入れる必要がある」

 

 バエルの為の施設として真っ先に思いついたのが、鉄血のオルフェンズ作中に登場したバエル宮殿である。

 ギャラルホルン本部ヴィーンゴールヴ最深部に位置するバエル宮殿──その蔵の内で膝元まで用水に浸かりながら佇んでいた雄々しい姿が記憶に新しい。

 暗がりで静かに眠り続け、まるで誰かを待ち続けていたような……そんな最古のガンダム・フレームの姿が、私の脳裏に焼き付いて離れないのだ。

 蔵に一機佇むバエル……いい……。

 もはや起動すらしていないのに、ただ佇んでいるだけでアグニカみを感じるのがガンダム・バエルのガンダム・バエルたる所以だろう。存在そのものがナイス・アグニカなのである。

 

「バエル宮殿ですか……あのクラスのフォースネストになりますと、千万単位のビルドコインは必要ですね」

「そういうことだ。今のところ、私一人の力だけで作り上げるには難しい施設でね。協力してくれる味方が必要だと感じている」

 

 いかに私のバエルが強くても、ダイバー一人が短時間で稼げる金額にはどうしても時間的な限界がある。その為にフォースがあるのだ。

 決してデフォルトの格納庫が劣悪な設備というわけではないが、フォースネストの早期建設は私の気分の問題である。ここはガンダムらしいエゴを押し通すことにしよう。

 

「これからもサークル時代以来の長い付き合いになるが……付き合ってくれるな?」

 

 彼らの前では今更言うのも何だが、念を押すように問い掛けてみる。

 するとイッシーが数拍だけ意外そうな顔をした後、頬を緩めながら力強く頷いた。

 

「もちろんです、准将!」

「我々もここに!」

「魂っ!」

 

 もちろん、セイギと仲良し四人組のことも忘れていない。

 戦力としてはともかく、彼らのビルド能力と発想力、何よりアグニカン・ドリームを渇望する純粋な精神はGBN中探し回ろうとも替えが効かない人材である。

 我らアグニカンスピリッツ、この獣たちが一斉に野に放たれた今、既に勝敗は決したと言ってもいいだろう。

 

「ふ……そうだな。私は良き同志に恵まれた」

 

 サークル時代と変わらぬ彼らの在り様に改めて苦笑し、ならばと私は思い立つ。

 同志に協力を取り付けたこの状況、アバターネームがマッキーである私にマクギリスロールは欠かせなかった。

 

「では……共に駆け上がろうか」

 

 あえてアバターの衣装である手袋は外さないまま、私は彼らの前に差し出した。

 最初にイッシーがその手を取り、次にセイギ、仲良し四人組と続く。

 GPDのサークル以来、お互い持ちつ持たれつの協力関係だった我々だが、それ故に人となりはお互いよく知っているつもりだ。

 

 ──この時仲良し四人組が無駄な美声で「少年の果て」を熱唱するのもまた、我々の目には見慣れた光景だった。

 

 





マッキーは鉄血以外のアナザー世界なら割とどこでも幸せだったのかなと思っています。巻き込まれる人たちにはアレですが。

ビルドダイバーズ好きですけど、リク君たちが普通のイベントミッションやっているところをもっと見てみたかった私がいます。

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