バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男 作:GT(EW版)
前半は頭満足。後半は頭アグニカです。
それは、妥協故の選択だった。
自らが組み上げたガンプラを実際に動かして戦うGPDのバトルシステムは、ガンプラバトルの魅力を際限なく引き出していた。しかし使用したガンプラが戦う度に破損してしまう欠点があり、修理に掛かる手間や必要な経費はビルドに拘れば拘るほど膨大に跳ね上がっていった。
そんな不器用なシステムが万人に受け入れられなかったのが、退廃した理由の一つだろう。その点、自分のガンプラをスキャンすることで仮想空間に1/1スケールを再現し、コクピットに自ら乗り込んで操縦し広大な戦場を駆け巡る
ダイバーギアを付けるだけで世界中の人々と遊べる上に、何度戦っても手塩に掛けたガンプラが壊れることがない。その上フルダイブ式のシステムを採用したことで、身体的障がいを抱えた人々も平等に遊ぶことができるのだ。
大衆が求めていた「プレイヤーに優しいガンプラバトル」の登場により、時代の流れはGPDからGBNへと移行していった。
しかし、彼女はそれでもGPデュエルが好きだった。
作り上げても壊して、また作って戦う。破壊と再生の繰り返しの中で、己のガンプラを無限に進化させていく光景は彼女の魂を熱狂の渦に叩き込んでくれたのだ。
そんなGPデュエルの世界で上位プレイヤーとして君臨していた彼女にとって、ガンプラバトルの主戦場がGBNというネットワーク世界に移行したことは筆舌に尽くしがたい心情だった。
時代の変化に適応できず己の戦場を見失った彼女は、途方に暮れながら時代遅れとなったGPベースの前で佇んでいたものだ。
しかしそれでも、サービス開始からしばらくしてその心に折り合いを付けた彼女は、高校時代共に笑い合った戦友たちを追い掛けるように、この時代の波に乗り込むことに決めた。
たとえそれが妥協故の選択だったとしても、彼女は己の意思でアカウントを作り、ディメンションにログインしたのである。
理想の自分を再現した容姿としてアバターを設定した彼女が、
サティス・F・シオン。ダイバーネームの由来はサティスファクション──満足である。せっかく姿も変えられるならと、彼女はリアルの自分とほとんど共通点が無いアバターを作成したのだ。それはいかにもテンションの高そうな、若々しいエルフ男の容姿だった。
「どうやってもGPDに人は戻ってこねぇんだ……だったら、ここで満足するしかねぇ!」
本来目指していたGPD制覇の夢が「コンテンツの退廃」と言う幕切れで頓挫してしまった今、彼になった彼女、シオンの戦場もGBNへと移った。
GPDという過酷な戦場でガンプラバトルを行っていた自分が、この世界の王になる。地位や名誉に興味があったわけではないが、彼には並々ならぬ「満足」への探求心があった。そんな彼が、飛び込んだネットワークに問い掛ける。
──なあダイバー、次は俺どうすればいい?
世間がGPDを捨ててまでたどり着いたこのGBNには、一体どんなワクワクが待っているんだ?
この俺を、どう満足させてくれるんだ?
GPDより上の満足を、期待していいのか?
彼はそう問い掛け、世界に向き合ったのである。
シオンは今度こそ己が満足できるデュエルを、この世界に求めた。
かつて模型部の仲間たちと繰り広げたGPデュエルのような、心から熱くさせてくれる極上の満足を。
故に、彼は自らのもとに同志を集めて両手を振り上げた。
「このGBNでドデカいことを成し遂げて、新しい満足を見つけようじゃねぇか!」
「おう! お前と同じチームなら心強いぜ!」
「ふん、浮かれすぎだ」
「……だが、悪くない」
自分と同じように目標を見失っていたGPD廃人──GPデュエリストを集めて、シオンは自らのフォースを結成した。それこそが「チーム満足」である。
そんな当時のメンバーは、彼含めて四人。
一人はガンダムデスサイズヘルの改造機「ブラックフェザー・ガンダム」を操る疾風の「ゲイルマン」。その名の通り疾風の如きスピードで敵を瞬殺する、凄腕のダイバーである。
もう一人はスカルガンダムとゴッドガンダム、ガフランをミキシングした改造機「レッドデーモンズ・ガフラン」を操る店頭王者「モトキング」。店頭王者とは誤字に非ず。彼は手加減を知らない暴力的な財力で数々の店頭を買占めた前科を持つ、至高のキング・オブ・ゲストであった。因みに今は金遣いの粗さを家内に咎められ自粛中だ。しかし、バトルの腕は王者の名に恥じない実力者である。
最後の一人は新品のガンプラを購入せず、投げ売りされたジャンク品や道端で拾ったパーツで製作した「ジャンク・アッシマー」を操るダイバー「キャンサー・レア」。見かけは陰気な青年だが、クールな心に熱いガンプラ愛を宿したナイスガイである。卓越したバトルセンスを誇り、知名度こそ低いがその腕は折り紙付きだ。
その三人にサティス・F・シオンを加えたのが、彼らのフォース「チーム満足」である。
少数精鋭のメンバーで構成された彼らは創設当時から怒涛の連勝で勝ち星を収めると、その名声をあっという間にサーバー内に轟かせていった。
「これでトップ15入りだ! キングの座が見えたぞ!」
「やったなサティス!」
「マジでGBN最強が見えてきたんじゃねぇか!?」
「ああ! チーム満足、最高だぜー!」
どんどん上がっていく自分たちのフォースランクに仲間と喜びを分かち合いながら、シオンはかつて燻りかけていたガンプラバトルへの熱い思いを取り戻し、このGBNで新たなやりがいを──満足を見つけ始めていた。
そう……彼らは強かった。
強く、あまりにも順調すぎたが故に、その悲劇は起こった。
GPデュエルという厳しい環境で育った俺たちが、GBNでぬくぬくと育った連中に負けるわけがない。なまじ結果を出し続けていたが故に、込み上がってきた黒い優越感が知らず知らずのうちにシオンを増長させていったのである。
その果てに──彼は弾けた。
「や、やめろォ!」
「半端な気持ちで入ってくるなよ! ガンプラバトルの世界によォ!」
「あああ私はぁ! こんなところで! アアアアアア──ッ!!」
他者より強く! 他者より先へ! 他者より上へ!
ただ獣のように、互いの身を食い合うことこそを是とするシオンは、もはや生半可なバトルでは満足できない身体になっていた。
GPデュエリストとして高め続けてきた力を狂犬のように振り回す戦い方は、もはやガンプラバトルと言うよりも不良の喧嘩と言った方が正しい。
立ち向かう者も何人かいたが、その全てを返り討ちにして彼は足蹴にした。
『壊れないガンプラバトルなんてヌルすぎるぜェ!』
などと言いながら、シオンは嬉々として他プレイヤーたちに辻バトルやソロミッションへの乱入を仕掛けていく。その相手が子供だろうと初心者だろうとお構いなく、執拗な攻撃で蹂躙を続けた。それは、トリニティも真っ青な武力介入ぶりだった。
そんな彼はいつしか、無駄にGBNの敷居を高くする「名人様」とも呼ぶべき迷惑な存在に成り果てていた。
彼自身に悪意は無かったのだ。
彼も元は善良なプレイヤーであり、素面では面倒見の良い性格をしていた。
しかしそんな元来の性格を塗り潰すほどに、彼の「満足」への執着は深く淀んでいた。
人の欲望が尽きないように、人の満足もまた果てしない。
それ故に、度を超えた満足への執着は彼の理性を曇らせてしまった。
純粋に戦いを求めるが故に、彼は完全に失念していたのである。今自分がいる世界は身内だけで盛り上がるGPDの大会とは違い、数多くのプレイヤーたちが集まっているネットワークの社会であることに。
彼の満足プレイはルール的にはグレーゾーンで収まっていたのだが、その行動が他のプレイヤーの目にどう映っていたのかはまた別の問題である。
行き過ぎた暴走は一年も過ぎればサーバー中に広まり、「サティス・F・シオン」の名はすっかり秩序を乱すクソコテとして扱われていた。
そこから連鎖して、彼のフォースがディメンションの鼻つまみものとなるのも当然の流れだった。
──もちろん、そのような雰囲気でフォースメンバーが黙っている筈がない。迎えたのはチーム満足の崩壊である。
「俺は抜けるぜ! GBNだって、同じガンプラバトルじゃねぇか! 同じものを楽しんでいる連中を、こんな風に見下すなんて間違っている!」
「……なに?」
「自分の満足は、人に押し付けるもんじゃねぇだろ!」
「これが本物のガンプラバトルだぁ!」と叫び初心者プレイヤーを一方的にいたぶるシオンの姿を見て、我慢の限界を超えたメンバーが口論の果てに脱退した。
最初に抜けたのは疾風のゲイルマンだ。強面な見た目に反して子供好きな兄ちゃんである彼は、これ以上シオンが少年たちに迷惑を掛けるのを見ていられなかったのである。
「俺もだ。これ以上は付き合い切れん」
「モトキ! てめえまで……!」
「ガンプラバトルは遊んでこそ意味があるのだ! お前のサティスファクションは独りよがりに過ぎん!」
ゲイルマンに追従するように、程なくしてモトキングも脱退した。理由は遊びの度を超えたチームの方針である。
二人が抜けたことで、上位フォースに上り詰めていたフォース「チーム満足」のメンバーはあっという間に半分になってしまったのだ。
それまで入団希望者が一人もいなかったわけではないが、シオンは自分が要求する実力に満たないプレイヤーの申請は全て拒否していた為、チーム満足は結成時と変わらないまま四人でやりくりしていた。
そしてゲイルマンとモトキングが抜けたチーム満足は、自業自得の悪評と人数不足によって対戦相手とのマッチングすらままならず、一時はトップ10も見えていたランキングは碌に戦うことも出来ないまま一気に転がり落ちていったのである。
自分が四面楚歌であることにようやく気づいた頃には全てが遅く、こんな筈ではなかったと失望の思いでシオンが嘆く。
「なんでみんなわからねぇんだ……俺はただ、本物のガンプラバトルがやりてぇだけなのによ!」
「シオン……」
「みんな、そんなに偽物がいいのかよ……! 偽物のガンプラバトルが……っ、たかがネトゲ如きが!」
最も致命的だったのは、彼がすこぶる調子に乗りやすい性格であり、ネットワーク社会に向いていない人間だったことだろう。
リアルの
要するに、彼女は度が過ぎた世間知らずだったのだ。世間知らずのまま放置され、明後日の方向に進化してしまった。
もしも彼が彼女──アバターをリアルの姿からさほど変えずにログインしていたならば、その辺りの疎さも世話好きなオネエ様辺りが甲斐甲斐しく矯正してくれていたかもしれない。
しかし、彼のアバターは大活躍をしていた。
満足満足した外見では、純粋にバトルを求める行動さえ迷惑なクソコテにしか見えない。
中身の本質を理解できれば何てこともない人間なのだが、彼はELSのように理解が難しいプレイヤーだった。
そんな彼の元に残った最後のフォースメンバーであるキャンサー・レアが、誰も自分の気持ちを理解してくれないと項垂れるシオンに向かって、静かに問い掛けた。
「ガンプラバトルに……本物と偽物があるのか……?」
「…………っ」
この世の真理を突いたその言葉は、しかし──彼女の古傷を抉る言葉だった。
血を吐くような苦しい顔で、同じ台詞を言い放った高校時代の先輩の顔が脳裏に過る。
それは古きものが切り捨てられ、ガンプラバトルの舞台がGPDからGBNへ移行しようとしていた時代──当時の彼女が憧れていた先輩から掛けられた、忌々しい記憶が蘇る一言だった。
「てめえまで! 俺にそんなこと言うのかよっ!」
「? ぐっ……」
どいつもこいつも、誰も自分の気持ちを理解してくれない!
周りの目には俺の姿が見えない! 俺の言葉は周りの耳には届かない!
俺を見ろと叫び、積もり積もったストレスが頂点に達したシオンは、キャンサー・レアの胸ぐらを掴んで押し倒した。
──彼の前にフードの男が現れたのは、その時だった。
「ああ、お前は間違ってねぇ」
「! 誰だ!?」
赤いローブを纏った一人の青年だった。暗黒卿のようなフードを目深に被った装いは見るからに怪しく、素顔は窺えない。
シオンとレアが向ける警戒の眼差しもどこ吹く風か、二人の前に突然現れたその男は、シオンの苦悩を見透かしたように言った。
「偽物の世界に愛想が尽きたんなら、何もかもぶっ壊せばいい。ああ、お前は俺と同じだ。そうだろ? サティス・F・シオン……いや、フルキ・シオン」
「……てめえ、俺の名前を……!」
はっきりと憎しみを込めて呟きながら、フードの男はシオンのリアルネームを口にした。
まるで知人のような素振りだが、シオンの記憶には思い当たる節がない人物だった。
その彼が、僅かに露出した口元をにやりと歪めながら近づく。
『俺はお前のようなプレイヤーを待っていた。偽物の世界に満足出来ず、「本物」を求めて暴れる獣をな……協力してやるよ。このブレイクデカールは、お前の望みを叶える力だ』
──そして彼は、シオンの端末に得体の知れないコードを挿入した。
「ブレイクデカールか……ふん……」
あの時、フードの男から一方的に渡されたツールの名を呟き、シオンは
後で知ったことだが、近頃からこのGBNでは闇のツールの存在がまことしやかに噂されていたらしい。
そのツールの名は「ブレイクデカール」──データに不正の証拠を一切残さない、ガンプラの異常強化ツールである。コードを入力すれば機体の性能が限界を超えて上昇し、初心者でも上位ランカーと対等に渡り合うことができる。まさしく、シオンが渡されたツールの名だった。
それを渡してきたあの男こそが、今のGBNにブレイクデカールを広めた元凶なのだろうとシオンは察する。
だとしたら、とんだお節介である。
「こんなツールじゃ、満足できないぜ……」
奴が何を勘違いしていたのかは知らないが、自分は不正ツールに頼らなければ勝てないようなヌルいダイバーではない。シオンが求めていたのは自分自身が強くなることよりも、既に十分強い自分が満足することができる理想の戦場だった。
ブレイクデカールを使用することで周囲に膨大なバグが発生し、仮想空間に深刻なダメージを与えるという点だけは八つ当たりに向いているが、効果がどれほどのものなのかもわからない以上迂闊に手を染める気にもならなかった。
故に彼は、フードの男と出会ってから一度もブレイクデカールを使うことがないまま今に至る。寧ろその存在すら忘れかけていたほどである。
しかし今になって思い出したのは、これから戦う相手が死力を尽くさなければ勝てない強敵だからというのもあるのかもしれない。
尤も、あの男との戦いに不正ツールの手を借りて勝っても意味はない。そう吐き捨て、シオンは唇を吊り上げる。
──あの男が、遂にバエルを完成させた。
今のシオンを駆り立てているのは、久しく覚えていなかった興奮である。
バエルが完成したというその事実だけで、高校時代の彼を知るシオンは既に胸の高鳴りを抑えられないでいた。
彼ならばきっと、今の自分を満足させてくれる。あの時のGPデュエルのように、本物のガンプラバトルを見せてくれるかもしれない。
マッキーという男にはシオンにそう思わせるだけの前科──もとい、実績があったのだ。
《シオン、こっちの準備は整った》
「ああ、発進してくれ。俺もすぐに出る」
《わかった。キャンサー・レア、ジャンク・アッシマー、デュエッ!》
周りから仲間がいなくなり、理解者も得られなかったシオンだが、彼との戦いで何かを得ることに期待している自分がいた。
しかしその気持ちを言葉にするのはどうにも難しく、シオンは苛立ちを抱えたまま試合当日を迎えている。
「マッキー先輩……満足させてもらおうじゃねぇか!」
唯一の仲間であるキャンサー・レアの発進を見届けた後、彼の乗るガンプラも続き、新宿のフィールドへと飛び立った。
昨夜のうちにある程度情報を調べてみたが、このGBNにおけるシオンの評判はすこぶる悪いようである。
それは主に素行面での問題であり、彼のフォース「チーム満足」があらくれフォースと呼ばれている理由もネットで調べればすぐに出てきた。
罪状は初心者狩りやゲームコンテンツのネガティブキャンペーン、GPDのダイレクトマーケティング等多岐に渡るが、どれも運営が規定したルールを明確に破っているわけではない以上、私から言うことは何も無い。
尤もシオンという後輩は高校時代から妙なところで常識が無く、かなり世間に疎かった印象がある。全く、私を見習ってもらいたいものだな!
あの子が今も変わらずトラブルメイカーであるという情報は、知人である私には至って想定内だった。
しかしその悪名高さに比例して、ダイバーとしての腕前は高く評価されているらしい。
有望なダイバーを紹介しているロンメル大佐のコラムでは、サティス・F・シオンの実力についてトップランカーと同等のSランクだと書き綴られていた。マナーの悪さについての苦言も一緒に呈されていたが、書き込みからはあの子がさらに腕を上げた事実を見受けることができた。
そんな彼とセッティングした、このフォース戦。
既に私のバエルとイッシーのヘルムヴィーゲ・アヘッドはカタパルトから発進しており、共に目視できる距離を保ちながら新宿市街を滑空していた。
「タッグマッチのセオリーは、連携して積極的に二対一の状況を作ることにあるが……我々向きではないな」
《ええ、私では准将の動きについていけません》
「謙遜するな。慣れないことはしない方が良いという話さ」
《はぁ……》
しかし、シオンが対戦ルールにタッグマッチを要求してきたのは、彼のフォースが相次ぐメンバーの脱退で二人しか残っていないからだったとは思わなかったものだ。彼がリーダーを務めているフォースが何故中堅止まりなのか疑問に思っていたが、そういう理由ならば納得できる。オンラインゲームにおけるチーム戦要素とは、メンバーの技量などよりも出席率の方が重要になるものだ。私にも覚えがある。
寧ろメンバーが揃っていた全盛期にはフォースランク13位まで上り詰めていたことから、彼の才覚の高さは疑うまでもないだろう。
そんな彼が相手ならば、私もこのバエルの真価を発揮できるといもの。
私とは違う道を歩み、貪欲に満足を求め続けた戦乙女、フルキ・シオンが相手ならば。
故にこの試合、買わせてもらおう!
「ワンハンドレッドは私がやる。イッシーは相方を抑えろ」
《了解!》
アグニカ・カイエルは一騎当千。故に、我々は連携に力を入れているチームではない。特に私とイッシーの場合は、個々の裁量に任せた方が何かと上手くいくだろう。
ここは二対一ではなく、一対一の状況を二組作っていく方針で行こう。イッシーにはお互いの動きを邪魔しないようにだけ注意し、各個で応戦するように通達しておいた。
問題は相手を如何にして分断するかだが……その懸念は、杞憂に終わった。
「考えていることは、君も同じか」
《はっ、てめえとは一対一でやりたいと思っていただけだ!》
荒れ果てた未来世紀に現存する新宿の中で、最も巨大な高層ビル。その頂に鎮座しながら、白いモビルスーツが一機こちらを見下ろしていた。どうやら私が来るのを待ちかねていたようだ。
バエルに似た美しくも雄々しいフォルムを持つその機体は、しかしバエルとは異なる機体コンセプトで作られているのがわかる。
右手にはガンダムサバーニャの「GNライフルビットII」と思わしき火器が携えられており、左手には見るからに凶悪なギミックが仕込まれているとわかる刺々しいシールドが装着されている。
腰部両サイドには一見バエルソードのように見える二本の実体剣──黄金に塗装された「GNソードII」らしき近接武器がマウントされており、機体の各部位もこうして見れば通常の1.5ガンダムよりやや肥大化していることがわかる。あれは恐らく展開式になっており、中に何か仕込んでいるのだろう。1.5ガンダムと言うよりクロスボーンガンダムを相手にする感覚でいた方が良いのかもしれない。
機体の魔改造ぶりを見た限り、彼のプレイスタイルは高校時代とほぼ同じだろう。
必要な武装は必要最小限でいいという私の考えとは対照的で、あの子は有用な武装は詰め込めるだけ詰め込んだ方がいいという考え方をしていた。
武装は幾らあっても足りることはないと。そして多種の武装を実戦で使いこなせるだけの技量が、私の知るサティス・F・シオンにはあった。
《高校時代を思い出すなァ、マッキー!》
ああ、思い出す。あの頃の私は、バエルの改造プランで度々君と衝突したものだ。
君にもいいバエリストになれる素養があったが、当時の私には君の武装詰め込み主義を受け入れることができなかった。
フレーム構造の談義では大いに盛り上がったものだが、理想のバエルを製作するに当たって「元のバエルより武装を増やすべきか」という議題では盛大に意見が食い違い、別々の道を進むことになった我々だ。
『いや、武器は増やした方がいいですって。ツインバスターとか持たせて、何なら剣を七本にしてみませんか? ガンダム・バエル・セブンソードGとか絶対強いですよ!』
『それではアグニカリティーが落ちる。君もまだ甘いなシオン。それでは子供の発想だぞ』
『っ! 今子供って言いましたか!? いくら私が小さいからってそんなこと言うんですか先輩は! あーもういいですよ! 先輩なんて式典用のバエルで踊っていればいいんですっ』
『バエルを持たぬ者にはわかるまい……既にアグニカ・カイエルの魂という絶対的な力を持つバエルには、折れない剣と牽制用の電磁砲さえあれば十分なのだ』
『先輩ってバエルのことになると早口になって気持ち悪いですね!』
『バエルを持たぬ私の言葉に背くとは……』
『持ってないからじゃないですか? さっさと作っちゃいましょうよ! 武装がごちゃごちゃしているのが駄目なら、このトライアルシステムとかどうですか? 使いどころないですけど放送当時噂されていたみたいですし!』
『バエルゥ……』
フッ……あの頃は私も若く、今ほど寛大なアグニ観を持っていなかったからな。
あの頃のシオンが考える理想のバエルとは、装甲中にビット兵器やビーム砲が敷き詰められ、意味も無くトライアルシステムまで搭載された満足バエルとも呼ぶべき存在だった。
当時の私は「そんなものはもはやバエルではない」と否定し、君にはバエルの魅力がわからないのかと項垂れていたものである。
……しかし、今ならそれもまたアグニカだとわかる。君のアグニ観も、決して間違ってはいなかったのだ。
そう、ガンプラは自由であり、バエルもまた自由。バエルは自由な発想でアグニカして良いのだ。間違っていたのは、「バエルはこうあらねばならない」と自分の理想を押し付けていた私の方だった。
その非礼を今、君に詫びよう。すまなかった。
《……何のこと言っているんだ?》
ふっ、水に流してくれるか。大人の対応にチョコレートをあげたいところだが、今は持ち合わせていないので20アグニカポイントを移譲しよう。
しかし、君がたどり着いた究極のガンプラとは、バエルではなく
《へっ、あの時の俺とてめえの戦績は五分と五分! 最後のデュエルは引き分けに終わっちまったからな……てめえが卒業した時は、「次はお互い理想の機体で決着をつけよう」とか言ってたもんだ》
ああ、その件についてはもちろん覚えている。
「君に贈ったその言葉に嘘はない。このバエルこそが唯一絶対であり、全てのガンプラの頂点に立つ。お前と……この私の研究成果を、ここで披露することになるとはな……運命か」
──だが、それももう終わりだ。
もう昔話は十分だろう。
さあ、試合の時だ。
《イイ覚悟だァ!》
通信に本音を返した私は、因果に綻んだ頬を引き締め、モニター上のガンダムを指差す。
マクギリス・ファリドも作中でやっていたが、指差し確認は大事だ。これをやるかやらないかでは、生存確率は段違いだ。私も強敵と戦う際には欠かさずに行っているルーティンだった。
いくぞ、サティス・F・シオン!
《101.5ガンダム!》
《バエルだ!》
《サティス・F・シオン!》
《アグニカ・カイエルの魂!》
この戦いの模様を外部エリアで観戦している仲良し四人組たちから、いつもの声援が直に送られてくる。
高層ビルの頂から飛び出していくシオンの101.5ガンダムと同時に、私は彼らに後押しされるようにバエルを飛翔させた。
《デュエッ!》
「バエルッ!」
たどり着くべき場所を求めて進み続けたデュエリストとバエリストが、純粋なる力の輝きを互いにぶつけ合う。
それはとても、
ただのバカVSただのアホ
リク君たちがマギーさんに会えたのは作中一の幸運だったのではないかと思います。