バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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 戦闘中のレスバトルが微妙に噛み合わないのはガンダム作品のお約束。


奴らは圧倒されている!

 武装詰め込み主義であるシオンにとって、自らが扱うガンプラはたとえハンドレス状態になっても戦闘の継続が可能であることが最低条件だった。

 それ故に、あの子が作るガンプラは両手に依存しない。

 マニピュレーターを介さずとも十全に扱うことができるハンドレス・ウエポンこそが、シオンが得意とする武装だった。

 その最たる例が、今まさに101.5ガンダムのウイングバインダーから射出されていた。

 

《行くぜ! まずは地獄の一丁目だァ! 行けよファンネルゥ!》

 

 ファンネル──いわゆるビット兵器である。

 パイロットの遠隔操作による、四方からのオールレンジ攻撃。高校時代は隙あらばバエルにビット兵器を積み込もうとしていたシオンだが、やはり101.5ガンダムにもファンネルが内蔵されていたようだ。射出された複数の端末は、それぞれが意思を持つ生き物のような挙動で陣を敷いてきた。

 

《コイツで血の海渡ってもらおうかァ! ヒャーハッハハハ!》

 

 ガンダム作品原作において、ニュータイプ等特殊能力者専用の装備として登場することが多いビット兵器だが、このガンプラバトルにおいても操作難度の高い装備として反映されている。

 幾つもの端末を自身の機体と並行しながら、同時に使役しなければならないのだ。射出後はオート操作に切り替えることも出来るが、その場合迂闊に扱えば自分自身が自らのビットに撃たれる危険がある為、操縦者には高い空間認識能力とマルチタスクが要求された。

 戦術的に有用でありながら使い手が少ない理由は、ひとえにこの扱いにくさにあった。

 

 しかしそのビット兵器を、シオンは完全に使いこなすことができる。

 

 ビルダーとしてもあの子のガンプラは極まった作り込みから疑似的なサイコミュシステムを再現しており、操るビットはその殆どが脳波制御によって動き、原作さながらの性能を発揮している。

 そのうえあの子自身の高い空間認識能力によって制御される端末はまるで一つ一つが生き物のように動き、一般的なビット使いを遥かに超越した動きが可能だった。

 

 重力下でも問題なく稼働する101.5ガンダムのファンネルは、散開しながらこちらを取り囲み、一つずつ軸線をずらしながらビームを連射してくる。

 私は一度上昇させたバエルを急降下させると、地面を盾にするように滑空し、蛇行を続けた。

 

「そこまで考えていたわけではなかったが……フィールドにここを選んだのは正解だった」

 

 ビット使いを相手にする上で幸いだったのは、ここが宇宙ではなかったことか。

 障害物が少なく、上や下の概念も無い宙域フィールドではファンネルの回避がより困難になっていたところだが、ここは地上であり建造物も多い新宿だ。ファンネル端末の移動速度が若干落ちる重力下の環境であり、辺りには射線から身を隠せる障害物もある。他のダイバーはどうかわからないが、私からしてみればビット兵器の対処は地上の方がやりやすかった。

 特に地面があり、下からの攻撃を警戒しなくて済むのは大きい。上と左右からの同時射撃は厄介だが、それだけでも随分とかわしやすくなるものだ。

 戦闘開始から既に両手に収まらない数のビームを撃たれているが、今のところ閃光の嵐はアスファルトの瓦礫と土煙を巻き上げるだけに留まっていた。

 

 1、2、3、4、5……数は14基か。それぞれの翼に7基ずつ搭載していたようだが、こうして見るとファンネルの形状はキュベレイやサザビーのそれと異なり、Gジェネレーションシリーズに登場するフェニックスガンダム系統の「フェザーファンネル」に似ていることがわかった。

 小型故にνガンダムのフィン・ファンネルのような長時間の展開はできないが、それぞれビームを発射してからウイング部に回収し、チャージを終えて再び射出するローテーションが緻密な計算の上で行われており、空中には常に7基以上のファンネルが展開している状況が作られていた。

 実際の数は14基の筈でありながら絶え間なくビームが襲い掛かってくる為、こちらとしてはそれ以上の数に襲われている感覚である。

 まるでハマーン・カーンのようなシオンの巧みなファンネル捌きに唸りながら、私のバエルは超高速での蛇行を繰り返し、時に周囲の建造物を盾にしながら彼の猛攻をやり過ごしていた。

 しかし、どう出るか。

 ある程度の機体情報はわかったが、このままではこちらの距離まで詰め寄ることも出来ない。

 

《そらそらどうしたァ!? てめえの信じるバエルの理想はこの程度か!?》

「言ってくれるな、シオン!」

 

 自らの優勢に酔いしれながら私を煽るシオンの通信に、私は高校時代を思い出しながら対抗心を滾らせていく。当時からあの子は煽り上手であり、私もあの頃は若かった。

 しかしこのブライト・ノアも満足しそうな弾幕を前にしては、近接戦に特化したバエルでは些か分が悪い。

 ここは回避に専念し、接近可能になるまで味方の援護を待つ……と、並のパイロットなら思うだろう。

 

 しかし、私はバエリストだ。

 バエルの完璧な機体コンセプトを前に、不利な相手など存在しないと確信している。

 

 だからこそ、示さなければならない。

 遠距離武器の性能の違いが、戦闘力の決定的な差ではないということを! 

 私は自らの根拠に基づいた熱狂に浮かされたまま、ホルダーから二本のバエルソードを引き抜き弾幕へ飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

「准将っ! ぐっ……!」

 

 101.5ガンダムのオールレンジ攻撃を受けてマッキーが守勢に回っていると見たイッシーのヘルムヴィーゲ・アヘッドだが、彼はその様子を尻目に目の前の相手を余儀無くされていた。

 バエルがサティス・F・シオンと接敵したのと時を同じくして、彼もまたもう片方の敵と相対していたのだ。

 藍色のカラーリングが施された、丸みを帯びたフォルムのガンプラ──ジャンク・アッシマー。ダイバーの名はキャンサー・レア。

 マッキーよりも一足早くGBNに参入していたイッシーは、彼らチーム満足の情報もある程度噂に聞いていた。非常に悪名高いフォースであるがメンバーの実力は本物だという話も聞き及んでおり、今まさにその実力の一片を目の当たりにしていた。

 

《行かせはしない》

 

 機体には様々なガンプラのパーツが組み合わせており、原型がアッシマーであることも言われて初めて気づく高いオリジナリティに溢れていた。そう、オリジナリティ溢れたデザインである。

 フォルムは曲線的だが上半身は大きく逆三角的な体型をしており、右腕に関しては特に太く頑丈そうな造りをしている。背中にはジェットストライカーのような大型のバックパックを装着しており、重力下でも高い飛行能力を有していた。

 そしてその左脇には、白く塗装されたランチャーストライクガンダムの主武装、320mm超高インパルス砲「アグニ」が携えられていた。

 全長約20mに及ぶ大型のビーム砲が火を噴く度に、飛び退ったヘルムヴィーゲ・アヘッドの横を抜けて背後の建造物を崩壊させていった。

 

《アグニ!》

《アグニ!》

《アグニカ・カイエルの魂!》

「お静かに!」

《魂……》

 

 興奮する仲良し四人組たちの声援メッセージをプチッと切断すると、イッシーは目の前の戦いに集中する。

 准将は雑音さえ力に変えてみせるが、自分は彼ほどノリやすい性格ではない。仲良し四人組たちのことはもちろん大切な仲間だと思っているが、自分の実力を自覚しているからこその処置だった。

 

 橙色のGN粒子を強く噴射させ、イッシーのアヘッドが赤い弾幕を潜り抜けながら空を前進し、肉迫していく。既に右手にはGNロングビームサーベルが携えられており、左手にはGNショートビームサーベルが携えられている。

 イッシーが得意とする戦闘スタイルは、マッキーと同じく二本の剣を扱った二刀流での近接戦闘である。それもその筈、大学でマッキーと出会うまで、イッシーはガンダム・バエルこそを己の愛機として扱っていたのだ。

 マッキーと出会うまでは自分が一番上手くバエルを使えるのだと信じていた身であり、彼に対して対抗意識を強く燃やしていたものである。しかし彼と戦い、その力に圧倒された時──イッシーは彼こそがこの世界で唯一絶対的なバエル使いになると確信し、今に至る。

 そんなイッシーが抱く思想は、実にシンプルだった。

 

 ──准将の操る最高のバエルを見てみたい。最高で最強のバエルと一緒に戦いたい。

 

 故にイッシーは自らバエルを降り、自分もバエリストでありながらバエルとは異なる機体を扱っていた。

 サキガケをベースにヘルムヴィーゲ・リンカーに寄せた改造を施したのも、自分が目指すべき役割(ロール)をマクギリス・ファリドの忠臣「石動・カミーチェ」に見定めた結果である。そして何故ヘルムヴィーゲ・リンカーをそのまま使わなかったのかと言うと、イッシ―にはヘルムヴィーゲの大剣が扱いにくかったからであった。

 それと、単にアヘッドが好きだったからと言うのも理由である。ガンダム00ではミスター・ブシドーやジニン大尉がお気に入りだった。

 ヘルムヴィーゲもアヘッドも両方好きだから混ぜてみた。それが、イッシーのガンプラ「ヘルムヴィーゲ・アヘッド」の誕生秘話である。

 そのヘルムヴィーゲ・アヘッドの機体コンセプトだが、バエルと同じく至ってシンプルだ。高い機動性、旋回性能で敵との間合いを詰め、二本のビームサーベルで両断する短期決戦の近接特化型。

 

「正確な射撃だが、ここは市街地……」

 

 操縦桿を握る力を強め、イッシーのアヘッドが鋭角的な軌道でビル街の空を旋回する。

 ジャンク・アッシマーの「アグニ」の弾幕に対し障害物を利用しつつ接近し、イッシーは剣の間合いまで巧みに持ち込んでいった。

 大口径のランチャーは射程が広く火力も高いが、その分取り回しが悪く、小回りが利く相手の迎撃には向かないのが欠点だ。特に障害物が多い市街地戦では、地の利はこちらにある。

 

「貰った!」

 

 ジャンク・アッシマーの攻撃で倒壊していく高層ビルの陰から飛び出し、一気に肉迫し頭上を取ったアヘッドがGNロングビームサーベルを振り下ろす。

 一撃で決めるつもりで縦一文字に振り抜いた光剣は、しかしイッシーが意図していたものとは違うものを切り裂いた。

 

 アグニである。

 

 剣の間合いに入った瞬間、ジャンク・アッシマーが咄嗟にランチャー装備を切り離し、それを投げつけることで自身の盾にしたのだ。

 機体を両断するつもりだったイッシーにとってそれは期待していた成果ではなかったが、射撃武装を失った今のジャンク・アッシマーは丸腰だ。気を取り直して再度推力を上げたヘルムヴィーゲ・アヘッドは、爆煙を突き破りながら一直線に切り掛かった。

 

 ──そして次の瞬間、イッシーはモニター全面に飛び出してきた鋼の拳に弾き飛ばされた。

 

「……っ」

 

 それは、「メリケンサック」だった。

 ジャンク・アッシマーが突き出した右手に仕込まれたメリケンサックがアヘッドのビームサーベルと干渉し、その膂力で力任せに彼を吹っ飛ばしたのである。

 ジャンク・アッシマーの太い右腕にはサーベルらしき近接武器が携えられていなかった為、接近戦ではこちらが有利だと思っていた。

 しかしその判断が誤りだったことに、イッシーは気づく。

 ジャンク・アッシマーは吹っ飛ばしたアヘッドを追い掛け、畳み掛けるように距離を詰めて連打を浴びせてきた。

 モビルファイターのような猛攻を二本の剣で捌きながら、イッシーは敵のガンプラ、ジャンク・アッシマーの機体特性を理解する。

 接近戦ではこちらが有利? 違う。相手のガンプラもまた近接戦闘に特化した機体であり、クロスレンジの間合いはあちらの距離でもあったのだと。

 自分はまんまとおびき寄せられたのだと悟り、イッシーは苦渋を浮かべた。

 

「……っ、強い! ジャンクパーツだけで、これほどの性能を……っ」

 

 数発弾き合ったビームサーベルとメリケンサックの拮抗の後、フェイントを入れながら回り込んできたジャンク・アッシマーの回し蹴りが胴部に叩き込まれ、アヘッドの機体が背後に建ち並ぶ高層ビルの外壁へと埋まっていく。

 コクピットを激しく揺らす衝撃の中、モニターに映る藍色の機体がモノアイの目で悠然と見下ろしていた。

 

「これが、チーム満足の力……!」

 

 これが、一時はランキング13位にまで上り詰めたフォースの実力かと慄然とする。

 流石はチーム満足のメンバーだと、想定以上の実力にイッシーは唸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナノラミネートアーマー。

 それは「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」において、作中のモビルスーツのほぼ全てに標準使用されている装甲加工技術である。

 リアクターのエイハブ・ウェーブに反応して複層分子配列を形成する金属塗料が表面に蒸着されており、これが衝撃を吸収、拡散しビームを反射する仕組みになっている。要するに、実体弾射撃やビーム兵器に対して高い防御力を発揮するということだ。

 特にビーム兵器への耐性には凄まじいものがあり、モビルアーマー・ハシュマルの大口径ビーム砲を持ってしても決定打にならなかったほどである。

 しかし決して無敵と言うわけではなく、メイスや斧、ダインスレイヴなどの質量兵器によって許容量を超える衝撃を与えたり、経年劣化や集中攻撃などで装甲表面の特殊塗料が剥がれた部位を狙うことで対策は可能だ。

 ビーム兵器も同様であり、同部位を継続的に撃ち抜かれたり、装甲の隙間や関節部に直撃を与えればナノラミネートアーマー機を破壊することはできた。

 

 加えて、このガンプラバトルではナノラミネートアーマーの耐性もガンプラの作り込みに左右される為、作り込みが甘ければ他の機体通りビーム兵器で落とされることも珍しくなかった。

 

 でなければ今頃GBNのゲームバランスは崩壊し、フィールドは鉄血のオルフェンズの機体に溢れていたことだろう。バエルに溢れた戦場も私としては乙なものだが、原作レベルの性能を再現できるほど極まったビルダーは世界広しと言えど数少ないと言うことだろう。

 尤も、私のバエルのナノラミネートアーマーは並の強度ではない。流石にバスターライフルクラスのビームを何度も耐えることはできないが、ファンネルの一発や二発程度なら真っ向から受けても十分耐えることはできた。

 対人戦でそれを実践してみたのは、今回が初めてだったが。

 

 四方から襲い掛かってくるビームの嵐に構わず、私は機体の推力に任せて前進し、シオンの101.5ガンダムへと急迫していく。

 その過程で右肩に一発、左脚に一発いいものを貰ってしまったが、いずれもバエルの足を止めるほどのダメージにはならなかった。

 ある程度の被弾はやむなしと許容し、無理にでも接近戦に持ち込む。私が移した行動は至極単純である。

 しかしそのような強引な攻めを、シオンは最初から待ち構えていたのだろう。ファンネル群を突破してきたバエルに対し、101.5ガンダムは左手で金色のGNソードⅡを引き抜いて応戦してきた。

 

 ウイングスラスターから青白い光を撒き散らすガンダム・バエルのバエルソードと、コーンスラスターから橙色のGN粒子を撒き散らす101.5ガンダムの実体剣が初めて衝突し、重なり合う。

 

 黄金の刃が衝撃と共に火花を散らし、一旦離れ合った後再度ぶつかり合い苛烈に舞い踊る。

 その間にも101.5ガンダムのファンネルは絶えず空中を動き回っており、こちらに狙いをつけたビームの光は何度閃いたかわからぬほどだ。

 近接戦闘をしつつ、ファンネルを操作する。どちらの操作も一級品であり、その動きに隙は無い。

 高校時代と方針を変えぬまま、より洗練されたシオンの技巧がそこにあった。

 

 強いな……流石はシオン、この私と毎日欠かさず理想のバエル論議を交わしていただけのことはある。

 

 バエルの動きをファンネルを介して監視し、分析し、牽制する。シオンのファンネルの扱い方は、「眼」としての扱い方が主だった。

 これまでの動きから察するに、彼とてファンネルのビームが直接バエルに通じるとは思っていないのだろう。14ものオールレンジ攻撃は全て、私の反応を窺う為の物だ。

 バエルの装甲への信頼からファンネルに対する回避意識を一段階落とした私を見て、シオンの出方も変化する。

 101.5ガンダムは右手のGNライフルビットⅡを遠隔操作モードにして放り投げると、左側のサイドアーマーから二本目のGNソードⅡを引き抜き、二刀流の構えを取ったのである。その姿はまさしくGNバエルである。

 この戦いの決め手になるのはやはり実体剣だと判断したのか……と、私が彼の意図を読み取った矢先、二本の剣を携えた101.5ガンダムは巨大なウイングバインダーからさらなるビット兵器を射出してきた。

 

《唸れェ! シザービットォ!!》

 

 ファンネルと同サイズに小型化された突撃型のビット兵器──GNシザービットである。

 原作ではガンダムハルートの装備であるGNシザービットを両翼から5基ずつ射出すると、ファンネルと共に帯を引きながらフォーメーションを組んで襲い掛かってくる。

 計14基のファンネルと、計10基のGNシザービット、さらにはついでとばかりに滞空しているライフルビットⅡが1基。この分ではあの機体にはまだ数種類のビット兵器が積み込まれていると見て間違いないだろう。

 

「なるほど……」

 

 故に、ワンハンドレッド・アイズ(100の眼)か……私はシオンが付けた機体名の意味を理解した。

 貪欲に満足を追い求めるあの子なら、自身のガンプラに100基ものビット兵器を積め込んでいてもおかしくない。

 

《踊れマッキー! 死のダァンスを!》

「ふっ……」

 

 ミサイルよりも速いスピードで動き、一つ一つの威力こそ弱いが同部位への定点攻撃が可能なシザービットであれば、確かに私のバエルのナノラミネートアーマーを突破することができるだろう。

 魚群のように頭上から飛び交うビームをかわし、合間を縫って飛来してくる鋏型の端末をバエルソードで弾きながら、操縦桿を握る私が苦笑を漏らす。

 シオンのオールレンジ攻撃は、どれも緻密な計算を行った上で成り立っているものだ。

 冷静な戦闘スタイルに反した苛烈なロールプレイのギャップに、思わず笑ってしまったのだ。

 もちろん、嘲笑ったわけではない。今のシオンを見ていると、正直に言って彼女(……)がGBNを楽しんでいるようにしか見えなかったのだ。

 

「GPDからGBNへの移行に否定的だったお前も……結局、この戦いを満喫しているではないか」

《……はんっ!》

 

 ふと脳裏に過るのは、高校時代に聞かされた彼女の言葉だ。

 雨に濡れた子犬のような顔で、彼女は儚げに嘆いていた。

 

『ガンプラが壊れない戦いなんて……ただのVRネットゲームになってしまったガンプラバトルなんて、満足できないですよ……』

 

 ……ああ、そうだ。

 それと、彼女はこうも言っていたな。

 

『せ、先輩は……辞めないですよね? GPデュエル……時代が変わっても、GPD辞めないですよね!?』

 

 

 不安そうに吐き出されたその言葉は、私に対して何かを縋っているようでもあった。

 尤も私からしてみれば、GPDもGBNもそこまで際立った違いがあるとは思えなかった。故に、私にはあの時の彼女の不安や失望の程が理解できなかったものだ。

 

 しかしどちらも同じガンプラバトルである以上、バエルでアグニカすることに変わりはない。

 たとえ戦いの舞台がGBNに変わろうとも、私はそこでアグニカン・ドリームを実現できるのであれば問題は無かった。

 

 今も変わらずアグニカできればそれでいいと考えている私に対して、不満足そうなシオンが吐き捨てるように返した。

 

《俺は今、GBNをやっているつもりはねぇ! これはあの時、てめえと満足に戦えなかったGPデュエルの続きだ!》

 

 フッ……やはり根に持っていたか、シオン。

 私が高校時代に扱っていたガンプラはバエルではなく、グリムゲルデだった。

 理想のバエル以外のバエルを実戦投入する気がなかったあの頃の私は、バエリストでありながら一度としてバエルを使って彼女と戦ったことがなかったのだ。

 無論、私自身としては彼女とは常に全力で戦っていたつもりだ。一番はバエルだがグリムゲルデのこともその次に愛していたガンプラであり、ビルドに手を抜いていたわけでもない。

 

 ただそれでも、バエルを語りながら頑なにバエルを出してこない私の姿勢が彼女には不満だったのだろう。

 だからさっさと完成させてくれと、何度も懇願されたものだ。

 

 そして今、シオンの前には私がようやく完成させたガンダム・バエルがある。

 GPD全盛の時代には完成が間に合わなかったガンプラが、GBN全盛の時代に蘇ったのだ。

 それがどれほどの高揚をシオンにもたらしたことか、バエリストである私には理解できる。

 

《てめえの信じるバエルをこの手でぶっ倒した時、俺は満足できるだろう!》

「イカれているな、シオン!」

《正気故だァ! マッキィー!》

 

 再度旋回し、周囲を取り囲む25の弾幕を超加速で突っ切ったバエルの剣が101.5ガンダムの剣と鍔迫り合う。

 衝撃と激しい光芒の中でシオンが叫び、私が返す。

 

《満足は全てにおいて優先される! それはてめえだって同じだろうがァ!》

「私が目指すのは満足ではない! アグニカン・ドリームだ!」

 

 ……そうか、お前は私のことを、そのように誤解していたのだな。

 不幸な行き違いか……かつて理想のバエルについて語り合っていた我々もまだ、相互理解には至れなかったということか。

 シオンよ、満足とアグニカは似ているようで違う。私にとって満足とはアグニカン・ドリームの過程で生まれる副産物に過ぎず、優先すべき結果ではないのだ。

 そうだな、丁度いい一例が外からこの戦いを見ている。

 

「見ろ! ガンプラ同士の純粋な力だけが輝きを放つ舞台に、奴らは圧倒されている!」

《奴らだと……?》

 

 さあ、聴くがいい。シオン! 

 戦場に舞い降りたバエルという悪魔に魅せられた、熱きバエリストたちの叫びを! 

 

《バエルだ!》

《アグニカ・カイエルの魂!》

《そうだ! バエルの正義は我々にあるぅ!!》

 

 ガンダム・バエルが放つ圧倒的なアグニカリティーに、我々は心を奪われた。

 故にバエルと出会ったその瞬間から既に、我々の心は充実していたのだ。

 しかし私には、そこで立ち止まることができなかった。

 満足を超えた先のアグニカン・ドリームこそ、我々が目指す本当の居場所なのだ。

 そして今もバエルの中に息づくアグニカ・カイエルの魂と同じように、アグニカン・ドリームにも明確な終わりはない! 

 

「純粋なるこの力の前では、もはやGPDもGBNも関係ない! バエルという存在が放つ純白の光こそが、己が魂を解放できるのだと!」

《それが……どうしたァ!》

 

 だからこそ、我々は止まらない。止まれない。

 そして、思ったのだ。

 

 世界には今の君のように時代の変化に苦しんでいる者たちがいるからこそ、この時代にバエルの力を叩きつけてやりたいのだと! 

 

 多数のビットが飛び交う市街地において幾度となく鍔迫り合っていく交錯の中、私はバエルの膂力に任せた超高速の連撃でバエルソードを押し込んでいった。

 シオンもまた巧みな剣捌きで二刀流を使いこなし、両手に携えたGNソードⅡでこちらの猛攻に対応していくが──剣戟が三十を超えた瞬間、101.5ガンダムの剣に亀裂が走った。

 

《……っ、てめえ!》

「剣の勝負は、俺の勝ちだ!」

 

 三十三回目の剣戟が火花を散らすと、打ち合った二本のGNソードⅡが同時に破裂していくように砕け散った。

 101.5ガンダムの手にあるのは、もはや柄だけになった剣の残骸だ。その隙を逃さず、私は一気にバエルソードの剣先を敵機に仕向けた。

 しかし、当初の予想通り101.5ガンダムにはまだ武装が積み込まれていた。

 シオンは後退しながら左腕に装着した刺々しいシールドをこちらに差し向けると、その端部から4基ものビット兵器を撃ち出してきた。

 ダブルオークアンタの装備として有名な──GNソードビットである。勢い良く射出されたそれをバエルソードをクロスさせて弾くと、衝撃の伝わるコクピットの中で私は昂った。

 

「っ……! やはりまだあったか!」

《いいや、こんなもんじゃねェ! もっとだワンハンドレッド・アイズ! お前に注ぎ込んだ俺の満足で、奴のアグニカを奪ってみせろォ!!》

「そうだ! もっとお前の力を見せろ、シオン!」

 

 GNライフルビット、GNシザービット、GNソードビット。ソレスタルビーイング製のビット兵器を、片っ端から詰め込んだとでも言うのか。

 101.5ガンダムとバエルの間にGNソードビットを割り込ませたシオンは、遠隔操作で使役する四本の剣を振り回しながら私のバエルとさらなる剣戟を演じた。

 

《これで俺の手札はゼロだぁ! ヒャーッハッハッハッハァ!!》

 

 もはや使い物にならなくなった二本のGNソードⅡを放り捨てると、101.5ガンダムは自らハンドレス状態となりシオンが哄笑する。そのままガンダム・バエル初起動時のような構えを取りながら彼は上昇すると、大量のビット兵器を相手取る私を一方的に見下ろした。

 

 イッシーが相方を抑えてくれていると言うのに、これでは私一人で無数の敵と戦っているようなものだ。

 だが、この状況──ナイス・アグニカだと私は興奮する。

 

「バエルに乗った俺が、君の繰り出す無数のビットを一人で葬る! その行為が、アグニカン・ドリームへといざなう!」

 

 元より逃げ回るのは好きではない。大量のビットだろうと、真っ向から受けて立つ! 

 このバエルを挟み撃ちにしようと両サイドから躍りかかってきたソードビットに対し、私は左右それぞれのバエルソードを回転させながら、襲い来るビットの突撃をテニスボールのように弾き飛ばす。

 一呼吸吐く間もなく、現実世界であれば内臓に穴が空くような無茶な急加速と急ブレーキを幾度も繰り返しながら、私のバエルはZ字のターンを描くように低空を飛び回り攪乱していく。

 バエルの機体に宙返りを打たせ、ウイング部に搭載されたレールガンを手当たり次第乱射する。その射撃は群れから外れ、バエルの加速に追いついてきた4基のシザービットを1基ずつ撃ち落とし、小さな爆発を上げていく。その爆発に向かって迷うことなく機体を突っ込ませた私は、爆煙を隠れ蓑にこちらを狙っていた2基のファンネルを剣で叩き切った。

 

 しみじみと思う。やはり俺のバエルは最高の機体だ! 

 そしてその性能を惜しみなくぶつけられる相手の存在に、私は喜びを感じている……! 

 

 思えば、君が初めてか。ビーム兵器とは言え、私のバエルに攻撃を当てたのは。

 そして、これも君が初めてだ。私のバエルにレールガンを使わせたのは! 

 

《ヒャッハァー! 本体を忘れてんじゃねぇ!》

「ふっ、忘れてはいないさ……君の存在は常に、私の胸に刻まれていた」

《うるせぇっ!!》

 

 ビット兵器が絶えず飛び回っている間、上空に待機していた101.5ガンダムは高みの見物と決めていたわけではない。

 彼は改造前の1.5ガンダムの特徴であるウイングバインダーを回転させ肩越しに展開すると、その先端をバエルのいる地上へと向けていた。

 

「あれは……アルヴァアロンキャノンか!」

 

 発射体勢に入った101.5ガンダムのツインアイが、赤く煌いていた。

 

《違う! サティスファクション・キャノンだぁ!!》

 

 なるほど……ビーム兵器に強いこのバエルを、ビーム兵器で倒す気か! いいだろう、それもまたアグニカだ。

 背後から迫ってきたシザービットを横薙ぎに払うバエルソードで2基纏めて切り裂いた私は、そのまま脇目も振らず高度を上げて101.5ガンダムの元へ飛び向かう。

 

 そしてナノラミネートアーマーさえ突破しかねない満足砲の奔流が、暴力的な威力を持って襲い掛かってきた。

 

 





 アグニカってなんだ。バエルってなんなんだ。力で勝つだけなのはとても素晴らしい(マクギリス感)
 ヒロインはバエルのつもりで書いていたのですが段々仲良し四人組たちがヒロインみたいなことになってきました。
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