バエルを使って、アグニカンドリームを実現する為にガンプラバトルをする男   作:GT(EW版)

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 信じて送り出した娘が満足落ちダブルソードするなんて……という話です。


困った女だ

 裕福な家庭に生まれ蝶よ花よと育てられたフルキ・シオンは、生まれから育ちまで絵に描いたようなお嬢様であり、闘争とは無縁な世界に生きていた少女だった。

 それでいて聡明で心優しく、家族から注がれた愛情をしっかりと理解して育った彼女は少女漫画に出てくる悪役令嬢のように捻じ曲がった価値観を持つことも無く、素直に他人の言うことを聞ける「良い子」であった。

 ……と、そこまで聞くと非の打ち所がない完璧令嬢のように思える彼女だが、小さい頃は病気がちで死の淵を彷徨ったことも何度かあり、幼少期は常に苦しい思いで過ごしていたものだ。中学に上がる頃には病気を克服し学校にも通えるようになったのだが、シオンの周囲はそんな彼女を心配してさらに過保護に接し、中学時代まではほとんど病院か屋敷の中だけで過ごしていたものだ。

 

 私はもう大丈夫なのに、家族は私を自由にさせてくれない。

 だけど、私を心配する家族のみんなには感謝しているし、申し訳なく思っている。

 

 あまりにも過保護な周囲に対して思春期のシオンは人並みの反抗心を抱いていたが、一方でそれも仕方が無いという事実も飲み込めていた。自分が箱入りの幼少期を過ごすことができたことを、幸せなことだと認識していたのだ。故に自分のことをそれだけ大切に想ってくれる家族への感謝は常に忘れていなかったし、将来はそんな周りの為に役に立つことをしたいと漠然的に思っていた。

 

 

 ──シオンが初めて「ガンプラ」と言う存在を知ったのは、そんな彼女が高校に入学した頃のことだった。

 

 

 

 シオンが両親の奨めで入学することになった高校は、いわゆる富裕層の生徒達が多いお坊ちゃんお嬢様学校であった。それはもう、根も葉もない言い方をすれば少女漫画とか乙女ゲームとかの舞台でそのまま使えそうなコテコテ具合であり、辺り一面に薔薇と百合が咲き乱れた学校だった。

 そんな高校に入ってシオンは病弱な幼少期故に室内でそう言う類の本や漫画を読むことが多かった為、それはもう目をキラキラと輝かせながら新しい学校生活に期待していたものだ。

 

 ──そして入学後、学校のアリーナで行われた「クラブ紹介」によってシオンは模型部の存在を知った。

 

 運動部や文化部が各々に活動PRを行っている中で、模型部が行ったPRは他のクラブとは一線を画す内容だった。

 模型部の部長はただ一言、「これを見てください」と自分たちの活動内容を記録した一本の動画を公開したのである。

 

 

 それは、宇宙空間だった。

 

 宇宙空間で人型のロボットが、それぞれに厳つい武器を持ってキラキラと戦っていた。

 爆音と閃光が入り混じる闘争の風景と、映画やCGアニメと見間違うクオリティーで輝きを放つ舞台に、普段からそういう系のものに馴染みの無かったシオンは圧倒された。

 

 それこそが、ガンプラバトルである。

 

 模型部ではそういった自分たちが組み立てた模型──「ガンプラ」を使ったGPデュエルが行われており、映像はその時の戦場の様子を映したものだった。

 二本の剣を携えた赤いロボットと、一本の槍を携えた白いロボット。それぞれ「グリムゲルデ」と「ガンダム・キマリス」という名前であることを後に知ったシオンは、純粋な力同士でぶつかり合い壊し合うガンプラバトルに心を奪われたのである。

 

 その気持ちは、まさしく「愛」だった。

 

 それも、少女漫画を読んだ時などよりも一層深い情愛が篭っていた感情だった。

 この時、少女シオン十五歳は生まれて初めて恋をしたのである。人ではなく、「ガンプラバトル」という存在に。

 

 

 

 彼女がそれから起こした行動は早かった。

 シオンは懸命な説得で両親を説得すると、最初こそ渋られたものだが可愛い娘の滅多に言わない我が儘を前に最後は根負けし、どうにか許可が下りた。

 全ては部活動紹介で見たあの時の光景を間近で見たい、あわよくば自分でやってみたいという一心で、次の日から早速シオンは模型部の門を叩いたのである。

 もちろん、彼女自身小中含めて初めて参加したクラブ活動であり、怖い人がいたらどうしようという不安はあった。しかし模型部の面々は皆優しく、家族のようにシオンを迎えてくれた。

 と言うより、ここでも随分と過保護気味に扱われたものである。どうにもシオンの容姿が実年齢以上に幼く見えるようで、皆の庇護欲を掻き立てるらしい。同性の先輩たちが隙あらば頭を撫でたり、膝の上に乗せたがるのも善意であることはわかっているのだが、そんな扱いがシオンには少し不満だった。

 

 或いはそう言った自分自身のか弱さをコンプレックスに感じていたからこそ、純粋な力同士がぶつかり合うガンプラバトルに憧れを抱いたのかもしれない。

 

 模型部に入った当初のシオンはもちろんプラモデル初心者であり、部員たちのレクチャーを受けながら四苦八苦してガンプラを組み上げていたものだ。

 しかし、そこで一同を驚愕させたのが、彼女の並外れたプラモ作りの才能だった。

 シオン自身も知らなかった才能は活動を続けていく中で瞬く間に開花していき、あれよあれよという間に彼女を一人前のビルダーへと成長させていった。

 

 シオンが初めてガンプラバトル──GPデュエルを行えるようになったのもその時であり、彼女は先輩と組んで二対二のタッグマッチ形式で初陣を飾ることになった。

 

 シオンがその時、自身初めてのガンプラバトルで使ったガンプラは、HGの「デュエルガンダム」である。

 そして彼女と組んだ相方はクラブ紹介の映像で見た赤いガンプラ「グリムゲルデ」を使っていた先輩であり、仲間たちから「マッキー」と呼ばれていた男だった。

 対する相手はあの時ガンダム・キマリスを使っていた「ガリガリ」先輩と、模型部の部長である「団長」先輩である。

 模型部の先輩たちは基本的にお互いあだ名で呼び合っていた為、シオンは時々彼らの本名を忘れそうになったものだ。だが、皆揃って気立てのいい人たちだった。

 

『シオン、もっと前に出ていい。せっかくの初陣、全力で楽しんでみせろ』

『っ──、はい!』

 

 マッキー先輩は初GPDのシオンに対して特別何かを指導することもなく、戦場で昂った気持ちのまま好きに戦わせてくれた。

 自由──その時、フルキ・シオンは病気がちだった自分の身体や過保護な周囲との関係などに一切縛られることなく、初めて自分が自由に翼を伸ばせたような気がした。

 言葉通り好き勝手に動き回りながら、熱に浮かされるようにシオンは前に出て相手のガンプラと交戦した。マッキー先輩はそんな彼女の気まぐれな動きに上手く合わせてくれて、先輩の貫禄を見せつけるように彼女のデュエルガンダムを守ってくれたものだ。

 

 そして──

 

『あたれぇっ!』

『グゥッ……!?』

『あ、あたった!』

『ッ……ヴァアアアアアアアアッ!!』

『わっ、きゃあ!?」

 

 シオンのデュエルガンダムが連射したビームライフルの一発が、射程内に入ってきた模型部部長──愛称「団長」が駆る「イオフレーム獅電改(オルガ機)」を捉えた。大人げなくもナノラミネート装甲によりその一撃が致命打になることはなかったが、初めて攻撃を当てたことにシオンは喜び浮かれた。

 しかし反撃に繰り出された相手側のライフルを受けて、同時に洗礼を浴びたものだ。

 頑張って作ったガンプラが破損するのは悲しかったが、お互いの動きに一喜一憂しながら探り合い、何者にも縛られない自由な力でぶつかり合う決闘はそれ以上に楽しかった。

 

『怯むなシオン、私が援護している隙にトドメを』

『は、はいっ』

『だからお前ら、なんで俺ばかり狙うんだよ! ガリガリなら殺してくれ! 何度でも殺してくれ!』

『後ろから撃つぞお前……』

 

 マッキーのグリムゲルデとの連携で団長の獅電改を追い込み、初めて仲間と協力して楽しむということを覚えた。

 思えばマッキーという先輩は、そう言う意味でも自分に初陣を楽しませたかったのかもしれない。ガンプラバトルは一人だけで楽しむものではないのだと、教える為に──。

 

『お前らが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞォ!』

『シオン、今だ!』

『っ……! てい!』

 

 急迫していったマッキーのグリムゲルデが団長の獅電改の体勢を切り崩すと、その隙を捉えたシオンがトリガーを引き絞り、デュエルガンダムのビームライフルからグレネードが射出された。

 ナノラミネートアーマーにも通用する虎の子の一発である。その一撃は団長の獅電改の胸部に直撃し、彼のガンプラを見事爆発四散させた。

 

『や、やったぁ!』

 

 初の敵機撃破に喜び満面の笑みを浮かべるシオンの前で、GPベースの向かい側に立つ団長が何故か決めポーズのように人差し指を立てて左腕を振り上げる。

 

『だからよ……止まるんじゃねぇぞ……』

『団長おおおお! クソッ! よくも団長を! 団長は……団長はHG獅電改を買うのに苦労していたんだぞ! プレバンで再販された時も見逃して! リサイクルショップや鑑定団を探し回って、やっと買えたッ!』

『そうだガリガリ! 私への憎しみを、怒りをぶつけてくるといい。ヒットマン、希望の花、フリージア……そのような歌は残念ながら私には届かない……バエルの中で生きてきた私には!』

『えっ……え……?』

『……シオン、こいつらの会話は大体聞き流した方がいいからよ……聞くんじゃねぇぞ……』

 

 そんな茶番があったりなかったりしたものだが、バトルは滞りなく進行した。

 

 その後シオンは先輩の意地を見せつけたガリガリ先輩のガンダム・キマリスに何一つ攻撃を当てることができなかったものの、お手本のような動きで接近していったマッキーのグリムゲルデが彼を真っ二つに切り倒し、初のバトルは自分が撃墜されることなく勝利に終わった。なお、爆発四散した団長の獅電改はその後廃棄には至らず無事修復できたらしい。団長先輩はバトルの腕はそれなりだが、ロールプレイの上手さとガンプラ修理の腕前だけは自分以上だとマッキーは語っていたものだ。

 

 自分の力でガンプラを作り上げるのは楽しかったし、バトルも楽しかったし、作り直すのも楽しかった。しかしそう思うことができたのはきっと、共に遊ぶ仲間たちが傍にいたからなのだろうとシオンは思う。

 

 

 ……そう、自分をガンプラバトルに引き込んでくれたのは模型部の仲間たちであり、ガンプラバトルの楽しみ方を教えてくれたのも彼らだった。

 

 いつからだろうか? そんな彼らとの楽しい思い出を理由に、ここにある楽しさを否定し始めたのは。

 いつからだろうか? 少しでも不満なところがあると、鬼の首を取ったように責め立てるようになったのは。

 

 ガンプラバトルはもっと楽しくなる。もっと楽しくできる筈。そう思い、GPデュエルのさらなる進化を求め続けていたシオンだが、いざ後継として世に出されたGBN(ガンプラバトル・ネクサスオンライン)は彼女が期待していたものと違っていた。そのことに、ずっと大きな不満を抱えていた。

 そしてそんなGBNによってGPDが時代遅れになり、一緒にプレイする仲間がどんどん減っていくことが悲しく……寂しかったのだ。

 何よりGBNの台頭と先輩たちの卒業が重なってしまったことが、シオンの満足を拗らせてしまった原因なのかもしれない。

 GBNを受け入れることで……GPDを捨てることで、彼らとの思い出を否定することになるんじゃないかと。

 

 

(……うん、そうだったね……)

 

 あの時、模型部の仲間で最も尊敬していた先輩──マッキーとこうして戦ってみて、ようやく自分の気持ちに気づいたような気がする。

 振り上げられた黄金のバエルソードを前に、走馬灯のように駆け巡っていく記憶に浸りながら、シオンは自分が本当にやりたかったことを思い出した。

 

『ガンプラバトルに……本物と偽物があるのか……?』

 

 チーム満足の仲間、キャンサー・レアから掛けられた言葉が脳裏に過る。そしてそれは、奇しくも高校時代のシオンがマッキー先輩に言われた言葉だった。

 尤も当時はその言葉がマクギリス・ファリドの台詞を改変したものと知り、あのバエル馬鹿はこんな時も……と何とも言えない気持ちになったものだが……その問い掛け自体は、彼女の悩みへの本質を突いていた。

 

『ガンプラが壊れない戦いなんて……ただのVRネットゲームになってしまったガンプラバトルなんて、満足できないですよ……あの……せ、先輩は……辞めないですよね? GPデュエル……時代が変わっても、GPD辞めないですよね!?』

『……さて、どうかな? それは私のバエルが完成した時になってみなければわからない。その時になってもまだ時代がGBNを求めていたのなら……私はGBNでアグニカすることを選ぶだろう。その方がバエるからな』

『っ、またそれですか! バエルバエルって! なんですかそれ!? 意味がわからない……っ、貴方の目にはバエルしか映らないんですか!? 私を見てくださいよ! 偽物のガンプラバトルなんかより、私を! 私を見なさいっ!』

『ガンプラバトルに……本物と偽物があるのか……?』

『──っ』

 

 ……確か、こんな流れで出てきた言葉だったと思う。今にして思うと勢い余って凄いこと言っているな私……と振り返るシオンだが、あの時は自分も若かったということだ。当時は無自覚だったがあそこまで恥ずかしい言葉を言い切った自分に対して、あの男がマクギリス語録で乗り切りやがったことは正直幻滅したが、それはその時になって始まったことでもないのでシオンはあまり気にしていなかった。

 マッキーもまたGPDの今後については色々と考えていたようだが、あの男はそれはそれとしてバエルでアグニカすることを全力でエンジョイする全身アグニカ人間である。紳士的な立ち振る舞いに騙されてはいけないと、彼との出会いを経験したことでシオンは生まれて初めてイヤな男と言う存在を思い知ったものだが……それは彼が卒業する頃には、とっくにわかっていたことだ。

 だから、もういい。わかったことは、一つだったから。

 

(好きなものは、好きでいいんだ……)

 

 GPDも、GBNも、そこに偽物などない。

 好きだと感じたものはどこにどんな欠点があろうと、好きで良いのだと──それがやっと、わかったような気がする。

 

 時が経てようやく実現した理想の機体同士での彼との戦いは、とても楽しかった。きっとそれは、好きだと言うことなのだろう……頭に来ることや不満に感じることはあっても、このGBNで行われる「もう一つのガンプラバトル」が、シオンはきっと好きだった。

 

 彼風に言えば「それもまたアグニカ」という感じか。あっ、駄目だ。またわからなくなりそう……。

 

 その胸に芽生えた温かな気持ちを感じながら、シオンはもはや避けられないバエルの一閃を甘んじて受け入れた。

 コクピットのモニター画面にこれ見よがしに表示されている、「ブレイクデカール」の起動画面を無視しながら。

 

 

 ──焦らないで、ワンハンドレッド・アイズ。こんなものに頼らなくても、お前はもっと強くなる。私がお前を強くしてやる。だから、今はごめんね……これからは私が、もっと満足させてあげるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒れ果てた新宿の町を荒野から見下ろしながら、二人の青年が並び合わせに佇んでいた。

 一人は蟹のような髪型のキャンサー・レア。もう一人はサティス・F・シオンである。

 アグニカンスピリッツとのフォース戦を終えたチーム満足の二人は、試合が終わった後はお互い何も言うこと無くこうして静かに町の風景を眺めていた。

 

 しばらくの沈黙を破り、神妙な顔つきでレアが問い掛けた。

 

「満足できたか?」

 

 先の試合──二人は敗れた。

 レアのジャンク・アッシマーは敵のアヘッドを相手に終始優勢だったものの倒し切ることができず、驚異的とも言える相手ダイバーの粘りによって膠着状態に陥っていた。そうしてレアが手をこまねいている間にシオンの101.5ガンダムが敵リーダーのガンダム・バエルに打ち倒され、レアがようやくアヘッドにトドメをさせそうになったところでそのバエルが合流。「准将おおおおおおおっ!」と救援の到着を喜ぶ相手ダイバーの通信を鼓膜に響かせながら、レアもまたバエルによって叩き切られる決着となった。

 

 凄まじい相手だったと、レアは振り返る。アヘッドの粘りも賞賛に値したが、バエルの戦闘力は今まで彼が立ち会ったどのガンプラよりも高かったと思う。

 そして何より、彼らの間には信頼関係があった。仲間の窮地に颯爽と駆けつけるバエルも、そのバエルが101.5ガンダムに勝つことを欠片も疑っていなかったアヘッドも、お互いがこなすべき役目をしっかりと理解しているチームだからこそだろうとレアは思う。

 それはまさしく、レア自身が自分たちのフォースに求めていた姿であり……かつては自分たちにも構築されていた筈の信頼関係だった。

 

 そんな相手と戦えたことを、負けた事実以上に満足している自分にレアは気づいていた。一方でリーダーであるシオンはどうだったのかと、アグニカンスピリッツとの試合をセッティングした彼に問い掛けてみた。

 シオンはその問いにふっと小さく息を漏らすと、逆にレアに対して問い返した。

 

「そう見えるか?」

「いや……だが、久しぶりにいい顔をしていると思う」

「……ああ、お前もな」

「そうか……」

 

 お互い、負けた癖に気分は妙に晴れやかである。

 何の含みも無い、正直な気持ちだった。

 

「アイツに勝たなきゃ満足とは言えないが……悪くねぇ気分だ」

 

 憑き物がはがれたような穏やかな表情で、シオンが言う。

 そして彼はレアと目を合わせ、その頭を下げた。

 自分の暴走でチーム満足のメンバーに迷惑を掛けたことを、初めて謝罪したのである。

 

「すまなかったな、レア……俺が間違っていた」

「……それを言うなら、お前の暴走を止められなかった俺たちもだ。モトキたちも気に掛けていたぞ。お前のことを」

「は……はは、そうか……それじゃ、後でちゃんと謝っておかねぇとな」

「シオン……」

 

 レアは行き過ぎた満足への探求がフォース崩壊を招いてしまった責任の全てが、リーダー一人にあるとは思っていない。抜けていった仲間たちもだ。

 間違いに気づくのが遅かったことも、彼の暴走を止められなかったことも、それが出来なかったのは自分たちだという負い目があった。

 モトキングもゲイルマンも、彼らがフォースを脱退したのはその責任を取る為でもあったのだ。

 彼らの思惑を伝えるとシオンは苦笑を溢し、力の抜けた声で言い放った。

 

「……チーム満足は解散だ。どうやら俺は、リーダーに向いていなかったらしい」

 

 それは、いつかはレアも覚悟していた言葉だった。

 だがレアが想像していたよりも、何倍も救いのある宣言だったと思う。

 

「本気か?」

「ああ、本気だ。いつもの四人揃っての俺たちチーム満足だろ? あいつらがここに戻ってこないなら、ここで上がりにするしかねぇ。今までありがとな、レア。その名の通り、お前はレアだったぜ」

 

 今さら他のメンバーを集める気にはなれないし、それぞれ自分の道を歩み始めた彼らを今さら呼び戻す気にもなれない。

 そう語るシオンだが、レアには寧ろ自分こそが新しい道を見つけ出したように思えた。

 全くもって自分勝手で、困ったリーダーだが……不思議とレアは、彼のことが嫌いではなかった。時々浮世離れしている面が見え隠れしていたところから、もしかして彼はいいところのお坊ちゃんなのではないかと密かに疑っていたが、彼には妙なカリスマ性があったのだ。

 でなければ、自分も仲間たちもここまで彼に付き従ってはいなかっただろう。放っておけなかった気持ちも、無きにしも非ずだが。

 殊勝な態度で労いの言葉を掛ける彼に、レアは返す。

 

「……解散は、正直言って賛成だ。俺たちは、もっと考えて行動する必要があった。だが……」

 

 チーム満足のメンバーとして、噓偽りのない本音だった。

 

「俺は……俺たちはお前のフォースにいて楽しかった。それは忘れないでくれ」

「──っ」

 

 その言葉を掛けた瞬間、彼は「馬鹿野郎っ」と目を逸らしながら、天を仰いで目頭を押さえた。

 レアはそんな彼の顔から視線を外すと、同じ空を見上げた。

 戦いが終わった後の空は、思わず駆けだしたくなるほどに綺麗なものだった。

 

「結局、嫌いになりきれなかったんだ……GBNも、お前たちも……」

 

 わかっている。

 キャンサー・レアにとって、サティス・F・シオンほどガンプラバトルにのめり込んでいる男はいなかった。

 そんな男が心の底からGBNを憎んでいるようには思えず、何よりレアはチームの一員として見続けていたのだ。

 いつも楽しそうにバトルをしている、彼の姿を。

 

 

「こんなんじゃ、満足できないぜ……」

 

 

 ああ、そうだ……俺だって、こんなことでお前に満足されてたまるか。そう心の中でごちりながら、レアはこれからもきっと止まらないであろう彼にそっと笑いかけた。

 

 

 ──俺たちの満足は、これからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、チーム満足との試合が終わってしばらくしてからのことだった。

 

 ふとウインドウ画面がメッセージの受信を告知すると、促されるままにメッセージボックスを開いた私はその内容を読んで、思わず肩を震わせた。

 

「ふふ……はははははははははは!」

「魂?」

「准将、どうなさりました?」

 

 メッセージの差出人はサティス・F・シオンである。

 そのシオンから送られてきたメッセージに、私は声を上げて笑う。これにはもはや、笑うしかないだろう。

 それは我ながら、Nジャマーキャンセラーのデータを閲覧したムルタ・アズラエルもかくやというばかりの爆笑だった。

 

 件名は「バエル馬鹿な先輩に耳よりな情報です」。その文面から私は彼女がダイバーサティス・F・シオンとしてではなく模型部の後輩フルキ・シオンとして送ってきた内容だと察し、期待と警戒を半々にメッセージを開いてみたものだが──それは私にとって、まさに天使のお告げとも言える有益な情報だった。

 

「流石はシオンと言ったところか……いい情報を届けてくれた」

「む……これは……」

 

 突然笑い出した私に対して仲良し四人組とセイギがいつものようにオルフェンズの涙を歌おうとしている中で、訝しんだイッシーがメッセージ内容に関心を寄せてくる。

 私はそんな彼らに対してウインドウ画面を向けてやると、仲良し四人組とセイギが目を見開いてオルフェンズの涙の熱唱を取りやめ、普段寡黙なイッシーさえも唇の端を吊り上げた。

 

『最近ディメンションを賑わせているブレイクデカール事件の黒幕の情報と、チャンピオンが結成した「有志連合」の情報をあげます。チャンピオンはロンメルやシャフリヤール、タイガーウルフらの上位ランカーを招集し、バエルに逆らう逆賊「マスダイバー」との決戦に備えています。彼らはエリア11の初心者サーバーで……』

 

 ──以下長文。

 シオンから送られてきたメッセージには最近ディメンションを賑わせていたらしいブレイクデカールとやらの話や、その黒幕の居場所、居場所を突き止めた有志連合とやらの情報が書き込まれていた。

 ふっ、先の戦いで昂り切った高揚の余韻が収まりきらない私に対して、このような情報を唐突に持ってくるとはな。シオン……まったく、困った女だ。

 

 

 

 そうとも……アグニカンスピリッツに所属する者ならば、このメッセージがどのような意味を持つか理解できるだろう! 

 

 

 

 ブレイクデカールという反則ツールに、マスダイバーという絶対的な悪。

 そしてそれらの存在が今、GBN世界を危機に陥れていると聞いて、一体何故バエルを持つ私が黙っていられようか! 

 

 

「准将! 我々はいつでも出撃できます。発進許可を!」

「バエルだ!」

「アグニカ・カイエルの魂!」

「そうだ! GBNの正義は我々にあるぅ!」

 

 見ろ! またとないアグニカ・チャンスに、奴らは出来上がっている! もちろん、私も出来上がっている! 

 それはそうだろう。訪れる世界の危機! 立ち上がるガンダム・バエル! これほどまでにバエる状況など、未だかつてガンプラバトルにあっただろうか!? いいや、ないッ! 

 

 

 ふむ……シオンに記載された作戦予定日時までの猶予はあまりないが、こういう時は実際のガンプラが壊れないGBNのシステムが役に立つ。GPDであれば間違いなく、明日から機体のメンテナンスに追われていただろうからな。

 決戦準備を整えておくまでの時間は今からでも十分ある。とりあえず、バエルを突入させる為のシャトルは用意しておこう。多くのプレイヤーの目に触れる機会である以上、爆発する輸送船から飛び出していく「あれは……バエルだ!」的演出は断固欠かせない! 格好良さとは何より、第一印象が大切なのだ! 第一印象を完璧に決めてからこそアグニカし、バエることができる! 

 

 バエルの名を知らしめるのは地道にランキングを上げてからだと思っていたが、その機会がこうも早く訪れるとはな……運命か。

 

 今こそ私のバエルが、その姿を上位ランカー諸君の前に曝す時が来たということだ。

 私も気合いを入れて見せてやろう。純粋な力のみが成立させる真実を──世界を! 

 

 





 そして、冒頭へ……

 本当はちょっと好きだけど場の流れで嫌いと言い張っているものは身の回りに割と多いのではないかとワイトは思います。その辺りがビルドダイバーズを見て私に刺さりましたです。
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