花言葉:「親睦」「友情」「頼られる人」など
端正な顔立ちに町を歩けば女性たちの黄色い歓声が飛び、普段は面倒見が良くて頼りになるお姉さん花騎士。
そんな彼女の可愛らしいギャップの虜になった団長諸兄も多いはず。
七夕が目前に迫り、街は活気に満ちている。
広場には多くの露店が軒を連ね、飲食店や雑貨屋、絵描き屋など種類も様々だ。
祭りのメインとなる短冊を吊るす笹はベルガモットバレーから仕入れたもので、広場の中央に設置され、色とりどりの短冊が風に揺れている。
「ねぇパパ、もっと高くできないの?」
見ると、ちょうど父親と思われる男性に肩車をされた女の子がより高い位置に短冊を飾ろうと四苦八苦しているところだった。
――七夕の夜、最も天に近い笹に短冊を飾れば願いが叶う。
七夕祭りの起源とされるベルガモットバレーに伝わる伝承だが、地域によってその伝わり方には多少の差違があるようで『より高い位置に飾った短冊の願い事が叶う』というのもそのバリエーションの1つだ。
納得のいく高さに届かないことに業を煮やしたのか、女の子が父親の上でむずがりだしてしまった。必死に宥めようとするが落ち着く気配を見せず、このままでは危ないと足を向けたところで一足早く声をかける者がいた。
「お嬢ちゃん、あまりパパを困らせてはいけないよ?」
長く伸ばした銀色の髪を風に靡かせる、落ち着いた物腰の花騎士。ハリエンジュであった。
でも……と言い募ろうとする女の子に、思案下な表情を取っていたが、やがてコソコソと何かを語りかける。
しばらく眺めていると、人通りが疎らになったタイミングを見計らって短冊を受け取り、軽い助走から一息に笹を飛び越えて見せた。
彼女が鮮やかな着地を決めると、手にしていたはずの短冊は器用にも笹の頂あたりに結ばれていたのだった。
「おや、団長さんじゃないか。」
お礼を述べる親子を見送ったハリエンジュがこちらに気付いて声をかけてきた。
「奇遇だね。今日の仕事はもう良いのかい?」
「つい先程片付いたところだ。ハリエンジュの方こそ、アカシアたちと一緒ではないようだが?」
ハリエンジュは輸送を専門とする部隊、アカシア隊の副隊長を務めており、各地を忙しく飛び回っている。件の笹も彼女たちが運んでくれたものなのだ。
「アカシアからたまには休めと釘を刺されてしまってね。一足先にお役ごめんになったのさ
他の皆はもう少し依頼先を回るそうだよ。」
やれやれと肩を落とすハリエンジュ。
仲間からの気遣いを無下にもできないということらしい。
せっかくなので一緒に街を歩かないかと誘ってみることにした。
「本当かい。休みをもらったのは良いものの、どうやって過ごそうかと思っていたところなんだ!ああ、でも……。」
何やら 歯切れの悪い答えに疑問を感じたのだが、理由はすぐに身をもって知ることとなった。
「ねぇ、本当にこっちの方で間違いないんでしょうね?」
「あら、わたくしがあの方を見間違えるとでも言いたいのかしら?」
「実際にいらっしゃらないじゃない!」
「喧嘩をしている場合かしら。貴女たちも見たのでしょう?」
「「「ハリエンジュ様が男と歩いてた!」」」
「分かってるなら草の根掻き分けてでも探しなさい!」
遠ざかっていく足音を聞きながら路地の影から抜け出し、ホッと安堵のため息をつく。
「ははっ、巻き込んですまないね、団長。」
謝罪するハリエンジュに問題ないと返す。
彼女の人気を考えれば、想定して然るべき事態だったのだ。
『頼りになる人』の花言葉の通り、面倒見が良く落ち着いた性格。それに加えて凛々しい話し方佇まい(身体の起伏はたいへん女性らしいのだが)がハリエンジュの女性人気を後押ししていた。
「彼女たちの気持ちは素直に嬉しいよ?『王子様みたい』というのが誉め言葉だということも理解しているつもりだ。でも一応、私も女の子なんだけど……。はぁ……複雑な気分だよ。」
ため息をつくハリエンジュ。
ここはいつも頑張ってくれている花騎士に、団長としてなんとか力になってやりたい。
思考を巡らせていると、巡回中に見かけたとある露店の看板を思い出し、追っかけに見つからないように気を付けながらハリエンジュを伴って広場への道を急いだ。
「あの、団長さん?やっぱりこんな可愛らしい服なんて私には……。」
呼ぶ声に振り返ると、そこには天女がいた。
「うぅ、団長さんに見られてると思うと余計に恥ずかしい……。ああ、でも可愛い……。きらきら、ふわふわで……。
あの、……変じゃ、ないかな?」
ふわふわとしたスカートの裾を摘まみ、控え目に感想を求めてくるハリエンジュが実に可愛らしい。
広場にあった絵描き屋の看板に『貸衣装あります』の文言を確認していたのだが、ここまでクオリティの高いものだとは思っていなかった。
普段来ているようなかっちりした印象の服装とは違い、薄い紫色と水色を基調としたゆったり目の衣装。ただし着ぶくれした印象を与えるほどではなく、彼女の女性らしいシルエットはしっかりと強調している。
背中から袖先に付けられた羽衣が一房に結わえられた銀色の髪と共に揺れ、彼女の上品な美しさを際立たせていた。
10人が見れば10人とも美人と断言するだろう。
まさに完璧な織姫の姿だ。
(当然、自らも彦星をイメージした衣装を着ていたりするのだが、野郎の衣装を詳しく説明する趣味などないので割愛)
「やっぱり私にこんな格好なんて!」
しかし、中々応答が無いことに思考がネガティブに振り切ってしまったのか、衣装を脱ごうとするハリエンジュ。
慌てて後ろから彼女を抱き締めるように引き留め、後れ馳せながらの感想を口にする。
「……っ!すまない。つい見惚れてしまっていただけだ。凄く綺麗だし……似合ってる!」
凡庸な言葉しか出てこないことを歯痒く思いながらも、それ自体は偽らざる本心だった。
それが伝わったのか、彼女もそこで手を止めてくれる。そこへ……
「まったく、衣装合わせはとっくに済んでるはずなのに何して……どうやら邪魔したようだね。」
開きかけた衣装部屋の扉がバタンっと大きな音を立てて再び閉じられた。
はだけられた衣装。
顔を赤く染めたハリエンジュ。
後ろから覆い被さる男。
これらから導き出される状況は……
この後、店主の誤解を解くのに時間を要したのは言うまでもない。
「本当によろしいんですか?」
なんとか無事に作業が終了し、完成した絵を受け取ったのだが、何と着ていた衣装をそのまま持っていって良いと店主が言い出したのだ。
「ああ、構わないよ。これだけ衣装が似合う人と出会ったのはあたしも初めてさ。衣装は他にもあるしまた作れば良い。久しぶりに遣り甲斐のある仕事ができたし、そのお礼だよ。」
綺麗に畳まれた衣装を受け取るハリエンジュに店主が紙切れを手渡しているのが見えた。
何やら文字が書いてあったらしく、それを確認した彼女が盛大に赤面していた。
「あっ、団長さんにハリエンジュ先輩じゃないですか!一緒だったんですね。」
そのまま2人で帰路を歩いていると、人混みを掻き分けて小柄な人影が近付いてきた。
元気に話しかけて来たのは同じアカシア隊に所属する花騎士のチェリーセージだった。
どうやらちょうど仕事が終わったところのようで、後ろから隊長のアカシアを含めた他のメンバーもこちらに歩み寄ってきていた。
「こらっ、2人のデートに水差してどうするのよ!」
「ルピナスさん?あっ、そっか……。ごめんなさい団長さん!」
「ふふっ、どうやらお楽しみだったみたいね、ハリエンジュ。」
「誤解を招くような言い方をしないでくれないか、アカシア。まぁ、楽しかったのは認めるけどね。」
思わぬ遭遇にハリエンジュは無意識に抱えていた絵を隠そうと試みたのだが、少し遅かったようだ。
「ところで、さっきから大事そうに持ってるそれは何だい?」
「あー、これはちょっと……。」
いち早く気付いたダリアが問いかけると、誤魔化すのは不可能と悟ったハリエンジュが先程描いてもらった絵をメンバーにも披露する。
「ほう……。」
「これは絵、ですか?団長さんと……わぁ、ハリエンジュ先輩すっごく綺麗です!」
「本当ね、イメージしてた通り……いえ、それ以上だわ。」
「あらあら、これは大事に抱えてるわけよね。」
屯所に着くまで続けられる思い思いの賛辞に彼女は終始赤面を強いられていた。
その日の晩、就寝直前のところに来客を告げるノックの音が響いた。
「団長さん、今良いだろうか?」
その主がハリエンジュだったことにまず驚いたのだが、入室してきたその格好にさらに驚かされた。
訪問の理由を尋ねようとしたところに姿を現したのは、絵描き屋の店主からもらった織姫の衣装に身を包んだ彼女の姿。
恥ずかしさを堪えるようにスカートを握りしめ、潤んだその瞳に訪ねた理由を求めるのは野暮というものだった。
というわけで1日遅れながら七夕回の投稿です。
普段は格好良くて頼りになる副隊長ですが、裏では可愛く見られる笑い方を練習していたり、サンタクロースを本気で信じていたりと本当に可愛らしいです。
正直、七夕ということでもっと適任がいた気がするのですが、残念ながらお迎えできておらんのですよ……