とある花騎士団長の庭園   作:とある花騎士団長

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オジギソウに次ぐ嫁枠なのでいつかリベンジしたいとは思っていたものの、かなり伸び伸びになってしまいました……
こっち書いてる内に他に書きたい子も溜まる一方だし、ほんまどないしよ……。


16.「幸せな思い出」の泣き虫花騎士②―嬉しさと寂しさ―

ラカタンビーチ。常夏の世界花、バナナオーシャンの南東に位置する人気の観光スポットであり、今日もマリンレジャーを楽しむ多くの人で賑わっている。

「さぁ、今年も特訓頑張りますよ~!」

元気いっぱいな掛け声とともに、1人の花騎士が白い砂浜を駆けていく。

その花騎士、ネリネとここを訪れるのもすっかりお馴染みとなった。

「団長さ~ん、はやくはやく♪」

幼い子どものようにはしゃぐその姿に苦笑しつつ、彼女の後を追う。

『私、海やそこに住んでる生き物が大好きなんです!人魚姫に憧れてて……でも、実は私泳げないんですよね。とほほ……。』

騎士団に配属されてすぐの頃、そう語っていたネリネ。

試しに泳ぎの訓練に行くという彼女に付き合ったりもしたのだが、初めの頃は足が水に浸かるだけで怖がってしまうほど。

冗談のつもりで、これではお風呂でも溺れてしまうのではないかと聞いてみると、これがなんと図星だったようで、遂には泣かせてしまった。

自他ともに認める泣き虫な花騎士。

足が着くところで溺れかけ、

深くなっている箇所に足を取られて溺れかけ、

波に浚われて溺れかけ……

彼女の涙を見なかった日は無い。

それでも、彼女は決して諦めなかった。

「もう団長さん、遅いですよ!」

待ちきれなかったのか、浅瀬で先にばた足の練習を始めたネリネが水飛沫を上げる。

子の一人立ちを見送る親とはこのような心境なのだろうか?

『手をギュッて握っててください……絶対に離さないでくださいね?』

今でも涙目で見上げてくる彼女の姿を鮮明に思い浮かべることができる。

彼女の成長を嬉しく思いつつ、一抹の寂しさを覚えるのだった。

 

 

 

それからしばらくは浅瀬で泳ぐネリネをただ見つめているだけの時間が続いた。

彼女が憧れている人魚姫には及ばないかもしれないが、泳ぎのフォームも中々様になってきたように思う。

そもそも泳ぎの訓練の付き添いとは言ったものの、余程の事態でもない限り今のネリネが溺れるようなことはないのだ。

「ザッパァァァアアアン!!」

「へ、害虫?きゃああああっ!?」

そう、例えばこのように泳いでるところを害虫に襲われたりしない限り……っと言ってる場合ではない!

カマキリ型の害虫は器用にサーフボードを乗りこなし、起こした波で彼女に襲いかかる。

「おい、あれ害虫じゃないか?」

「ねぇ、女の子が襲われてるじゃないの!誰か早く騎士団に連絡を!」

騒然とし始めるビーチで、海から距離を取ろうと逃げ惑う人々。

幸い、ビーチに侵入してきた害虫は1匹のみらしく、世界花の加護を持つ彼女を優先的に狙っているようで一般の観光客を襲う素振りはない。

しかし、戦況が悪いことに変わりはない。

「うぅー、負けないもん!」

「ザッパァァァアアアン」

必死に応戦するネリネだが、その攻撃は害虫に容易く回避されてしまう。

今は何とか膠着状態を維持できているが、このまま消耗戦が続けば先に限界がくるのは明らかだった。

無意識ネリネの元へ向かいかける。しかし、それを制したのは彼女の言葉だった。

「団長さん!私は大丈夫ですから逃げ遅れた皆さんの避難を!」

一瞬躊躇したものの、こちらを振り返った彼女の表情を見て冷静さを取り戻し、逃げ遅れた人々の救助を急ぐ。

彼女が得意とする大出力の氷魔法。それに巻き込まれる人が出ないように。

『氷術・ネレイスマーメイド!』

避難を完了したことを伝え、害虫を迎え撃つべくありったけの魔力を注いで放たれた魔法。

徐々に彼女の周りの水が意思を持ったようにうねり始めたかと思うと、巨大な水球が海面上に形成される。

優雅にその周囲を泳ぐ彼女の下半身には氷で形成されたマーメイドドレスが揺らめき、ポニーテールにまとめられた彼女の髪は水飛沫と共に太陽の光を反射して幻想的に煌めく。

その姿はまさに彼女の憧れとする人魚姫そのものだった。

あまりの光景にたじろぐ害虫に襲いかかる水の奔流。

「ザ……ザッパァァァ……ン……」

巨大な水球から生成された大波を何とか乗りこなそうと沖に流されながらも抵抗していたカマキリ害虫だったが、やがてその姿は完全に呑まれて見えなくなった。

単独で害虫を撃退した小さな花騎士の活躍を讃える拍手が鳴り響く中、ネリネはいつまで経っても水面に顔を出さない。

嫌な予感がして彼女が落下したと思われる地点に急行すると、案の定魔力を使い果たし、身動きすることもできずに溺れかけているところを発見したのだった。

 

 

「あの……ごめんなさい、団長さん……。」

背中に感じる確かな重みを感じながら、気にする必要はないと応じる。

日が暮れかけた帰路の途中、もう何度目かわからない謝罪の言葉。

害虫を撃退した際の凛々しさとはかけ離れた姿に苦笑する。

あの後、口々に感謝を述べる人々に囲まれてしまい、訓練どころではなくなってしまったので理由を付けて切り上げて来たのだ。

ネリネも確かに疲労はしているものの、自力歩行ができないほどではない。

ビーチからだいぶ離れたため、本人からの希望もあって彼女を下ろし、手を繋いで残りの道のりを2人で歩く。

それにしても、よく泣かずにここまでやり遂げたものだ。

思わず口を出た言葉だった。

ネリネの成長を喜ばしく思いつつ、今朝に感じた寂しさも手伝って若干の棘を含んだ言葉になってしまった。

「だって、団長さんが助けてくれるって信じてましたもん♪」

しかし、そんな言外の棘に気付いた様子もなく、ネリネは無邪気な笑みを浮かべながら事も無げに言う。

「魔力を使い切って動けなくなっても、団長さんならって……団長さん!?」

突然歩みを止めて彼女を抱き締めたものだから、驚いたネリネが言葉を止める。

彼女の存在を確かめるように強く強く抱き締める。

それなりに苦しい姿勢のはずだが、彼女は抵抗することなく受け入れてくれている。

中々水面に顔を出さなかった時は心臓が止まるかと思った。

陸地まで連れ帰り、息を吹き返した際にどれだけ安堵したことか。

彼女の成長が嬉しいようで寂しい。

ああ、子の独り立ちを素直に喜べない親の心境とはおこがましい。

これでは独り立ちできていないのは自分の方ではないか。

大人気ないと思いつつも、思いの発露を止めることができない。

ネリネの小さな手が頭を撫でてくれている。

この時は恥ずかしくて耐えられないと思う余裕すらなかった。

自分では意識することもできなかったのだが、幸いなことにすれ違う人は無かったようだ。

宿泊先に辿り着けたのはすっかり日が暮れてしまった後だった。

 

 

 

 

 

 




スキル『氷術・ネレイスマーメイド』が原作と違う感じになっていますが、あの演出はゲームならではのものだと感じたので、ちょっとアレンジさせて頂きました(ビクビク)

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