ナイトフロックス
花言葉:「温厚」
別名新妻さん
万華祭の「お母さんになって欲しい花騎士」部門ではプルメリアの圧勝に終わりましたが、彼女も6位と大健闘!
結局は人気のキャラが上位を占める中、この順位は誇って良いかと。
くぅーっ……
腹がかすかに情けない音を発したことで、意識の外に追い出していた空腹感が戻ってきた。
時計を確認すると昼はとっくに過ぎているようだが、目の前に積まれている書類は何としても今日中に仕上げなければならない。
食事を取る時間すら惜しく、すっかり温くなってしまったコーヒーを一気に流し込むことで空腹を誤魔化そうと試みるが、それがいけなかった。
……げほっ!?
飲み込み損ねた分を盛大に吹いてしまう。
書きかけの書類を侵食していく黒いシミに一瞬遅れて反応したものの時既に遅く、完成間近だったここ数時間分の成果が振り出しに戻されたのは絶望の一言だ。
「失礼します、団長さん。
……どうされました?」
放心状態でガックリと椅子に腰かけていると、ノックの音を響かせてナイトフロックスが顔を出した。
何か用事だろうか?
情けない姿を見せてしまった気まずさもあって素っ気なく問いかけると、彼女は少し呆れたように肩をすくませる。
「あらあら、お忘れですか?」
……っ。すまない!
彼女の言葉を聞き、必死に回転した頭が次回の討伐任務について打合せをする予定だったことを思い出す。
当然、机の上の惨状はこれから打合せをしようという状態ではない。
「それは良いんですけど……団長さん、ちゃんと食事とか睡眠は取れていますか?
最近お忙しいようですけど、不摂生はいけませんよ?」
反射的に大丈夫と答えそうになったが、実際に仕事を溜めてミスを連発したばかりでは反論の余地はない。
「こちらは私が片付けておきますから、団長さんはシャワーでも浴びてきてください。」
言われて改めて備え付けの鏡で自分の格好を確認する。
進捗に詰まる度に掻きむしった髪はボサボサ、寝不足で充血している目の下にはくっきりと隈が浮かび、朝の手入れを怠ったせいで無精髭も伸びている。さらに先程の失態で服のあちこちにコーヒーの跳ねた跡が見受けられ……客観的に見なくても酷い有り様だ。
これ以上醜態を晒し続けるわけにもいかないので、ここは大人しく彼女に甘えることにした。
「~~~♪」
シャワーで汗を流し終えると、ナイトフロックスが鼻歌交じりに食事の用意をしてくれているところだった。
その手際は見事なもので、たちまち食欲をそそる良い香りが漂い始める。
そんな彼女の姿に見惚れていると、先程とは比べ物にならない音量で腹が鳴り、気づいた彼女がこちらを振り返る。
「ふふっ、我慢できなくなっちゃったんですか?可愛いですね、団長さんは。もう少しでできますから待っててくださいね? 」
子どものように扱われたことに顔が赤くなるのを感じるが、ナイトフロックス相手だと悪い気はしない。
大人しく待っていると、いくらもしないうちに美味しそうなスープが綺麗に片付けられた執務机まで運ばれてきた。
お礼を言ってから口に運ぶと、温かいスープが空きっ腹に染み渡っていくのを感じる。
美味しい、これ以上ないシンプルな感想に、ナイトフロックスは穏やかに微笑む。
「お口に合ったようで何よりです。おかわりはまだありますから、遠慮なく言ってくださいね。」
そう告げる彼女だが、1度火が付いた食欲は元より遠慮するつもりなどなく、あっという間に用意された分を完食してしまった。
ナイトフロックスはというと、既に使い終わった食器類を片付け終え、食後のコーヒーを淹れてくれている。
しばらくそんな彼女を見つめていたのだが、食欲が満たされたことで今度は睡眠欲が襲いかかってくる。
ただでさえ仕事が溜まっているのに、ナイトフロックスにまでこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。そう思うのだが、徐々に瞼が重くなっていくのを感じる。
やがてこちらに戻ってきたナイトフロックスが何やら語りかけてくる気配はするのだが、既に返事をする余力など残っておらず、誘われるままに意識を手放したのだった。
目を覚ますとまず視界に映ったのは豊かに実った女性の象徴。頭の後ろには柔らかな感触も感じられ、起き抜けで働かない頭が少しずつ現在の状況を認識する。
「あら、ゆっくりお休みになれましたか?団長さん。」
どうやら来客用のソファーの上でナイトフロックスに膝枕をされているらしく、彼女の発する甘い香りが鼻腔をくすぐる。
チラッと見える部屋の様子は今朝より幾分片付いている印象を受ける。
慌てて体勢を起こそうと試みるが、柔らかな膨らみを押し付けられるようにして抑え込まれてしまった。
「……あんっ!もう、えっちな団長さん。」
自分から押し付けておきながらそんなことを言うナイトフロックス。
悪戯っぽい笑顔を浮かべているあたり、きっとまたからかっているのだろう。
しかし、この体勢からでは勝ち目もないので大人しく膝枕をされていることにする。
元々は討伐任務の打ち合わせに来たはずなのに何から何まで申し訳ない。
謝罪の言葉を口にすると、彼女は浮かべる笑顔を穏やかなものに変えて首を横に振る。
「家事や料理は好きですから構いませんよ。でも、団長さんはもっと規則正しい生活を心がけた方が良いと思います!」
まるで『お母さん』のようなことを言うナイトフロックス。
首が回らなくなって彼女の世話になるのは今回に限った話ではない。
どうにかしなければとは思うのだが、騎士団の規模も徐々に大きくなっており、それに応じて仕事が増えているのも確かなのである。
「頭では必要なことだって理解してるつもりですよ?でも、ふたりで過ごす時間が少なくなってしまうのは……やっぱり寂しいです。」
切なげな表情を浮かべる彼女にハッとする。確かに、ここ最近は事務仕事や任務で忙しく、彼女とゆっくり過ごす時間を取れていなかった。
仕事の話とはいえ、久しぶりに2人で過ごす時間。彼女はこの日を楽しみにしていたのではないだろうか?
部下の花騎士である前に、最も大切な女性である彼女の優しさに甘え、寂しい思いをさせていることにも気付かないとはとんだクソ野郎である。
「団長さん?……ぅむっ!」
完全に抵抗を諦めたものと油断していた彼女の不意を突き、上半身を起こして唇を奪う。
彼女の両腕は抵抗するようにこちらを押し退けようとするものの、その力は申し訳程度であり、本気で抵抗するつもりがないのは明白だった。
「……ぷはっ!はぁ……はぁ……。」
息の続く限り繋がっていた2人の間には唾液の橋がかかり、それを見つめるナイトフロックスの表情には確かな艶の色が浮かんでいる。
「お仕事、宜しいんですか。私、これ以上は我慢できませんよ?」
なけなしの理性をかき集めたように釘を刺してくるが、こちらは既に我慢するつもりなどない。
そっと彼女の柳腰に手を添えると、そのまま身体を預けてくれるのだった。
そう言えば手玉に取られる団長って書いたこと無かったなーと思って書き始めたけど、慣れないことはやるものじゃない(苦笑)。