花言葉:「夢想」「歓喜」「創造力」など
万華祭にて、ニューカマー枠を飛び越えて総合優勝を掻っ攫う姿はさすが伝説の眠り姫様。メインストーリーのブーストがあるにしても、未だに勢い衰えぬアネモネとエノテラ両名を抑えての1位は圧巻でしたね。
※水影の騎士編やラエヴァ様に関する記述は文章がややこしくなるため省いています。適宜情報を補って頂くか、気になる方はブラウザーバック推奨です。
ロータスレイク郊外での駐在任務中、交代で仮眠を取っていたところをけたたましく鳴り響く警報に意識を覚醒させられる。
居住区付近に害虫の目撃情報があったようで、現地に急行せよとのことだった。
慌てて本部に応援を要請しつつ、直ぐに動けるメンバーで討伐隊を編成したのだが……
「くっ何だこの数は!?」
キシャアアアア!!!!
報告よりも数が桁違いに多い。姿は見えないが木の陰からも多数の気配が感じられ、完全に誘い込まれてしまったことを理解できてしまう。
即席の部隊でこの包囲を無理やり突破するのは危険と判断し、応援が到着するまでの防衛戦を指示する。
しかし、やはり多勢に無勢。最初こそ拮抗していた戦況も、徐々に綻びが見え始めていた。
「団長さん、防衛線を維持するのもそろそろ限界です!」
悲鳴にも似た指示を仰ぐ声に言葉を詰まらせていると、待ちに待った声がそれに応えた。
「よく持ちこたえてくれました。後は任せてください!」
悠々と害虫の間に降り立つ人影。
暗がりで表情まで読み取ることは困難であったが、数的不利な状況でも余裕すら感じる声音。
「……時代は変わっても、害虫だけは変わりませんね。」
呟くように発せられたその言葉を、果たして聞き取った者はどれほどいただろうか。
ハスとヒツジグサ、この国を統べる2人の女王にも引けを取らない大魔法。水の本流が害虫を呑み込んでいった。
件の討伐任務から無事に生還を果たした翌日、今回の功労者であるネムノキ強っての希望でスイーツが美味しいと評判のカフェに来ていた。
「まあ……団長殿、団長殿~!これがパフェという食べ物なのですか?」
そんな本日の主役はと言うと、今まさに運ばれてきたスイーツの数々に瞳をキラキラと輝かせてはしゃいでいる。
昨夜に獅子奮迅の活躍を見せた人物とは思えない姿に苦笑が浮かべていると、こちらの視線に気付いたネムノキが照れたように居住まいを正す。
「ああ……私ったら。見苦しいところを見せちゃいましたね。」
そう言って朗らかに笑う姿に目を奪われていると、他にも同様の視線が彼女へ向けられていることに気付き、視線で牽制を入れるとさっと集まっていた視線が霧散する。
透明感のある容姿に長く伸ばした艶のある白い髪、同じく白を基調としたドレス。所々にあしらわれた水色のリボンが可愛らしい。
落ち着きを取り戻した彼女は気品溢れる美しさを放っており、良家のご令嬢と説明されれば疑う者はいないだろう。
夢中でスイーツを頬張る彼女の姿に下心のありそうな視線が向けられるたびに牽制の視線を送っていたため、ほとんど食べた気がしないままカフェを後にすることになるのだった。
「団長殿、この時代の食べ物は美味なものばかりですね……。私が女王の座についていた時とは大違いです♪」
カフェを出た後、ロータスレイクの街並みをのんびり散策しているとネムノキの口からとんでもない発言が飛び出した。
慌てて周囲を確認するが、誰かが聞き耳をたてている様子は無さそうでほっと胸を撫で下ろす。
気を遣った上での発言だとは思うのだが、心臓に悪いのでどうか勘弁して欲しい。
「ふふっ、そんなに心配せずとも自分の立場くらいは弁えていますよ?しかし、せっかくの休日にこうして私のわがままに付き合ってくださっている団長殿に余計な心労までおかけするのは良くありませんね……。」
そう言って立ち止まったかと思うと、ネムノキは頭を下げる。
ここまでさせてしまうと逆に申し訳ない気持ちになってくる。自分が同行しているのは確かに彼女の希望の1つではあるのだが、それを嬉しく感じていたからだ。
「そうなのですか?」
首を傾げる彼女に強く頷いて応える。
見方によってはネムノキのような美しい女性とデートなのだ。男として嬉しくない訳がない。
顔に熱が集まってくるのを感じつつも真っ直ぐ彼女を見つめていると、ネムノキは前に向き直って再び歩を進め始めた。
「ふふっ、お優しいのですね……団長殿は。
私のせいで貴方がカルダミネ・リラタ殿に叱られたのでは申し訳が立ちませんし、以後は気を付けますね。」
何でも無いように言うネムノキだが、一瞬見えた彼女の表情は耳まで真っ赤だった。
「団長殿、少し相談したいことがあります。もう少しだけ、お時間よろしいでしょうか?」
絞り出したような彼女の言葉に了承の意を返すと、暫し無言で歩を進めるだけの時間が続く。やがて辿り着いたのは、ロータスレイクの水上都市を一望できる高台だった。目を凝らして見れば、湖面に薄らと水中都市の街並みも確認できる。
「団長殿、眠り姫の伝承はご存知ですか?」
唐突な質問。だが、疑問を差し挟むのは何となく憚られた。
―『眠り姫伝説』
ここ、ロータスレイクで広く親しまれている伝承である。
かつて窪地に栄えた国があった。
しかし、大昔に降り続いた大雨によりその国は世界花の周辺を残して水没してしまう。
絶望に呑み込まれる人々の前に、その少女は現れた。
彼女は絶大な魔力と水を操る力によりこれを治め、世界花の力を借りて大雨によって沈んだ街を侵攻不可能な拠点とした。やがて力を使い果たした少女は深い眠りに就く。
人々は希望の象徴として彼女を崇め「眠り姫」として後世に語り継いだ。―
当然知っている。この伝承は目の前の少女の……1000年前、「死にゆく世界の支配者」がスプリングガーデンへ侵攻してきた際にロータスレイクの女王であったネムノキの活躍を元にした物語だからだ。
ネムノキを最大の脅威と判断した「死にゆく世界の支配者」は彼女にある呪いを撃ち込んだ。初代花騎士である賢人フォスや彼女の相棒であった勇者にすら使わなかった奥の手。
当時最高峰の魔術師たちですら彼女の身体ごと呪いの時間を止めるのが限界だった。
それから呪いが完全に消え去る現在に至るまで彼女は眠り続けていたのである。
1000年……有り体に言って長すぎる。
彼女の胸の内は自分などが容易に想像できるものではないだろう。
やがて再び口を開いた彼女が発したのは、1つの質問だった。
「貴方は、カルダミネ・リラタ殿の要請についてどう思われますか?」
王立聖護湖機関ネライダ。ネムノキが女王を務めていた当時、直近の騎士だった者たちが結成した組織であり、1000年間、彼女を見守り続けてきた者たち。
カルダミネ・リラタはその現トップに位置する人物である。
その要請とは即ち、現在女王2名の退位とネムノキによる水上・水中統一王政の復活である。
ネライダの悲願も理解できる。伝承にも語られているように、当時の騎士たちにとってネムノキとは存在そのものが希望の象徴だったのだ。
彼女の復活が成された今、もう1つの悲願を切望するのも頷ける。しかし……
「覆水盆に返らず。逆流とは即ち異常。
しかも私は一度負けた女王です。そのような体制を復活させたとしても、同じようにもう一度負けるだけのこと。民の混乱と恐慌を招いてまで王座への復帰などあり得ません。」
それがネムノキの意志。
彼女が復活する要因になった出来事の終息の折り、ネライダの悲願とは少し形が異なるものの、ネムノキが花騎士として人々の希望となることで取り敢えずの決着を得た。しかし、やはり長年の悲願を簡単に捨てることなど不可能なのだろう。
「私は、この国の変わりようにとても満足しているのです。」
眼下の街並みすべてを包み込むように両手をいっぱいに広げながら語るネムノキ。
優しげな笑みを浮かべ、彼女はさらに言葉を続けていく。
「変化したものを上げるとキリがありません。しかし、1つだけハッキリ言えるのは……民の笑顔です。
1000年前に生きていた民の表情を、私は片時も忘れたことはありせん。誰もが死と敗北の恐怖に怯えていました。」
「ですが今は、みなが安心と幸福に満ちた顔をしています。私が治めていた時には終ぞ見ることはできませんでした……。」
己の無力さを悔いるように自らの身体を掻き抱くネムノキ。そんな彼女を優しく抱き締める。
細く華奢な身体。この細腕に、これまでどれほどの重責を抱えてきたのだろう。
今の安定した状態は、彼女が人々の希望であり続けてくれた結果でもある。そのことは人々の間で語り継がれてきた眠り姫の伝承が物語っているではないか。
「……ありがとうございます、団長殿。
そうですよね。私がここで卑屈になっても仕方ありません。」
抱き締めるこちらの腕に身体を預けながらも、その言葉には力強さが戻ってくる。
「害虫が発生した時代の者として、現代の悲しみを見過ごすわけにはいきません。
今度こそ害虫との戦いに終止符を打つために、私はもう二度と負けませんから♪」
腕の中で決意を語る彼女を先程までより強く抱き締める。人々の希望として戦い続ける彼女をこれからも支えていく。その意志を伝えるように。
ちょっとネム様が終盤卑屈過ぎるかな?とも思ったのですが、生い立ちとか周囲からの期待の大きさとか考えたら色々実は抱えてるんじゃないかなーという秋桜。