花言葉:「信頼」「しとやかな」「平静」
見た目は壮絶、味は絶品!
料理が得意な花騎士は枚挙に遑がないですが、彼女に並ぶ個性派はそうそう出てこないのでは?
そして、そんな彼女でも埋もれがちなロータスレイク……恐ろしいところじゃ。
目の前には湯気を上げる料理の数々。
美味しそう……とは、失礼だがお世辞にも言うことはできそうにない。正直、見た目が悪いと言う彼女の言葉を舐めていた。
自分はあの時どんな返事をしていただろうか?
目の前の現実から目を逸らすように、つい数時間前の事を思い出す。
徹夜越しの仕事が片付き、早朝の爽やかな空気が満ちる城内を散策しながら解放感を味わっていると、唐突に声を掛けられた。
踊り子を思わせる艶やかな衣装に身を包んだロータスレイク出身の花騎士、アサザである。
「あら、団長さん。ずいぶんと機嫌が良さそうですけど、何か良いことでもあったんですか?」
柔らかな笑顔に誘われるように仕事が終わったばかりであることを報告すると、我が事のように喜んでくれると同時に徹夜明けであることを心配されてしまった。
「良かったら朝御飯、ご一緒にいかがですか?これからミッちゃんと食材の調達に行くところだったんです。」
ミッちゃんというのは同じロータスレイク出身の花騎士、ミツガシワのことだろうか。
「はい、ミッちゃんっていつもキラキラしてますよね!まっすぐで努力家で……そんなあの子に慕ってもらえるのがとっても嬉しいんです。」
ミツガシワもアサザのことをアッちゃんと呼んで慕っているし、幼馴染とは聞いていたがかなり仲は良好のようだ。
そんな2人の時間に自分がお邪魔しても良いものだろうか?
「もちろんです。ミッちゃんも喜びますよ。」
そこまで言うのならせっかくの申し出を断る理由はない。それでは行くとしよう。
「……はい?」
食材の調達に行くのだろう?
「でも、団長さんは徹夜明けで疲れて……お部屋の方で休んでいてくださればお持ちしますよ?」
働かざる者食うべからずである。
ご馳走してもらうのにただ座して待つつもりはなかった。
「でも、こちらから誘っておいてですけど、私の料理はちょっと見た目が……。」
遠慮するアサザに対し、多少の見てくれは気にしないと押しきる。レストランで出されるような見た目の良い料理だけがすべてではない。
「……そこまで言ってくださるのであれば。それでは、ミッちゃんも待っているでしょうしそろそろ行きましょうか。」
思い返せばこの時気付くべきだったのだ。アサザが身に纏っているのは、薄着とは言え花騎士としての正装であったことに。市場に出掛けるだけで、武器である片手剣まで持参する必要は無かったことに。
ミツガシワとの待ち合わせ場所に向かう彼女の足取りは、とても軽やかだった。
「うみゃみゃみゃみゃー」
ミツガシワが次々と迫りくる害虫を薙ぎ倒していく。普段、肝心なところで緊張してしまって実力を発揮できなくなってしまうこともある彼女だが、今日は絶好調のようだ。
それだけアサザに対する信頼が厚いということなのだろう。
ところで、食材の調達に出掛けたはずなのにどうして我々は害虫を狩っているのだろうか。
待ち合わせたミツガシワまで花騎士としての衣装に武器を持ち込んでいたことに違和感は感じていた。
「すみません、団長さん。勘違いしていることは分かったのですが、勢いに押されてしまって……どうしても必要な食材があるのですが、先に戻ってても大丈夫ですよ?」
申し訳なさそうに頭を下げながらも新たに1体の害虫を仕留めるアサザ。しかし、話を聞かなかったのはこちらなので責めているわけではない。
「それじゃあ、食材を確保してきますね。
ミッちゃん、団長さん、ちょっと持ちこたえてくださいね。」
「お任せみゃ!」
ミツガシワと協力してアサザが帰ってくるまでの時間を稼ぐ。
「ありがとうございます。それでは一気に突破しましょう!」
しばらくして戻ってきた彼女は満足げな表情を浮かべていたので、食材の確保には成功したのだろう。
害虫の巣でしか入手できない食材というのが気になるが、詳しく聞くのも怖いのでそれ以上突っ込むのは止めておくのだった。
そして今に至る。
執務室でミツガシワとともに席についているそばでは、併設された調理場でアサザによる調理が続いていた。
しかし、食卓に並んでいる物体を何と表現するべきか。
極彩色の……これは立方体だろうか?料理がそもそもこのような形を成すことができるのか疑問なのだが、その横では毒々しい紫色をしたスープがポコポコと気泡を発生させながら湯気を上げており、テーブルの中央にはこの食卓のメインであるらしい巨大な卵のような物体(ただし、あちこちから正体不明の突起物が顔を出している)が鎮座している。
よく彼女の料理を口にしているミツガシワ曰く、『今日のアッちゃんは気合いが入っている』とのことらしい。
「さあどうぞ、召し上がれ。」
自らの分を盛り付けたアサザが席につくと『冷めないうちに』と皿を進められる。
「美味しいみゃー♥️」
あまりの衝撃に硬直している横で、ミツガシワは幸せそうな表情でアサザの料理(?)を口に運んでいる。
彼女の味覚が特別なものではないことは普段の食事で確認済みなので、食べて危ないものではないのだろう。実際、こうしていると食欲をそそる香りが漂っているのだ。
ただ、一応確認しておきたい。これは何の料理なのか?と。
「これですか?さきほど採って来たばかりの……を……で包んで仕上げに……を煮込んだソースを……」
どうしたことだろう。肝心な部分が全く聞き取れない!自然と視線はもう1人の相席者へと向かうのだが。
「みゃ……どうしたの、団長さん?」
ミツガシワは箸を止めることなくこちらの視線を受け止めるだけだ。
多少(?)の見てくれは気にしないと言い切った以上、覚悟を決める必要があるようだ。
手始めに黄緑色の湯気を上げ始めたスープを引き寄せる……スプーンで掬うと見た目よりサラッとしていた。
意を決して口に運ぶ。
こ、これは……
「あの団長さん?お口に合わなければ吐き出しても……」
さきほどまでとは別種の硬直をはじめたこちらを心配したのか、アサザがコップに水を注いで来てくれたようだ。
これは……うまい!すごくうまい!
「……きゃっ!」
突然噛り付くように料理を掻き込み出したこちらにアサザが驚きの声を上げる。だが、気にしている余裕はなかった。
やや薄目の味付けではあるものの、徹夜明けの身体には調度良く、見た目のボリュームの割にはすっと馴染んでいく感覚。
これならいくらでも食べられそうだ。
「みゃ!?団長さん、良い食べっぷりだみゃ!
ミィも負けてられないみゃ!」
それから先、優しい笑みを浮かべるアサザの前でミツガシワと2人、競い合うように箸を伸ばすのだった。
「……団長さん、また試作品を作ってみたんですけど、食べてもらえませんか?」
あの日以降、執務室には時折アサザが料理の試作品を持ち込むようになった。
当然他の花騎士たちと居合わせることも多々あるのだが、大抵は顔を引き攣らせていたのは言うまでもないだろう。
初めて見た者は露骨に警戒感を滲ませていたが、躊躇なく口に放り込む姿を見て興味を持つ者が複数出始めたようだった。
中には見た目の改善にアイディアを出す者もいたのだが……
①生地で包むー食材から水分が奪われる上に生地が水を吸ってべちゃべちゃに
②衣を付けて揚げるー食材が油でギトギトになる上、揚げる際に跳ねて危険
③粉末状にして調味料代わりにー単独で食した時の薄味が嘘のように他の食材の味と喧嘩する
どれも失敗に終わる結果となった。
どうやら、アサザの料理は本当に危ういバランスの上であの味を保っているようだった。
今日もアサザは熱心に研究を続けている。
願わくは、医者や薬師の世話になる前に改善方法にたどり着いてほしい。切に願わざるを得ないのだった。
※団長は特殊な訓練を受けています
果たして害虫の巣まで出向かなければ入手できない食材とは……怖いもの見たさってあるよね!