花言葉:「知恵」「謀略」「野心」など
花言葉を見てただ一言……真逆やん!
はい、同じ事を思った団長諸兄は挙手!
本当に見てて危なっかしく感じるくらいにまっすぐな子ですよね……あぁ、癒される。
「それでは、続いての議題なのですが……」
進行役の文官が分厚い書類を捲るのをげんなりした気持ちで見つめる。
予定されていた会議の終了時刻はとうに過ぎているのだが、運悪く飛び込みの議題が重なってしまったのだ。
同席している団長たちの中には翌朝の任務が控えている者もいるようで、室内にはヒリヒリとした重苦しい雰囲気が立ち込め始めている。
本来なら日を改めるべきなのだが、どうもお偉いさんの日程が合わないらしい。今にも爆発してしまいそうな中、誰も異を唱えようとしないのはそれが理由のようだった。
こちらも人と会う約束をしているのだが、この場を抜け出す口実など都合良く思い付くものではない。しかも、彼女はそういった『ズルいこと』を何より嫌うのだ。
結局、親の仇でも見るような面持ちで時計の秒針を睨み付けるしかないのだった。
会議を終えて執務室に帰り着いたのはすっかり日が暮れた後のことである。
社交辞令の挨拶もそこそこに全力疾走で執務室までの道程を走り抜けたものの、相手の姿があるはずもなく……。
額からこぼれ落ちる汗を手で拭いながら途方に暮れていると、誰かがこちらに向かって駆け出す足音が響き始める。
扉が開くまでの時間すら惜しむように小さな身体を滑り込ませてきたのは、まさしく会う約束をしていた人物だった。
「やっぱり団長さんだぁ♪」
部屋に入ってきた勢いのままこちらに抱きついてくるのを慌てて抱き止めると、瞳をぱぁっと輝かせたクルミがこちらを見上げている。
「クルミね、団長さんが約束を破るわけないし、お仕事忙しいのかな~ってお部屋に戻ってたんだけど、どうしても会いたくて……それで戻って来ちゃったの♪」
そう言ってこちらの胸に顔を埋め、身体を密着させてくる。
汗だくだったこともあり慌てて引き離そうと試みたのだが、小柄でもさすがは花騎士。動揺で力も入らない状態では容易に背中まで腕を回されてしまう。
部屋に戻った時に着替えたのか、今のクルミは可愛いらしい緑色のワンピース姿だった。あちこちに木の実のイラストが散りばめられているのがいかにも彼女らしい。
もともと、赤い軍服を模した花騎士としての衣装を着ていても格好良いと言うよりは可愛いと表現した方がしっくりくるのだ。そんな彼女の私服姿が可愛くないわけがなかった。
「そんな~。団長さんに可愛いなんて言われたら、クルミ照れちゃうよ♪
でもでも、クルミがなりたいのは格好良くて立派な花騎士だから……う~ん、複雑だよぉ。」
そうして照れる仕草まで可愛らしい……そう言いかけたのだが、もうしばらく可愛い彼女を眺めているのも悪くないと思い直し、あえて口には出さないでおく。
しばらく悶えていたクルミだったが、突然くぅ~っという情けない音が執務室に響いたことで身体を離してくれた……正直、ちょっと残念だとも思ってしまったが。
「団長さん、お腹空いてるの?お仕事頑張ってたんだもんね。ちょっと待ってて♪」
調理場に駆けていくクルミを見送ると、しばらくして香ばしい匂いがこちらまで漂ってきた。
空きっ腹が刺激されたことでしばらく惚けてしまっていたが、今の内にと手早くシャワーを済ませておくことにする。彼女は気にしていないようだったが、さすがに汗だくのままでいるわけにはいかないだろう。
シャワーを浴び終えると、クルミも調理を終えたところだったようで自慢の木の実料理に冷えたビールを添えて戻ってきた。
来客用のソファーに腰を落ち着けると、それが当たり前と言うように膝の上を陣取ってくる。
彼女の距離が近いのはいつものことなのだが、今着ているのは薄手のワンピースである。
先程は汗臭さを意識するあまり気にする余裕がなかったのだが、当然花騎士の衣装よりも彼女の身体の柔らかさを生々しく感じてしまい、心臓が跳ねる。
今度ばかりは理性がもたない。そう判断して口を開きかけ……
「団長さんが帰って来るまで、クルミ寂しかったんだ……。だから、ギュ~!えへへ~、団長さんのごつごつした身体、クルミ大好き♪」
約束の時間に遅れたのはこちらであるため、そこを突かれると立つ瀬がない。
結局、彼女がしたいようにさせてやることにしたのだった。
「それでね、この間もムギさんたちと料理を持ち寄ってお部屋でパーティーをしたの。
クルミはお酒飲まないけど、クルミの木の実料理はお酒にピッタリなんだって♪」
ムギというのは実家がロータスレイクで酒屋を営んでいる花騎士だ。以前、何かの任務で知り合ったらしく、定期的に集まってはパーティー(という名の酒盛り)を開いているらしい。
その時好評だったという木の実料理に加え、このビールもその時のお裾分けなのだろう。
ムギの実家「ムギ・ブルワリー」のビールと言えば「死んでも飲みたい一杯」と称される逸品である。しかし、クルミの温もりが気になって味がちっとも分からない。
とてももったいないことをしているかも知れないが、クルミが楽しそうにしているのだからまぁ良しとしよう。
未だ嬉しそうに語り続けている彼女の話に耳を傾けつつ、何の気なしに窓から外を眺めると雲一つない空には綺麗な三日月が浮かんでいた。思えば、次の満月は中秋の名月だった。
月が綺麗だな。
「……ふぇっ!?」
いきなり上げられた声に驚いて視線を下げてみると、それまで際限なくしゃべり続けていたクルミが耳まで真っ赤になって口をパクパクとさせているではないか。
「だっ、団長さん……今の言葉。」
飲み過ぎで頭がぼーっとしていたのか、どうやら心の中で思っただけの言葉を口に出していたようだ。それにしても、彼女はなぜこんなにも動揺しているのだろうか?
「『月がキレイ』って言葉は『あなたが好きです』って意味にもなるんでしょ?クルミだってそれくらい知ってるよ。一緒に任務に参加した花騎士さんが教えてくれたの!
クルミ、小さい頃にパパとママだけじゃなくて色んな人に言っちゃってたかもしれなくて……クルミがホントに好きなのは団長さんだけなのにって他の花騎士さんとも……ふぇえ~!?」
よほど動揺しているのか、瞳に涙を浮かべながら勝手に自滅を続けている彼女を宥めるように頭を撫でる。
「はぁ~……、クルミ、みんなが言ってることがちょっとだけ分かったかも。
無意識で勘違いさせるようなことを言っちゃうと、こんなにドキドキさせちゃうんだね~。」
しばらくして落ち着いたクルミが話の続きを始めるが、その顔色は仄かにまだ赤い。
無意識だったのは間違いないが、勘違いではない。そう伝えようとして、寸でのところで思い直した。せっかくなので、この気持ちを伝えるのは次の満月の日にしよう。
当日の計画を練りつつ、幾分か気持ちに余裕が出てきたので少しだけ強めに彼女の身体を抱き締めるのだった。
ということで少し短めですがクルミ回です。
季節ボイスでは「月がキレイですね」の意味を団長に教えてもらったクルミちゃんですが、もしも事前に仲間の花騎士たちから教えてもらっていたら……という秋桜でした。